『フラッシュバックメモリーズ 3D』松江哲明監督、GOMAインタビュー
(2012年 日本 1時間12分)
監督:松江哲明
出演:GOMA、辻コースケ、田鹿健太、椎野恭一(GOMA & The Jungle Rhythm Section)
2013年1月19日(土)~新宿バルト9、梅田ブルク7、Tジョイ京都(3D上映)、2月9日(土)~第七芸術劇場(2D上映,併映『極私的神聖かまってちゃん』)他全国順次上映
※フラッシュバックメモリーズ公開記念 GOMA個展 記憶展第三章「ひかり」
2013/3/9~3/20 @恵比寿KATA (liquidroom EBIS 2F)
2013/4/27~5/6 @大阪PINE BROOKLYN
※フラッシュバックメモリーズ公開記念 ワンマンLIVE 「2nd Life」
LIVE: GOMA&The Jungle Rhythm Section
2013/04/05 大阪シャングリラ
2013/04/07 渋谷WWW
公式サイト⇒http://www.flashbackmemories.jp/
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松江監督:GOMAさんのエネルギーを映画で表現したかった
GOMA:やっと人生の2回目のスタートラインに立てるなと思わせてもらった
交通事故で過去の記憶が消える高次脳機能障害を宣告されながらも、自分を信じて復活への道のりを歩み、再び力強い音色を響かせるディジュリドゥ奏者GOMAのライブドキュメンタリー『フラッシュバックメモリーズ 3D』が現在公開中だ。3D映像で迫力のライブがさも目の前で繰り広げられているかの臨場感を与え、観る者に勇気と感動を与えてくれる。本作のメガホンを撮った松江哲明監督と主演のGOMAさんに舞台挨拶前の貴重な時間をいただき、お話を伺った。
━━━今回ドキュメンタリーに3Dの手法を取り入れましたが、日頃松江監督は3Dに対してどう考えていらっしゃったのですか?
監督:僕は3D映画が好きなので、できるだけ公開している映画は見て、いつかやりたいと思っていました。ただ、ハリウッド映画のようなスケール感には興味がなくて、万華鏡のような、もっと個人的な中に入っていくことが3Dではできるのではないかと。音楽やライブものは合うなと思っていたのですが、今の音楽映画はカット割りが早すぎます。3Dが気持ちいいのと、編集のリズムが気持ちいいのとはちょっと違う気がしていました。自分が音楽ものを作るなら、もっとワンカットを長く、人の中に入っていくという漠然としたアイデアがありました。GOMAさんの音楽を聞いて、GOMAさんのライブという一回きりのエネルギーに対して、映画だったらこういうやり方があるというのをやってみたかったし、GOMAさんのエネルギーを映画で表現したかったです。
━━━GOMAさんのライブを目の前で観た感動に浸れました。ライブと当時並行して、「記憶」が一つのテーマになっています。
監督:GOMAさんと一緒に映画を撮ると決めてから、撮影するまでの間GOMAさんとお話をし、ただ聞いたことをインタビューのようにそのまま表現することはしたくなかったんです。聞いた感触というか、イメージを3Dだったら映像で表現できると思ったので、記憶というかGOMAさんの頭の中に入っていく映像を心がけました。ぼくの距離感があってGOMAさんを撮るという映画ではなく、できるだけGOMAさんの中に入っていくというか、GOMAさんに近づきたかったですね。
━━━GOMAさんは今回ドキュメンタリーで自分が映される立場となり、日記や過去の映像、家族の写真など色々なものをさらけ出すことに葛藤があったと思いますが。
GOMA:そこが最初自分の中の大きな壁でした。作るからには、自分のことを全部開いていかないといい物は出来ないとすごく思ったし、もしさらけ出すことが出来ないのなら、作ろうとしてくれている監督やみんなにすごく失礼だと思ったんです。自分をさらけ出すにあたって、自分や家族の今後の人生にどういうフィードバックがくるのかを、すごく考えました。監督やプロデューサーさんと回数を重ねて会っていくうちに、そういうことすら考えなくていい、今のままの自分で普通に仲間としてつき合える人たちだと思わせてもらえたのが、すごく大きかったです。
━━━GOMAさんの話をたくさん聞かれた監督ですが、葛藤している部分はあえて映さず、基本的にはポジティブな面に目を向け、強いメッセージを発していますね。
監督:僕は病気で苦しんでいるところだけではなく、日記にしても全部音楽につながる描き方にしました。軸は音楽で最終的に音楽で構成しよう、そこのエネルギーで押し切りたいと思ったので、内容も衝撃が大きいけれどそこは絡まないというところはどんどん切っていきました。やっぱり映画って映像だけではなくて、音もあるじゃないですか。GOMAさんの演奏が流れているときにリンクするとなると、シンプルに音楽と家族になり、そこに向かっていくものを選ぶと自然とポジティブなものが多かったということだと思います。
━━━はじめてGOMAさんの復活ライブをご覧になったとき、どんな印象でしたか?
監督:気持ちよかったです。音楽のエネルギーが圧倒的でした。僕はいい意味で復帰に至るまでのGOMAさんも事前に映像をちょっと見たぐらいでした。はじめての出会いがGOMAさんの力を出しているライブのときだったので、そこがよかったんじゃないかな。「これを表現しよう!」と思ったんです。
━━━ライブが持つエネルギーですね。3Dとライブシーンがこんなに合うとは思いませんでした。
監督:最初5.1チャンネルでやりたいというのはありましたね。ウーハーの効いた劇場でこの音を浴びたら気持ちいいだろうなと。
━━━むちゃくちゃ気持ちよかったです!
監督:そういってもらえてうれしいですね。気持ちいい映画にしたかったんです。GOMAさんと会った後元気になるので、映画も元気なものにしなければいけない。GOMAさんと会ったときのことを撮るのではなく、会った気持ちをGOMAさんたちの音楽と映画で表現する。それをお客さんに伝えたかったし、そういうものの方が大事だと思うんです。
GOMA:観た人が元気になってくれたらうれしいですよね。
監督:僕がGOMAさんに会うと元気になるのに、映画を観ると「GOMAさんって大変なんだな」と思われちゃうと、映画としてよかったと言われても失礼じゃないですか。ドキュメンタリーは特にそういう作り方をしてしまって、被写体の人はこんなにエネルギッシュなのに、映画の中ではなぜこんなにかわいそうな扱いになるんだろうと。それは関係性があるし、作り手の主観でいいのですが、GOMAさんは音楽をしている人なので表現そのものに対してのリスペクトを崩してはいけない。そこが意外と守られていなくて、「なぜミュージシャンの映画を撮っているのにこんなに元気がないんだろう」と感じることはよくあります。
━━━ラストの演奏が終わってライブの余韻に浸る雰囲気の中、監督の「はい、カット」の声が響いてハッとして現実に引き戻された感がありましたが、あえてそこまで入れた理由は?
監督:僕が編集したらあれは入れないです。僕の意図としてはない方がいいと思うのですが、編集の今井さんがニコニコするんですよ。
GOMA:「ここ、いいでしょう」みたいな(笑)
監督:僕そういうの好きなんですよ。僕だけの良い悪いで映画を作っているのではなくて、スタッフが「いや、この映画はこういうことだよ」と言ってくれると、いいよと言えるので。そういうことをしてくれるとうれしいです。整音のタカアキさんも「こんなことをしてくれるの」ということをやってくれるし、僕一人でやるより、スタッフが自信満々でやってくれることがいいです。あの「カット」の声ではなく、あの声の後のGOMAさんの顔で止めているのがいいんですよね。カットの後のGOMAさんの顔をみせたいんです。僕は最後神々しいGOMAさんで終わるつもりでしたが、ふっと戻ってくる感じというか、続く感が欲しかったのです。皆人生は続くから、バシッと終わる映画より、ちょっと続く映画が好きなんですよね。僕の映画は結構そういう、ちょっと蛇足感がありますね。
GOMA:ホッとした顔してますよね。「無事に演奏できた・・・」みたいな。
監督:でもちょっと余裕のある顔で、僕はあれが好きです。GOMAさんは他のライブではいつも泣かれているのも観ていたので。全力を出して、お客さんの前のときはGOMAさんは「できたー」という演奏になるんですよ。泣いて「ありがとう」という。でも映画はそれではいけない気がするんです。映画はちょっと余裕があるという感じで。
GOMA:あれ(ライブシーン)をお客さんのいるところで撮っていたら、また違っていたでしょうね。
監督:「これは映画なんですよ」というのが好きですよね。
GOMA:ライブに普段来てくれている人が映画を観に来ても楽しめます。ライブハウスでやっている僕とは違う僕を観れるという。ライブハウスでやると、お客さんからのエネルギーをもらって、演奏してキャッチボールする感覚で気持ちが上がっていくのですが、それとはまた違うエネルギーでやっていました。自分で観ていて面白いです。
監督:「ライブと同じことをやってください」というのは嫌なんです。『ライブテープ』もそうで、ライブのそこは演出できませんから。映画を撮っているときは映画の顔というか、そこが見たいんです。いいライブを撮るのなら、ずっと追いかけてライブ映像を集めてやればいいわけですが、別にそういうことをしたいのではなく、映画を撮っている状況の時間をみせてくださいということですね。そういう点は編集の今井さんと合うんです。映画に対する批評的な面があるというか、その中で100点満点を目指すのではなく、お客さんが「あれ」と思うような部分を残す。そこはインディペンデントの作り方かもしれません。
GOMA:音がすごくいいです。音が生々しいというか、あまりディジュリドゥの録音を聴いて「いい音だな」と思ったことがないのですが、今回は本当にライブな音をしています。ベラッとした音になりがちですが、体感する楽器なのでその波動みたいな部分をカットしてしまうエンジニアが多くて。タカアキさんが作ってくれた音はすごく立体感があって、音を浴びる感じがします。
━━━日々自分と向き合うのは大変なことですが、GOMAさんは記憶を失うことで、過去に捉われず今の自分と真摯に向き合い続けていますね。
GOMA:脳に傷があるとお医者さんに言われて、傷ついた脳の細胞が元に戻ることはないと言われたときはショックで、最初は左半身の麻痺があったのでしゃべるのもうまく舌が回らなかったり、一度本当にどん底まで落ちたというか、人生終わったなというところまで行ってしまいました。でも人間って落ちるところまで落ちて、毎日泣いて泣いて涙が出なくなってくる。そうすると、少しずつ暗闇の中に光が見えてきて、家族や周りの仲間の支えもあって、残された何パーセントに望みをかけて「リハビリがんばるぞ」という気持ちになってきて、すごい進化を感じるんです。その進化が自分で少しずつ分かるようになる段階に来たとき、脳の記憶するところのシナプスが少しずつ繋がってきているんです。過去の自分の記憶が少し残っているから、ちょっと前の自分と比べられるようになってきていて、事故から2~3年半ぐらいで、少し前の自分と今の自分を比べられることが分かってきたとき、「よっしゃ、がんばるぞ」という気持ちになれました。身体のリハビリと一緒に、精神的な部分も鍛えられていきます。心と身体はすごくつながっているんだなと思います。今の自分の持っている身体と脳をどういう風に使って生きていけばいいのかを考えるようになってきました。
━━━最後に、この作品はお二人にとってどんな意味を持つのでしょうか?
監督:僕にとってGOMAさんとの出会いはこの映画がきっかけなので、生き方レベルで影響を受けざるをえないです。他にいないです。体験していることが全然違うというか、同じものを見ていてもGOMAさんだったらどう思うか予測がつかないですし。そういう人がいるんだというだけで、自分の中でもすごく幅が広がりました。もう一つは、震災の後これを作っていたので、それが自分にとって良かったです。どうやってこの国で生きていこうかと思ったときに、「GOMAさんだったら・・・」と考えたので、それはとてもいい形でこの映画に向かって表現することができました。映画自体がどうのというより、そちらの方がずっと大きいですね。
GOMA:僕はこの映画が完成したのを見たときに、「やっと人生の2回目のスタートラインに立てるな」、そう思わせてもらえたんです。事故から3年間、自分のわからなくなった過去を掘り返すことばかりしていたけれど、こういうのはもうやる必要がなくなった。そう思わせてくれたのが監督であり、高根プロデューサーであり、配給でがんばってくれる直江さんとかタカアキさんとか今井さんとか、みんなの支えがあってこの形になってきていると思うから、これからようやく人生2回目のチャレンジが始まるなといった感じです。 (江口 由美)