~グランプリ、観客賞の2冠達成!未来のスターが続々登場する『藍色夏恋』イー・ツーイェン監督最新作。
軽快タッチの男子高校生コメディーが映し出す現代台湾~
第10回大阪アジアン映画祭コンペティション部門出品作として日本初上映された台湾映画『コードネームは孫中山』。『藍色夏恋』(02)から12年ぶりに、新人を発掘して作り上げたイー・ツーイェン監督待望の最新作だ。15日に行われたクロージングセレモニーでは、見事グランプリと観客賞のW受賞を達成し、多くの観客からの支持を集め、かつ若手俳優の自然な演技を引き出しながら、台湾が歩んだ歴史の変遷や、現代社会を映し出すイ―・ツーイェン監督の手腕が高く評価された。
どこの高校にもかつてあったという孫中山(孫文)の銅像を題材に、今は撤去され倉庫に眠っていることに目を付けた高校生アーツォが、学級費稼ぎのために友人と銅像を盗む計画を立てるが、同じことを企んでいたライバル、シャオティエンが現れて一騒動が起きる青春コメディー。どこの国でも変わらない男子高校生同士のライバル心や友情も垣間見える。
『藍色夏恋』でチェン・ボーリンやグイ・ルンメイを世に送り出しただけでなく、作品には出演しなかったものの一緒にワークショップに参加していたチャン・シャオチュアン(張孝全)さんも発掘するなど、新しい才能を育てることに定評があるイー・ツーイェン監督。本作では、タイプの違う瑞々しい少年二人を主軸に据え、彼らの個性を存分に生かしながら、パントマイムのような動きだけで笑わせるシーンも盛り込み、軽やかなのに奥深い。貧乏も知恵と根性と笑いで乗り切る高校生の反骨精神が、コミカルな笑いを誘う青春群像劇に仕立てあげている。またチャン・シャオチュアンが演じる高校の門番が少ないシーンながら非常に印象的な、今までにない役となっているのにも注目だ。
映画祭のゲストとして来阪したイー・ツーイェン監督、主演ジャン・ファイユンさん、ウェイ・ハンディンさんに、本作の狙いやイー・ツーイェン監督流の役者と役を合わせていく人物造詣についてお話を伺った。
―――『藍色夏恋』から12年ぶりの新作ですが、その間監督はどんな活動をしておられたのでしょうか?
イー・ツーイェン監督(以下監督):『藍色夏恋』から2年後に日本との合作で『アバウト・ラブ』という作品を撮りました。06から07年にかけて30話のテレビドラマ『危険な心』の監督・脚本を担当しました。07年以降は何本かの映画の脚本を書きましたが、実際に映画化されたのは『コードネームは孫中山』とアニメーションの作品で、そちらは現在ポストプロダクション中です。
―――とてもシンプルかつユニークな設定ですが、学生たちが倉庫に眠る孫中山の銅像を盗もうとするアイデアはどこから生まれたのですか?
監督:社会問題をテーマにするときは、それ自身が複雑で面倒な背景を絡んでいるため、観客は直接的に映像で見せられると避けたくなる心理があると思います。ですから私は非常に複雑な社会問題をコメディータッチで切り込んでいく手法を取りました。一見、浅いように見えますが、実際は非常に深いことを語っています。
―――本当に軽やかなのに、深い意味が込められている作品ですね。
監督:おっしゃる通り、個人的には表面的にはあっさりと軽いタッチで、実は非常に深刻なことを描いている映画が好きです。例えば、イランのアッバス・キアロスタミの作品や、ポーランドの昔の映画、また日本では小津安二郎や木下惠介のように、比較的通俗風に見えるのですが、その奥にさまざまなことを含んでいる映画ですね。
―――「オーサカ ASIA スター★アワード」トークでチャン・シャオチュアンさんは、『藍色夏恋』のときに、地下鉄に乗ろうとして監督から直接スカウトされたと話されていましたが、今回も監督自らスカウトされたのですか?
監督:そうですね。ただ、チャン・シャオチュアンは地下鉄の駅でしたが、この二人は西門街でスタッフがスカウトしました。以前、グイ・ルンメイやチェン・ボーリンをスカウトした場所です。 私自らがスカウトしたのは、チャン・シャオチュアンだけです。
―――アーツォ役のジャン・ファイユンさん、シャオティエン役のウェイ・ハンディンさんのどんな点に魅力を感じ、主役に起用しようと思ったのでしょうか?
監督:ジャン・ファイユンさんは、事務所で話をしたときに天然ボケの雰囲気がありました。アーツォが銅像を盗む計画は、自分では緻密に計画を立てていると思いこんでいるけれど、実は穴だらけで全然ダメなのです。それに気づかない天然ボケぶりがとても良かったですね。ジャンさんの天然ボケは彼の個性で、今回来日する際にもイミグレーションカードを書く際にウェイさんのカードを見て、名前まで丸写し、書き直しする羽目になっていましたから。
シャオティエン役のウェイ・ハンディンさんは、とても口下手で口数が少ないのですが、これが本当に彼の個性なのか最後まで掴めまず、どの役に彼がふさわしいのか決めかねていました。シャオティエンは、自分と同じく銅像を盗む計画を立てたことを警戒したアーツォから尾行されたり、監視されたり、家を覗かれたりします。ですからシャオティエンは家のことをあまりしゃべりたがらない、少しミステリアスな感じがあります。ウェイさん自身が持つ少しミステリアスに見える個性と合わせて、人物造詣していきました。
―――イー・ツーイェン監督流の人物造詣ですね。
監督:俳優と役柄をどういう風にミックスさせて個性を作っていくかについて言えば、私の人物造詣のスタイルは、まずは彼ら自身が持っている個性をどこまで活かして役を作るかを考えていきます。しっかり役者たちを理解してこそできることなので、役者たちには私を信頼してもらい、彼らの本当の姿と役を合わせて一つの人物を作っていきたいと、いつも思っています。 役に役者を寄せていくようなアプローチはしません。
―――ジャン・ファイユンさん、ウェイ・ハンディンさんは、スカウトされてから撮影まで監督と話し合い、演技指導を受けてきた訳ですが、監督に対する印象は?
ウェイ・ハンディン(以下ウェイ):最初スカウトされたときは、スタッフの方が連絡先を聞いてきたので、騙されたかもとあまり信頼していませんでしたが、事務所で監督とお話させていただいたときは、すごくいい方で、ユーモアもあるし優しい方だと思いました。でも、撮影の時は厳しかったです。
ジャン・ファイユン(以下ジャン):監督は普段は全然怖くないのですが、いざ撮影となるとすごく厳しかったです。 本編ではカットされていますが、チャン・シャオチュアンさんとの絡みがあるシーンで、指定された位置にきちんと行くことができず、何故できないのかと厳しく監督に言われました。怒鳴ったりはしないのですが、僕の心にグサリとささり、こっそりその場を離れて泣いたこともありました。
監督:20テイクぐらいやったのですが、ダメでした。チャン・シャオチュアンさんがウェイさんの影になってしまったのです。夜のシーンで夜明けまで粘って頑張ったんですけれどね。
―――本作でスクリーンでの俳優デビューを果たしたお二人ですが、今後俳優を続けていきたいですか?
ウェイ:まだ分からないけれど、面白いかなと思っています。
ジャン:そうですね、チェン・ボーリンとかエディ・ポンみたいになれればと思います。
ウェイ:そう、僕もチェン・ボーリンとかエディ・ポンみたいになれれば。
まさにスクリーンで観る姿そのままの二人が目の前にいたインタビュー。最初は控えめだったジャン・ファイユンさんとウェイ・ハンディンさんも、上映後のQ&Aでもお客様からの質問に答え、サイン会にも長蛇の列ができる人気ぶりに、台湾ナイトでは「大阪、ありがとう!」と感激の様子。デビュー作で海外の映画祭の場に登壇という華々しい体験をした二人。
クロージングセレモニーでは、
「本当にありがとうございます。思いがけない受賞でした、この賞をいただいたからには、今後もう一息がんばって撮ってみたいと思います。できれば今後日本で公開されればうれしく思います。審査員の皆さん、大阪アジアン映画祭、ありがとうございます」(イー・ツーイェン監督)
「ありがとうございます」
(ジャン・ファイユンさん、写真中央)
「ありがとう、大阪。ありがとうございます」
(ウェイ・ハンディンさん、写真右)
と、思わぬ受賞に信じられないといった表情で、喜びを表現したみなさん。大阪でのグランプリ&観客賞受賞という大きなお土産を手にしたことをきっかけに、イー・ツーイェン監督の更なる創作の力となっただけでなく、若い二人が明日の台湾映画界を担う俳優への一歩を踏み出してくれたらと願う。
※写真は、国際審査委員長パン・ホーチョン監督と受賞記念ポーズをとるイー・ツーイェン監督とジャン・ファイユンさん(右写真)、ウェイ・ハンディンさん(左写真)
(江口由美)
<作品情報>
『コードネームは孫中山』“MEETING DR. SUN “
2014年/台湾/94分
監督:イ・ツーイェン
出演:ジャン・ファイユン、ウェイ・ハンディン、チャン・シャオチュアン
(C) 1 Production Film Co., Lan Se Production, Warner Bro. Pictures, Yi Tiao Long Hu Bao International Entertainment Co.