第34回東京国際映画祭のクロージングセレモニーが11月8日に開催され、2年ぶりのコンペティション部門他各賞の発表が行われた。東京グランプリ/東京都知事賞は、コソボ出身、カルトリナ・クラスニチ監督の初長編作『ヴェラは海の夢を見る』(コソボ/北マケドニア/アルバニア)が見事輝いた。
審査委員長のイザベル・ユペールは、
「この映画は、夫を亡くした女性を繊細に描くとともに、男性が作った根深い家父長制の構造に迫る映画でもあり、監督は国の歴史の重みを抱えるヴェラの物語を巧みに舵取りしています。歴史の重みは静かに、しかし狡猾にも社会を変えようとする者に暴力の脅威を与えるのです。確かな演出と力強い演技、撮影が、自信に満ちた深い形で個々の集合的な衝突を映画の中で生み出しています。コソボの勇気ある新世代の女性監督たちの一作が、新たにコソボの映画界に加わったと言えます」と講評。
また、池松壮亮、伊藤沙莉主演の松居大悟監督『ちょっと思い出しただけ』が、スペシャルメンションと観客賞のW受賞を果たした。松居監督はセレモニー後の記者会見で、「言語化できない感情や想いを伝えたくて映画をつくっているので、今回、なかったはずの“スペシャルメンション”という特別な賞を作っていただけで、とても嬉しかったです」。さらに観客賞については「お客さんに観てもらって映画は完成すると思っているので、観てもらって選んでもらったので、この賞を貰って一番うれしいです」と喜びを語った。
全受賞結果と、審査委員長スピーチは次の通り。
<コンペティション部門>
●東京グランプリ/東京都知事賞『ヴェラは海の夢を見る』(カルトリナ・クラスニチ監督)(コソボ/北マケドニア/アルバニア)
●審査委員特別賞『市民』(テオドラ・アナ・ミハイ監督)(ベルギー/ルーマニア/メキシコ)
●最優秀監督賞ダルジャン・オミルバエフ監督『ある詩人』(カザフスタン)
●最優秀女優賞フリア・チャベス『もうひとりのトム』(メキシコ/アメリカ)
●最優秀男優賞アミル・アガエイ、ファティヒ・アル、バルシュ・ユルドゥズ、オヌル・ブルドゥ『四つの壁』(トルコ)
●最優秀芸術貢献賞『クレーン・ランタン』(ヒラル・バイダロフ監督)(アゼルバイジャン)
●観客賞『ちょっと思い出しただけ』(松居大悟監督)(日本)
●スペシャルメンション『ちょっと思い出しただけ』(松居大悟監督)(日本)
<アジアの未来部門>
●作品賞『世界、北半球』(ホセイン・テヘラニ監督)(イラン)
●Amazon Prime Videoテイクワン賞『日曜日、凪』(金允洙⦅キム・ユンス⦆監督)
●Amazon Prime Videoテイクワン賞審査委員特別賞『橋の下で』(瑚海みどり監督)
審査委員長イザベル・ユペールさんスピーチ
「私たちが拝見した15作品で感じたのは、映画の多様性の豊かさです。コンペディション作品の一部には言語の多様性、言語の違いがテーマになっている作品もありました。世界には多くの言語が消滅の危機にあると嘆くシーンが描かれていた反面、『ちょっと思い出しただけ』では世界の人が皆おなじ言葉を話したらいいのではないかとも話しています。詩もコンペティション部門では多くテーマとなっていました。
その他、非言語的な映画芸術も含め、あるいは音楽、演劇、舞踊、映画そのものという表現も取り上げています。私たち審査委員はコンペティション部門の審査で、現代文化における映画の位置づけについて考えることを求められました。もうすでに地位を確立しているアーティストと新しいアーティストの声、世界の多様なコミュニティを扱っている作品に対面することになりました。社会の現状を観る事ができました。こうした作品の社会のイメージの現代的なものに感動しました。以前は文化を民族的なフォークロアなものとして観る事が多かったのですが、今年の東京ではそうしたことはありませんでした。
また、コンペティション部門では多くの女性が描かれていました。ここで3作品だけ挙げると、『ヴェラは海の夢を見る』と『市民』、『もうひとりのトム』。これらの作品の登場人物は途方もない苦境、犯罪、暴力、虐待に直面しています。どの映画でもこうした社会の問題と人々を抑圧し続ける過去のレガシーを描いています。それでありながら、3作の主人公ともに、被害者としては描かれず、一人ひとりが敵を見極め対峙していくことができるようになっていく。最後に戦いの勝ち負けに左右されず、これらの作品は未来へ向かっていきます。こうした15作品と、世界を様々に探求していくのは楽しいことで、こうして審査委員として携われたことを大変光栄に思います」
<第34回東京国際映画祭 開催概要>
■開催期間: 2021年10月30 日(土)~11月8日(月)
■会場:日比谷・有楽町・銀座地区
■公式サイト:www.tiff-jp.net
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