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素直さで人間の業に迫る!『捨てがたき人々』榊英雄監督(44歳)インタビュー

sutegataki-s-550.jpg素直さで人間の業に迫る!『捨てがたき人々』榊英雄監督(44)インタビュー

(2012年 日本 2時間03分)
原作:ジョージ秋山
製作・監督:榊 英雄  製作・脚本:秋山 命
出演:大森南朋、美輪ひとみ、美保 純、田口トモロヲ、滝藤賢一、内田滋

2014年6月14日(土)~テアトル新宿、テアトル梅田、京都シネマ、7月12日(土)~元町映画館 他全国順次公開

★作品紹介は⇒ こちら
★公式サイト⇒ 
http://eiga.com/jump/QDXiy/

(C)2012「捨てがたき人々」製作委員会


 

~多様な人間性があるからこそ愛おしくなる“捨てがたき人々”~

 

sutegataki-550.jpg 長崎県五島を舞台にした『捨てがたき人々』は、生きることを否定しながらも欲望むき出しに女にすがりつく男の生き様を通して、「何のために生まれ、何のために生きるのか」を、いまを生きる我々の心情に、根底から突き動かすような勢いで問い掛けてくる。ジョージ秋山の原作に共感した榊英雄監督が、ジョージ秋山の息子の秋山命と共に製作し、脚本は秋山命が担当。二人は同じ年の双子座生まれ。製作時期が丁度厄年にあたり、この作品に今までのオリや不祥をすべてぶつけて、これからの人生を新たにスタートさせるキッカケにしようと思ったらしい。そこには、榊監督自身の個人的なバックグランドが強く反映されているというから、本作への想いはより深くて強いものがある。

 【STORY】
sutegataki-2.jpg 金も仕事も家族も希望もなく、「生きるのに飽きちゃった…」と、人生に行き詰まって故郷に戻ってきた勇介(大森南朋)。誰もがよそ者の勇介を警戒する中、弁当屋の顔にアザがある京子(三輪ひとみ)だけはいつも明るく微笑み掛けてくれた。京子は、乱暴されても人懐こく勇介の世話をするうちに、いつの間にかなしくずしに体を重ねるようになる。そして、京子は身籠り、勇介は京子が信奉する教団幹部経営の水産加工会社で働くようになる。そこでは、教団幹部の不倫や自殺騒ぎなど、ドロドロとした人間の欲望を目の当たりにする。

 愛のない両親から生まれ、劣悪な環境で育った勇介は、はじめは京子の妊娠を喜ばなかったが、それでも男の子の父親になったのだ。10年が経ち、勇介は京子の叔母であるあかね(美保純)とも関係を続けており、京子は顔のあざを化粧で隠すようになっていた。息子は成績優秀な子に育ったが、自堕落な父親を毛嫌いし反発していた。まるで自らの生い立ちを辿るかのような現状に驚愕するのだった…。


 【榊英雄監督のプロフィールについて】
sutegataki-s-2.jpg1970年、長崎県五島市出身。福岡の大学卒業後、ダンサー目指して4月に上京。6月に「ぴあスカラシップコーナー」で古厩智之監督の『この窓は君のもの』の主演男優募集に応募し合格。8月には撮影に入るという、ラッキーなスタートをきる。ところが、その後7年間は暗黒時代で、年中バイトに明け暮れる日々だったという。そんな時、俳優仲間との宴席で売れっ子の俳優にケチを付けていたら、女優の片岡礼子に、「カッコ悪いわね、英雄君。他人を批判・中傷する暇があったら、自分で脚本書いて監督すれば、自分で主役ができるでしょう!」と言われ、それで奮起して撮ったのが、『“R”unch Time』(‘96)だったそうだ。

それから数年後、TSUTAYAのレンタルポイント懸賞で3位に入賞し、授賞式で1位を獲った北村龍平監督と出会い、『VERSUS-ヴァーサス-』(‘01)への出演依頼を受ける。もう諦めて田舎に帰ろうと思っていた矢先のことで、北村監督から「次でダメだったら田舎へ帰ればいいじゃない」と諭され挑戦。初めてのアクションだったが、ダンスの振付と考えて見事に演じた。「片岡礼子と北村龍平監督との出会いがなければ、今の自分はない。俳優業も監督業もどちらも好きだ」という。何でもこなさなければいけない時代にきているのかも知れない。

「映像作家と言われるような監督ではなく、娯楽性も芸術性もある映画が撮れる職業監督になりたい」。また、「ジャンルにこだわらず興味のある題材を撮ってきたので、傾向的にバラつきがあるかも知れないが、自分ができる幅の中で見つけた題材が本作だった」。

 【作品について】
sutegataki-s-3.jpg俳優としても活躍する榊英雄監督は、菅井きん主演の『ぼくのおばあちゃん』(‘08)や高橋克典主演の『誘拐ラプソディ』(‘10)と、疎遠になりがちな家族の人間模様をユーモラスに人情味たっぷりに描いた作品を監督している。(筆者は特に『誘拐ラプソディ』がお気に入り!テンポの良さと林遼威くんのはじけっぷりが最高!)これらとは打って変わって、人間の業を生々しく描いた本作は異色だ。榊監督にとっても勝負を賭けた作品と見受けられる。

榊監督は、秋山命や主役の大森南朋と共に、「同世代の自分たちの内面をさらけ出し、気持ちを叩き込み、今後何十年生きられるか分からないが、いま生きている現代で、肉体と精神が一番いい時期に作品を残したい」と考えたそうだ。雰囲気的には昭和の匂いがする題材だが、時代性を感じさせない五島という場所で、人生も中間地点にさし掛かった男たちのターニングポイントになるような、入魂の一作と言えよう。

【主人公・勇介(大森南朋)に対する思い】
勇介は、榊監督や秋山命や大森南朋などの想いがいっぱい詰まったクリーチャーだということが、撮影しているうちに分かってきたそうだ。「それぞれ可能性を持った人間、すなわち自分自身の投映だと思って撮った」。具体的には、「単純に女性を見ると、お尻を見たり、セクシーに感じたりとね(笑)。僕や大森の過去の悪行を見たら、そうなるでしょう(笑)」。確かに、女性には積極的で、よくモテたらしい。そんな男性の本性を隠したりせずに、またカッコ付けたりもせず、素直に表現しているところは潔い。だからこそ、「人間って醜いけど可愛いよね、愛おしいよね」という気持ちを主人公・勇介に投映しているのかも知れない。それが、秋山命も大森南朋もこの作品を手掛けた動機だと言う。

【京子(三輪ひとみ)の存在について】
sutegataki-3.jpg本作の良さは、製作陣の想いの深さもさることながら、俳優陣の熱演がさらに作品に深みを出している。特に、京子を演じた三輪ひとみが素晴らしい。今までホラークイーンとして知られていたが、ここにきて女優としての強い覚悟が見て取れる。榊監督によるとかなり厳しい現場だったようで、今までにない裸体による絡みや、複雑な心情表現の演技が求められ、肉体的にも精神的にも毎日闘っていたとか。

最初はこの役を引き受けてくれる女優が中々見つからなかったようで、紹介されて初めて三輪ひとみに会った監督は、“胸騒ぎ”がしたそうだ。「何か妙なものが合うかな?と思い、現場では厳しくあたり、ドS状態でした。それまでのキメ顔、キメ台詞に慣れてきた女優さんだったので、想像力を働かせて能動的に演じることに慣れていなかった」。大森南朋の方はさすがに常にスタンバイできていたそうだが、彼女の用意が不完全で、スケジュール的にも厳しい状態だったのに、撮影を1日延ばしたこともあったらしい。

京子の顔のアザは、「三輪さんは綺麗過ぎるので、何かハンディを付けた方がいい」という助監督の意見が取り入れられて付けたとか。そのため脚本も変更したが、その効果は絶大だったと思う。彼女が余計に色っぽく感じられ、色白の美しさが際立って見えた。秋山命の脚本には、原作にはないドストエフスキーの『罪と罰』の自己犠牲の象徴であるソーニャが登場する。京子がソーニャを好きだと言うシーンがある。大胆な絡みもある映画だが、いやらしさを感じさせないのは、三輪の美しさとソーニャのような純粋な自己犠牲が盛り込まれているからだろう。

【今後の活躍は?】
本作では新興宗教が出てくるが、宗教そのものについては描いていない。それにすがりついて生きている人々を描いているだけだという。今後、「隠れキリシタン」を題材にしたものを撮る予定で、その前に、この秋には「トラック野郎」的娯楽作品の撮影に入る予定だという。既に完成している、『トマトのしずく』と『木屋町DARUMA』の公開を控えている。

榊監督はインタビュー中でも常に自分を正直にさらけ出そうという気持ちにあふれていた。撮影中も周りの意見を取り入れる寛容さを見せていたようで、そんな素直さが作品にも表れている。作品ごとにパワーアップしていく榊監督作品に、これからも目が離せない。

ちなみに、榊英雄監督は、河瀬直美監督『2つ目の窓』(7/26公開)には俳優として出演していた。だが、何シーンか出番はあったものの、顔の見えない背中だけの出演となった。

(河田 真喜子)

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