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『そして友よ、静かに死ね』インタビュー

sizukanisine-s550-2.jpg『そして友よ、静かに死ね』インタビュー

ゲスト:ディミトリ・ストロージュ(主役エドモンド(通称モモン)の若い時代を演じる)
(2012,6,21 ホテルパラス東京にて)

sizukanisine-1.jpg(原題:Les Lyonnais)
(2011年 フランス 1時間42分)
監督:オリヴィエ・マルシャル
原作:エドモンド・ヴィダル『さくらんぼ、ひとつかみで』
出演:ジェラール・ランヴァン、チェッキー・カリョ、ダニエル・デュヴァル、ディミトリ・ストロージュ、オリヴィエ・シャントロー
2012年9月15日(土)~銀座テアトルシネマ、9月22日(土)~テアトル梅田、シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開
・公式サイト⇒http://soshitetomoyo.com/
・作品レビューはコチラ
(C)2010 LGM FILMS GAUMONT FRANCE 2 CINEMA HATALOM RHONE-ALPES CINEMA

 実在のギャング、エドモンド・ヴィダルの自伝『さくらんぼ、ひとつかみ』を基に、現代のフィルムノアールの旗手オリヴィエ・マルシャル監督(『あるいは裏切りという名の犬』)が、男の友情と裏切りをテーマに、時代を活写しながら描出。元警官だった監督が描く裏社会は、その豊富な経験と知識と人脈によって、作品の細部に至るまでリアリティがあり、目にも心にも迫るものがある。

 特に本作は、‘70年代、血で手を汚すことなく次々と銀行強盗を成功させた実在の人物を主人公に、栄光と挫折の青春時代と、引退後の静かな生活を揺るがす過去からの因縁に対峙する現代とに分けて、信条としてきた義理人情に苦悩する人間ドラマを見事なまでに構築している。

 ふざけて店先のさくらんぼを一掴み盗んだことから、犯罪者として生きる羽目になってしまった主人公エドモンド(通称モモン)。ロマとして差別され続けた生い立ち。そんな彼を助け友情を育んだセルジュの存在。人生に落とし前を付けようとする男の背中に漂う哀愁……まさに‘60年代のフィルムノアールを彷彿とさせる逸品。

本作の主人公(モモン)の若い時代を演じたディミトリ・ストロージュ氏が、第20回フランス映画祭参加のため来日し、インタビューに応じてくれた。


sizukanisine-s1.jpg――― 1960年代のフィルムノアールのような作品でしたが、最初に脚本を読んでどう思われましたか?
最初受け取った時一大巨編の長いバージョンだったのですが、それをむさぼるように2時間で一気読みしてしまいました。この作品の主役級のオファーを受けていましたので、とても興味を持って読みました。これほどいい作品に出会える機会はそうはないと思いました。

――― マルシャル監督は、「実在の人物に似せて撮るより、若い俳優たちのエネルギーを撮ろうとした」と述べておられますが、どのような演技指導があったのでしょうか?
先ず監督と話し合い、次に晩年を演じたジェラール・ランヴァンが加わり3人で協議して、実在の人物の若い時代と晩年の時代のそれぞれのエボリューションをどのように繋いでいくかを考えました。そして、外見を似せることも大事ですが、ジェラールはフランスではとても有名な俳優で、彼の若い時の顔はあまりにも知られていますので、むしろ彼に似せるより、彼の方が若い時代の私に似せるという手法で撮影されました。

普通の映画だったら、ジェラール・ランヴァンとチェキー・カリョという二大スターを中心に映画を構築していくと思いますが、オリヴィエ・マルシャル監督は、敢えて‘70年代の若いギャングたちの栄光と挫折という、丁度上り詰めていくエネルギッシュな時代を先に撮ったのです。この映画は、若い時代と人生の老境にさしかかる時代という二つのパートに分かれています。若い時代を先に撮ることで、それらをベテラン俳優たちも見て、自分たちの役柄を構築していったのです。エネルギーというキーワードは、エドモンド一派が初めて組織だった強盗団を作り、それはもう鮮やかな手法で、逮捕される直前などはアドレナリン全開で、神々に祝福されているような気分だったそうです。

sizukanisine-s2.jpg――― 撮影現場に本物のエドモンドさんが毎日のように来られていたようですが、プレッシャーは?
プレッシャーはなかったです。彼の場合は見張っているというより、見守ってくれているような感じでした。彼は、この映画は実話をベースにしているがフィクションであることもよく理解してくれていました。彼の助言で訂正されたのは3回くらいで、とてもありがたいものでした。むしろ分からないことがあった場合にはいつでも聞ける状態でしたので、安心して演技することができました。

――― 今回セリフの少ない役でしたが、そんな中であなたの眼差しがとても印象的でした。演技上工夫したことや、特に意識したことは?
実在のエドモンドさんはとても口数の少ない人で、彼の存在感やカリスマ性というのは、そうした寡黙さに起因していると思います。確かに役者ですから、セリフの量にかかわらずあらゆる状態でも存在感を示す必要があります。今回は特に、セリフのない状態でも、少ないセリフを言う時でも、その人物像や物語を表現する必要があり、とても興味深い役だと感じました。

――― 監督がTVであなたを見てびっくりしたと仰ってましたが、どんな役だったのですか?
‘80年代の実在のテロリス集団のドラマで、そのテロリストのひとりを演じていました。そのドラマはマルシャル監督の友人が撮ったものでしたので、それでご覧になったのだと思います。本作の前にも企画があったのですが実現できず、今回初めてマルシャル監督と一緒に仕事させて頂くことになりました。

sizukanisine-s3.jpg――― 今後どのような役をやりたいですか?
すべて!(笑) この後の作品はクリスマスに家族で見るような娯楽作品で、今回の役とは対称的な善良な役柄です。またギャングスターの映画にも出る予定です。勿論ラブストーリーも含めて、ミュージカルにも出てみたいし、チェーホフの『かもめ』の舞台にも出たことがありますので、舞台にも積極的に出演したいです。

――― 本作は日本の任侠映画のような「義兄弟の友情と裏切り」のお話ですね。ヨーロッパではフランス人が一番その悲哀を共感できるような気がしますが・・・?
確かにそうかも知れません。言われるように「義兄弟の友情と裏切り」というのも重要なポイントですが、アラン・ドロンの『サムライ』のような一匹狼の殺し屋の作品もあります。フィルムノアールというジャンルにおいて、オリヴィエ・マルシャル監督は確固たる映画作家ですので、それに相まってフランスではとてもよく受け入れられました。この映画に出演できて、本当に幸運だったと思っています。

――― 日本でも、ジャン・ピエール・メルヴィル監督やジャック・ベッケル監督などの大ファンが多いので、この作品も大いに受け入れられると思います。オリヴィエ・マルシャル監督にもよろしくお伝えください。
(日本語で)「ありがとう」


sizukanisine-2.jpg 作品の中のエドモンド同様、物静かな雰囲気のディミトリ・ストロージュ氏。言葉の端々に、晩年を演じたジェラール・ランヴァンや監督に対する敬意が滲み出ていた。こうした彼の謙虚で思慮深い佇まいに接してみて、ジェラール・ランヴァンに外見的にはあまり似ていない彼をマルシャル監督が起用した理由がよく理解できるようだった。
(河田 真喜子)

 

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