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「オーサカ Asia スター★アワード」第1回受賞者チャン・シャオチュアン(張孝全)さんインタビュー

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『GF*BF』(OAFF2013、14に劇場公開)、『失魂』(OAFF2014)、『真夜中の五分前』(14)と作品ごとに新たな表情をみせ、圧倒的な存在感で作品に深みをもたらしている若き名優、チャン・シャオチュアン(張孝全)。今年の大阪アジアン映画祭(以下OAFF)のコンペティション部門に出品されているイー・ツーイェン監督の『コードネームは孫中山』では特別出演ながら、まさに“オイシイ”役どころで強い印象を残している。
 
OAFF10周年を記念して新設された「オーサカ Asia スター★アワード」の栄えある第1回受賞者に選ばれ来阪したチャン・シャオチュアンさんに、過去作品のエピソードや、台湾映画界について思うことを伺った。
 

―――大阪ではレトロな映画館や喫茶店マズラに行かれたそうですね。
ずっとレトロな建物や、グッズが好きです。お店の雰囲気が面白いなと思ったのですが、お店の中には店に似合うすてきなご主人がいらっしゃいました。
 
―――『藍色夏恋』のイー・ツーイェン監督に高校時代スカウトされるまでは役者になることに興味がなかったそうですが、そのころまでに観た映画の中で、いまだに心に残っている作品はありますか?
『マイ・レフトフット』(89)ですね。父が連れていってくれた思い出の作品です。
 
―――台湾映画は俳優デビューしてから観るようになったのですか?
イ監督と知り合った当時は、台湾映画をたくさん観た記憶はありませんが、その数年後にそれまでの台湾映画を系統的に観ていきました。当時観たのは、エドワード・ヤン監督の『牯嶺街少年殺人事件ディレクターカット版』(91)で4時間半ある作品をみました。ディレクターカット版はDVDが出ていないので、観ることができたのは非常に幸運でした。
 
―――日本の映画や音楽、ドラマなどに台湾の若い方は親しんでいらっしゃるケースが多いですが、チャンさんはハマった作品がありますか?
『ロングバケーション』や『東京ラブストーリー』など、当時のトレンディードラマをたくさん観ました。

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―――『GF*BF』のヤン・ヤーチェ監督にインタビューしたとき、「台湾の歴史も主人公3人の関係も『無常』そのもの」と仰っていましたが、チャンさんは台湾の歩んできた歴史をどう捕らえていらっしゃいますか?
歴史は負の面も色々あると思いますが、ちゃんと今生きている自分たちの目でしっかり見つめていきたいです。以前は外省人と台湾人というはっきりとした区別があったのですが、僕たち世代も、親の世代も既に台湾で生まれているので、本当に「台湾人」と言えると思います。民族の違いや出身の違いは、台湾の歴史の中ではもう必要ないと感じています。
 
―――ヤン・ヤーチェ監督はキャスティングに一番こだわり、演技によって自分を感動させてほしいと仰っていたので、ずいぶん要求レベルが高かったのでは?
ヤン監督は、ずっと僕ら俳優を極限まで追いつめるタイプです。自分の監督という権限で、あるレベルをクリアしたら、さらに上のレベルをと際限なく追いつめられました。すべての役者に対してそういう接し方をされていますね。

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―――『失魂』のチョン・モンハン監督はどんな演出をされましたか?
チョン・モンホン監督は演技や美術など映画のあらゆる面において、しっかりした考えをお持ちの方です。俳優たちに対する要求は、まずその環境に置かれ、自由に演じてほしいと言われます。僕は精神病患者や悪霊にとりつかれた人間などを調べ、役作りの準備をしていったのですが、準備をした上での演技に対し、自分ではよくできたと思うときでも、監督からはカットがかかってしまいました。なぜカットをかけられるのかと考えてみると、監督は演技が「準備した」と見えるものは嫌いだったようです。ある環境に置かれた人物から、自然に沸き上がってくるものを欲しがっていたと思います。何度もテイクを撮って、疲れ果ててしまったときにようやくOKが出ました。まさにこれが、監督の欲しがっていた演技だったのです。
 

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―――ウェイ・ダーション監督と今回大阪アジアン映画祭で同席されていますが、どんな話をされましたか?

ウェイ監督と今回ご一緒させていただき、特にウェイ監督のはっきりとした台湾映画への想いをたくさん伺いました。ウェイ監督は非常に一生懸命努力され、大変勇気のある方で、台湾映画のために非常に尽力しておられます。オファーがあればもちろん出演したいです。
 
―――香港映画にも出演されていますが、最近は大陸化してやりにくさを感じることがあるのでは?
香港映画は完全に産業化されていると言えるとすれば、台湾映画はまだ手づくり部分があると思います。一番大きな違いは、台湾だと状況に合わせて臨機応変に色々なことを変えていく、割と自由な撮り方をしています。時間のコントロールがしにくいデメリットもありますが、とても気楽な雰囲気があります。ところが香港の映画製作の方向は一人一人の役割がきちんと決まっており、とにかく効率を追求しているので、システマティックに産業化されている印象を受けました。また、ある状況がダメだと判断すると、すぐにプランBに変更するというスピードが凄くて、香港映画界は全てのことが可能だというイメージを持ちました。
 

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―――チャンさんは、今の台湾映画界についてどのように感じていらっしゃいますか?
今までの台湾映画界は資金が足りず、ごく少ない予算の中で撮っていたので、その部分での限度はありましたが、クリエイティブさについては、当時の方が貪欲にトライしていたと思います。今、資金は潤沢にありますが、クリエイティブさにおいては、合作の時の制度やマーケット面で様々な縛りがあり、芸術作品として疑問を持ってしまうような部分はありますね。
 
―――次回作について教えてください。
ある新人監督の企画で6つの物語によるオムニバスで、僕が出演するパートのエグゼクティブプロデューサーがウェイ・ダーションさんです。
 
―――俳優として活躍していく上で、大事にしていることは?
僕は僕らしく、自由自在に表現していればいいと思っています。俳優としてチャンスをいただいたときに一つ一つ大事に演じていくことですね。チョン・モンホン監督とはまたぜひやりたいと思っています。僕の憧れですから。 (江口由美)
 
 

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『コードネームは孫中山』は、3/13(金)13:20~ ABCホール/3/14(土)16:00 シネ・ヌーヴォ※完売 にて上映。
 
第10回大阪アジアン映画祭 公式HP http://www.oaff.jp/2015/ja/index.html
 
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