OAFF2013観客賞受賞作『恋の紫煙2』脚本ジョディ・ロッ・イーサムさんインタビュー
『恋の紫煙2』“Love in the Buff”
(2012年 香港・中国 1時間51 分)
監督:パン・ホーチョン
出演:ミリアム・ヨン、ショーン・ユー、シュウ・チェン、ヤン・ミー、ヴィンセント・コク
(c) 2012 Media Asia Films (BVI) Ltd.
第8回大阪アジアン映画祭の特集企画《Special Focus on Hong Kong》の一本として関西初上映された香港のパン・ホーチョン監督『恋の紫煙』の続編、『恋の紫煙2』。映画祭で最も観客から支持を集めた観客賞を見事受賞し、昨年の『セデック・バレ』同様、日本での劇場公開へ期待が高まるところだ。『低俗喜劇』の脚本を手がけたジョディ・ロッ・イーサムさんが、脚本家としてデビューを果たした作品でもある本作は、昨年香港における国産映画の中で『低俗喜劇』に次ぐ興行収入を稼ぎだし、パン・ホーチョン監督作品の人気を決定づけた。香港から北京に舞台を移してのラブコメディーは、ジョディ・ロッ・イーサムさん自身の体験と重なる部分も多いという。
14日(木)の《Hong Kong Night》での舞台挨拶の模様と合わせて、パン・ホーチョン監督との出会いから、初めて脚本を手がけた苦労、北京と香港との映画作りの違いについてジョディ・ロッ・イーサムさんにインタビューした内容をご紹介したい。
<ストーリー>
喫煙所で出会い、同棲することになった年の差カップルのチョンギウ(ミリアム・ヨン)とジーミン(ショーン・ユー)。半年で同棲を解消した二人だが、偶然にも赴任先の北京で再会してしまう。しかし、ジーミンは既に客室乗務員ヨウヨウ(ヤン・ミー)と付き合い、チョンギウも見知らぬ土地でのトラブルから救ってくれた大学教諭サム(シュウ・チェン)と信頼関係を築きつつあった。お互いを忘れられない二人は、再び周りに内緒で会うようになるが……。
<舞台挨拶>
━━━下ネタが飛び交う『低俗喜劇』の脚本を女性が書いているとは思いませんでした。
母のお腹の中にいたとき、超音波で男の子と診断されていたんです。だから、生まれてからも男の子として育てられ、家の中でもスラングが飛び交っていたんですよ。
━━━パン・ホーチョン監督との出会いや、脚本を手がけるきっかけは?
もともと私は小説を書いていて、たまたま書店で私の著書を買って読んでくれたパン・ホーチョン監督から突然、「とても簡単で、サッとできて、面白いことがあるから北京に来ないか」と電話をいただきました。実際に行ってみたら、本当に難しく、時間もかかって大変でした。
━━━『恋の紫煙2』の見どころを教えてください。
ミリアム・ヨンさん、ショーン・ユーさんの演技も見どころですが、故郷を離れて暮らす寂しさを克服することや、好きな人を諦めないことなども盛り込んでいます。この映画を観てティッシュが足りなくなったら、受付でもらってください。
<インタビュー>
━━━大ヒット映画『恋の紫煙2』の続編であることや、パン・ホーチョン監督作品ということでプレッシャーもあり大変だったのでは?
本当に大変でした。プレッシャーもありましたし、私は元々小説を書いていたのですが、脚本はこれが初めてでした。小説を書くのと脚本を書くのは全く違うので、脚本を書くことに自分を適応させるのはとても難しかったです。主人公二人が香港を離れて北京に行きますが、結局それは私たちも同じで、主人公たちの心情は私たちの心情とオーバーラップしたものがあり、自分たちの気持ちを投入しました。
━━━実際にどれぐらい脚本に時間がかかったのでしょうか。
結局脚本を書き上げあるのに一年かかりましたが、北京に一年いたのは私にとってはすごくよかったです。北京の話を書くときに、香港にいて想像だけでは書けません。ロケーションやレストランなど自分たちの体験が入っています。実は最初に脚本を書く前に、パン・ホーチョン監督たちと北京へ遊びに行ったんです。遊びに行って、自分たちが気に入ったbed barやレストランなど、全て私たちが生活していたときの北京の思い出の場で、それらを脚本に盛り込みました。
━━━パン・ホーチョン監督から脚本を書くにあたって、どんな指導を受けたのですか?
パン・ホーチョン監督は、普段はみんなでワイワイやっていますが、現場ではものすごく真面目で、厳しいです。脚本でも色々な要素を入れたいと思うのですが、全部入れてしまうとバラバラになってしまい、うまくまとめていくために何度も何度も書き直しをしました。それは私を脚本家として鍛え上げてくれていることだったのです。普通なら1カ月ぐらいで書けるかもしれないことを、1年かかって書いたというのも、細かいやりとりや何度もダメだしがあったからで、あまりにOKがでないので自分のやっていることがこれでいいのかと自信がなくなることもありました。
でも、なんとか作品が完成し、昨日OAFFでの上映に同席して日本の観客の方の反応を見たら、泣くところも笑うところも香港の観客と同じでした。これで世界的に共鳴ができる部分が作品にあることが分かりましたし、作品を楽しんでくれているのを直接観ることができて、自分のやっていたことに価値があると思えました。私を教えてくれたパン・ホーチョン監督も本当に大変だったと思います。
━━━主人公のチョンギウを演じるミリアム・ヨンさんは、鼻の穴にティッシュを詰めたり、ベテラン女優らしからぬ姿も多々ありましたが、快く演じてくれたましたか?
ミリアム・ヨンさんはすごくプロフェッショナルなので、全く問題ありませんでした。1本目『恋の紫煙』も主演されているので、この作品に思い入れがあり、どんなことでもOKと言ってくれました。ミリアム・ヨンさんは『恋の紫煙』、『恋の紫煙2』と同じ役で香港電影金像奨主演女優賞に2度ノミネートされており、非常に珍しいことなので喜んでくれています。
━━━『恋の紫煙2』はほぼ北京で撮影し、『低俗喜劇』は香港で撮影されていますが、映画づくりに関して北京と香港での違いを教えてください。
北京は交通渋滞がひどいです。例えば香港で3つロケーションが取れる場合でも、北京では1つしか取れません。徒歩5分の場所でも、車だと1時間かかるぐらい渋滞がひどくて、時間を無駄に使ってしまいます。
また、北京は香港のように天気が安定していません。天気予報も外れることが多く、それで時間を費やしてしまうことが多いので撮影速度は香港の方が早いです。但し中国の映画製作会社はほとんど北京に集中しているので、北京で映画を撮ることに対するサポートは、北京の方が充実していると思います。
━━━返還後香港映画らしさがなくなっている気がしましたが、本作を香港映画の良さを久々堪能できました。これからの香港映画は大陸との関係も含めてどう推移していくでしょうか?
大陸云々よりも、この作品についていえばパン・ホーチョン監督はあまりにも映画が好きで、監督曰く「映画というのは面白いか、面白くないか」それだけしか考えていません。また寝食忘れても映画を観るぐらい好きなので、映画に対する愛情がこの映画にも表れていると思います。
偶然自身の著書をパン・ホーチョン監督が手にしたことがきっかけで、次回作も含め連続3本もパン・ホーチョン監督の脚本を書くことになったジョディさんは、まさに香港映画界のシンデレラガールのようにも映る。その苦労は相当だったようだが、妥協せずに何度も書き直させたパン・ホーチョン監督の愛ある鬼指導ぶりが、ジョディさんの脚本家としての成長と、『恋の紫煙2』の見事な出来栄えを生み出したといえよう。劇中で何度も登場した「北京は乾燥してる!」という台詞に気候の違いを訪ねてみると、「静電気がひどくて一日中パチパチしてる」と、ここでもパチパチ発言。ダダさんとは対照的にボーイッシュなショートヘアがよくお似合い!「普段はずっとこんな恰好よ」というラフなロングTシャツ&レギンススタイルで、話は尽きることがなかった。パン・ホーチョン監督の次回作『SDU』では香港特殊警察がマカオで巻き起こすハチャメチャ騒動を描くというジョディさん。また是非来阪して、裏話をお聞かせいただきたい。(江口由美)
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