『EDEN』山本太郎インタビュー
(2012年 日本 1時間41分)
監督:武正晴
脚本:羽原大介、李鳳宇
出演:山本太郎、中村ゆり、高橋和也、齋賀正和、池原猛、小野賢章、大橋一三、入口夕布、高岡早紀、浜田晃、藤田弓子
2013年2月2日(土)~シネ・ヌーヴォ、第七藝術劇場
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★公式HP⇒ http://sumomo.co.jp/eden/
©2012映画『EDEN』フィルムパートナーズ
“反原発”俳優・山本太郎が(38)主演映画「EDEN」(武正晴監督)公開に合わせて1日、来阪キャンペーンを行った。一昨年亡くなった名優・原田芳雄さんが温めていた船戸与一の原作を、元シネカノンの李鳳宇プロデューサーが武正晴監督と組んで映画化、ゲイやニューハーフの世界を描いた“社会派喜劇”はケッサクだ。
「反原発」発言から所属事務所をやめざるを得なくなった山本に、李プロデューサーがオファーした初仕事だった。役どころは新宿のショーパブ「エデン」の店長兼演出家ミロ。けったいな人間ばかりのこの映画ではニュートラルな役どころで、山本はちょっと変わったその世界に浸って楽しそうに見えた。
―――事務所やめた後の最初のオファーにやりがいが?
事務所からは「(辞めずに)いとけ」と言われたが(反原発発言で)、事務所に電話が殺到し機能が止まってしまった。残っていたら静かにしてなきゃならないけど、それは無理、と分かっていたんで…。電話は原発推進派もいるし、金もらってないけど、安全だと思いこんでいる人もいる。事務所は『ほとぼりさめるまで待て』と言ってくれたけどね。
―――山本さんの行動は誰も出来ないから目立つ。
広告費だけで260億円。原発だけじゃない、あらゆる業種が関連している。あんな(僕の)発言があったら商業放送で使われる訳ないですよ。といって僕に悲愴感はありませんけど。
―――いつ頃から反権力だったのか。連合赤軍を扱った高橋伴明監督の映画「光の雨」はきっかけになったか?
反権力志向は昔からだった。「光の雨」がきっかけのように思われるけど、あの(主役)森恒夫にはまったく心動かされなかった。連赤は斜めに見ていて、森恒夫は自己満足でしかない。閉鎖集団の中で誰がイニシアチブを取るかで争っただけ、と小馬鹿にしていた。映画の中のアジ演説も空虚そのものに感じて、撮影中、アジ演説をマーチン・ルーサー・キング牧師の演説に変えたら? と言って監督に拒否されましたけどね。生活するのに必死な人にはコミット出来ない運動だった。
―――「光の雨」の山本さんは確かにそういう役だった。
ナメてかかっていたかな。運動が先鋭になって、一人一人に力があることを理解しようという気はある。
―――事務所辞めた時に来たのが「EDEN」の仕事だった。
製作の李鳳宇さんは私たちにとっては若きレジェンド。李さんから電話もらって、仕事に参加出来るのがうれしかった。『岸和田少年愚連隊』(96年)『ゲロッパ!』(03年)から出さしてもらっている。『EDEN』はホン読んだら、人間動物園みたいな話。その中で私の役・店長ミロは比較的ニュートラルだった。田舎の母親に電話するシーンが一番の見せ場だと思って気合い入りましたね。あのシーンがあったからこそ、この役を引き受けた。
ところが、その電話のシーンに感情のピークを持っていこうとしているのに、ノリピーの母親役の藤田弓子さんが、堪らなく泣かせる演技をされるので、藤田さんを見るだけで感情が爆発しそうでした。共演者の中では、藤田さんのことを〈小型原子炉〉と呼んでました(笑)。
―――李プロデューサーとは縁がある?
李さんは僕にとってレジェンド的存在。メジャーだけが映画じゃない、ということを見せてくれた人。テレビの韓流ドラマに留まらない、韓国映画の良さを教えてくれた人でしたね。僕は『夜を賭けて』などにも出ていて、かなり影響は受けた。
―――久々に関わった映画の仕事は?
市民運動が忙しかったけど、役者やってみて、よくも悪くもやっぱりこの仕事が好きなんだな、と思った。映画を作っている雰囲気が好きだった。少人数のスタッフで、高校の文化祭なんかで夜まで居残って作業している、そんなワクワク感、その手作り感がいい。そんな気持ちになれるのが演技、表現することですね。現場が好きなんだとつくづく思った。画面に映った時の色合いが好きです。
―――撮影は実質11日間だった?
そうなんです。狂ってますよね。ようこの日数であれだけの内容を撮れたと思う。これで事故が起こらなかったのが不思議。現場がひとつになってたんですね。ときどき面倒くさいなという気持ちが生まれることがあるもんだけど、そんなことは全くなく一気にやれたのは、李さんや武監督の人柄でしょうね。
―――ゲイの役について?
違和感なくやれた。現場では、本番でなくてもオネエ言葉を使っていた。台風迫る中の怒涛のラストシーンを撮り終えて、みんなでお風呂に入っていたら、あのヒゲ面の高橋和也さんが「やぁ、どうもお疲れ!」と急にオッサンに戻って入って来られたのにはびっくりした(笑)。女湯に男が入ってきたみたいな!? 早くも次の仕事モードに切り替えた高橋さんはエライ!僕はしばらくはオネエの仕草が残ったが。
―――武正晴監督は?
武さんは役者への愛情があってとても細やかに見せる。気に入ったらひとつカットを増やしたりして、一人ひとりに気を遣っていることがはっきり分かる。
―――山本さんはこれからどうするのか、という疑問が残るが?
原発問題にかかわっていくでしょうね。映画の仕事は李さんのほかに、深作健太監督から声をかけてもらった。
―――先の見通しは暗い?
そうですね。もう日本を離れるしかない。放射能はもうとんでもないレベルにまで来ている。国外に出るしかないと思う。3~5年後、どうなるか、チェルノブイリ以上の事態になるかもしれない
―――反原発の映画人も多く、福島以前から反原発映画も多い。もう山本太郎監督が撮るしかないのでは?
反原発映画も見ましたが、園子温監督の『希望の国』が精一杯でしょうね。あれで、あんなにいろんな媒体で取り上げられるんだ、と勇気持った人が多いのでは。自分が撮るなら、ドキュメンタリー以外にないでしょうね。自分自身が劇場みたいなもので、リアルライフで(反原発)やってるんですから。原発で出来るのは朗読ぐらいじゃないですか、吉永小百合さんみたいに?
(安永 五郎)