あり得ない姉弟!?『小野寺の弟・小野寺の姉』西田征史監督(39歳)インタビュー
(2014年10月14日(火)読売テレビにて)
(2014年 日本 1時間54分)
原作: 西田征史「小野寺の弟・小野寺の姉」(リンダパブリッシャーズ刊)
監督・脚本: 西田征史
出演: 向井理、片桐はいり、山本美月、ムロツヨシ、寿美菜子、木場勝己、麻生久美子、大森南朋、及川光博
2014年10月25日(土)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹、ほか全国ロードショー!
★作品紹介⇒ http://cineref.com/review/2014/09/post-430.html
★向井理&片桐はいり 舞台挨拶⇒ http://cineref.com/report/2014/10/post-172.html
★公式サイト⇒ http://www.onoderake.com
(C)2014 『小野寺の弟・小野寺の姉』製作委員会
~ちぐはぐ姉弟愛が照らし出す、様々な家族像~
まず、片桐はいりと向井理が“姉弟”というキャスティングに惹かれた。適齢期を過ぎても一軒家で一緒に暮らしているという、世間的には微妙な感じの姉弟が織りなすヒューマンドラマは、世間とのズレ感のあるユーモアと温もりのある愛情に満ちた感動で、様々な家族の在り様を見せてくれる。
親を早くに亡くして姉弟だけで生きてきた二人。弟の進は調香師として「ありがとう」の香りを開発中で、姉のより子は商店街のメガネ屋さんで働いている。進は姉に対してある負い目を感じていて、より子は弟にだけは幸せになってほしいと、常日頃から弟のためにいろいろな気遣いをしてきた。お互いを思い遣るあまり思わぬ方向へと物語は進んでいく。家族だからこそ心配せずにはおられない気持ちが空回りしたり、かすかな恋の望みが輝き出してはワクワクしたり、この姉弟に感じる親密さが心を捉えて離さない。
今やTVや映画に舞台とヒット作を次々と打ち出している脚本家・西田征史が、満を持してオリジナル脚本で挑んだ映画初監督作『小野寺の弟・小野寺の姉』。片桐はいりと向井理という顔の大きさだけでも対称的な二人を中心に、絶妙なキャスティングで脇を固め、家族だからこそ生まれる喜怒哀楽を、レトロな雰囲気の中に滋味深く描きだして秀逸。
そのノリにノッテいる西田征史監督に、本作が生まれる経緯やキャラクターに込めた思いなどを伺った。
――― 対称的な二人だが、姉弟という発想は?
いやいや、「あの二人が姉弟に見えないじゃん!」という世間の反応が驚きでした。そうか、そう見えているのかと逆に。以前から二人をよく知っているので、二人の空気感やルール観とかがとてもよく似ているなと感じていたので、家族、姉弟でもおかしくないという認識でした。違和感を与えるつもりではなく、自然と二人をキャスティングしていました。
――― 二人のアンバランスな外見の面白さもあり、また深い想いを内面に秘めながらも脱力感たっぷりの演技を引き出していたが?
片桐はいりさんに言わせると、「遺伝子的にあり得ないんじゃないか?」と。勿論、僕はそうは思っていませんけどね!(笑)。
――― 向井さんは元々進のような感じ?
結構いたずらっぽい処もあるので、クールでカッコイイだけでなく、向井くんの素の可愛らしさを出したいと思っていました。彼自身は無理をしたくない。自分にウソをつきたくない。本質的に飾り気がなく、嘘くさくない人なので、結構こういう空気を持っていると思います。
――― 舞台と同じキャストだが、映画化する際に変えたことは?
舞台表現は発声や動作を大きくしなければならないところもありますが、向井君はそれが生理的に合わないところがあって少し衝突したこともありました。どうしても下を向いてしまうので、「それでは顔が見えない。もう少し顔を上げて気持ちの落ち込みを表現してほしい。」と言うと、「この感情だとどうしても目線を上げられない」と。でも、「進」という人物を表現するための理想の形はお互いわかって、共有できていたので、舞台の表現としては苦しんだ点も、映画で表現する場合は無理なく、というか、理想の進を表現してくれました。
――― 今後向井さんをどう変えていきたい?
今までやってない役を是非。向井君の事務所のある方も、「三枚目は西田のためにとっておくから」と言ってくれました、冗談でしょうけど(笑)。極限までカッコイイとか、もしくは内面的にこじらせちゃうとか、いろんな面を見せていけたら嬉しいですね。
――― キャラクターのモデルは?
それが特にないんですよ。こんな二人のやり取りが見てみたい、と思って書きました。
――― 脇役も絶妙なキャスティングだったが?特に担任の先生役の木場克己さんが面白かった!
嬉しいな。若い先生役の時にはカツラを付けて頂き、それが妙に似合っていて、フォークソングでも歌っていそうな雰囲気でした(笑)。いやぁ、さすが、味がある俳優さんです。
――― 山本美月さんは?
圧倒的に可愛らしいので、今回はその部分を出せたらいいなと。一番気にしたのは向井君との距離感。向井君は、自分の中に戦略があってでしょうけど、初対面の人とはあまり喋らない方なので、初日はお互い役として距離があるシーンなのでそれで良かったが、後半のデートのシーンではもっと親しくなった方が芝居がしやすいかなと僕的に思って、撮影の合間に二人が仲良く話せるよう共通の話題を提供したこともありましたね。
――― お見合いパーティのコーディネーターみたいですね?(笑)
カメラが回っていない時の空気作りをしただけですよ。
――― 向井さんとの距離感を考慮した上でのキャスティング?
元々の役に合う空気感が重要だと考えています。以前からの友だち付き合いから、「ちょっと出てもらえます?」という感じで麻生久美子さんや大森南朋さんなどにお願いしました。
――― 脇役の妙味は?
憎めない人をキャスティングしています。ムロツヨシさんの場合は、スキがあって完璧過ぎない人がいいかなと。見方によっては悪役となってしまう及川さんも、天然なのかなと許してもらえそうな雰囲気を持っている処。ベテランの木場克己さんは、一見堅実だがどこかユーモラスな人柄とか。
――― よく練られた脚本のようだが、発想は?
「小説書きませんか?」とお話をいただいた時、自分が書きたいことって何かな?と考えました。丁度『怪物くん』や『TIGER&BUNNY』を書いていた頃で、地球を救う!とかのスケールの大きな話が続いていた。そこで、今度は人間の営みを見つめたものを書いてみたいと思ったんです。
何を書こうかなと思った時偶然目にしたのが、50歳の息子が70歳の母親を殺したという事件でした。50歳の引きこもりがいたことに驚いたんですが、20年前から引きこもってたら30歳の引きこもりなわけで、今では普通のこと。もしかしたら、二人はそのまま変わらないのに、20年という年月が世間から異様に見られ二人の関係を危ういものにしていたのでは?と思い、適齢期を過ぎても二人で暮らす姉弟の物語を思いついたんです。
――― 二人はずっと独身のまま?
いやいや、そうではないかもしれないし、そうかもしれない。ただ、今は、こんな二人がいてもいいんじゃない、と受け止めて頂ければいいかなと思っています。
――― 小説の段階から映画化の予定だった?
んー、いきなりオリジナルを映画化しようとしても難しく、原作があった方が企画も通りやすいと知っていたので、映画化できたら嬉しいなと思っては書きましたけど。
――― 映画初監督だが、舞台との違いを感じた点は?
はっきり言って、撮影中はとても幸せな時間だったんです。僕、妄想癖があるので、自分の頭に浮かんだ物語を好きな言葉で伝えていきたいと常々思っていました。舞台って、観客の反応をナマで感じられる喜びがあるが、日々観客の反応も役者のテンションも違うので理想と違う芝居になることもあるんです。そこが面白くもあるんですけど。その点映画は、これだ!というカットも音楽も理想とするものを作ったら、それがブレることなく世の中に出せる。自分の頭の中にあるものを具現化するには理想的なコンテンツだなと感じました。
――― 多岐に渡るジャンルを手掛けているが?
そうですね。自分の中で直前に書いたジャンルではないものを次の作品で書きたくなるんです。
――― 創作の源は?
小さい頃から妄想癖があって、それらを具現化しているだけ、とも言えますね。
――― 映画化に際し、こだわった点は?
そもそもこのテーマは映画向きかなと。TVドラマでは許されない地味さだと思うので、最後まで全体を見てもらって最後に伝えられる映画だから描けたのかな、なんて。舞台だと目線だけでは伝わらないことでも映像では可能ですよね。今回特に二人の芝居が良かったので、1カットで二人の距離感や心情が捉えることができました。これも映画ゆえの表現力かなと。
――― 間のとりかた?
無駄な間は嫌いなんです。でも、その場の芝居が良ければカットを割らずに見せた方がいいと思いました。僕の芝居はテンポが速いんですけど、それを二人はとても心地良く演じてくれました。二人は僕が理想とするテンポと同じ感覚を持ってくれているような気がしています。
――― 演出は細かい?
とても細かい方だと思います。ダメ出しすることも多くて。でも、今回は今までの中では一番少なかった。主演の二人が、より子と進、そのものだったからです。
――― 家族観について?
僕が理想とする家族観を載せているかも。親子でも気を遣い過ぎてすれ違うことはあると思んです。些細なことでもお互いを思い遣りながら、時間が過ぎてしまう。映画を撮り終えてから、自分の中にある家族の距離感を改めて感じました。家族によって距離感は違うと思うので、結果としてやっぱりどこか自分の家の家庭像が出ているのだと思います。
――― 昭和的な雰囲気の美術だったが?
元々レトロなものが好きなんです。この映画では、世の中から取り残されているような姉弟なので、その辺りが強調されればいいかなと。
――― 撮影や照明など、雰囲気作りのための工夫は?
色々と提案してほしいと日頃からスタッフにお願いしていたら、いろんな案を提案してもらえ、皆といろいろ話し合って作ることができました。信頼できるキャストとスタッフだったので本当に助かりました。
――― 今回女性にとって切ない描写があったが、女性を意識していた?
いえいえ、あまり男性向けとか女性向けという意識はしていません。いつもそうですけど、女性だからといって、女らしさを無理やりのせるのは止めようと思ってます。一人の人間としてどんな思いで生きているのかを表現したいという考えしかなかったというか。
――― 目指したいものとは?
生と死を見つめたような本作とは真逆なものを作ろうかなと思っていましたが、この映画が完成したら、誰もが温もりを感じて下さるようなハートウォーミングな作品がやっぱりいいかな、と。そんな作品が作れることは本当に幸せなことだと思うんですよねぇ。
あり余るアイデアをひとつの物語に集約させる才能に長けたお方のようだ。速いテンポで演出するには鋭い観察力ときめ細かな配慮も必要だろうが、それらを的確こなせる能力が作品の完成度に繋がっているのだろう。一緒に仕事して共に成長できるような監督。今後、西田旋風によって活性化していく日本のエンタメ界が楽しみだ。
(河田 真喜子)