ゲスト:杉井ギサブロー、小松亮太(バンドネオン奏者)
(2012年 日本 1時間48分)
監督・脚本:杉井ギサブロー
原作:宮澤賢治 キャラクター原案:ますむら・ひろし
声の出演:小栗旬、忽那汐里、草刈民代、柄本明、佐々木蔵之介、林隆三
(C) 2012「グスコーブドリ製作委員会/ますむらひろし
2012年7月7日(土)~丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
http://wwws.warnerbros.co.jp/budori/
『グスコーブドリの伝記』なでしこジャパン代表澤穂希選手舞台挨拶はコチラ
~今こそ見つめ直そう、自然との共生を~
本作は、『雨にも負けず』の詩で有名な宮澤賢治が37歳で亡くなる前年(昭和7年)に書き上げた童話『グスコーブドリの伝記』の映画化である。厳しい自然との共生や、火山国に生きる者の宿命であったり、身を挺してまでも成し遂げることなど、人類にとって尊いメッセージが沢山つまった作品でもある。
本作を監督したのは、『白蛇伝』『少年猿飛佐助』『西遊記』など日本アニメーション草創期から大活躍のベテラン・杉井ギサブロー監督(72歳)。音楽は、バンドネオン奏者の小松亮太(39歳)が、厳しい自然に立ち向かうブドリの勇気と悠久とした自然の美しさを、アルゼンチンタンゴで使われる楽器・バンドネオンで表現している。
本作の試写会の前に、杉井ギサブロー監督と小松亮太による舞台挨拶とバンドネオンのミニコンサートが催された。
【STORY】
イーハトーヴの森で父と母と幼い妹の4人で幸せに暮らしていたブドリは、冷害で飢饉となり両親は行方不明に、妹は謎の男にさらわれてしまう。てぐす工場で働いたり、里に下りて農作業を手伝ったりしながらひとりで生き抜く。イーハトーヴの街でクーボー博士と出会い火山局で働けるようになったブドリは科学の力を学んでいく。そして、火山を科学の力でコントロールする方法を知り、度重なる冷害を防ぐ方法を思いつく。しかしそれは、ブドリにとって重大な決意をすることになる―――すべては愛する故郷を守るために。
(ご挨拶)
監督:今までいろんな作品を作ってきましたが、この作品には特別な思いがあります。昨年3月、この作品がほぼ完成していた時あの大震災が起こり、大変なショックを受けました。宮澤賢治が昭和初期に書いた童話ですが、自然と人間と科学を今こそ本気で見直さなければいけないと実感しました。そうした賢治の思いを考えながらご覧頂きたいです。
小松:この大作に関わらせて頂いて光栄に思っています。普段アルゼンチンタンゴの情熱を演奏している僕ですが、「人類に対する問いかけ」という壮大なメッセージをどのように表現するのか、と不安と期待が入り混じっていました。でも、意外とこの作品にフィットしていると思いますので、今までにない映画音楽と思ってお楽しみ頂ければ嬉しいです。
――― 1985年の『銀河鉄道の夜』の時もネコキャラで、今回もそうですが、その理由は?
監督:はい、よく聞かれることです。賢治は東北生まれで、舞台も東北だと思われますが、無国籍にしています。おそらく賢治の中では、国境も性別も超えた総ての人々に向けて書いた童話だと思うのです。その奥深さを表現するためには人間の少年ではとても無理だと思い、敢えて人間ではなくネコに似たキャラクターにしました。作品の深い情感は音楽に、キャラクターの思いはネコに託しました。
――― 初めての映画音楽ということで、悩まれたことは?
小松:アルゼンチンタンゴは人間の怒りや悲しみ懐かしさという人間的感情を過剰なほど表現している音楽ですが、今回は自然と人類との関わりがテーマなので、迷うこともありました。でも、僕なりの方法で自然の厳しさを表現するとどうなるのか、と試行錯誤しながらやってみたところ、僕なりの答えが出たような気がしています。27年前の『銀河鉄道の夜』も、細野晴臣さんが初めて映画音楽を担当されたとか。それまでにない映画音楽を楽しむいい機会になっているように思います。
(ここで、小松亮太さんによるバンドネオンとレオナルド・ブラーボさんによるギターで『グスコーブドリの伝記』のメインテーマと、小田和正の主題歌を演奏。)
――― 監督、演奏は如何でしたか?
監督:聴くたびに思うのですが、バンドネオンは不思議な音で情感豊かですよね。
小松:アルゼンチンタンゴ以外ではあまり使われない楽器なんです。よくアルゼンチンの伝統楽器ですか?と聞かれるのですが、実はドイツ生まれの楽器なんです。金属的なガツンとした音を出すのですが、その裏に悲しさを感じさせるのが特徴なんです。
――― 舞台のそでで聴いていて、泣きそうになりました・・・。
監督:確かに、小松さんの音楽性もありますが、バンドネオンが奏でる音の質感が、ブドリの情感を引き出していると思います。
――― 監督は小学生の頃からアニメを志しておられたとか?続ける秘訣は?
監督:小学5年生の時からです。ディズニーの『バンビ』を見てその面白さに魅了され、この道を進もうと決心しました。その頃、漫画映画と呼ばれていた時代で、東映動画がディズニースタジオに近い形で始めたので、そこで必死にやってきました。続けてこられた秘訣なんて特にありませんが、ただ、何でも好きになることが一番だと思います。そうでないと一所懸命になれませんから。(まさに「好きこそもの上手なりけり」)
――― 小松さんは14歳でバンドネオンを始められたとか?
小松:はい、その頃バンドネオンの先生が居なかったので、自己流でやってきました。今でも日本には15人くらいしか演奏者がいません。世界的には増加傾向にあり、アルゼンチンへ留学する人も多いです。
――― メッセージをお願いします。
小松:80年前に書かれた原作が映画化され、杉井監督と宮澤賢治のハートに触れ、時空を超えて、何を考えて現代をどのように捉えていたか、みんなのハートに残りますように。
監督:決して押し付けがましい作品ではありません。見終えて、綺麗だった、面白かったという思いを持ち帰ってもらいたいです。賢治作品の中の謎めいたことや、家族とは、自然とは、と語るきっかけになればいいなと思います。
自然との共存が求められる今こそ、主人公の忍耐強さと人道的な生き方に学ぶことは多いように思う。 (河田 真喜子)