★『夢売るふたり』西川美和監督合同インタビュー
(2012年8月20日(月)読売テレビにて)
(2012年 日本 2時間17分)
原案・脚本・監督:西川美和
出演:松たか子/阿部サダヲ/田中麗奈/鈴木砂羽/安藤玉恵/江原由夏/木村多江/伊勢谷友介/香川照之/笑福亭鶴瓶
2012年9月8日(土)~全国ロードショー
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公式サイト⇒http://yumeuru.asmik-ace.co.jp/
(C)2012「夢売るふたり」製作委員会
外見からは分からない人間の奥深くにある心情を、巧みな演出で描出させてみせる西川美和監督の最新作は、夫婦で結婚詐欺を働く『夢売るふたり』。演劇界のミューズ的存在の松たか子と、これまた演劇界のみならずTVや映画でも独特の存在感を示す阿部サダヲが夫婦を演じるという豪華な顔合わせ。いやが上にも期待は膨らむ。
【STORY】里子と貫也の夫婦は料理屋を営んでいたが失火で店を失う。貫也に新しい店を持たせようと里子は懸命に働くが、貫也は勤めても長続きせず、資金は中々貯まらない。そんな矢先、貫也が馴染みの客と浮気してまとまったお金を持ち帰ったことから里子が思いついたことは、結婚詐欺。里子がダマす女たちを物色し、弱点を探り、貫也を仕向ける。見事な連携の夫婦共謀の結婚詐欺は、次々と成功していくが……。
――― 女性が主人公となるのは初めてだが?
最初から女性を念頭にこの物語を書きました。男と女では「恋愛」よりもっと落ち着いた関係の「夫婦」がいいなと。これまでもたくさん女性を描いた映画はありましたが、30数年自分が女として生きてきて、実感したことや、沢山の人達との付き合で得たナマの声や何を考えて生きてきたかを、そろそろ出す時期かなと思ったんです。現代の女性たちが抱く欠落感というものを、何か新しい仕掛けにのせて表現したいと思いついたのが「結婚詐欺」でした。
――― 恋愛映画はあまり描きたくない?
恋愛映画は、韓流とかでも巧い人は沢山いるし、私がやらなくても誰かがやるだろうって思っています。恋愛の先にある感情的にも落ち着いた男女の関係性の変化に興味があったから、「夫婦」という形にしたのです。
――― 最初からあの夫婦を軸に据えようと思っていた?
そうです。里子も妻という立場で含めて、女たちの映画になればいいかなと。夫婦が何たるかは私自身未婚なのでよく分かりませんが、妻という立場の女性が、何かを抱え、その中でうごめいているものを描きたかったのです。
――― 里子のキャラについて?いい意味での開き直りを感じたが。
人間って分からないもの。そこが魅力でもある。里子も、分からないからこそ怖くて、面白いというのを描くのが今回の映画の目的でした。人間の行動の理由はひとつではないので、感情面でも複合的な人間像を描いていきたいと思ったんです。
――― 特に、里子の夫を見る目が鋭くて怖かったが――?
奥さんて、旦那さんのことをよく見ていると思うから、いろんなことを見逃さないんですよね。
――― キャラクターや状況を映像で表現するのが巧みですが、その発想は?
いとも簡単に見逃されがちなシーンでも、とても長い時間考え抜いて撮影しています。得も言われぬ世界を創り出すのが映画だと思っているので、それを「説明台詞」を使わずにどうしたら分かってもらえるかと、ワンカットのアイデアを捻り出すのに大変な時間を費やしています。逆に、これ程時間をかければ誰でもアイデアが浮かぶと思うんですが, そういうものの積み重ねです。
――― 洞察力が鋭いのでは?
人並みだと思います。会社の給湯室などで人の悪口を言っているOLさんたちの方がよっぽど洞察力は鋭いですよ(笑)。人の話を聞いてると「よく見てるな~」と感心することが多いです。誰にでもそうした力は備わっていると思うけれど、私の場合、それを流さずに気に留めておこうと意識はしています。
――― 劇中のセリフについて?
いろんな所で見聞きしてきたことを散りばめています。いろんな生き方をしてきた女性たちの声をあますことなく放出しました。感謝すべきは、私のまわりの人々です(笑)。
――― いろんな職業の女性たちが登場しますが、職業のリサーチは?
OLやシングルマザーは生活圏内ですが、職種によっては女性の就労に驚かされることがあります。なぜその職に就いたのか、その理由や思いを想像してみたらとても興味がわいてきました。そこで、日本映画史上初めての女性にチャレンジしようと、ウェイトリフティング選手の女性を登場させました。また、どんな時代にも存在する性を売る職業の人は、一般に生活する人からすれば遠い存在で共通項があるかどうかも分からなかったので、この機会に会って話を聞いてみたかったのです。
――― 監督の演出に「はい」とだけ答えて演技をしていたという松たか子と阿部サダヲについて?
役者として確固たるものがあるのか、無理をする様子がまったくありませんでした。他の現場でも同じようにされていて、その積み重ねなんでしょうね。阿部さんは、連日火で焼かれたり熱湯で煮られたりと肉体的にもかなりキツかったと思うんですが、それでも大変さを出さずに、掴みどころや弱みというものが分からない人でした。とにかく、この二人は四の五の言わずにやる人達なんだと思いました。その態度に清々しさを感じ、こちらも胸を借りて進ませて頂きました。
――― 脇役の俳優について?
よく舞台を観に行っては、舞台で見せているいいものを映画の方にも持って来られないかなと思っているんです。ずっと以前から村岡希美さんや猫背椿さんと一緒に仕事をしたくて、それが叶えられてとても嬉しかったです。
――― 笑福亭鶴瓶の起用は?
後半を締める役なのでインパクトのある人をと思っていたら、前作の『ディア・ドクター』で、いろんな闇を抱えながらも根っこのところではいい人という役を好演して下さったので、またお願いしました。
――― 松たか子の起用理由は?
他の女優さんもそうですが、綺麗、可愛い、美しいだけが女性の価値ではなく、ダーティな部分も魅力のひとつ。ちゃんと現実を生きている人を演じてほしかったので、生々しさだけではなく、際の部分で救ってくれるような、松さんの根っこにある品格が重要だったんです。
――― 阿部サダヲの結婚詐欺師について?
とびきり二枚目でなくても、一芸に秀でていたり、何かひとつでも魅力を持っている人に女性は惹かれるものだと思います。だまされる様を見せることによって、女性たちの欠落した部分が見えてきたらいいなと。特に女性の場合、ひとりの人間として他者に認めてもらいたいとか、生きていていいんだと、自信を持たせてくれるものを常に求めています。それはお金や地位や名誉では贖えないもの。登場する女性たちに共感して、ガス抜きしてほしいですね。
夫・貫也がどんなに変化しようが、ずっと夫だけを見守り続けた妻・里子。本作は、決して結婚詐欺がテーマの映画ではない。「女の人は複雑で、厄介で、優しい生き物だ」という監督の談話通り、様々な生き方をしている現代女性の心情を照射することによって、他者への理解と寛容を促しているように感じた。(河田 真喜子)