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葛飾北斎の娘、お栄はロックでミステリアスな女性『百日紅~Miss HOKUSAI~』原恵一監督インタビュー

『映画クレヨンしんちゃん』シリーズ、『河童とクゥの夏休み』などのアニメーション作品から、『はじまりのみち』では初実写映画に挑戦した原恵一監督の最新作『百日紅~Miss HOKUSAI~』が5月9日(土)からTOHOシネマズ日本橋、テアトル新宿、大阪ステーションシティシネマ他で全国公開される。
 

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原恵一監督自身が敬愛してやまない杉浦日向子の『百日紅』を初の長篇映画化した本作。浮世絵師・葛飾北斎の娘で、父と二人暮らしをしながら浮世絵師として絵を描き続けるお栄を主人公に、江戸の浮世を四季と絡めて描いたお江戸エンターテイメントだ。時には北斎が請け負った絵を代わりに描き、集まってくる絵師たちに男勝りの態度を見せる一方、盲目の妹お猶の面倒を見ながら、淡い恋に頬を赤らめる初々しさを持つお栄。そのクールで絵に対してひたむきな姿に、心惹かれずにはいられない。声の出演も、お栄を演じる杏をはじめ、北斎役の松重豊、北斎の家に勝手に住み着いた女好きの絵師、善次郎(渓斎英泉)役の濱田岳など魅力的なキャストが揃った。江戸時代の庶民の暮らしや、江戸の人たちが親しんだ生活の中の絵も数々登場、その風情をたっぷり味わえる作品となっている。
 
キャンペーンで来阪した原恵一監督に、『百日紅』映像化のきっかけや、お栄のキャラクター造詣、北斎との父娘関係を通して浮かび上がるお栄像についてお話を伺った。
 
『百日紅~MISS HOKUSAI~』公開記念 原恵一監督トークショーレポートはコチラ
 

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■もう映画が作れなくなってしまった杉浦さんに代わり、「『百日紅』を映画にするため、僕が”いい道具”になる」という気持ちでやっていた。

―――杉浦日向子さん原作『百日紅』を映画化することになったきっかけは?
杉浦さんの作品は昔から大好きで、ずっと映像化したいと思っていました。この作品の制作プロデューサーであるProduction I.Gの石川さんに、杉浦さんの別の作品の企画を持っていったところ、杉浦さんの『百日紅』の企画を動かしたことがあるという話を聞きました。その石川さんから『百日紅』映画化を打診されたので、是非ともという流れです。
 
―――原監督からみた杉浦作品や、『百日紅』の魅力は? 
杉浦さんという存在を山にたとえると、巨大な独立峰です。他に似た作家がいないのが魅力的です。マンガという表現を使った方ですが、演出家としても非常に優れている方というところに惹かれました。 
 
『百日紅』という作品では杉浦さんの演出力が非常に発揮されています。原作はどのエピソードも素晴らしい。それは驚異的なことで、そのような原作を映像化できるわけです。今まで映像化されてなかったことが不思議だし、逆に映像化されていたら無茶苦茶悔しかったと思います。今回幸運にも杉浦作品初めての映像化の監督になれました。 
 
―――『百日紅』を映画化する作業は、原作を尊重する部分と、オリジナリティを出す部分との兼ね合いという部分で、原作との距離感が難しかったのでは? 
仕事をしながらプレッシャーを感じていたし、ずっと悩みました。後になって自分の中で腑に落ちる言葉が浮かんだのですが、もう映画が作れなくなってしまった杉浦さんの代わりに、『百日紅』を映画にするために僕が”いい道具”になるということです。料理人で言えばいい包丁に、大工で言えばいいのこぎりやカンナという気持ちでやっていたような気がします。 
 
 

■キャスティングで一番最初に浮かんだのは杏さん。お栄は愛しさのある女性に。

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―――原作ではそれぞれ独立したエピソードを、映画では四季を通した物語として描いています。映画オリジナルはどの部分ですか?

お栄とお猶の姉妹関係は、割とオリジナルで作っている部分ですね。お猶が登場するエピソードを映画のクライマックスにしようと思っていたので、そこから逆算的に考えて、お客さんにお栄とお猶の関係を印象づけるようにしました。 

 
―――お栄は芯が強い反面、可愛らしい面もあり、現代女性も共感できるキャラクターですが、キャラクター造詣でこだわった点は?
ただのぶっきらぼうな女では可愛げがないし、様々な面を持った女性として描くべきだと思いました。そのために、乱暴な口を利くところもあれば、片思いをしている男性の前では顔を赤らめたり、恥じらう面を持つ、愛しさのある女性にしました。 
 
―――お栄を演じる杏さんは、早い段階からキャスティングを考えていたのですか? 
キャスティングで一番最初に浮かんだのが杏さんでした。実際、すごくはまったと思います。杏さんご自身も知的で、落ち着いていて、気さくで、気取ったところがない。また、真面目で勘が良く、素晴らしい女性です。 
 
 

■ありきたりな時代劇は面白くないのでロックを使用。杉浦さんも江戸マンガを描きながらロックを聞いていたし、お栄もロックな女性。

―――お栄の性格や北斎との関係を一気に見せ、江戸の遠景が映るまでの冒頭の数分間で、一気に観客を江戸時代にいざなう構成が、素晴らしかったです。この場面だけロックが流れていたのも非常に印象的でしたが、その狙いは?
ありきたりな時代劇にしたら面白くないし、杉浦さんのマンガは、本当にこういう生活が江戸時代にあったのだと思わせる作品が多いので、そのリアルな部分を大事にしたかったです。ロックを使用するのは、割と早い段階で思いついたアイデアでした。実は、杉浦さんご自身、ロックが好きで、江戸のマンガを描きながらロックを聞いていたそうです。そういう点からも、時代劇でロックはアリだなと感じました。何よりもお栄がロックな女性ですから。
 
 

■北斎の娘・お栄は、生まれたときからある運命を背負わされた女性。その晩年もミステリアスで、様々な想像が膨らむ。

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―――北斎とお栄の親子関係はかなり特殊ですが、原監督からみてこの二人はどう感じましたか? 
北斎は身勝手な人ですよね。絵を描くことしか興味がない。女は好きかもしれないけれど、それ以外は興味がない。そういう父親は、いい父親ではないでしょう。でも、お栄は呼びつけにしたり、乱暴な口を利ききながら父親の近くにいます。たぶんお栄は父親のことが好きで一緒にいるし、北斎が描く絵に惹かれていたのだと思います。史実として記録に残っていますし、劇中でも触れていますが、お栄は一度嫁いだものの別れ、死ぬまで北斎と一緒に暮らしています。相手は絵師でしたが、あまり上手い絵師ではなかったらしく、旦那の描いた絵を「下手だ」と言って不仲になったそうです。お栄は、北斎の娘に生まれてしまったばかりに、生まれたときからある運命を背負わされていた女性だという気がしますね。
 
―――『百日紅』をきっかけに知ることができた北斎の娘、お栄とその生き方は、まだまだ掘り下げたい気がしますね。
お栄という女性は、僕も『百日紅』で初めて知りましたが、魅力的な人物だと思います。ミステリアスですし、映画の最後のテロップでも出しましたが「ある時姿を消し、それきり、どこでどうなったか分からない」という生涯を送った人なのです。お墓の場所も、どこで死んだかも分かりません。お栄が人前から姿を消してから11年後に、明治になっていくので、「お栄は明治をみただろうか」とか、「明治に生きていたら、どんな絵を描いていただろうか」と考えたり、北斎の娘という諦めや、自負などを抱えていたのではないかと、様々な想像が膨らむ人物ですね。
(江口由美)
 

 【ストーリー】
百日紅(さるすべり)の花が咲く――お栄と北斎、仲間達のにぎやかな日々がはじまる。浮世絵師・お栄は、父であり師匠でもある葛飾北斎とともに絵を描いて暮らしている。雑然とした家に集う善次郎や国直と騒いだり、犬と寝転んだり、離れて暮らす妹・お猶と出かけたりしながら絵師としての人生を謳歌している。今日も江戸では、両国橋や吉原、火事、妖怪騒ぎ、など喜怒哀楽に満ちあふれている。
恋に不器用なお栄は、絵に色気がないと言われ落ちこむが、絵を描くことはあきらめない。そして、百日紅が咲く季節が再びやってくる、嵐の予感とともに……。
 
 『百日紅(さるすべり)~Miss HOKUSAI~』
監督:原恵一(『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』、『河童のクゥと夏休み』、『カラフル』)
原作:杉浦日向子「百日紅」
出演:杏、松重豊、濱田岳、高良健吾、美保純、清水詩音、麻生久美子、筒井道隆、立川談春、入野自由、矢島晶子、藤原啓治
制作:Production I.G 配給:東京テアトル
(c)2014-2015杉浦日向子・MS.HS/「百日紅」製作委員会 
2015年5月9日(土)~TOHOシネマズ日本橋、テアトル新宿、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー
 

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