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『わが母の記』合同記者会見レポート


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 (左から、樹木希林、役所広司、原田眞人監督)
 

wagahaha-4.jpgゲスト:役所広司、樹木希林、原田眞人監督
(2012年3月17日(土) セントレジスホテル大阪にて)

 (2012年 日本 1時間58分)
監督・脚本:原田眞人
原作:井上靖「わが母の記~花の下・月の光・雪の面~」 (講談社文芸文庫所蔵)
出演:役所広司、樹木希林、宮﨑あおい、三國連太郎、南 果歩、キムラ緑子
2012年4月28日(土)~全国ロードショー
・作品紹介⇒こちら
・公式サイト⇒http://www.wagahaha.jp/


 文豪井上靖の母親への複雑な思いを綴った『わが母の記』が映画化された。昨年のモントリオール世界映画祭では審査員特別グランプリを受賞。長年「母親に捨てられた」という思いを抱いて生きてきた作家が、認知症で記憶を失いつつある母親の面倒をみるうちに母親の真意を知ることになる。
  年老いた親と共の暮らすことが少なった現代、特に認知症になった親の看護は苦難が多い。さらに、昨年の未曽有の大震災や大洪水などで多くの方が家族を失い、家族の絆の大切さが叫ばれるようになった今だからこそ、本作のテーマでもある家族の深い愛と絆の尊さが心に沁みる。
  4月28日の公開を前に主演の役所広司と樹木希林、原田眞人監督の合同記者会見が行われた。 会見は終始樹木希林モードで、爆笑会見となった。 


wagahaha-s3.jpgQ:(樹木希林さんへ)今回の役は今までのようなコミカルなおばあさん役とは違うようだが?
樹木:特に今までとは違う役だとは思わず、今回はこんな役なんだなと思って演じただけです。ただ、土台が原田監督で、全体の雰囲気が役所広司さんなら、私がどのようにやってもそこにうまく馴染むんじゃないかなと思いました。


 Q:(役所広司さんへ)そんな樹木希林さんと共演して緊張したことは?
樹木:ありません!(笑)
役所:樹木希林さんとのシーンが多かったので、ひとつの芝居を一緒に作りあげていくのがとても豊かな時間のように感じました。  

wagahaha-s5.jpgQ:(原田眞人監督へ)昭和の風景が色濃く出た素晴らしい撮影だったが、昭和の雰囲気を出すために特にこだわった点は?
原田:光と影かな。ロケハンもいつどこから光がさすかとか調べてました。ただ撮影期間1か月では天候に左右されることは必然で、予定を立てるのも賭けのようでした。それがプラスになったこともあります。例えば軽井沢の別荘のシーンでは、夏のシーンなのに雪が解けないのでどうしようかと…2日間というタイトなスケジュールの中で季節を渡って撮るというのが所詮不可能なこと。逆に神の恵みと思って3か月後のエピソードにして撮ったこともあります。そういう意味では恵まれてましたかね。
樹木:恵まれてるんじゃなくて、監督はそんな悪条件でもねじ伏せて、自分の中に取り込んでいく凄さを持っている。いいい意味で職人の潔さを感じました。傍にいて気持ち良かったです。脚本も全部自分で書けるので、それがいい結果につながったと思います。
原田:ありがとうございます!


Q:(役所さんと樹木さんへ)撮影中のエピソードや印象的なことは?
役所:印象的なこと……(考えていると)
樹木:(代わりに)特にないです!実際の井上邸で撮影ができましたから、役所さんが演じるナイーブな井上靖とか、書斎に座っている感じだとか、その背後に見える庭だとか、役所さんの存在もとても自然に感じられました。豊かな時間が過ごせました。特にエピソードというのはなかったです。でも、他に若い女優がいっぱいいましたから、そちらとはエピソードがあったかも?(笑)
役所:僕は若い女優さんらといる時間はあまりなかったです。殆ど希林さんといましたからね。やはり、本物の井上邸や軽井沢の別荘で撮影できたのは、作品にとっても私にとっても大きな力となったことは確かです。

wagahaha-s7.jpg Q:震災の影響はありましたか?
原田:撮影は3月10日に終わったので、特に影響はありませんでした。ただ、使っていたテープが仙台工場でしか作られてないものでしたから、撮影が延びていたら影響を受けていたことでしょう。今こそ戦後日本の3世帯の物語で家族の絆を感じとってもらえるのでは、と復興のエネルギーを映画に込めて編集作業をしました。
役所:ご家族を亡くされたり、一人ぼっちになってしまった方々にこの映画を見てもらうことで、元気を取り戻して頂けたらいいなと思います。
樹木:モントリオール世界映画祭で審査員特別グランプリという賞を頂いていた時には、日本は原発などで大変なことになっていました。そんな日本からやってきた映画ということで、大震前の日本に思いを馳せた上での賞だったのではないかと思っております。


 Q:(樹木希林さんへ)家族の愛と絆がテーマとなっているが、自ら家族との絆を絶つ人が多い中、どのように生きていけばいいと思うか?
樹木:そんな難しいことはわかりません。偉そうなことを言う前に、自分の頭の上のハエを払えよ!と言われそうです。ただ、今まで当たり前に思っていた死ぬ時のことが、いつどんな死に方をするのか分からなくなってきています。いつの時代でも、今ある幸せを当たり前と思ってはいないか?と。
余談ですが、今回役所さんを拝見していて、随分謙虚な方だと感じました。謙虚に考えれば、ものの考え方、家族との関係なども、また違うふうに思えてくるのではないかと、そんな気がします。


 wagahaha-s9.jpgQ:原田監督の演出について?
役所:原田監督作品には5作品出させて頂きました。ドキュメンタリータッチを基本に、台本の余白の部分では俳優たちに自由に演技をさせていい部分を切り取っていくという、登場人物の描写センスがいい。時代と共にテーマも変化していきますが、今回は小津安二郎からベルイマン、原田とつながっていくのが楽しみでした。緩急をつけた演出も光ってました。特に、今回は監督の故郷である静岡の沼津が舞台となってますので、今までの作品とは違うしっとりとした日本映画を完成させたように思います。
樹木:私の見方は少し違いますが、男の監督が陥りやすいところは、女優を選択する時に見誤るということです。(笑)今回はそう大きく見誤ってはいませんが、時々「えっ?そういうのが好きなの?」と思うことがあります…
原田:黒澤明監督も女優を見る目がなかったと言われています!(爆笑)。小津監督の失敗作と言われているものも、全部女優さんを見誤っているとか!?
樹木:そういう轍を踏まないようにというのが私の希望です。


 Q:本作は母への憎しみが描けて初めて深みが出ているように思われるが・・・?

原田:『しろばんば』が面白いと思ったのは、井上靖は5~6歳の自分にとっておぬいばあちゃんは愛人であって、母親を敵対視していたというところです、この三角関係が凄いな!と。『わが母の記』では『しろばんば』のそんなところを意図して脚本を書いています。本作ではおぬいばあちゃんは登場しませんが、50回忌の法要では井上家の許可を頂いて本物の写真を使わせてもらいました。最後には、主人公とおぬいばあちゃんと母親の想いを私なりに通したつもりです。
役所:母親に対してスネてるんだなあと。それをバネに作家として大成していったように思います。母親の方もそんな子供の気持ちは百も承知で見守っている。誰しも母親の想いを聴かずに別れてしまうことが多い中、この主人公は、記憶が薄れていく母親から息子への真意を聴くことができて本当に良かったなと思いました。50歳過ぎても母親の肌が懐かしく感じられたのではないかと。
樹木:おぬいばあちゃんに可愛がられたので、「生みの親より育ての親」という気持ちもあったのでしょうねえ。
原田:私の構想では、いつか『しろばんば』を撮る時には、おぬいばあちゃんを樹木希林さんにやってもらいたいと思っています!
樹木:もうすっかり認知症になっていて、セリフも覚えられないと思います!(笑)
(河田 真喜子)

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