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『おだやかな日常』杉野希妃記者会見、インタビュー

odayakana-s550.jpg『おだやかな日常』杉野希妃記者会見、インタビュー
odayakana-1.jpg(2012年 日本=アメリカ 1時間42分)
監督:内田伸輝
出演:杉野希妃、篠原友希子、山本剛史、渡辺真起子、山田真歩、西山真来、寺島進
2012年12月22日(土)~渋谷ユーロスペース、シネ・ヌーヴォ、元町映画館、京都みなみ会館にて公開
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『おだやかな日常』第17回釜山国際映画祭新着レポートはコチラ

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※第17回釜山国際映画祭 A Window on Asian Cinema部門
※第13回東京フィルメックス コンペティション部門

 『ふゆの獣』で男女4人の生々しい恋愛模様を描き出した内田伸輝監督最新作は、プロデューサー、主演に杉野希妃を迎え、震災を被災地ではなく東京に住む女性たちを主人公に見えない敵への孤独な闘いとその行方をリアルに描く震災ヒューマンドラマだ。
第17回釜山国際映画祭 A Window on Asian Cinema部門でワールドプレミア上映され、今月開催される第13回東京フィルメックスコンペティション部門でジャパンプレミア上映となる注目作品は、12月22日(土)より東京、大阪、神戸、京都で一斉公開される。
 本作のキャンペーンで来阪したプロデューサー兼主演、杉野希妃さんの記者会見およびインタビューの模様をご紹介したい。


~記者会見~

odayakana-s1.jpg━━━内田監督の前作『ふゆの獣』は脚本は特になく、設定だけ決めておいて、出演者がその状況下アドリブで、どういう台詞を言うか、役者の自由に任せた撮り方をしていましたが、今回はどういう撮り方をしたのですか。
 今回は脚本が100ページぐらい完璧にありました。撮影に入る前も、細かい話を事前に完璧に作り上げてから、現場でそれをいかに破壊していくかということが監督の一つの挑戦だったようです。現場に入る前に監督に言われたのは、「本当に感じたことだけを役者として台詞でしゃべってほしい」。撮影の直前に監督から「この台詞とこのあたりはしゃべらなければいけない。この流れはひとまずFIXでいくんだけど、あとはアドリブ入れたり、言い回しは変えてもいいよ」と言われたので、基本的には流れと言わなければいけないことは入れながらも、役者の自由にさせていただいたという感じでした。『ふゆの獣』とはまた違う撮り方ですね。

━━━第17回釜山映画祭、ワールドプレミアでの反響はどうでしたか?
 こういうテーマに韓国の方や世界の映画人が関心を持ってくれ、反響がありました。韓国でも公開したいという声がたくさん上がったのはありがたかったです。個人的には、海外では賛否両論がある作品じゃないかと思っていたのですが、こういうテーマに挑戦したこと自体に勇気があると、9割ぐらいは好意的に見て下さったという印象です。
韓国のお客さんは7割方が若い学生なのですが、質疑応答ではカット割から含めて聞いてきたり、男性が情けなく描かれていたのは何故かとご質問がありました。女優3人で登壇したときには、役者として実際にこの問題について思うことと照らしあわせて、演じるときに違いがあったのかという質問が印象的でした。

odayakana-3.jpg━━━園子温監督の『希望の国』と比べると、『おだやかな日常』は希望に満ちた終わり方をしていますが、エンディングを作るに当たってどのようなディスカッションをされたのでしょうか?
 最後の二人の選択ですが、作り手としては善とも悪とも言っていません。これが正しいとか間違っているとか言うつもりはなく作っているので、観る人によって希望だと思えば、韓国である観客の方は「逃げだ」と捉えていらっしゃり、それは色々な捉え方があっていいと思っています。ただ、一人一人が選択をしていかければならない。その選択はその人にとって未来につながるものであればいいと私は思っているのですが、意外と(他人と)違う選択をする人に対して許さない社会、寛容的な心を持たない社会になってきているのではないかというところに悲しさを覚えています。彼女たちがとった選択に、色々な価値観や、色々な意見で、それを寛容に受け入れる世の中になってほしいと思ってこの映画を作ったつもりです。だから最後は希望や希望じゃないというよりは、未来を作っていくための作品になってほしいと個人的に思っています。

━━━『歓待』の深田監督と本作の内田監督は若手で期待されているお二人ですが、お二人の作品に出演されている杉野さんから見て、どう違うのか教えてもらえますか。
 演出家としての共通点として、自分のイメージに役者を引き寄せるというよりは、役者の個性に合わせてその良さを引き出すのが、お二人の良さだと思います。描き方は本当に両極端ですね。内田さんは役者の演技の火花、感情の火花を見せたい。生っぽさを見せたいタイプで、深田さんは「そういうの(火花のような感情)は、人間押し隠して生きてるだろ?」ということをベースに、感情の見えない機微を描いていらっしゃるので、映像も全然違っていました。内田さんはあおるような感じで、こちらが演技終わると、息を切らして一緒になってハアハア言ったりする感じですが、深田さんはもっと俯瞰的に見ている感じがします。


~インタビュー~

━━━『ふゆの獣』の内田監督と、震災後の東京に着眼した企画にした意図や、プロデューサーとして杉野さんが参加される中で、特に盛り込みたかった点を教えてください。
 初めに内田監督からこういうことをしたいという紙一枚のプロットをいただき、既にそのときに『おだやかな日常』という題名が付いていたと思います。内田監督は海外にも通用する作品を作りたいと私に相談いただいたのですが、そのときはユカコとタツヤの夫婦の話しかありませんでした。もし私がプロデューサーとして参加させていただくなら、(役者としても)やりたいとお伝えし、どういう役がいいのかと話し合っていくうちに、子どもに対しての立ち位置が違うユカコとサエコというキャラクターを作リ出し、隣通しに住む二人の生活が交差していくという話の方がより広い視点で描けていけるのではないかと。私が関わってから、サエコと清美というキャラクターが生まれて話が進んでいきました。

odayakana-2.jpg━━━杉野さん演じるサエコが娘を守る孤独な闘いを見て、愛する人を守るのが本当に難しい世の中になってしまったことを実感しましたが、どうやって役作りをされたのでしょうか。
 私は子どもを産んだことも育てたこともないので、母性がないなと思っていたところに、内田監督が「杉野さんに」ということで作り出したのが単身で娘を守るサエコというキャラクターでした。実際に5歳児のお子さんを持つお母さん何名かにインタビューをさせていただいたり、お子さんと一緒にいさせていただいたりして役作りをしていきました。幼稚園のシーン(職員室での怒鳴り合いや、下校後の園庭など)のリアルさを作り出せたのは、内田監督のおかげだと思います。

━━━杉野さんが今まで演じてきた役の中でも、感情を激しく露呈し、女優としても一皮剥けたのではと思いますが、演じていて難しかったことは?
 自分が今まで演じてきた役が、感情や自分の素性を隠しているというのが多かったので、キャラクターということで考えると、もしかして一番自分にしっくりくる役だったかもしれません。サエコは私の性格やキャラクターとも全く違って、私だったらあんな行動はとらないと思うのですが、演じていて精神的にはすごく辛かったです。後半はずっと怒るか泣くかで、キャラクターとして感情を吐き出すことで、すごく自分が救われているような、吐き出し口があるんだという点で救われているような部分も残りました。

odayakana-4.jpg━━━今回初共演となったユカコ役の篠原友希子さんの追いつめられていく心理を体現した演技も印象的でした。杉野さんと一緒になるシーンは少なかったですが、共演されていかがでしたか?
 後半まで全く一緒になるシーンはありませんでしたが、マンションで撮っていたので大体同じ時間に集合してきて、待ち時間には一緒にお昼を食べたり、「じゃあ私行ってくるね」「いってらっしゃい」みたいな感じで篠原さんはタツヤとのシーンを、私は清美とのシーンをやる感じでした(笑)。篠原さん自体がものすごく人間的に優しくて大きい方だったので、本当にたすかりました。義母のもとに娘を返してもらいにいくシーンでも、車の中で一緒に待機していたんですけれど、演技論や「こういうときはどういう風に準備するか」を二人で話し合ったり、役者としての普段どういうことをしているとか話できたので、同志といった感じがします。

━━━『おだやかな日常』というタイトルを、杉野さんはどう感じていらっしゃいますか?
 私はすごく好きなタイトルです。途中でタイトル自体にもう少しインパクトがあるものにしたらいいのではという意見もあったのですが、『おだやかな日常』という中にいろいろな意味が込められていますし、「おだやか」ということに対して観た人がどう思うか、どのシーンを想像して、どう自分と照らし合わせて、題名を思い返すことができるのか。映画のタイトルはそこがすごく重要だと思います。そういった意味ではこのタイトルはちょっとシニカルというか皮肉も入っていて、バッチリ合っているのではないでしょうか。 

━━━これからご覧になるみなさんにメッセージをお願いします。 
 本当にいろんな立ち位置の、東京ならではの方々が出てきて、これは今起こっている放射能問題だけではなくて、色んな問題に置き換えることができると思います。どの国でも、どの場所でも、どのシチュエーションでもこういう事態は起こり得ることですし、どのキャラクターかには感情移入して観ることのできる作品です。未来を一緒に築いていくための映画ではないかと思っていますので、一人でも多くの方に観ていただいて、激論を交わしていただけるとうれしいです。
(江口 由美)

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