「おおさかシネマフェスティバル2016」が3月6日(日)、大阪北区のホテルエルセラーン大阪、エルセラーンホールで満席の416人を集めて行われ、ハイライトの表彰式では主演女優賞・樹木希林さん、主演男優賞・佐藤浩市さんら豪華ゲストの顔ぶれの登場に歓声とため息、そして大爆笑が巻き起こった。
76年「おおさか映画祭」としてスタートしてから40周年の節目を迎える今回は、午前に40周年記念として大森一樹監督のメジャーデビュー作『オレンジロード急行』を上映。上映後には、大森一樹監督、高橋聰実行委員長をはじめ、映画祭ゆかりの関西を代表する映画人が集った。観客と共に会場で映画を観た感想を問われ、「途中から早く終わってと思い、胃が痛くなった」という大森監督は、アメリカンニューシネマに影響を受けた思い入れのあるシーンの数々や、原節子に出演依頼をしたエピソードが明かし、おおさか映画祭誕生秘話にまで話が及んだ。また、映画会社に就職し、助監督経験を積まなければ映画監督になれなかった時代に、学生で自主映画を作ったのが認められ、監督をした初めての例として、『オレンジロード急行』の大森監督が当時の映画大好き青年にとって憧れの的であったというファン代表の言葉も。70年代後半の日本映画界が垣間見える充実のトークとなった。
昼食休憩後、午後1時からの表彰式では、総合司会の浜村淳が、スペシャルサポーターによる花束贈呈の際も、観客が登壇する度に盛り上げた。特にスペシャルサポーターから人気のあった松坂桃李や佐藤浩市には、観客からの質問に答えてもらう趣向も。どんな質問にも真面目に答えようと考え込む松坂や、観客から「素敵すぎて宇宙人みたいな存在」と言われ、返事に詰まる佐藤など、日ごろは見られない俳優陣の表情や、それに対する浜村の絶妙のツッコミで、会場は常に笑いに包まれた。最後に、主演女優賞で登壇した樹木希林が、逆に浜村の司会ぶりを「83歳とは思えない、元気!」と絶賛する一幕も。観客と出演者が一体となり、満席の観客からも大きな拍手が送られた。
【主演女優賞】樹木希林『あん』
「大学で行くところがないから、学校みたいなところを探して(俳優養成所に)入りました。効率を考えると舞台は嫌いでした。でも1番素晴らしい俳優は舞台俳優。2番目に映画俳優。3番目はテレビに出ている一応、俳優。そして、芸が荒れるというのがCMで、私はCMを選びました。『あん』で女優賞をもらうのは面映ゆいんですよ。年取ったら普通にこんなことができるんだから。『デンデラ』で最後、熊のぬいぐるみに追いかけられて必死になっている浅丘ルリ子さんに主演女優賞(おおさかシネマフェスティバル2012)をあげる映画祭だから、行ってもいいかなと思ったんです」
【主演男優賞】佐藤浩市『愛を積むひと』『起終点駅 ターミナル』
「(浜村淳から最新作『64』の話題を振られ)ほとんど映画は主役の場合受けになるが、『64』は受けながら久々に攻めまくりました。僕がダメな人は見ることができないぐらい、出ずっぱり。(プライべートは)ジャージを着てゴロゴロしています。かみさんからは外出て帰ってくると、出たときと同じ格好と言われます」
【助演女優賞】黒木華『ソロモンの偽証』『幕が上がる』『母と暮せば』
松竹東京本社から大角正プロデューサーが代理で登壇「山田監督の中では母役は吉永小百合さんで決まっていました。息子役は嵐で演技力のある二宮和也さん。息子の許嫁役は『小さいおうち』で黒木さんを初めて使った時から、黒木華さんを気に入っていたようです」
【助演男優賞】松坂桃李『エイプリルフールズ』『劇場MOZU』『図書館戦争THE LAST MISSION』『日本のいちばん長い日』『ピース オブ ケイク』
「昨年は本当にたくさんのスタッフとたくさんの作品がやれて、この一年は財産です。(どういう役をやりたいかと観客からの質問に)あーうーん、時代劇はしっかりとやりたいですね」
【新人女優賞】藤野涼子『ソロモンの偽証』
「主役に決まったとき、父親が『お前なら大丈夫だ、主役だよ』と言ってくれたのでやり遂げることはできました。(監督の指導に)毎日泣いてました」
【新人男優賞】坂口健太郎『俺物語‼』『ヒロイン失格』
「(演技については)今もずっと戸惑ってはいます。(目標とする先輩は)あまり決めていないです。普通にしていればいいかなという感じです。(人気急上昇と振られ)外を歩いていると声をかけていただくことも増えて、とてもうれしい」
【監督賞】山下敦弘『味園ユニバース』
「脚本が書けるタイプではないので、俳優や主人公やキャラクターの魅力を引き出したい。(ひねった感じの映画を撮っていると言われ)ひねくれていると思います」
【脚本賞】橋口亮輔『恋人たち』
「ワークショップに参加した彼らをどう動かし、プロの俳優を絡めていくか。脚本を書くのに8カ月かかりました。この脚本だったらいけると自信を持って制作できるというのは大事なこと。脚本を書いている時は、脚本家としての自分でないと、この程度でいいやと思ったら失敗します」
【撮影賞】高木風太『味園ユニバース』
「今大阪のミナミに住んでいるので、普段の景色を撮りました」
【音楽賞】池永正二『味園ユニバース』
「もともと難波や大正に住んでいたので、明るいだけではなくドヨンとした部分もある空気感を意識しました」
【新人監督賞】三澤拓哉『3泊4日、5時の鐘』
「タイトルは『3泊4日、5時の鐘』だが、撮影は5泊だったので、撮影場所をコンパクトにして撮るのに苦労しました」
【新人監督賞】杉田真一『人の望みの喜びよ』
「(出演した子供たちの)その年代にしか出せないものが映っていると思います。普段僕が語る言葉ではない、かみ砕いた言葉や現場の空気に気を付けて撮影をしました」
【ワイルドバンチ賞】個人:ミズタマリ(『世界の終わりのいずこねこ』主演)
「アイドルとして芸能界にはいったけれど、初の演技で主演をさせていただき、こんな賞をいただいてうれしい。(改名前に活動していた)いずこねこの世界観が詰め込まれた作品」
【ワイルドバンチ賞】
作品:『ハッピーアワー』(濱口竜介監督)
「2年ぐらいかけて脚本を変えながら作っていくうち、最初は2時間半ぐらいの予定だったが、あれよあれよとこの長さ(5時間半)になりました。(演技指導は)厳しくはない代わりに(撮影時間が)長かったです」
【特別賞】大森一樹監督
「ちゃんと(ベストテンの)対象になる映画(『ベトナムの風に吹かれて』)を撮ったのに、かすりもしていない。大体僕が撮ったら必ず監督賞をもらうことになっていて、アカデミーやキネ旬はだめでもこの映画祭では大丈夫だろうと、松坂慶子さん(主演)にも日を空けておくように伝えていたのに」
【日本映画作品賞】『恋人たち』(橋口亮輔監督)
「無名な俳優たちを集めたワークショップをはじめ、日本ではまだまだいろんなエネルギーがあるなと思った。無名な俳優たちを使うことが大前提。彼らをどう生かすか。そのために役作りを発想していきました」
特別ゲストで登壇の成嶋瞳子さんについて「この人天然なので、思いもしないような動きをするので、撮影中見ていて楽しかった。間違ってもこの人が他のオーディションに行ってもうからない。ルックスも良くないし、芝居もうまくないけれど、じっくり見ていると、すばらしいものが見えてくるんですね」
【外国映画作品賞】『セッション』(辻勝行氏:ギャガ株式会社・西日本配給支社支社長)
「最初16館でスタート、全国で200館に拡大し、今も上映している。映画を愛する皆さんのおかげ。ありがとうございます」
(江口由美)
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