『全力スマッシュ』デレク・クォク監督、ヘンリー・ウォン監督インタビュー@第10回大阪アジアン映画祭
~見た目はショウ・ブラザーズ風香港映画、精神は日本のアニメ!最高にオモろいバドミントン映画誕生!!~
第10回大阪アジアン映画祭コンペティション部門出品作として世界初上映された、『燃えよ!じじぃドラゴン 龍虎激闘』(10)のデレク・クォク監督最新作、『全力スマッシュ』。バドミントン大好きの私としては、オープニングからまさに小躍り状態。よくぞ、バドミントンを題材に、こんなにアツい映画を作ってくれた!と喜んだ。
スポ根ものだが、若者たちの物語ではなく、人生の挫折を味わったどん底の中高年ばかりというのが、また面白い。『ドリームホーム』(11)のジョシー・ホーをはじめ、黒社会もので一世を風靡したイーキン・チェン、そして見事な敵役ぶりをみせるロナルド・チェンや、食堂のおばちゃん役で、ぼさぼさの白髪姿がセンセーショナルなスーザン・ショウまで、豪華ベテラン俳優陣が、汗まみれになりながらトレーニングに励む姿が感動を呼ぶ。
どん底人生に大逆転は起こるのか!?往年の香港映画を思わせる様々な手法や、バカバカしくて大笑いしてしまう仕掛けが満載。「なんか懐かしくて、面白くて、感動する」パワフルな作品だ。
3月14日(土)にABCホールで行われた舞台挨拶では、午前中に、スーザン・ショウさんのお嬢さんと音楽担当のハタノ・ユウスケさんが結婚式を挙げたというサプライズ報告もあり、デレク・クォク監督からは「音響を5割増しで!」とリクエストが入るなど、全力モード全開。スーザン・ショウさんは、「人気俳優のイーキン・チェンをはじめ、皆ぐちゃぐちゃの汚い格好でやるのが楽しかった。こんな商業的な映画でバドミントンを題材に撮れたことに非常にうれしく思う」と語れば、デレク・クォク監督は、「未来に対して若者たちが希望をなくしているように思え、鼓舞するような内容を考えていた。うまくいかないのは、皆同じだよと言いたい」と本作に込めた思いを語り、大いに盛り上がった。
映画祭のゲストとして来阪したデレク・クォク監督、ヘンリー・ウォン監督に、お話を伺った。
―――――なぜバドミントン映画を撮ろうと思ったのですか?
デレク・クォク監督(以下デレク、写真左):僕自身が6才の頃から、親戚や友達とバドミントンで遊んでいました。高校の選抜チームに入るぐらいになったのですが、才能がないと思ってやめてしまったのです。大人になってから遊びで楽しみながら、バドミントンは深くて人生哲学があるので、映画にしたいとずっと思っていました。そんな中、ジェシー・ホーがカナダ留学中にバドミントンで賞をとるぐらいの腕前であり、彼女が出資者の一人でもあったので、お互い意気投合し、彼女を主役にして映画が撮れた訳です。
―――――バカバカしいけれど、とてもアツい根性が底辺に流れる作品です。バドミントンのスポ根映画に込めた狙いは何ですか?
デレク:この映画の目標はまじめにバカをやるのが大前提でした。ストーリーラインは元々悲劇です。かわいそうな境遇で生きてきた人たちが、誰もチャンスをくれず、くすぶっているところに、チャンスや希望が見えてきた。でも、結果は悲劇に終わります。悲劇でありながらも喜劇であるところを見ていただきたいのは、皆さんに「悲しい時でも希望がある」とお伝えしたいからなのです。
バカバカしさについてですが、香港は生活のリズムが速く、仕事のストレスが大きい場所です。香港人は笑える映画が大好きなのは、そういう生活のペースがあるからで、なぜこんなことになるのか分からないナンセンスなお笑いが大好きです。その要素も本作に取り入れています。
―――――出世作となった『燃えよ!じじぃドラゴン 龍虎激闘』も往年のカンフースターにオマージュを捧げていましたが、古きよき香港映画を自分流でよみがえらせている感じがします。
デレク:古い香港映画の雰囲気については、私たちは70年代に生まれ育っているので、元々香港映画が大好きで、今映画監督という仕事をしているのは非常にうれしいことです。当時の映画は登場人物が出てくると、スクリーンに名前が出てくるのですが、クェンティン・タランティーノの作品でもその手法を取り入れています。つまり、70年代の香港映画はハリウッドなど外に対しても大きな影響を与えているわけで、昔を懐かしむ部分がありながらも、新しい一つの手法として使っています。
映画全体としては、ショウ・ブラザーズ時代の雰囲気を出しています。香港の昔を懐かしむエッセンスとして、褪せた感じの色や、編集やカラーリングが間に合わなかったのではというような、ショウ・ブラザーズ風の画面にしてみました。
―――――登場人物たちがバドミントンに四苦八苦する部分だけでなく、懐かしいディテールが更なる笑いを生みますね。
デレク:ヘンリーが特撮で、私は脚本を書いていたのですが、昔の香港映画の風味を出して遊ぶ、楽しむものにしました。単に懐かしんでいるのではなく、そこに新しいものをドンドン加えていったつもりです。香港だけでなく時代は変化しています。変化を知りながらどんどん前進し、自分のものを取り入れる映画作りを目指しています。
――――イーキン・チェンさんの起用も驚きでした。黒社会もののイメージを覆しました。
デレク:イーキン・チェンさんは95年から00年ぐらいまで非常に人気のあった歌手・俳優です。特に黒社会ものでは、本当のチンピラが影響を受けてしまうぐらい一世を風靡し、影響力の大きな俳優でした。私たち自身も彼の映画の影響をたくさん受けているのですが、今回はイーキン・チェンさんのチンピラもののイメージを使うことで、遊びの要素を入れています。少し前に出獄したばかりというキャラクターにし、それでも一生懸命バドミントンに励むという別のエッセンスを盛り込むことで、面白みを加えました。
――――香港芸能界の大御所、スーザン・ショウさんが、白髪頭で食堂のおばあちゃん役、しかも思いきり走らせていましたが、この役をオファーするのは問題なかったですか?
デレク:年齢的にまだお若いのですが、自分で「私はおばあちゃんだから」とおっしゃっているので、オファーすることは問題なかったです。難しかったのは髪型ですね。今までスーザンさんが演じた役とは違う髪型を取り入れようと、食堂のおばちゃん風にボサッとした白髪頭をお願いしたのですが「それはいや」と最初拒絶されました。一生懸命説得し、やっとOKをもらいました。
―――――音楽を担当したのは日本人のハタノ・ユウスケさんですが、オファーの理由は?
ヘンリー・ウォン監督(以下ヘンリー、写真右):80年代の日本のドラマのような音楽づくりをしたくて、ハタノさんにお願いしました。実は、ハタノさんは僕のショートフィルムの時に一度一緒に仕事をしたことがあります。日本人だからというだけでなく、音楽面で非常に才能があるので、それから一緒にやっています。
デレク:映画全体の感覚としては香港映画ですが、映画の精神としては日本の影響が実は大きいです。私たち二人ともすごく日本アニメオタクで、視覚的なところは香港映画ですが、核心の部分は日本のアニメの影響を大きく受けています。
――――具体的にどのようなアニメを参考にしたのですか?
ヘンリー:日本でヒットしたアニメは何でも好きですが、『ドラゴンボール』とか『北斗の拳』、『Dr.スランプ アラレちゃん』です。一番参考にしたのは、島本和彦さんのアニメです。『あしたのジョー』もですね。楳図かずおの『まことちゃん』も好きですよ。
――――ロナルド・チェンさん演じるライバルチームのキャプテン役が、非常にインパクトありましたが、モデルはあるのですか?
ヘンリー:アラレちゃんのイメージを使いました。ロナルド・チェンさんは元々長髪だったので、それを活かした感じです。また則巻千兵衛さんは、もともとふっくらしているのに、大好きなみどり先生が出てくるとシュッとするので、その感じを出しながら面白い人というキャラクターをお願いしました。映画の中では、悪人のように見られますが、それは誤解による対立が生じたからで、本当はいい人という人物造詣にしました。
―――次回作について教えてください。
デレク:大陸との合作で、大規模なファンタジーなアクションものになります。
<作品情報>
『全力スマッシュ』“FULL STRIKE“
2015年/香港/約110分
監督:デレク・クォク、ヘンリー・ウォン
音楽:ハタノ・ユウスケ
出演:ジョシー・ホー(何超儀)、イーキン・チェン(鄭伊健)、ロナルド・チェン(鄭中基)、エドモンド・リョン(梁漢文)、ウィルフレッド・ラウ(劉浩龍)、スーザン・ショウ(邵音音)
紹介ページ http://www.oaff.jp/2015/ja/program/c04.html