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『マリキナ』(フィリピン)ミロ・スグエコ監督インタビュー@第10回大阪アジアン映画祭

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『マリキナ』(フィリピン)ミロ・スグエコ監督インタビュー@第10回大阪アジアン映画祭

~父親の真実を探すヒロインに、アイデンティティーを探し続けるフィリピン人の姿を重ねて~

 
昨年に続き、今年もフィリピン映画の勢いが止まらない。第10回大阪アジアン映画祭コンペティション部門出品作として日本初上映された『マリキナ』も、クオリティーの高いフィリピン映画から選りすぐられた一作だ。OAFF2014のコンペティション部門に出品された『もしもあの時』のジェロルド・ターログ監督が脚本を担当、フィリピンの靴工業で栄えた街、マリキナを舞台に、靴職人の父とその娘の30年に渡る葛藤と、その人生を辿りながら自分のアイデンティティーを見つめなおす物語を、美しい映像で叙情豊かに綴った。フィリピンでトップ級の実力派俳優たちが出演し、まさしく、暉峻プログラミングディレクターが定義した、「規模はインディーズだが、スター俳優が出演している“メインディーズ”作品」と言えよう。70年代から現代にかけてのフィリピン社会の変遷も丁寧に描かれ、興味深い一作だ。
 
映画祭ゲストとして来阪した本作のミロ・スグエコ監督に、構想のきっかけや、監督が感じているフィリピン人のアイデンティティーについてお話を伺った。
 

 
―――――脚本は昨年のOAFF『いつかあの時』のジェロルド・ターログ監督ですね。
ジェロルドとは友達で、お互いに映画を作るとき手伝うことも多いです。今回は私が書き始めた脚本を、ジェロルドが仕上げてくれました。また音楽も担当してくれています。
最初、80場面を書いてジェロルドに渡し、最終的にはジェロルドが180場面に増やし、物語も書きこんでくれました。台詞も全てジェロルドが書いたものです。物語の流れも、会話も非常に上手いですね。
 
―――――なぜ靴の街、マリキナを舞台にした物語を描こうとしたのですか?
5年ほど前、貧困や汚職など第三世界的な問題を抱えているフィリピンにすごく失望が募った時期がありました。その時に、どうしてフィリピンの国民は自分たちの問題を他人事のように捉えてしまい、自分の事として考えようとしないのかと自問自答したのです。この物語の主人公、イメルダも小さい頃から大人になる過程を通して、自分が何者なのか、自分のアイデンティティーをずっと探し続け、また父が自殺した後、父にぴったりの靴を探すため、彷徨います。過去を振り返ることで前に進もうとしている訳です。このイメルダに、フィリピン人が自分のアイデンティティーを今だに探している姿と重ねています。
 
この作品では、靴産業が停滞し、従事していた人たちが困窮していきますが、世界中がグローバリゼーションの波にさらされている中で、どこの国でも起きていることです。ただ日本は外から様々な文化や資本が流入しても、日本人的アイデンティティーや日本の文化をかなり持っているように感じられます。一方中国の資本が流入してきたときに、フィリピン人はどうしていけばいいのかが掴めずにいます。
 
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―――フィリピン人は、他の国民よりも強くアイデンティティーを探し続けているということでしょうか?
フィリピンの場合は長い間スペインの支配下にあり、アジアの中で唯一カトリック国でもあるため、アメリカの影響を多く受けています。日本の場合は、他の国から影響を受けても、あくまでも日本であり続けてきましたし、外国からのものを取り入れながらも、日本人としてのアイデンティティーをしっかり持っていると思います。フィリピンでは、植民地主義の遺産のような感じで、植民地としてのメンタリティーがまだ残っているのが残念です。愛国心が十分にないということなのかもしれません。庶民に罪がある訳ではなく、政府も頑張っていると思いますが、一方で、自国での稼ぎだけでは生活が成り立たないので、他の国に出稼ぎに行っている人も大勢います。日本にもそのように出稼ぎに来ているフィリピン人はたくさんいますね。
 
―――本作はシネマラヤ映画祭からの助成を受けて作られたそうですね。
一番最初、助成金の1万ドルだけで映画作りをスタートしました。撮影は15日間で済ませました。お金がないのなら、その分周到な準備をし、撮影にとりかかったら、日本人のように効率的に進めていきました。試行錯誤している余裕はありませんね。
 

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―――父と娘の繊細な関係が見事に描かれていました。撮影も美しく、端正な映像で、そんなに短期間で撮ったとは思えません。
辛いこともたくさんありますが、登場人物皆が、間違えは犯しながらも、最後はまじめに生きようとしている人間であることを映し出したかったのです。日本はどうか分かりませんが、フィリピンでは女性のキャメラマンが増えています。『マリキナ』のサシャ・パロマレスさんは、フィリピンで最も優秀な女性キャメラマンの一人です。まだ26歳と若いですよ。
 
―――一番好きなシーンを教えてください。
イメルダの卒業式に長年不在の母から電話がかかり、その様子をずっと愛情を注ぎ続けてきた父親が、娘に十分に伝わらない気持ちを抱えながらそっと電話を盗み聞きしているシーン。派手なシーンではありませんが、登場人物の気持ちを考えると心に迫るものがあります。いい父であろうとしていますが、娘にとっては分かりにくい父で、母とは違う形で愛していることを分かってもらえません。そういう父娘の難しい関係がこの場面に凝縮されています。
 
―――父親役のリッキー・ダバオさんの演技が素晴らしかったのですが、フィリピンではどういう立ち位置の役者さんですか?
70~80年代の若い頃からずっと活躍している方で、俳優一家に育っています。監督も手がける、才能豊かな方です。マイリン・ディゾさんもフィリピンの人気女優で、ユージン・ドミンゴさんとは大の仲良しです。
 
―――日本の有名な俳優は、あまりインディーズ作品には出演しませんが、フィリピンでは状況が違うのでしょうか?
若手と仕事をする方が、新しい分野の作品に取り組めるので、皆さん積極的に出演してくださいます。大手映画会社のオファーは大体同じような内容の作品ばかりなので、脚本を気に入って下さったら、インディーズ作品でも積極的に出演してくださいます。
 
―――今後どんな作品を作っていきたいですか?
ラブストーリーを作っていきたいです。ロマンチックコメディーやティーンエイジャー向けの軽いラブストーリーではなく、成熟した大人のラブストーリーに挑戦したい。家族ドラマはもう卒業したいかな。サスペンスやバイオレンス系も興味があります。北野武監督や『バトルロワイヤル』系ですね。
 

インタビューが終わり、上映前の舞台挨拶同様にいつもパッション、パッション(情熱)と言っていることを明かしたミロ・スグエコ監督。フォトグラファーでもあり、ポスターなども自分で手掛けたという。映像のセンスの良さもその才能によるものなのだろう。「自分の映画を実現させるためには、情熱も努力も惜しみません。自分がやっていることが情熱をもって取り組めるなら、単なる仕事ではなくなります」と低予算でも情熱をもって取り組めば映画が撮れると力強く語ってくれた。長編第2作目とは思えない洗練され、深みのあるドラマを撮り上げたミロ・スグエコ監督。今後の活躍も大いに期待したい。
(江口由美)
 
<作品情報>
『マリキナ』“MARIQUINA“
2014年/フィリピン/116分
監督:ミロ・スグエコ 
出演:リッキー・ダバオ、マイリン・ディゾン、ビング・ピメンテル、バルビ・フォルテザ、チェ・ラモス