映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2015年3月アーカイブ

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『マリキナ』(フィリピン)ミロ・スグエコ監督インタビュー@第10回大阪アジアン映画祭

~父親の真実を探すヒロインに、アイデンティティーを探し続けるフィリピン人の姿を重ねて~

 
昨年に続き、今年もフィリピン映画の勢いが止まらない。第10回大阪アジアン映画祭コンペティション部門出品作として日本初上映された『マリキナ』も、クオリティーの高いフィリピン映画から選りすぐられた一作だ。OAFF2014のコンペティション部門に出品された『もしもあの時』のジェロルド・ターログ監督が脚本を担当、フィリピンの靴工業で栄えた街、マリキナを舞台に、靴職人の父とその娘の30年に渡る葛藤と、その人生を辿りながら自分のアイデンティティーを見つめなおす物語を、美しい映像で叙情豊かに綴った。フィリピンでトップ級の実力派俳優たちが出演し、まさしく、暉峻プログラミングディレクターが定義した、「規模はインディーズだが、スター俳優が出演している“メインディーズ”作品」と言えよう。70年代から現代にかけてのフィリピン社会の変遷も丁寧に描かれ、興味深い一作だ。
 
映画祭ゲストとして来阪した本作のミロ・スグエコ監督に、構想のきっかけや、監督が感じているフィリピン人のアイデンティティーについてお話を伺った。
 

 
―――――脚本は昨年のOAFF『いつかあの時』のジェロルド・ターログ監督ですね。
ジェロルドとは友達で、お互いに映画を作るとき手伝うことも多いです。今回は私が書き始めた脚本を、ジェロルドが仕上げてくれました。また音楽も担当してくれています。
最初、80場面を書いてジェロルドに渡し、最終的にはジェロルドが180場面に増やし、物語も書きこんでくれました。台詞も全てジェロルドが書いたものです。物語の流れも、会話も非常に上手いですね。
 
―――――なぜ靴の街、マリキナを舞台にした物語を描こうとしたのですか?
5年ほど前、貧困や汚職など第三世界的な問題を抱えているフィリピンにすごく失望が募った時期がありました。その時に、どうしてフィリピンの国民は自分たちの問題を他人事のように捉えてしまい、自分の事として考えようとしないのかと自問自答したのです。この物語の主人公、イメルダも小さい頃から大人になる過程を通して、自分が何者なのか、自分のアイデンティティーをずっと探し続け、また父が自殺した後、父にぴったりの靴を探すため、彷徨います。過去を振り返ることで前に進もうとしている訳です。このイメルダに、フィリピン人が自分のアイデンティティーを今だに探している姿と重ねています。
 
この作品では、靴産業が停滞し、従事していた人たちが困窮していきますが、世界中がグローバリゼーションの波にさらされている中で、どこの国でも起きていることです。ただ日本は外から様々な文化や資本が流入しても、日本人的アイデンティティーや日本の文化をかなり持っているように感じられます。一方中国の資本が流入してきたときに、フィリピン人はどうしていけばいいのかが掴めずにいます。
 
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―――フィリピン人は、他の国民よりも強くアイデンティティーを探し続けているということでしょうか?
フィリピンの場合は長い間スペインの支配下にあり、アジアの中で唯一カトリック国でもあるため、アメリカの影響を多く受けています。日本の場合は、他の国から影響を受けても、あくまでも日本であり続けてきましたし、外国からのものを取り入れながらも、日本人としてのアイデンティティーをしっかり持っていると思います。フィリピンでは、植民地主義の遺産のような感じで、植民地としてのメンタリティーがまだ残っているのが残念です。愛国心が十分にないということなのかもしれません。庶民に罪がある訳ではなく、政府も頑張っていると思いますが、一方で、自国での稼ぎだけでは生活が成り立たないので、他の国に出稼ぎに行っている人も大勢います。日本にもそのように出稼ぎに来ているフィリピン人はたくさんいますね。
 
―――本作はシネマラヤ映画祭からの助成を受けて作られたそうですね。
一番最初、助成金の1万ドルだけで映画作りをスタートしました。撮影は15日間で済ませました。お金がないのなら、その分周到な準備をし、撮影にとりかかったら、日本人のように効率的に進めていきました。試行錯誤している余裕はありませんね。
 

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―――父と娘の繊細な関係が見事に描かれていました。撮影も美しく、端正な映像で、そんなに短期間で撮ったとは思えません。
辛いこともたくさんありますが、登場人物皆が、間違えは犯しながらも、最後はまじめに生きようとしている人間であることを映し出したかったのです。日本はどうか分かりませんが、フィリピンでは女性のキャメラマンが増えています。『マリキナ』のサシャ・パロマレスさんは、フィリピンで最も優秀な女性キャメラマンの一人です。まだ26歳と若いですよ。
 
―――一番好きなシーンを教えてください。
イメルダの卒業式に長年不在の母から電話がかかり、その様子をずっと愛情を注ぎ続けてきた父親が、娘に十分に伝わらない気持ちを抱えながらそっと電話を盗み聞きしているシーン。派手なシーンではありませんが、登場人物の気持ちを考えると心に迫るものがあります。いい父であろうとしていますが、娘にとっては分かりにくい父で、母とは違う形で愛していることを分かってもらえません。そういう父娘の難しい関係がこの場面に凝縮されています。
 
―――父親役のリッキー・ダバオさんの演技が素晴らしかったのですが、フィリピンではどういう立ち位置の役者さんですか?
70~80年代の若い頃からずっと活躍している方で、俳優一家に育っています。監督も手がける、才能豊かな方です。マイリン・ディゾさんもフィリピンの人気女優で、ユージン・ドミンゴさんとは大の仲良しです。
 
―――日本の有名な俳優は、あまりインディーズ作品には出演しませんが、フィリピンでは状況が違うのでしょうか?
若手と仕事をする方が、新しい分野の作品に取り組めるので、皆さん積極的に出演してくださいます。大手映画会社のオファーは大体同じような内容の作品ばかりなので、脚本を気に入って下さったら、インディーズ作品でも積極的に出演してくださいます。
 
―――今後どんな作品を作っていきたいですか?
ラブストーリーを作っていきたいです。ロマンチックコメディーやティーンエイジャー向けの軽いラブストーリーではなく、成熟した大人のラブストーリーに挑戦したい。家族ドラマはもう卒業したいかな。サスペンスやバイオレンス系も興味があります。北野武監督や『バトルロワイヤル』系ですね。
 

インタビューが終わり、上映前の舞台挨拶同様にいつもパッション、パッション(情熱)と言っていることを明かしたミロ・スグエコ監督。フォトグラファーでもあり、ポスターなども自分で手掛けたという。映像のセンスの良さもその才能によるものなのだろう。「自分の映画を実現させるためには、情熱も努力も惜しみません。自分がやっていることが情熱をもって取り組めるなら、単なる仕事ではなくなります」と低予算でも情熱をもって取り組めば映画が撮れると力強く語ってくれた。長編第2作目とは思えない洗練され、深みのあるドラマを撮り上げたミロ・スグエコ監督。今後の活躍も大いに期待したい。
(江口由美)
 
<作品情報>
『マリキナ』“MARIQUINA“
2014年/フィリピン/116分
監督:ミロ・スグエコ 
出演:リッキー・ダバオ、マイリン・ディゾン、ビング・ピメンテル、バルビ・フォルテザ、チェ・ラモス
 

 

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3 月 6 日(金)より、梅田 ブルク7、ABC ホールをはじめとする大阪市内 7会場で開催させた「第10回大阪アジアン映画祭」が15日(日)に閉幕し、クロージング作品『国際市場で逢いましょう』のジャパンプレミア上映前にクロージング・セレモニーが開催された。
 
注目のグランプリは、観客賞とのW受賞となったイー・ツーイェン監督の『コードネームは孫中山』(台湾)。主演ジャン・ファイユンさん、ウェイ・ハンディンさんと共に登壇したイー・ツーイェン監督は、感動の面持ちで「思いがけない受賞でした、この賞をいただいたからには、今後もう一息がんばって撮ってみたい。できれば今後本作が、日本で公開されればうれしい。本当にありがとうございます」と挨拶し、観客から大きな拍手で祝福された。
 
『コードネームは孫中山』イー・ツーイェン監督、ジャン・ファイユンさん、ウェイ・ハンディンさんインタビューはコチラ
 

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受賞理由は、「少年たちのいたずらによる小さな盗難事件が発端のストーリーだが、昨今の台湾社会の一般市民の生活や社会情勢を映し出している。イー・ツーイェン監督は、シンプルなセリフ回しと細やかな表現方法で若手俳優たちの自然な演技を存分に引き出した」。
国際審査委員長のパン・ホーチョン監督から花束や記念の盾を贈られたジャン・ファイユンさん、ウェイ・ハンディンさんも笑顔で観客の拍手に応え、まさに大阪から新しいスター誕生を予感させるクロージング・セレモニーとなった。その他の受賞結果は下記のとおり。
 
 
★ グランプリ(最優秀作品賞) 
『コードネームは孫中山』 (Meeting Dr. Sun) (行動代號:孫中山) 台湾/監督:イー・ツーイェン (YEE Chih-Yen) (易智言)
 
★ 来るべき才能賞 
メート・タラートン(Mez THARATORN) タイ/『アイ・ファイン、サンキュー、ラブ・ユー』(I Fine..Thank You..Love You)監督 
 
★ スペシャル・メンション
シャーリーン・チョイ(Charlene CHOI)(蔡卓妍) 香港/ 『セーラ』(Sara)(雛妓)主演女優
 
★ ABC賞
『いつかまた』(The Continent)(後会無期) 中国/監督:ハン・ハン(HAN Han)(韓寒)
 
★ 薬師真珠賞
プリーチャヤー・ポンタナーニコン(Preechaya PONGTHANANIKORN) タイ/『アイ・ファイン、サンキュー、ラブ・ユー』(I Fine..Thank You..Love You)主演女優
 
★ 観客賞
『コードネームは孫中山』 (Meeting Dr. Sun) 台湾/監督:イー・ツーイェン (YEE Chih-Yen) 
 

『国際市場で逢いましょう』ユン・ジェギュン監督舞台挨拶

 
クロージング作品『国際市場で逢いましょう』(2014年・韓国)上映前に、ユン・ジェギョン監督が舞台挨拶で登壇された。本作は、朝鮮戦争で故郷を離れる際、父、妹と離れ離れになってしまった主人公ドクスが、家長の代わりとして、母と弟と末の妹との家計を支えるため、必死で働き、生き抜く半生を描いた感動作だ。
 

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今の韓国の豊かさというのは、自分達の父母や祖父母の血と汗と涙の結晶の上に成り立っていることを若い人たちに伝えたかったというユン・ジェギョン監督。本作は、韓国で1,330万人の観客動員を超えて、韓国歴代2位の大ヒット。その理由について尋ねられ、監督は、個人的感想ですが、と断った上で、父母の世代にとっては癒しの映画となり、若い世代の人達にとっては、苦労を重ねた世代への感謝の映画として、世代間のコミュニケーションを図るきっかけになったのではないかと話された。観客へのメッセージとしては、早くに亡くした父に捧げる映画で、今日、この映画を観終わったら、ぜひ両親や祖父母に感謝の気持ちを伝える電話を一報してほしいとコメント。
 
映画は、幼いドクスと妹が手に手をとって逃げる最中、別れ別れになってしまうところから始まり、ドクスが西ドイツの炭鉱に出稼ぎに行ったり、ベトナム戦争で技術者として働きに行ったり、生死をさまよう危険な目に何度もあいながらも、ひたむきにまっすぐ生きる姿が心を打つ。若い頃の恋の悩みや喜び、親友ダルグとの強い友情、ドクスが国際市場の店を頑固に守り続けた訳と、ひとつの家族の姿を通して、韓国という国の歩んできた歴史も感じさせ、それは日本にも通じるものがある。
 
ドクス役のファン・ジョンミンが好演、随所にユーモアがあふれ、会場では笑い声が何度も起こるとともに、クライマックスでは、涙を抑える音があちこちから聴こえた。韓国で、こういう映画が大ヒットして、多くの若い人達が観たというのはすごいことだと思う。家族への深い愛情が観る者を深い感動でいっぱいにする期待作。日本では、5月16日から全国順次公開予定。
(伊藤久美子)
 

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『全力スマッシュ』デレク・クォク監督、ヘンリー・ウォン監督インタビュー@第10回大阪アジアン映画祭
 

~見た目はショウ・ブラザーズ風香港映画、精神は日本のアニメ!最高にオモろいバドミントン映画誕生!!~

 
第10回大阪アジアン映画祭コンペティション部門出品作として世界初上映された、『燃えよ!じじぃドラゴン 龍虎激闘』(10)のデレク・クォク監督最新作、『全力スマッシュ』。バドミントン大好きの私としては、オープニングからまさに小躍り状態。よくぞ、バドミントンを題材に、こんなにアツい映画を作ってくれた!と喜んだ。
 
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スポ根ものだが、若者たちの物語ではなく、人生の挫折を味わったどん底の中高年ばかりというのが、また面白い。『ドリームホーム』(11)のジョシー・ホーをはじめ、黒社会もので一世を風靡したイーキン・チェン、そして見事な敵役ぶりをみせるロナルド・チェンや、食堂のおばちゃん役で、ぼさぼさの白髪姿がセンセーショナルなスーザン・ショウまで、豪華ベテラン俳優陣が、汗まみれになりながらトレーニングに励む姿が感動を呼ぶ。
どん底人生に大逆転は起こるのか!?往年の香港映画を思わせる様々な手法や、バカバカしくて大笑いしてしまう仕掛けが満載。「なんか懐かしくて、面白くて、感動する」パワフルな作品だ。
 

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3月14日(土)にABCホールで行われた舞台挨拶では、午前中に、スーザン・ショウさんのお嬢さんと音楽担当のハタノ・ユウスケさんが結婚式を挙げたというサプライズ報告もあり、デレク・クォク監督からは「音響を5割増しで!」とリクエストが入るなど、全力モード全開。スーザン・ショウさんは、「人気俳優のイーキン・チェンをはじめ、皆ぐちゃぐちゃの汚い格好でやるのが楽しかった。こんな商業的な映画でバドミントンを題材に撮れたことに非常にうれしく思う」と語れば、デレク・クォク監督は、「未来に対して若者たちが希望をなくしているように思え、鼓舞するような内容を考えていた。うまくいかないのは、皆同じだよと言いたい」と本作に込めた思いを語り、大いに盛り上がった。
 
映画祭のゲストとして来阪したデレク・クォク監督、ヘンリー・ウォン監督に、お話を伺った。
 

 
―――――なぜバドミントン映画を撮ろうと思ったのですか?
デレク・クォク監督(以下デレク、写真左):僕自身が6才の頃から、親戚や友達とバドミントンで遊んでいました。高校の選抜チームに入るぐらいになったのですが、才能がないと思ってやめてしまったのです。大人になってから遊びで楽しみながら、バドミントンは深くて人生哲学があるので、映画にしたいとずっと思っていました。そんな中、ジェシー・ホーがカナダ留学中にバドミントンで賞をとるぐらいの腕前であり、彼女が出資者の一人でもあったので、お互い意気投合し、彼女を主役にして映画が撮れた訳です。
 

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―――――バカバカしいけれど、とてもアツい根性が底辺に流れる作品です。バドミントンのスポ根映画に込めた狙いは何ですか?
デレク:この映画の目標はまじめにバカをやるのが大前提でした。ストーリーラインは元々悲劇です。かわいそうな境遇で生きてきた人たちが、誰もチャンスをくれず、くすぶっているところに、チャンスや希望が見えてきた。でも、結果は悲劇に終わります。悲劇でありながらも喜劇であるところを見ていただきたいのは、皆さんに「悲しい時でも希望がある」とお伝えしたいからなのです。
 
バカバカしさについてですが、香港は生活のリズムが速く、仕事のストレスが大きい場所です。香港人は笑える映画が大好きなのは、そういう生活のペースがあるからで、なぜこんなことになるのか分からないナンセンスなお笑いが大好きです。その要素も本作に取り入れています。
 
―――――出世作となった『燃えよ!じじぃドラゴン 龍虎激闘』も往年のカンフースターにオマージュを捧げていましたが、古きよき香港映画を自分流でよみがえらせている感じがします。
デレク:古い香港映画の雰囲気については、私たちは70年代に生まれ育っているので、元々香港映画が大好きで、今映画監督という仕事をしているのは非常にうれしいことです。当時の映画は登場人物が出てくると、スクリーンに名前が出てくるのですが、クェンティン・タランティーノの作品でもその手法を取り入れています。つまり、70年代の香港映画はハリウッドなど外に対しても大きな影響を与えているわけで、昔を懐かしむ部分がありながらも、新しい一つの手法として使っています。
 
映画全体としては、ショウ・ブラザーズ時代の雰囲気を出しています。香港の昔を懐かしむエッセンスとして、褪せた感じの色や、編集やカラーリングが間に合わなかったのではというような、ショウ・ブラザーズ風の画面にしてみました。
 
―――――登場人物たちがバドミントンに四苦八苦する部分だけでなく、懐かしいディテールが更なる笑いを生みますね。
デレク:ヘンリーが特撮で、私は脚本を書いていたのですが、昔の香港映画の風味を出して遊ぶ、楽しむものにしました。単に懐かしんでいるのではなく、そこに新しいものをドンドン加えていったつもりです。香港だけでなく時代は変化しています。変化を知りながらどんどん前進し、自分のものを取り入れる映画作りを目指しています。
 
――――イーキン・チェンさんの起用も驚きでした。黒社会もののイメージを覆しました。
デレク:イーキン・チェンさんは95年から00年ぐらいまで非常に人気のあった歌手・俳優です。特に黒社会ものでは、本当のチンピラが影響を受けてしまうぐらい一世を風靡し、影響力の大きな俳優でした。私たち自身も彼の映画の影響をたくさん受けているのですが、今回はイーキン・チェンさんのチンピラもののイメージを使うことで、遊びの要素を入れています。少し前に出獄したばかりというキャラクターにし、それでも一生懸命バドミントンに励むという別のエッセンスを盛り込むことで、面白みを加えました。
 
――――香港芸能界の大御所、スーザン・ショウさんが、白髪頭で食堂のおばあちゃん役、しかも思いきり走らせていましたが、この役をオファーするのは問題なかったですか?
デレク:年齢的にまだお若いのですが、自分で「私はおばあちゃんだから」とおっしゃっているので、オファーすることは問題なかったです。難しかったのは髪型ですね。今までスーザンさんが演じた役とは違う髪型を取り入れようと、食堂のおばちゃん風にボサッとした白髪頭をお願いしたのですが「それはいや」と最初拒絶されました。一生懸命説得し、やっとOKをもらいました。
 

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―――――音楽を担当したのは日本人のハタノ・ユウスケさんですが、オファーの理由は?
ヘンリー・ウォン監督(以下ヘンリー、写真右):80年代の日本のドラマのような音楽づくりをしたくて、ハタノさんにお願いしました。実は、ハタノさんは僕のショートフィルムの時に一度一緒に仕事をしたことがあります。日本人だからというだけでなく、音楽面で非常に才能があるので、それから一緒にやっています。
デレク:映画全体の感覚としては香港映画ですが、映画の精神としては日本の影響が実は大きいです。私たち二人ともすごく日本アニメオタクで、視覚的なところは香港映画ですが、核心の部分は日本のアニメの影響を大きく受けています。
 
――――具体的にどのようなアニメを参考にしたのですか?
ヘンリー:日本でヒットしたアニメは何でも好きですが、『ドラゴンボール』とか『北斗の拳』、『Dr.スランプ アラレちゃん』です。一番参考にしたのは、島本和彦さんのアニメです。『あしたのジョー』もですね。楳図かずおの『まことちゃん』も好きですよ。
 
――――ロナルド・チェンさん演じるライバルチームのキャプテン役が、非常にインパクトありましたが、モデルはあるのですか?
ヘンリー:アラレちゃんのイメージを使いました。ロナルド・チェンさんは元々長髪だったので、それを活かした感じです。また則巻千兵衛さんは、もともとふっくらしているのに、大好きなみどり先生が出てくるとシュッとするので、その感じを出しながら面白い人というキャラクターをお願いしました。映画の中では、悪人のように見られますが、それは誤解による対立が生じたからで、本当はいい人という人物造詣にしました。
 
―――次回作について教えてください。
デレク:大陸との合作で、大規模なファンタジーなアクションものになります。
 

<作品情報>
『全力スマッシュ』“FULL STRIKE“
2015年/香港/約110分
監督:デレク・クォク、ヘンリー・ウォン
音楽:ハタノ・ユウスケ
出演:ジョシー・ホー(何超儀)、イーキン・チェン(鄭伊健)、ロナルド・チェン(鄭中基)、エドモンド・リョン(梁漢文)、ウィルフレッド・ラウ(劉浩龍)、スーザン・ショウ(邵音音)
紹介ページ http://www.oaff.jp/2015/ja/program/c04.html
 

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~グランプリ、観客賞の2冠達成!未来のスターが続々登場する『藍色夏恋』イー・ツーイェン監督最新作。

軽快タッチの男子高校生コメディーが映し出す現代台湾

 
第10回大阪アジアン映画祭コンペティション部門出品作として日本初上映された台湾映画『コードネームは孫中山』。『藍色夏恋』(02)から12年ぶりに、新人を発掘して作り上げたイー・ツーイェン監督待望の最新作だ。15日に行われたクロージングセレモニーでは、見事グランプリと観客賞のW受賞を達成し、多くの観客からの支持を集め、かつ若手俳優の自然な演技を引き出しながら、台湾が歩んだ歴史の変遷や、現代社会を映し出すイ―・ツーイェン監督の手腕が高く評価された。
 
どこの高校にもかつてあったという孫中山(孫文)の銅像を題材に、今は撤去され倉庫に眠っていることに目を付けた高校生アーツォが、学級費稼ぎのために友人と銅像を盗む計画を立てるが、同じことを企んでいたライバル、シャオティエンが現れて一騒動が起きる青春コメディー。どこの国でも変わらない男子高校生同士のライバル心や友情も垣間見える。
 
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『藍色夏恋』でチェン・ボーリンやグイ・ルンメイを世に送り出しただけでなく、作品には出演しなかったものの一緒にワークショップに参加していたチャン・シャオチュアン(張孝全)さんも発掘するなど、新しい才能を育てることに定評があるイー・ツーイェン監督。本作では、タイプの違う瑞々しい少年二人を主軸に据え、彼らの個性を存分に生かしながら、パントマイムのような動きだけで笑わせるシーンも盛り込み、軽やかなのに奥深い。貧乏も知恵と根性と笑いで乗り切る高校生の反骨精神が、コミカルな笑いを誘う青春群像劇に仕立てあげている。またチャン・シャオチュアンが演じる高校の門番が少ないシーンながら非常に印象的な、今までにない役となっているのにも注目だ。
 
映画祭のゲストとして来阪したイー・ツーイェン監督、主演ジャン・ファイユンさん、ウェイ・ハンディンさんに、本作の狙いやイー・ツーイェン監督流の役者と役を合わせていく人物造詣についてお話を伺った。
 

―――『藍色夏恋』から12年ぶりの新作ですが、その間監督はどんな活動をしておられたのでしょうか? 

イー・ツーイェン監督(以下監督):『藍色夏恋』から2年後に日本との合作で『アバウト・ラブ』という作品を撮りました。06から07年にかけて30話のテレビドラマ『危険な心』の監督・脚本を担当しました。07年以降は何本かの映画の脚本を書きましたが、実際に映画化されたのは『コードネームは孫中山』とアニメーションの作品で、そちらは現在ポストプロダクション中です。 
 
―――とてもシンプルかつユニークな設定ですが、学生たちが倉庫に眠る孫中山の銅像を盗もうとするアイデアはどこから生まれたのですか? 
監督:社会問題をテーマにするときは、それ自身が複雑で面倒な背景を絡んでいるため、観客は直接的に映像で見せられると避けたくなる心理があると思います。ですから私は非常に複雑な社会問題をコメディータッチで切り込んでいく手法を取りました。一見、浅いように見えますが、実際は非常に深いことを語っています。 
 
―――本当に軽やかなのに、深い意味が込められている作品ですね。
監督:おっしゃる通り、個人的には表面的にはあっさりと軽いタッチで、実は非常に深刻なことを描いている映画が好きです。例えば、イランのアッバス・キアロスタミの作品や、ポーランドの昔の映画、また日本では小津安二郎や木下惠介のように、比較的通俗風に見えるのですが、その奥にさまざまなことを含んでいる映画ですね。 
 
―――「オーサカ ASIA スター★アワード」トークでチャン・シャオチュアンさんは、『藍色夏恋』のときに、地下鉄に乗ろうとして監督から直接スカウトされたと話されていましたが、今回も監督自らスカウトされたのですか? 
監督:そうですね。ただ、チャン・シャオチュアンは地下鉄の駅でしたが、この二人は西門街でスタッフがスカウトしました。以前、グイ・ルンメイやチェン・ボーリンをスカウトした場所です。 私自らがスカウトしたのは、チャン・シャオチュアンだけです。
 

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―――アーツォ役のジャン・ファイユンさん、シャオティエン役のウェイ・ハンディンさんのどんな点に魅力を感じ、主役に起用しようと思ったのでしょうか? 
監督:ジャン・ファイユンさんは、事務所で話をしたときに天然ボケの雰囲気がありました。アーツォが銅像を盗む計画は、自分では緻密に計画を立てていると思いこんでいるけれど、実は穴だらけで全然ダメなのです。それに気づかない天然ボケぶりがとても良かったですね。ジャンさんの天然ボケは彼の個性で、今回来日する際にもイミグレーションカードを書く際にウェイさんのカードを見て、名前まで丸写し、書き直しする羽目になっていましたから。 
 
シャオティエン役のウェイ・ハンディンさんは、とても口下手で口数が少ないのですが、これが本当に彼の個性なのか最後まで掴めまず、どの役に彼がふさわしいのか決めかねていました。シャオティエンは、自分と同じく銅像を盗む計画を立てたことを警戒したアーツォから尾行されたり、監視されたり、家を覗かれたりします。ですからシャオティエンは家のことをあまりしゃべりたがらない、少しミステリアスな感じがあります。ウェイさん自身が持つ少しミステリアスに見える個性と合わせて、人物造詣していきました。  
 
―――イー・ツーイェン監督流の人物造詣ですね。

 

監督:俳優と役柄をどういう風にミックスさせて個性を作っていくかについて言えば、私の人物造詣のスタイルは、まずは彼ら自身が持っている個性をどこまで活かして役を作るかを考えていきます。しっかり役者たちを理解してこそできることなので、役者たちには私を信頼してもらい、彼らの本当の姿と役を合わせて一つの人物を作っていきたいと、いつも思っています。 役に役者を寄せていくようなアプローチはしません。
 

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―――ジャン・ファイユンさん、ウェイ・ハンディンさんは、スカウトされてから撮影まで監督と話し合い、演技指導を受けてきた訳ですが、監督に対する印象は? 
ウェイ・ハンディン(以下ウェイ):最初スカウトされたときは、スタッフの方が連絡先を聞いてきたので、騙されたかもとあまり信頼していませんでしたが、事務所で監督とお話させていただいたときは、すごくいい方で、ユーモアもあるし優しい方だと思いました。でも、撮影の時は厳しかったです。
ジャン・ファイユン(以下ジャン):監督は普段は全然怖くないのですが、いざ撮影となるとすごく厳しかったです。 本編ではカットされていますが、チャン・シャオチュアンさんとの絡みがあるシーンで、指定された位置にきちんと行くことができず、何故できないのかと厳しく監督に言われました。怒鳴ったりはしないのですが、僕の心にグサリとささり、こっそりその場を離れて泣いたこともありました。
監督:20テイクぐらいやったのですが、ダメでした。チャン・シャオチュアンさんがウェイさんの影になってしまったのです。夜のシーンで夜明けまで粘って頑張ったんですけれどね。
 
―――本作でスクリーンでの俳優デビューを果たしたお二人ですが、今後俳優を続けていきたいですか?
ウェイ:まだ分からないけれど、面白いかなと思っています。
ジャン:そうですね、チェン・ボーリンとかエディ・ポンみたいになれればと思います。
ウェイ:そう、僕もチェン・ボーリンとかエディ・ポンみたいになれれば。
 

まさにスクリーンで観る姿そのままの二人が目の前にいたインタビュー。最初は控えめだったジャン・ファイユンさんとウェイ・ハンディンさんも、上映後のQ&Aでもお客様からの質問に答え、サイン会にも長蛇の列ができる人気ぶりに、台湾ナイトでは「大阪、ありがとう!」と感激の様子。デビュー作で海外の映画祭の場に登壇という華々しい体験をした二人。

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クロージングセレモニーでは、

「本当にありがとうございます。思いがけない受賞でした、この賞をいただいたからには、今後もう一息がんばって撮ってみたいと思います。できれば今後日本で公開されればうれしく思います。審査員の皆さん、大阪アジアン映画祭、ありがとうございます」(イー・ツーイェン監督)

「ありがとうございます」
(ジャン・ファイユンさん、写真中央)
 
「ありがとう、大阪。ありがとうございます」
(ウェイ・ハンディンさん、写真右)
 
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と、思わぬ受賞に信じられないといった表情で、喜びを表現したみなさん。大阪でのグランプリ&観客賞受賞という大きなお土産を手にしたことをきっかけに、イー・ツーイェン監督の更なる創作の力となっただけでなく、若い二人が明日の台湾映画界を担う俳優への一歩を踏み出してくれたらと願う。
 
※写真は、国際審査委員長パン・ホーチョン監督と受賞記念ポーズをとるイー・ツーイェン監督とジャン・ファイユンさん(右写真)、ウェイ・ハンディンさん(左写真)
 
(江口由美)
 
 
 

<作品情報>
『コードネームは孫中山』“MEETING DR. SUN “
2014年/台湾/94分
監督:イ・ツーイェン
出演:ジャン・ファイユン、ウェイ・ハンディン、チャン・シャオチュアン
(C) 1 Production Film Co., Lan Se Production, Warner Bro. Pictures, Yi Tiao Long Hu Bao International Entertainment Co.
 
 
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~戦後70年の今、戦場にいるかのような衝撃を体感する塚本晋也監督入魂作~

 
第二次世界大戦末期、フィリピンのレイテ島での日本軍の惨劇を描いた大岡昇平の傑作戦争小説『野火』。59年に市川崑監督により映画化された『野火』が、戦後70年を迎えた今、塚本晋也監督により新たな体感型戦争映画としてよみがえる。
 
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長年同作の映画化構想を練っていた塚本監督が自主映画という形で完成にこぎ着けた、まさに入魂作だ。自ら監督・脚本・編集・撮影・製作を担当するだけでなく、日に日にやせ衰え、飢えと闘いながら原野を彷徨う主人公田村を全身全霊で演じている。また、リリー・フランキー、中村達也といったベテラン勢の中で、豹変していく青年兵、永松を演じる森優作の存在が光る。
 
オーディションで永松役を射止め、本作で本格映画デビューを果たした大阪出身の森優作さんに、塚本監督や塚本組の現場でのエピソード、『野火』撮影を通じて得たこと、同世代に伝えたいことについてお話を伺った。
 

―――森さんが、大阪出身とは知りませんでした。初インタビューをさせていただけて、うれしいです。
がっつり関西ですよ。もともと関西弁は強くないので、たまに地元に帰って友達と飯食べていると「(関東に)カブレてる」といじられます。シネ・ヌーヴォも九条もはじめてです。昔はよくアポロシネマに行っていました。定番の『ターミネーター』シリーズとか、当時は映画イコール洋画というイメージがあり、洋画ばかり観ていました。
 
―――どういう経緯でオーディションを受けたのですか?
22歳のときに古厩(智之)監督のワークショップに参加して映画『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』(13)に出演したのが、映画と関わるきっかけになりました。事務所に所属せず、フリーで次にチャンレジする機会を探していた状態がしばらく続いたときに、ワークショップで知り合った友人が『野火』のオーディションを教えてくれたのです。それまで塚本監督の作品を観たことはありませんでしたが、実は僕と同じ古厩監督の作品で役者として出演されていたことを後から知りました。戦争という題材も興味があり、オーディションを受けることに決めた感じです。
 

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―――オーディションでの塚本監督の印象は?
緊張感をなくしてくれているのか、すごく柔らかいイメージの方でした。でもそのイメージの中に真逆の強い意志を持った目だけがありました。「この目、すげえ」と思って、とにかく監督の目だけを見て帰ろうと、ずっと目を見ていました。
 
―――オーディションを受かったときはどんな気持ちでしたか?
もちろん「やった!」という気持ちはありましたが、それ以上にオーディションの時に(森さん演じる)永松が自分に近いものがあるなとずっと思っていたので、自分が演じたいという気持ちがあり、この役をできるという喜びが大きかったですね。
 
―――永松のどういう部分が、森さんご自身に似ていると感じたのですか?
すごく孤独を抱えた人物ですし、永松の純粋さが逆に危うい部分を持っています。関わる人によっては、どんな道にも振られるし、無知な部分も多い。でも孤独だから誰かに頼りたいという思いがすごくある人物で、僕自身に似ていると思います。
 
―――オーディションに受かってから、クランクインまでに、塚本監督から役作りの準備で言われたことはありますか?
「痩せろ、日焼けしろ」と言われました。元々はすごく白いので、日焼けサロンに行ったりしました。あとは葉っぱをちぎって紙で巻くような昔の煙草の吸い方ですね。塚本監督からはレイテ島の闘いに関する資料が送られてきたので、それを読みましたが、自分から調べたりはしませんでした。まず自分が戦地に行ったらどうなるのかということをずっと頭に置いて、その上で永松の役を演じました。
 

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―――塚本監督をはじめ、共演者がリリー・フランキーさんと少人数の撮影ながら、ベテランぞろいで緊張はしなかったですか?
田村を演じているときはもちろんですが、現場にいてカメラを撮っているときの塚本監督も、日ごろとは全く違う感じでした。やはり、目が凄かったです。
リリー・フランキーさんは、とてもフラットな方ですね。リリーさんと話したことを思い出すと、クスッと笑えることが多いです。前半は埼玉の深谷で撮影したのですが、待ち時間にリリーさんと竹とんぼをしたときに、リリーさんはめちゃくちゃ上手なのに、僕はうまく飛ばせなくて「森君、めっちゃヘタクソだねー」と言われたのがすごく印象にあります。そこから1か月後の沖縄ロケまでに、僕はさらに役作りのため痩せなくてはいけなかったのですが、痩せてくると色々なことに敏感になって、すぐにイライラしたりしていると、リリーさんが「森君、めっちゃ疲れてるねー」と声をかけてくれたり。これも思い出すとクスッときますね。
 
―――塚本監督からはどんな演出をされましたか?
僕を理解した上で演出してくださったのだと思います。「それもいいですね。でも次はこっちをやってみましょうか」といった感じで、いきなりダメと言うのではなく、柔らかく演出してくれました。怒鳴られたりはしませんでした。
 
―――少人数で製作された自主映画ですが、現場では演じる以外にも何か手伝ったりしましたか?
空き時間に死体造詣を一緒に作りました。死体を黒く塗るのですが、スタッフさんに「森君、それ少し薄い」と言われながら、塗っていましたね。皆が試行錯誤で、手が空いている人は分からなくても自分で考えてやる現場でした。前の現場は小規模でしたが、周りに制作会社の方など、映画に関わるスタッフ以外の人も大勢現場にいました。『野火』はそうではありませんでしたが、作っているのは同じ映画ですし、前の現場よりは自分がみんなと一緒に作っているという感覚が強かったです。
 

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―――一番難しかったシーンは?
一番最初、リリー・フランキーさん演じる安田に煙草を売ってこいと言われ、塚本監督演じる田村に「煙草を買ってくれ」と迫るシーンがあるのですが、一番できなかったですね。塚本監督が求めるものと、自分が演じるものとの差が大きかったと思います。
 
―――逆に一番最後の恐ろしい形相のシーンは、順撮りなので魂が入った感じですか?
あのシーンは、特に「こうしてやろう」と考えてはいませんでしたが、田村演じる監督の目とばっちり合ってました。撮影が終わった後、ご飯を食べに行ったときに監督から「今日は疲れたね」と言われたことを覚えています。
 
―――出来上がった作品をご覧になっての感想は?
観るたびに悔しさが増していきますね。より見えてくるところがありますし、演じていたときにどんな気持ちなのか思い出して「もっとできたな」と思うことがすごくあります。
 
―――ベネチア国際映画祭でワールドプレミア上映されましたが、お客様の反応は?
「これは、戦争を描いているけれど、本当のリアルじゃないでしょ?」と海外の方がおっしゃっていたのが、印象的でした。色々な見方があると思いますが、この見方が世界のスタンダードなのかなと。僕も『野火』に出演したから戦争のことを考えるようになりましたが、そうでなければ、そのお客様と同じような印象を持つのではないかと感じました。
 
―――塚本監督に『KOTOKO』のインタビューをさせていただいた時から、『野火』の構想を少し話されていたのを覚えているのですが、ずっと温めてきてようやくという意気込みや、その意気込みをこえるぐらいの想いを現場で感じることはありましたか?
並々ならぬ想いをお持ちなのは重々承知していますが、それを周りに見せることは変にプレッシャーになることを分かっていらっしゃるので、あえてそれを前面に出さずに、周りの人に居心地の悪くならないように接していらっしゃいました。多分、塚本監督ご自身は、すごく疲れたのではないでしょうか。
 

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―――初めての本格的な映画出演が、塚本組での仕事だった森さんですが、仕事をしてみての感想は?
友達にもどうだったのかと聞かれるのですが、僕自身の中では言葉にしたくない、そっと取っておきたいという気持ちがあります。今の自分が言葉で表すのはすごく難しいのですが、絶対にかけがえのないものですし、映画というものへの関わり方や、芸術の一部である映画の本質的な部分を体験させていただいたので、幸せ者以外の何者でもないですね。
 
―――森さんから、同世代の皆さんにメッセージをお願いします。
戦争という題材は結構重たいイメージがあるので、観るのに勇気がいるかもしれません。僕も戦争を知らない世代ですが、この映画に関わらせていただき、戦争が起こったらどうなるかと考えたので、若い世代の皆さんも『野火』を観て、自由に捉えてもらいたいです。そして何でもいいので、観終わって心に残ったものを書き起こしたり、吐き出したりしてもらいたいです。映画のスタッフのほとんどは僕と同世代で、全く知らない戦争を試行錯誤しながら作りました。そういう部分も含めて、観ていただければと思います。
 
(江口由美)
 

<作品情報>
 
『野火』
(2014年 日本 1時間27分)
監督・脚本・編集・撮影・製作:塚本晋也
原作:大岡昇平『野火』新潮文庫
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、森優作
2015年7月25日(土)よりユーロスペース、今夏シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、京都シネマ、豊岡劇場他全国順次公開。
※第71回ベネチア国際映画祭コンペティション部門入選作
※第15回東京フィルメックス特別招待作品
※第10回大阪アジアン映画祭特別招待作品
公式サイト⇒http://nobi-movie.com/
(c)Shinya Tsukamoto/KAIJYU THEATER
 
第10回大阪アジアン映画祭期間中は、3/8(日)21:10~※終了、3/11(水)21:10~ シネ・ヌーヴォにて上映。
 
第10回大阪アジアン映画祭 公式HP http://www.oaff.jp/2015/ja/index.html
 
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『GF*BF』(OAFF2013、14に劇場公開)、『失魂』(OAFF2014)、『真夜中の五分前』(14)と作品ごとに新たな表情をみせ、圧倒的な存在感で作品に深みをもたらしている若き名優、チャン・シャオチュアン(張孝全)。今年の大阪アジアン映画祭(以下OAFF)のコンペティション部門に出品されているイー・ツーイェン監督の『コードネームは孫中山』では特別出演ながら、まさに“オイシイ”役どころで強い印象を残している。
 
OAFF10周年を記念して新設された「オーサカ Asia スター★アワード」の栄えある第1回受賞者に選ばれ来阪したチャン・シャオチュアンさんに、過去作品のエピソードや、台湾映画界について思うことを伺った。
 

―――大阪ではレトロな映画館や喫茶店マズラに行かれたそうですね。
ずっとレトロな建物や、グッズが好きです。お店の雰囲気が面白いなと思ったのですが、お店の中には店に似合うすてきなご主人がいらっしゃいました。
 
―――『藍色夏恋』のイー・ツーイェン監督に高校時代スカウトされるまでは役者になることに興味がなかったそうですが、そのころまでに観た映画の中で、いまだに心に残っている作品はありますか?
『マイ・レフトフット』(89)ですね。父が連れていってくれた思い出の作品です。
 
―――台湾映画は俳優デビューしてから観るようになったのですか?
イ監督と知り合った当時は、台湾映画をたくさん観た記憶はありませんが、その数年後にそれまでの台湾映画を系統的に観ていきました。当時観たのは、エドワード・ヤン監督の『牯嶺街少年殺人事件ディレクターカット版』(91)で4時間半ある作品をみました。ディレクターカット版はDVDが出ていないので、観ることができたのは非常に幸運でした。
 
―――日本の映画や音楽、ドラマなどに台湾の若い方は親しんでいらっしゃるケースが多いですが、チャンさんはハマった作品がありますか?
『ロングバケーション』や『東京ラブストーリー』など、当時のトレンディードラマをたくさん観ました。

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―――『GF*BF』のヤン・ヤーチェ監督にインタビューしたとき、「台湾の歴史も主人公3人の関係も『無常』そのもの」と仰っていましたが、チャンさんは台湾の歩んできた歴史をどう捕らえていらっしゃいますか?
歴史は負の面も色々あると思いますが、ちゃんと今生きている自分たちの目でしっかり見つめていきたいです。以前は外省人と台湾人というはっきりとした区別があったのですが、僕たち世代も、親の世代も既に台湾で生まれているので、本当に「台湾人」と言えると思います。民族の違いや出身の違いは、台湾の歴史の中ではもう必要ないと感じています。
 
―――ヤン・ヤーチェ監督はキャスティングに一番こだわり、演技によって自分を感動させてほしいと仰っていたので、ずいぶん要求レベルが高かったのでは?
ヤン監督は、ずっと僕ら俳優を極限まで追いつめるタイプです。自分の監督という権限で、あるレベルをクリアしたら、さらに上のレベルをと際限なく追いつめられました。すべての役者に対してそういう接し方をされていますね。

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―――『失魂』のチョン・モンハン監督はどんな演出をされましたか?
チョン・モンホン監督は演技や美術など映画のあらゆる面において、しっかりした考えをお持ちの方です。俳優たちに対する要求は、まずその環境に置かれ、自由に演じてほしいと言われます。僕は精神病患者や悪霊にとりつかれた人間などを調べ、役作りの準備をしていったのですが、準備をした上での演技に対し、自分ではよくできたと思うときでも、監督からはカットがかかってしまいました。なぜカットをかけられるのかと考えてみると、監督は演技が「準備した」と見えるものは嫌いだったようです。ある環境に置かれた人物から、自然に沸き上がってくるものを欲しがっていたと思います。何度もテイクを撮って、疲れ果ててしまったときにようやくOKが出ました。まさにこれが、監督の欲しがっていた演技だったのです。
 

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―――ウェイ・ダーション監督と今回大阪アジアン映画祭で同席されていますが、どんな話をされましたか?

ウェイ監督と今回ご一緒させていただき、特にウェイ監督のはっきりとした台湾映画への想いをたくさん伺いました。ウェイ監督は非常に一生懸命努力され、大変勇気のある方で、台湾映画のために非常に尽力しておられます。オファーがあればもちろん出演したいです。
 
―――香港映画にも出演されていますが、最近は大陸化してやりにくさを感じることがあるのでは?
香港映画は完全に産業化されていると言えるとすれば、台湾映画はまだ手づくり部分があると思います。一番大きな違いは、台湾だと状況に合わせて臨機応変に色々なことを変えていく、割と自由な撮り方をしています。時間のコントロールがしにくいデメリットもありますが、とても気楽な雰囲気があります。ところが香港の映画製作の方向は一人一人の役割がきちんと決まっており、とにかく効率を追求しているので、システマティックに産業化されている印象を受けました。また、ある状況がダメだと判断すると、すぐにプランBに変更するというスピードが凄くて、香港映画界は全てのことが可能だというイメージを持ちました。
 

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―――チャンさんは、今の台湾映画界についてどのように感じていらっしゃいますか?
今までの台湾映画界は資金が足りず、ごく少ない予算の中で撮っていたので、その部分での限度はありましたが、クリエイティブさについては、当時の方が貪欲にトライしていたと思います。今、資金は潤沢にありますが、クリエイティブさにおいては、合作の時の制度やマーケット面で様々な縛りがあり、芸術作品として疑問を持ってしまうような部分はありますね。
 
―――次回作について教えてください。
ある新人監督の企画で6つの物語によるオムニバスで、僕が出演するパートのエグゼクティブプロデューサーがウェイ・ダーションさんです。
 
―――俳優として活躍していく上で、大事にしていることは?
僕は僕らしく、自由自在に表現していればいいと思っています。俳優としてチャンスをいただいたときに一つ一つ大事に演じていくことですね。チョン・モンホン監督とはまたぜひやりたいと思っています。僕の憧れですから。 (江口由美)
 
 

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『コードネームは孫中山』は、3/13(金)13:20~ ABCホール/3/14(土)16:00 シネ・ヌーヴォ※完売 にて上映。
 
第10回大阪アジアン映画祭 公式HP http://www.oaff.jp/2015/ja/index.html
 
チャン・シャオチュアン(張孝全)さん登壇!第1回「オーサカ ASIA スター★アワード&トーク」開催レポートはコチラ
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大阪アジアン映画祭10周年を記念して新設された「オーサカ Asia スター★アワード」の授賞式と、第1回受賞者のチャン・シャオチュアン(張孝全)さんのトークイベントが3月7日21時20分から、大阪市北区のシネ・リーブル梅田にて開催された。
 
授賞式では、クリスタルの表彰楯と花束が贈呈されたチャン・シャオチュアンさん。「初めて大阪に来て、それがこの映画祭での受賞だったことがとても嬉しい。俳優にとってこのような賞は栄誉であり励みになります」と受賞の喜びを語り、フォトセッションでは汗をぬぐいながら笑顔で応える姿に満席の観客もヒートアップ。
 

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引き続き行われたトークイベントでは、前日に道頓堀で行われた「アジアン スター フェスティバル2015」について、「初めての映画祭で、船にも乗れて、とてもスペシャルな感じだった」と感想を披露。また、本映画祭の上映作品『コードネームは孫中山』のイー・ツーイェン監督とは「17歳の頃、地下鉄に乗ろうとしたら後をつけてきたのがイー監督とヤン・ヤーチェ監督だった。当時イー監督は『藍色夏恋』にふさわしい若者を探していたそうで、結局出演しなかったが、それ以降連絡は取っていた。今回、現場に遊びに来てちょい役だけどやってみないかと声をかけられ、出演することになった」と出演の経緯を語りながら、「監督は本当に恩師で、この人がいなければ芸能界に入るきっかけがなかった」と真摯に語った。
 
『GF*BF』の出演については「ヤン監督が読ませてくれた脚本が素晴らしく、いい作品になると感じた。ただ僕が思い描いていたのは実生活に近いところがあるリディアン・ヴォーンの役だったが」と意外な裏話を明かした。一方、『失魂』の出演については「チョン・モンハン監督がとても好きで、機会があれば一緒に映画を作りたいと思っていた。『GF*BF』出演後に監督から電話があり、ストーリーを話してくれた。役者として今までと違うタイプを演じてみたかった。共演のジミー・ウォンさんは最初(大御所すぎて)距離感があったが、プライベートでは少年のような方だった」と、念願が叶ったことが伺えた。
 

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役作りについては「人間は色々な性格を持っている。その中でどれぐらい演じる人物に近づけるのか。自分との距離が遠い時は、(自分と)演じる人物との距離を埋めるアプローチをする」としながら、「俳優はとても幸せな立ち位置にいる。監督、スタッフ、キャメラマンが演じる準備をしてくれる」と非常に謙虚な姿勢を見せた。
 
海外映画への出演については「言葉が通じないと苦労もあるが、感覚で雰囲気が分かり合えるのが不思議で面白い」とし、『真夜中の五分前』の行定勲監督とは特に言葉以外で通じ合えたと話した。最後に今後の活動について「先のことは余り考えない。未来は今の自分が作るから、今やるべきことをやっていると自然に未来は見えてくる」と気負わず、まさに自然体の素顔をみせたチャン・シャオチュアンさん。ファンから「眼鏡をとってください!」とのリクエストにも応え、最後まで大盛況のイベントとなった。
 
(江口由美)
 

第10回大阪アジアン映画祭 公式HP http://www.oaff.jp/2015/ja/index.html

 
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3月6日19時から大阪市北区の梅田ブルク7で、大阪アジアン映画祭(OAFF)オープニングセレモニーおよびオープニング作品『白河夜船』の世界初上映が行われ、上映前に若木信吾監督、主演の安藤サクラ、共演の井浦新が登壇して、一般の観客に初お披露目となる感想や、出演の動機を語った。
 
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『白河夜船』は、よしもとばななが89年に発表した代表作。カメラマンで映画監督の若木信吾が完全映画化し、不倫愛による戸惑いから眠りの闇に堕ちていく主人公、寺子の心の揺れや闇、希望を鮮やかに描写した意欲作だ。寺子を演じる安藤サクラの様々な表情や仕草を若木監督自らが撮影。寝て起きるという寺子の日常を、安藤サクラが全身で表現し、『0.5ミリ』で絞った身体がスクリーンで美しく揺れ動く。井浦新は事故のため植物人間状態となってしまった妻の看病をする寺子の不倫相手役を、深い哀しみを滲ませながら、抑えた演技で魅せ、静かな存在感を放っている。
 

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大阪アジアン映画祭のオープニング作品に選ばれ、梅田ブルク7で一番大きなシアターでの舞台挨拶に若木監督は「緊張しています」と告白しながら、「大阪でワールドプレミアできてうれしい」と挨拶すると、安藤サクラは「皆さんがこの映画を観て、この映画がどうなるのかと、すごくそわそわしている。ほんとのほんとに、今日が初お披露目で、『白河夜船』について話すのも今日が初めて」と興奮気味に挨拶。井浦新は「昨年9月に撮影してこんなに早くに見ていただけることはなかなかない。少ない日数とキャストで、OAFFの一番バッターになれたことが本当にうれしい。みなさんの大切な映画になれば」と感激の表情を見せた。
 
オープニングセレモニー前に道頓堀で開催されたリバーカーペットイベントの話題では、安藤が、実はクルーズ中に井浦もはしゃいで写真を撮っていたことを披露。井浦も既にSNSにアップしたとその事実を認め、会場が笑いに包まれる一幕も。
 

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井浦から「原作を大切にしたかったそうですね」と話題を振られた若木監督は、「何度も読み直し、モノローグが多い『白河夜船』を映画にするチャレンジをしたかった。英語で翻訳されているものも読み、ようやく腑に落ちた」と映画化した動機を披露。一方、出演の動機を聞かれた安藤は、一生懸命考えながら「監督がいつもすごく素敵な写真を撮っていて、それが映画になったらとても素敵なのではないかと思い、すごくその世界に入ってみたかった」と語ると、若木監督は「本のセリフには忠実だが、それ以上のところがどう見えるかが楽しみ、とても素敵な感じに映っている」と自信を見せた。
 
一方、ヤン・ヨンヒ監督『かぞくのくに』では安藤の兄役を演じた井浦を起用した理由については、「『かぞくのくに』を見て、この関係性をどう次の関係性に昇華できるかと考えた。井浦さんが出演した是枝監督作『DISTANCE』(01)ではスチールで参加し、その頃から随分成長されている井浦さんと組んでみたかった」。若木監督の写真家としての仕事をマメに見ていたという井浦は「その写真が動き出したらどんな世界を作っていくのか興味があり、飛び込んだ。でも安藤サクラがいるから、困ったなと思った」と明かすと、すかさず安藤から「私も、どうしようと思っていた」とのツッコミが。安藤との仕事は緊張を維持した中での安心感があるとしながら、「『かぞくのくに』の次はどんなステージで出会えるかと思ったら、若木組だった。いい現場になっていくと最初から思っていた」と揺るぎない信頼感で結ばれていることが伺えた。
 

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最後に、「見どころは全部。この映画を観終わったあと、夢の中で大事な人と会いたいなと思った。写真家の若木さんがキャメラを回したのでその映像美や安藤サクラが素晴らしい」(井浦)
「みなさま、本当に今日はありがとうございます。帰ってからよく眠ってください」(安藤)
「映像からほんの少しでも揺れ動く気持ちを感じられるところがあれば。美しい二人を見てほしい」(若木監督)と締めくくり、『白河夜船』世界初上映が行われた。『白河夜船』は4月25日よりテアトル新宿、5月シネ・リーブル梅田他全国順次公開。(江口由美)
 
『白河夜船』公式サイト⇒http://shirakawayofune.com/
 

 
第10回大阪アジアン映画祭は、15日(日)まで開催中。
チケットはチケットぴあでの前売終了後は、各劇場にて順次販売。詳細は大阪アジアン映画祭ホームページ参照。
お問い合わせ:大阪アジアン映画祭運営事務局
TEL 06-6374-1236 http://www.oaff.jp/
 
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3月6日19時から大阪市北区の梅田ブルク7、オープニング作品『白河夜船』の世界初上映で幕が開けた第10回大阪アジアン映画祭。オープニングに先駆け、大阪・道頓堀で行われたリバーカーペットイベント「アジアン・スター・フェスティバル」では、大阪府の松井知事をはじめ、副知事のゆるキャラ「もずやん」が駆け付けた他、『白河夜船』の若木信吾監督、安藤サクラ、井浦新、インドネシア映画『武士道スピリット』のエグゼクティブ・プロデューサー、バーティアル・ラフマン氏、アソシエイト・プロデューサーのヨーク・ザキア氏、リュウケン・ライッサ監督、そして、同作に出演し、今回国際審査員を務める武田梨奈、初映画出演を果たした川畑要、香港映画『点対点』のアモス・ウィー監督、アンガス・タイ撮影監督、第1回オーサカ Asia スター★アワード受賞の台湾人気俳優チャン・シャオチュアンらが参加した。また、特別ゲストとして『セデック・バレ』(OAFF2012)の監督で、昨年のOAFFオープニング上映で感動のスタンディングオベーションを巻き起こし、現在絶賛公開中の『KANO〜1931 海の向こうの甲子園〜』プロデューサーのウェイ・ダーション氏が登場。台湾等から大阪への更なるインバウンド誘客にも寄与したことに対し、大阪観光局から感謝状が贈呈された。やや肌寒い天候ながら、多くのファンが集まり、歓声がかかるたびにゲストも笑顔で手を振り応える野外イベントならではの盛り上がりをみせたリバーカーペット。ゲストの挨拶から主なコメントを紹介したい。
 
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『KANO〜1931 海の向こうの甲子園〜』
 
ウェイ・ダーションプロデューサー:「この映画で多くの観光客が日本を伺ったと聞き、うれしいです。映画を観た皆さんには、ぜひ台湾に来てほしいです。そして、ぜひマー・ジーシアン監督に会ってほしいと思います」
 
 
 
 
 
 

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『武士道スピリッツ』

武田梨奈:「インドネシア映画に日本人代表キャストとして選ばれ光栄です。国際審査員ということで、映画祭を盛り上げたいと思います」
川畑要:「映画初出演ということで、インドネシアと日本の懸け橋になればと思います」
 
 
 

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『白河夜船』
 
安藤サクラ:「今日はここに来られてとてもうれしいです。今日は本当に初めてのお披露目の日なのでワクワクしています。ちなみに私は20歳の誕生日に一人で大阪に来て、ドン・キホーテのところで20歳になる瞬間を迎えた思い出の場所です。今日観られる方も、これから観られる方も、『白河夜船』をよろしくお願いします」
 
井浦新:「『白河夜船』は5日間で撮影した映画です。それでも、スタッフやキャストが情熱を持って取り組めば、映画は作れますし、このような素敵な場所に呼んでいただき、皆さんに観ていただくことが情熱さえあればできます。『白河夜船』のように日本の情緒を映して、日本人にしか描けない映画がもっとこれからも増えていけばいいなと思っています。ぜひ皆さんも、映画をたくさん観てください。(周りの風景や通り過ぎるクルーズ船に目をやりながら)情報がありすぎて・・・さすが大阪です。『白河夜船』をぜひ観てください。よろしくお願いします」
 
若木信吾監督:「はじめてでちょっと足が震えています。本当にこの映画は安藤さんと井浦さんの映画で、心がちょっとざわざわするような体験をしていただければ。サクラさんが本当に美しく映っています。二人に目が釘づけになると思いますので、ぜひご覧いただければと思います」
 

 

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オープニング上映前に行われたオープニングイベントでは、第1回オーサカ Asia スター★アワード受賞の台湾人気俳優チャン・シャオチュアンが「大阪アジアン映画祭にお招きいただき、ありがとうございます。アワードもいただき光栄です」と挨拶。そして4度目のOAFFの舞台となるウェイ・ダーションプロデューサーが「世界では各国で色々なことが起きていますが、映画を通して我々は様々な異なった文化を理解できます。映画によって世界に温かみがもたらされるのではないでしょうか」と挨拶し、感動的な幕開けとなった。(江口由美)
 

 
第10回大阪アジアン映画祭は3月15日まで梅田ブルク7(梅田)、シネ・リーブル梅田(梅田)、ABCホール(福島)、シネ・ヌーヴォ(九条)、プラネット・スタジオ・プラスワン(中津)で中国、香港、台湾、韓国、ベトナム、タイ、バングラデシュ、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、フィリ ピン、インド、トルコ、ハンガリー、フランス、アメリカ、日本の17の国、地域から世界初上映11本を含む全48本を上映する。クロージング作品はファン・ジョンミン主演、昨年末公開から韓国で現在も空前の大ヒットを続けるユン・ジェギュン監督の感動大作『国際市場で逢いましょう』。1950年代朝鮮戦争により家族離散、貧しい避難民生活、西ドイツへの出稼ぎ、ベトナム戦争従軍といった激動の時代を家族のためだけに働き、生き抜いてきた名もなき父親を、ファン・ジョンミンが熱演。韓国版『Always 三丁目の夕日』と呼ばれるほど見事な各時代のセットも見どころだ。
 
常設のコンペティション部門では世界初上映となるデレク・クォク監督最新作のバドミントンコメディー『全力スマッシュ』(香港)や、波多野結衣主演の『サシミ』(台湾)をはじめ、OAFF初となるハンガリー映画『牝狐リザ』、北村一輝主演の傑作ミステリー『マンフロムリノ』(アメリカ)、今勢いのあるフィリピン映画から『マリキナ』、『運命というもの』など、アジア映画のパワーを感じる全12作品がラインナップ。
さらに、インディ・フォーラム部門では、第11回CO2助成作品3作の世界初上映をはじめとした全10作品を上映。東日本大震災からちょうど4年が経つ3月11日には、東日本大震災により公開延期を余儀なくされた『唐山大地震』を4年越しの劇場公開に先駆けて上映する他、「震災と映画」というテーマのトークセッションを盛り込んだ《東日本大震災から4年「メモリアル3.11」》を開催する。
 
チケットはチケットぴあでの前売終了後は、各劇場にて順次販売。詳細は大阪アジアン映画祭ホームページ参照。
お問い合わせ:大阪アジアン映画祭運営事務局
TEL 06-6374-1236 http://www.oaff.jp/
 
 
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写真後列左から永田守プロデューサー、富森星元さん、近藤龍人キャメラマン、石井裕也監督、周防義和さん、大野裕之プロデューサー、原田佳則さん、浜村淳さん
写真前列左から呉美保監督、真飛聖さん、坂田利夫さん、池脇千鶴さん、綾野剛さん、菅田将暉さん、原田美枝子さん、野村周平さん、藤本泉さん
 
 
シネルフレ協賛の「おおさかシネマフェスティバル2015」が3月1日(日)、昨年までの大阪歴史博物館から場所を移し、大阪北区のホテル エルセラーン大阪、エルセラーンホールで満席の416人を集めて行われました。ハイライトの表彰式では主演男優賞・綾野剛さん、主演女優賞・池脇千鶴さんら豪華ゲストの顔ぶれの登場に歓声とため息、そして大爆笑が巻き起こり、まさに大盛況のうちに幕を閉じました。
 

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同フェスティバルは、今年から大阪アジアン映画祭から独立し、自主運営による開催となりましたが、サポーター制度導入など多くの観客の支援を受け、一般チケットも、発売から50分で完売する人気ぶりとなりました。午前の部は、高橋聰同委員長により新出発となった「おおさかシネマフェスティバル」の挨拶の後、午前10時10分から特別上映『劇場版 神戸在住』を上映。上映後には、神戸市灘区出身の白羽弥仁監督と藤本泉(新人女優賞)をゲストに迎えたトークショーが行われ、神戸を舞台にした同作の裏話が披露されました。


昼食休憩後、午後1時からの表彰式では、同映画祭の創立メンバーでもある大森一樹監督が「『おおさかシネマフェスティバル』は約30年前にぼくと高橋さんがはじめた映画祭。始めたときは20代。今、新作を撮影しているので、来年は受賞者で出席したい」と挨拶。総合司会の浜村淳が、スペシャルサポーターによる花束贈呈の際も、登壇する度に盛り上げ、ゲストも観客も笑いっぱなしの1時間半。手作り映画祭ならではの一体感で、満席の観客からも大きな拍手が送られました。様々な角度から受賞者に切り込む浜村トークで、受賞者の思わぬ素顔を垣間見ることができた表彰式の模様を、ハイライトでご紹介します!

  

<表彰式ハイライト>

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【主演男優賞】綾野剛『そこのみにて光輝く』『白雪姫殺人事件』

「台本の最初の3行だけで(これはという)匂いがした。池脇さんは何があっても大丈夫なので、安心して演じた。(『新宿スワン』で金髪スカウトマンを演じることについて聞かれ)やりたくない役を探す方が難しい」

 

 
 
 
 
 
 

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【主演女優賞】池脇千鶴『そこのみにて光輝く』

「(かなりハードなシーンが多かったのではという問いに)台本がすばらしかったので、このシーンがイヤとか、この描写イヤというのはいっさいなかった。呉監督と相談しながら、(千夏が着用する)下着の生地などを決めていった」
 
 
 
 
 
 
 
 

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【助演男優賞】坂田利夫『0.5ミリ』
 
「あ~りがとさん~吉本入ってから存在感を出さなければと思っていたら、相方がたまたま『おいアホ!』といったので、僕は怒らずに『アホや』と答えたら舞台でウケた。それで家を建てました。サクラちゃんはすばらしい演技者。台詞の練習をしようと言ってくれた。悲しい場面でも本当に泣いてくれと(安藤桃子監督が)言うので、人にだまされたことを思い出して(泣かずに)余計に怒ってしまった」
 
 
 
 
 

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【助演男優賞】菅田将暉『そこのみにて光輝く』『闇金ウシジマくん Part2』『海月姫』
 
「今の日本にはないようなちょっと場末に生きる人たちなので、まずは煙草を吸う練習をした。(呉監督は)すごく楽しくて、はじめて監督をミポリンと呼んだ。シリアスなシーンで明るくしてくれた。監督(ご結婚)おめでとう。」
 
 
 
 
 
 

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【助演女優賞】原田美枝子『ぼくたちの家族』『蜩ノ記』
 
「(演技について)昔は自分がほめられたいという気持ちが強かったけれど、今は役の人の気持ちをみんなに伝えてあげるねという気持ちで演じている」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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【新人女優賞】真飛聖『柘榴坂の仇討』
 
「宝塚歌劇時代に、侍役は演じたことはあったが、女性役で時代劇に出演するのははじめて。歩き方が侍っぽかったので、所作から監督に指導いただいた。人生半分以上を男役として生きたので、女役としては3年目、これから女子として生きたい」
 
 
 
 
 
 
 
 

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【新人女優賞】藤本泉『アオハライド』『小川町セレナーデ』
 
「『劇場版 神戸在住』ヒロインの桂は、私の性格とは全然違う内気でナイーブな女の子なので、演じるのに苦労した。現場の撮影でも関西弁が飛び交い、関西トークがとても楽しかった」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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【新人男優賞】野村周平『日々ロック』
 
「結構裸になるシーンも多かったが、歌うときはアホになってました」
 
 
 
 
 
【監督賞】呉美保監督『そこのみにて光輝く』
「呉さんには性の匂いがしないと言われ、私が撮ったらどれだけ男と女のエロスが撮れるのかと思っていたときにこの話をいただいた。(絡みのシーンの演出は)内心はドキドキだが、綾野さんと池脇さんがとても情熱を込めてくださったので、おまかせだった」
 
【脚本賞】石井裕也監督『ぼくたちの家族』
「いろいろなジャンルの映画を企画している。(次回作は満島ひかるを起用するか?との浜村の問いに照れ笑いをしながら)前向きに検討する」
 
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【撮影賞】近藤龍人『そこのみにて光輝く』『私の男』
「(司会の浜村から、男前なので俳優をしてみてはと聞かれ)レンズより前にはでられない。2作とも同じ北海道が舞台だが、内容的にもテーマ的にも違う。それぞれどうやったら、そこに出てくる人たちが、見ている人たちによく伝わるのか考えた」
 
【音楽賞】周防義和『舞妓はレディ』
「現代だが、京都のお茶屋の話。大阪弁や京都弁のアクセントを気にして作った。作詞で京都出身の種ともこさんに、アクセントのところで印をつけてもらった。こんな作曲は初めてだった」
 
【新人監督賞】杉野希妃監督『欲望』
欠席のため、実弟で『欲望』音楽担当の富森星元氏が登壇
杉野希妃監督のメッセージ:このたびは新人監督賞をいただきありがとうございます。3年前、新人女優賞をいただいた時のことを思い出します。そのときに第二の故郷のような大阪で貰えて嬉しいと申し上げましたが、今も同じような気持ちです。『欲動』は、日本、オランダ、タイ、インドネシアと様々な文化背景を持つスタッフ・キャストが集まり、私を支えてくださいました。この作品に関わった全ての方々に感謝の気持ちでいっぱいです。この度は授賞式に参加できず、残念でなりません。1月末にオランダで交通事故に遭い、現在は国内で入院しております。『欲動』の内容と同様に生と死に向き合う経験をし、今後の人生、映画づくりも少し変わっていきそうな予感がしています。
 
【特別賞】『太秦ライムライト』
脚本・プロデューサーの大野裕之氏が登壇。
「チャップリンのライムライトを日本に置き換えて作ってみたいと打診があり、(チャップリンの)娘さんに聞いてみたら、あなたが脚本をかくのならいいと言われた。演技経験もあるので、内側から取材をして脚本を書いた」
 
 
【日本映画作品賞】『そこのみにて光輝く』(永田守プロデューサー:TCエンタテイメント株式会社)
「この映画が最初のプロデュース作品。(日本アカデミー賞で8冠を受賞した)『永遠の0』は素晴らしいと思うが、多くの興行館を持ち、広く大人から子どもまで感動させるジャンルの年間50本ぐらいの中から選ばれた作品。『そこのみにて光輝く』は昨年日本で製作された600本の中の1位で、非常に光栄に思う」
 
【外国映画作品賞】『6才のボクが、大人になるまで。』(原田佳則氏:東宝東和支社関西営業所長)
リチャード・リンクレイター監督のメッセージ:おおさかシネマフェスティバル外国語映画部門で『6才のボクが、大人になるまで。』が作品賞に選ばれたと聞き、非常にうれしく思います。最高のキャストとスタッフに代わりまして、皆さまに感謝いたします。ありがとうございます。
 
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 「そして、ボランティアスタッフの皆さま、ご協力下さいまして誠にありがとうございました。」