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『タイピスト!』レジス・ロワンサル監督(42歳)インタビュー

typist-d550.jpg『タイピスト!』レジス・ロワンサル監督(42歳)インタビュー

(2013年6月24日(月)東京パレスホテルにて)


 

(2012年 フランス 1時間51分)
監督:レジス・ロワンサル
製作:アラン・アタル『オーケストラ!』 
撮影監督:ギョーム・シフマン『アーティスト』
出演:ロマン・デュリス『スパニッシュ・アパートメント』、デボラ・フランソワ『ある子供』、ベレニス・ベジョ『アーティスト』、ミュウ=ミュウ『オーケストラ!』

2013年8月17日(土)~ ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 他全国ロードショー


★作品紹介⇒ こちら
★《フランス映画祭2013》デボラ・フランソワ&レジス・ロワンサル監督トークショーのレポート⇒ 
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© 2012 – copyright : Les Productions du Trésor – France 3 Cinéma – France 2 Cinéma – Mars Films - Wild Bunch - Panache Productions – La Cie Cinématographique – RTBF (Télévision belge)© Photos - Jaïr Sfez.


 

typist-1.jpg 女の子の夢を乗せたカラフルでキュートなエンターテンメント映画『タイピスト!』で長編映画監督デビューを飾ったレジス・ロワンサル監督。彼自身相当なシネフィルらしく、ビリー・ワイルダーやヒッチコック、ゴダールやエリック・ロメール、ジャック・ドゥミといった監督作品へのオマージュが至る所に散りばめられ、映画ファンとしてはワクワクするような映画だ。主人公ローズを演じたデボラ・フランソワにも、1950年代の女優、オードリー・ヘップバーンやグレース・ケリーやマリリン・モンローなどを参考にするように言ったとか。ただし、真似するのではなく、吸収するようにと。かつて盛んに行われていたタイプライターの早打ち大会にヒントを得て脚本も手掛けたというレジス・ロワンサル監督にお話を伺った。

 

――― 最初『マイ・フェア・レディ』を思い浮かべたが、あれは調教のような関係性だったのに対し、タイプライターの早打ちコンテストを主軸にしながら、父親の支配から逃れ田舎から出てきた女の子と、「1番になれ!」と父親に言われながらも2番手に甘んじているルイとの、其々の心の葛藤を絡ませ、よりラブストーリーに深みを出していましたね?
typist-d2.jpgレジス・ロワンサル監督(以下監督):確かにこの映画を見て『マイ・フェア・レディ』を思い起こされると思いますが、その関係性は大きく違いますね。貴女の考えに私も大いに賛同します。あれは一方通行で、オードリー・ヘップバーン演じる女性は心から解放されている訳ではありません。この映画のローズは、チャンピオンにもなり、愛もゲットして、女性としてより大きく開花させています。おそらく60年代のローズはスーパーウーマンになっているかも!?(笑)

――― なぜタイプライターなのか?
監督:ある日タイプ早打ちコンテストのドキュメンタリーTVを見て、これに憑りつかれてしまったんです。クレイジーだが、タイプライターそのものは人類の歴史を語っているのではないかと魅了されました。この器械で、様々な物語を創り出すことができるし、スポーツとしての競技にもなる。勿論タイプライターは今では使われていませんが、キーボードは残っていて、我々には深い関係の存在だと思います。スポーツとしても、あまりにも超人的な競技とは違い、当時身近な器械だったタイプライターの早打ちだと、自分にもできるのでは?と、ハードルを下げて共感できたのではないかと思います。

typist-d1.jpg――― なぜ1958年なのか?
監督:1958年を選んだ理由は、60年代移行する過渡期で、これから何かが始まるという期待にあふれていたからです。僕はファッションやインテリアのデザインや色彩も音楽も大好きなんです。映画では、ヒッチコックの『めまい』、ダグラス・サークの『悲しみは空の彼方に』、ジャック・タチの『ぼくの伯父さん』、アルベール・ラモリスの『赤い風船』など、1958年の映画は傑作ばかりです。それに、小津安二郎の『彼岸花』もこの年ですね。私はあの彼岸花の色彩に圧倒されました。

――― 映画の中でも色彩の影響は大きいですね?
監督:そうなんです。私はカラフルなパレットが大好きでして、『タイピスト!』でも、衣装やインテリアは勿論ですが、表情を映すネオンの色や照明にもこだわりました。

typist-3.jpg――― ロマン・デュリスの芸域の広さに感心したが、監督は彼をどう思う?
監督:私は彼の作品をずっと見てきました。私がまだ短編を作っていた頃には、彼は既にいろんな作品に出演し、ドラマやコメディなど何でもこなしていました。それに、監督の選び方が絶妙な俳優だなと思っていました。彼の演技で好きなところは、決して声だけでなく、体全体で演技をするところがあり、ちょっとダンサーに近いものを持っています。彼がそれを意識しているのかどうかはわかりませんが、僕は体が雄弁に語るような俳優が好きなんです。それから、彼は努力家で、準備の段階からリサーチをして役作りを万全にするし、現場でも新しいことを提案してくれるし、この撮影期間中、僕等はとても意気投合して仕事ができました。

typist-2.jpg――― それは楽しい現場だったのでは?
監督:やろうとしていることはハードルが高くて、挑戦と緊張の日々でした。パリに車でやって来るシーンなど、かなりの準備が必要でした。大変なんだけど現場にはマジカルな空気が流れていたのか、スタッフもキャストも全員が全身全霊で臨んでやり遂げることができたのです。僕にとっては初めての長編映画で、生きるか死ぬかの死活問題として、スタッフ全員が理解して付いて来てくれました。キャストもスタッフも僕の仕事ぶりをリスペクトしてくれて、確かに撮影現場は楽しくてやりやすかったです。

――― 現場の雰囲気の良さが『タイピスト!』の陽気さに反映しているのでは?
監督:その通りです。でもそれは、僕自身が計算したものではありません。みんなのお蔭なんです。次はシリアスな作品になるかも知れませんよ。

――― 持ち味を活かした作品を作って頂きたいですね。
監督:私の友人も「独自の持ち味がある」と言ってくれるのですが、私自身はそれをあまり知りたくないのです。なぜなら、それに逆らって無理に違うことをしようとするからです。

――― デボラ・フランソワについては?
監督:デボラは素晴らしい女優です。僕はデボラの熱狂的ファンでもあるので、あまり客観的に言えないんですよ。撮影を一緒にやって来たのに、よく覚えていないんですよ~(笑)。


 

 子供の頃から映画少年で、特にクラシカルな映画が大好きだったとか。好きな映画について語る時の監督は、少年のように目を輝かせ身を乗り出して語る。もっとシネフィルについてお話したかった。大好きな1958年の映画が盛り込まれた『タイピスト!』は、新しい時代への息吹と、映画全盛期の勢いを感じさせてくれる。だが、クラシカルな形態をとりながら、自らの力で、自分らしく生きることの幸せを謳い、女性が社会に出て働くことが当たり前になった現代を生きる私たちに、改めて自由に人生を選択できる幸せを実感させる。

デボラ・フランソワについては、二人で登場したトークショーのレポートをご覧下さい。
《笑いと涙のトークショー!『タイピスト!』のヒロイン:デボラ・フランソアとレジス・ロワンサル監督が来日の歓びを語る》⇒ http://cineref.com/festival/2013/06/post-13.html

(河田 真喜子)

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