レポートインタビュー、記者会見、舞台挨拶、キャンペーンのレポートをお届けします。

「人間をしっかり描くことで、意図せずとも笑いや感動は生まれる」名匠・山田洋次監督の演出に魅了される最新作『TOKYOタクシー』先行上映会 @豊中市立文化芸術センター

TOKYOtaxi-10.24-550-1.JPG

(左から、長内繁樹 豊中市長、山田洋次監督、北山雅康)
 


■日程:2025年10月24日(金) 14:20~14:50(上映後)

■場所:豊中市立文化芸術センター 大ホール(大阪府豊中市曽根東町3-7-2)

■登壇者:山田洋次監督(94)、北山雅康(58) 、長内繁樹 豊中市長(67)  (敬称略)



山田洋次監督とのコラボ70作目となる倍賞千恵子、

女優魂で魅了する84歳の輝き『TOKYOタクシー』

 

TOKYOtaxi-pos.jpg

2年前に公開されたフランス映画『パリタクシー』の感動は記憶にも新しく、金銭的問題を抱えた不愛想なタクシー運転手が高齢の訳ありマダムを高齢者施設へ送り届けるまでのドラマを、パリの風情ある街並みを背景に過去の映像を織り込みながら人生を語る名作。長年、山田洋次監督作品に欠かせない存在の名優・倍賞千恵子を主役に、『パリタクシー』を基に東京バージョンで作ろうと本作の企画が始動。相手役はなんと木村拓哉、W主演である。倍賞千恵子の若き日を蒼井優が演じ、戦後から高度成長期を迎えようとする1960年代を反映させながら、波乱万丈の人生をドラマチックに物語っては、現代人を奇跡のような星の輝きで優しく照らしてくれるヒューマンドラマである。


11月21日(金)の公開を前に、豊中市立文化芸術センターで先行上映会が開催され、94歳で監督を務めた山田洋二監督と、山田作品の味のあるチョイ役が印象的な北山雅康が上映後のトークイベントに登壇。倍賞千恵子も木村拓哉もこれまでにない正反対の役柄に挑戦してくれたので賞賛したいという監督。また、最後まで監督を務められるか不安だったという山田監督の映画演出へのこだわりや、新しい撮影技術を取り入れては益々の制作意欲を見せる名匠の力強い言葉に大いに刺激を受けた


〈トークの詳細は下記をご覧ください。〉

TOKYOtaxi-10.24-500-2.JPG

【最初のご挨拶】

山田監督:生まれ故郷の豊中に久しぶりに帰ってまいりました。僕は生まれも育ちも岡町です。今でも赤い屋根のおしゃれな家が綺麗に保存されていて、とってもありがたいことだと思っています。そんな豊中市でこんなに大きなホールで、こんなに沢山の人に僕の作品を観て頂けて本当に嬉しいです。満足して頂けたでしょうか?(会場から拍手が沸き起こる)楽しんで頂けたら良かったかなと思っております。


北山:皆様本日はようこそお越しくださいまして誠にありがとうございます。私は京都出身なんで、関西へ戻って来るとどうしても関西弁が出てしまいます。2年ぶりに戻ってまいりました。今日はよろしくお願いいたします。


【倍賞千恵子と木村拓哉について】

――倍賞さんと木村さんについて、いつもと違う役柄だったようですが?

TOKYOtaxi-10.24-yamada-1.JPG

山田監督:まずは倍賞さんについてですが、何しろ寅さんの妹・さくらの役を50本近くやってきて、いつもお兄ちゃんのわがままを受け入れる地味な役を演じてきました。それが今回は85歳のおばあさんの役で、今までと違って運転手に積極的に語り掛ける役です。一方、木村さんの方は主演スターとして能動的な役が多かったと思いますが、今回はおばあさんの話を聴くという受け身の役なんです。この役を木村さんがやってくれるかどうか最初は心配だったのですが、「是非やります!」ということで、きちんと彼女の話を聴くという役に徹してくれて、二人には賞賛を贈りたいです。


――なるほど今までとは真逆の役柄だったようですが、お二人との話し合いはされたのですか?

山田監督:勿論、話し合いながら撮影するということが映画を演出するということですからね。

――木村さんから「こうしたらどうでしょう?」みたいな提案や要望はなかったのですか?

山田監督:そういうことを彼は言わないですよ。どちらかというと無口な男ですからね。


――倍賞さんは今回貴婦人のような上品なかっこいい役でしたが?

山田監督:貴婦人とは違うね(笑)。恋多き人生だったかもしれないけど、運悪くDV男と結婚しちゃったがために辛い思いをして、最終的にはあんな悲劇を巻き起こして刑務所に入ったり、苦労して苦労して仕事を成功させたりしてきた働く女性です。運命を自分で切り開く強さはあるんですけど、最初から好きになった男がDVだなんて分からない訳だからね。

 

――二人の会話からドラマチックな展開になっていきますが?

山田監督:倍賞さんもあんなによく喋る役は初めてだったんじゃないですか木村くんの方も相手の話を「うんうん」と聞き役に徹する役は初めてだったと思います


【タクシーの中の撮影、〈LEDウォール〉方式について】

――本作の半分はタクシーの中のシーンでしたが、東京の素晴らしい景色が沢山映し出されていましたね。でも実際には走っていないんですってね?

TOKYOtaxi-10.24-yamada-2.JPG

山田監督:車の中のシーンというのはよくありますが、今までは牽引車で実際に走らせて車外にも車内にもカメラを据える撮り方だったり、車窓にCG映像をはめ込む撮り方だったりしたのですが、今回は最新技術の導入で画期的な映像が撮れました。タクシーを取り囲むように大きなLEDパネルが設置されたスタジオで、街の景色を映し出しながらタクシーの中で演技するのです撮影している時も本当にタクシーに乗っていると錯覚するほどでした。〈LEDウォール〉というシステムなんですが、これがあったからこの映画ができたと思っています。これほど長時間タクシーを銀座や丸の内などを走らせるのは無理ですからね。僕も倍賞さんもいい加減高齢なのでこの新しいシステムには助けられました。


――北山さんはこの新しい技術については?

北山:僕は倍賞さんが入られる高齢者施設のマネージャーでいや~なおっさんの役をやらせて頂いております(笑)。走行中に電話でお話するシーンがありまして、スタジオの中の暗い部屋から、倍賞さんと木村さんの会話を聞きながら同時進行で電話をするという。実際にセットを拝見したのですが、側面だけでなく天井にまでパネルスクリーンがあって、箱の中にポツンと車が置いてあるような感じで、その中でお二人は演技をされていたのです。壮観でしたよ、その前に立つと実際に外に居るように感じました。


【背景となる東京の街並みについて】

――今回の見どころのひとつとして、寅さんの故郷で有名な柴又から始まり、浅草・上野・銀座・外苑の銀杏並木・渋谷等など、物語の進行と共に東京を観光しているような気分になれましたが、監督の一番お好きな場所は?

山田監督:僕の好き嫌いで選んだ風景ではないのですが、「これぞ東京!」という風景を選んで撮りました。丸の内の高層ビルが美しいなんてあまり思ったことがないし、ごちゃごちゃした東京の街をそんなに美しいと思ったことがないんです。下町を走るシーンで、おばあさんが「昔はもっと賑やかだったのよ」と言うセリフがありますが、60年位前の日本はとっても元気だったんですよ。あの頃に比べれば街並みがすっかり寂しくなってしまって、それが現実なんですけどね。


【撮影現場の木村拓哉について】

――多くの山田監督作品に出演しておられる北山さんからみて、今回の山田組はどんな雰囲気だったのでしょうか?

TOKYOtaxi-10.24-kitayama-1.JPG

北山:初めてお邪魔させて頂いた時にはいつもの山田組だなあと思っていたんですが、何か違うような…それは木村さんが多くのスタッフの方とお話されては少年のように笑っておられて、皆さん木村さんのことが大好きなんだなあと感じました。木村さんのお陰でいつもの山田組とは違う和やかな雰囲気だったように感じました。


――木村さんとの共演はいかがでしたか?

北山:僕ね、木村さんのTVドラマ「HERO」にゲストとして出演したことがあるんです。でもね、木村さんとだけ共演シーンがなくて(笑)、今回が初めてだったんですよ。木村さんと正面から対面するシーンだったのに監督から中々OKが出ずに、「ジャケットを着ながら登場してとか、マスクを外しながらセリフを言ってみてはどう?」などとアドバイスして頂いて、やっとOKが出た次第です。その間も木村さんは「浩二さん」として優しく見守ってくださって、本当に素敵な方だなと思いました。


――次の山田監督作品に出演するとしたらどんな役がいいですか?

北山:監督、どんな役で呼んで頂けますか?

山田監督:……?

北山:悩んでおられますね(笑)。いつもチャラチャラした役が多いので、年相応の落ち着いた感じの役がいいでしょうか?(笑)


【シリアスなのにコメディタッチになるのは?】

――本作はとてもハートフルな中にもユーモアが散りばめられていますが、最初から意図されていたのですか?

山田監督:観客がどこで笑うかなんて全く分からないんですよ。そんなこと分かる必要もない。だいぶ昔の話ですが、寅さんの第一作を作った時、試写室でスタッフと一緒に観て、「この映画笑うとこなんかひとつもないな」と思ったんです。妙に真面目な映画を作ってしまった気がして…渥美清さんはコメディアンですし、あの頃はお正月には喜劇映画が多く上映されていたので、観客が笑わなきゃこの企画は失敗だったんです。がっくりきていたら、封切られると「お客さん笑ってるよ」と言われて劇場へ観に行ってみたら、皆ワーワーと笑ってるんですよ。「僕の映画はこういうところが可笑しいんだな、こういうところで笑うんだな」と観客に教えられました作り手の僕が「ここで笑うとこだとか泣くとこだとか考えていけないし、また考えられないんじゃないか」と思います。「じゃ、何を描くんだ?」――「人間をちゃんと描く」ことが大事。「人間の所作や表情を細かに演出していけば、自ずと観客は共感したり笑ったり泣いたりする」――そう、僕が笑う必要はなく、観客に委ねるしかないんじゃないのかと考えます。


TOKYOtaxi-10.24-500-3.JPG【最後のご挨拶】

北山:今日は本当にありがとうございました。気に入って頂けましたら、是非ご家族や同僚やお友達などにおススメしてください。「11月21日から公開されるよ」と言って頂ければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

山田監督:11月に封切られますが、こんなに大きな会場でこんなに大勢の方と一緒に観られるのはここしかないと思います。今回の上映会は本当に貴重な上映会です。皆様に心から感謝申し上げます。ありがとうございました。
 


【ストーリー】

TOKYOtaxi-550.jpg

個人タクシーの運転手として毎日休みなく働いている宇佐美浩二(木村拓哉)は、音楽家を目指したいという一人娘の入学金や学費に車検代、さらには家の更新料など大金の要り様で頭を悩ませていた。そんな浩二のもとに高野すみれ(倍賞千 恵子)という85歳のマダムを東京・柴又から神奈川の葉山にある高齢者施設まで送るという依頼が舞い込む。最初は互いに無愛想だったが、すみれが「東京の見納めに、いくつか寄ってみたいところがあるの」と浩二に寄り道を依頼する。次第に心を許し始めたすみれは東京のさまざまな場所を巡りながら、自らの壮絶な過去を語り始める。それは現実的な悩みを抱えた浩二の想像をはるかに越える波乱万丈の人生だった。

初めての出会いで1日中二人で旅をして、人生最後の喜びを噛みしめるようにはしゃぐすみれ。浩二は「高齢者施設へ送り届けるだけの関係が、やがて肉親を思い遣るような熱い感情が沸き起こり、浩二自身の人生を大きく動かしていくことになる――。


出演:倍賞千恵子 木村拓哉 蒼井優 迫田孝也 優香 中島瑠菜 神野三鈴 イ・ジュニョン マキタスポーツ 北山雅康 木村優来 小林稔侍 笹野高史
監督:山田洋次
脚本:山田洋次 朝原雄三
原作:映画「パリタクシー」(監督 クリスチャン・カリオン)
配給:松竹
©2025 映画「TOKYO タクシー」製作委員会
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/tokyotaxi-movie/

2025年11月21日(金)~全国公開


(河田 真喜子)

 

月別 アーカイブ