映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

アメリカに移住したイラン人母娘の人生をパワフルに描く『ペルシアン・バージョン』マリアム・ケシャヴァルズ(監督/脚本/プロデューサー)Q&A@TIFF2023

D_1_0165.JPG
 
 現在日比谷・有楽町・銀座地区で開催中の第36回東京国際映画祭(以降TIFF)で、コンペティション部門作品の『ペルシアン・バージョン』が10月29日に丸の内TOEIにて上映された。
 イランからアメリカに移住し、イスラム革命のために帰国できなくなったイラン人家族の中でも母娘の人生に焦点を当て、女性の様々な権利が制限される中、移民として自分の運命を切り開く姿を描くヒューマンドラマ。劇中では80年代に大ヒットしたシンディ・ローパーの「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」を歌って踊るシーンをはじめ、ミュージカル風演出もこらしながら、脚本家の娘、レイラの語りで、長年確執のある母との人生を振り返っていく。レズビアンのレイラの予期せぬ妊娠のゆくえや、祖母から聞いた母と父が移住した本当の理由が徐々に解き明かされ、1960年代イランからはじまる壮大な女性たちの物語をパワフルに描く、勇気をもらえる女性映画だ。
 上映後に登壇したマリアム・ケシャヴァルズは、「2時間もわたしの家族と一緒に過ごしてくれ、大丈夫だったですか?初めての来日は素晴らしい体験です」と語り、Q&Aで本作の背景や自身の作品に通底することについて語った。その模様をご紹介したい。
 

 
―――事実とフィクションの割合など、作品背景を教えてください。
ケシャヴァルズ監督:ほとんど本当のことです。実際にはわたしが24歳のときに父親が亡くなったので、わたしの娘に会うことができなかった。ですから映画では会えるようにしています。また、映画では兄弟が8名になっていますが、実際には7名とそこも少し違います。3世代の女性たちそれぞれに物語があり、その中に真実があります。わたしの映画の作り方から、また真実が見えてきたと思います。
 
 
D_2_9038.JPG

 

■テロリストと思われるイラン人、その家族や伝統を見せることで理解を深めたい。

―――イランの家族の物語をアメリカで描くにあたり、映画を作るにあたってどんな難しさがあったのでしょうか?
ケシャヴァルズ監督:アメリカでこの映画を作ることができたこと時代が奇跡だと思います。アメリカでイラン人はテロリストと思われてしまいますが、それは真実から程遠い。家族や伝統を見せることで、そうではないことをわかってもらえればと思って作った一面もあります。また、アメリカとイランという二つの国、二つの言語を交えて作ったので、そのプロセスの大変さもありました。
ただ、以前から家族の物語を描きたかったのですが、母からは恥だからダメだと言われていたのです。父が亡くなった後、祖母も亡くなり、母が一番年上になったとき、ようやく家族のことを描いてもいいと許可をもらえたのです。以前と違い、今はバイカルチャーの映画がわたしが作る前にも上映され、皆さまに受け入れられたので、そういう作り手が本作の道を作ってくれたと思っています。
 

■祖国を忘れないようにと祖父が送ってくれたスーパー8ミリ映像を参考に、母の生まれ育った環境を描写

―――イランらしい場所をもう少し見ることができるかと思ったのですが、今回のロケーションに関して教えてください。
監督:ニューヨークはシュラーズのコミュニティーがありますが、古いシュラーズはもう存在しないのです。古い建物が破壊され建て替えられているので、古い地域を再現するのは難しく、昔の雰囲気がする曲がりくねった道や広場も探すのが難しかったです。祖父が60年代に家族がアメリカに移民したので、忘れないようにとスーパー8ミリをたくさん送ってくれ、小さい頃はそれをよく見ていたのです。わたしはそれと同じような雰囲気、心情を描きたいと思っていました。出来上がった映画を見て、母も小さい時に育った環境に似ていると、とても驚いていました。
13歳で結婚した母が医師として赴任する父とともに僻地の村で住むシーンでは、トルコのクルド人たちが住んでいる村で撮影しました。ただ当時の写真が全くなかったので、聞いた話から想像しながらの撮影だったのです。その村は実際に20家族だけしかおらず、小さい羊を男の子についていくととてもハードな体験だったので、都会から田舎の小さい村に行くシーンをここなら描けると思いました。大都会との違いの雰囲気が伝わるように心がけて撮影しました。
 

Main_The_Persian_Version©Yiget Eken. Courtesy of Sony Pictures Classics.©Sony Pictures Classics.jpg

 

■イラン人女性は、とても強く諦めない

―――イランは女性が差別され、自由がない立場で、女性監督としてどういう点が大変だったか教えてください。
監督:ナルゲス・モハンマディさんのようにノーベル平和賞を受賞したのは本当に素晴らしいと尊敬しております。ムーヴメントはすぐにできるものではなく、何年もかかって自分の信じている道を貫くものです。わたしが今まで作ってきた映画の題材には必ず女性が中心にいます。イランで女性がやりたいことをやるのが非常に難しいことは、映画を通してわかっていただけたと思いますが、わたしの母や祖母からも様々な話を聞き、学んだこともたくさんあります。今のイスラム主義で女性が学校に行くのは非常に難しいのです。それでも学びたい意思を持ち、それをあきらめない。本作で登場する3世代の女性も、自分の信じたものを貫きたいという強い気持ちを持っています。そういうことをイランの女性として描いていきたいと思いましたし、みなさんも本で読んだり、話を聞いたりすると思いますが、とても強く諦めないのがイランの女性だと思います。
もう一つ、女性に自由がない中、なんとかしてその状況を変えていきたいという気持ちもあります。映画で13歳の母役を演じてもらった子をイランでビザを取り、サンダンス映画祭に参加してもらったのですが、アメリカに戻りたいかと聞くと、「わたしはイランに残って、なんとかして物事を変えていきたい」と強い意思を見せたので、イラン人女性の象徴なのかなと思いました。
 
 本編終了後、エンドクレジットに入る前に大きな拍手が巻き起こった、ぜひ劇場公開を望みたい一作だ。
(江口由美)
 
第36回東京国際映画祭は、11月1日(水)まで日比谷・有楽町・銀座地区ほかで開催中
公式サイト:https://2023.tiff-jp.net/ja/
©2023TIFF
©Yiget Eken. Courtesy of Sony Pictures Classics