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自然の恵みと共に守りたい伝統と人と心と...。『種まく旅人~醪(もろみ)のささやき~』篠原哲雄監督インタビュー@万博2025関西パビリオン

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●日時:2025年8月30日(土)

●場所:大阪・関西万博2025関西パビリオン内



爽やかな香りと味わいが余韻として残る『種まく旅人』シリーズ第5弾、

淡路島が2度目の舞台となる篠原哲雄監督――撮影を振り返って。

 

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「皆の心に幸せの種をまく旅人」――日本各地の第一次産業に携わる人々の人生に寄り添いながら諸問題を解決しては去っていく、まるで「シェーン」のような農林水産省官僚の活躍を描いた映画『種まく旅人』シリーズは本作で5作目となる。しかも淡路島が舞台となるのはシリーズ第二作『種まく旅人~くにうみの郷~』(2015)以来2度目で、引き続き篠原哲雄監督がメガホンをとったオリジナル企画。前作では海苔養殖と玉ねぎ生産に従事する兄弟の物語だったが、今回は伝統的な酒造技術の継承や酒蔵経営に苦労する父子の物語で、淡路島の美しい自然や豊潤な銘酒の香りが安らぎを与える心温まるヒューマンドラマである。


久しぶりのスクリーン復帰となった菊川怜が、エリート官僚という役柄ながら、熱く日本酒を語り美酒に酔いしれたり、本気で酒造りを学ぼうと低姿勢で臨んだり、さらには確執を抱える父子の壁を真剣に取り除こうとしたり――以前のイメージを覆すような人間臭い演技で親しみを感じさせる。菊川怜の女優としての新たな魅力を引き出した篠原哲雄監督は、兵庫県の斉藤元彦知事からも地方再生の一助を担うためにもまた兵庫県を舞台にした作品を撮ってほしいと期待が寄せられた。

 

10月10日(金)からの公開を前に、8月30日(土)に【大阪・関西万博2025】内の《関西パビリオン》で開催されたイベントと記者会見の後、篠原哲雄監督のインタビューという好機に恵まれた。『種まく旅人』シリーズで再び淡路島を舞台にした理由や、菊川怜を始めとするベテラン俳優の存在の大きさや、撮影秘話についてなど、いろいろなお話を伺うことができた。詳細は下記をご覧ください。
 


――再び淡路島を舞台にした理由は?

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篠原監督:10年前の『種まく旅人~くにうみの郷~』の撮影で、農業用のため池の維持管理のため掻い掘りをした時、島と海でミネラル分が循環することによって豊潤な作物や海産物の生産に繋がっていることを知って、農家の方々のご苦労を垣間見たような気がしたのです。去年の夏頃に兵庫県の特産物を紹介するブースを訪れる機会があり、淡路島の銘酒や産物を通して改めて島の豊かさを知り、生産者の想いを伝えたいという気持ちになりました。

今回の舞台となった酒蔵「千年一酒造」は、前回の撮影でお世話になった海苔業者の方の近くにあったので、お土産用にお酒を買いに行ったのがキッカケで知りました。


――今までも農業への関心は高かったのですか?

篠原監督:特別に関心が高かった訳ではないのですが、学生時代に観光牧場でアルバイトをしたことがあって、少しは興味がありました。私の作風から「土臭い感じの監督かな?」と思われていますが(笑)。前回の『種まく旅人~くにうみの郷~』も『深呼吸の必要』と繋がるところがあり、産業そのものではなく、宮古島の生活の中で作られているサトウキビをアルバイトの人たちが刈って砂糖になる、製糖工場に至るまでの人間模様が主体となっているのです。

今回は酒造りの行程もしっかり撮ろうと思っていました。クランインは去年9月で、仕込みには少し早かったのですが、撮影用に小さな樽で実際に醸造して頂きました。丁度お米が高騰する寸前だったのでギリギリで助かりました(笑)。


――久しぶりの女優復帰となった主役の菊川怜さんについて?

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篠原監督:本読みの時からセリフは覚えていて、彼女なりのプランを持っておられて、熱心な方だなあと思いました。

今回の役は、農林水産省の官僚というお堅いイメージではなく、酒好きで猪突猛進なところもあるユニークなキャラクターで、菊川さんには合っていたと思います。現場で細かな修正はありましたが、大体において彼女の演技プランのままで撮影しました。


――菊川さんは真っ直ぐで素直な方なのでしょうが、今まで少し硬いイメージがありました。今回は砕けた演技でとても親しみを感じたのですが?

篠原監督:彼女自身は言葉豊かに発言できる人なので、これまでのキャリアからも何かを引き出して伝えるということは得意なはずです。今回は確執のある父と息子の間を熱心に取り持つシーンではそれが活かされていたと思います。彼女の女優としての新たな魅力だと言えるでしょう。


――ベテラン俳優の存在が光っていましたね?
tanemakutabibito5-8.30-inta-shinohara-240-2.JPG篠原監督:今回、たかお鷹さんとは初めてお仕事をさせて頂いたのですが、さすがに大きな存在だと感じました。あの佇まいは杜氏(とじ)という役にぴったり! たかおさんは文学座の大ベテラン俳優です。こういう方が演劇界を支えて来られたんだなあと実感しました。

白石佳代子さんも、歌うシーンで「これでいいかしら?」としきりに仰っておられました。認知症という難しい役を過剰にやり過ぎるとよくないと判断されたのでしょう、微妙なさじ加減で白石さんなりに模索しながら演じておられたようです。


――ベテランと若手の俳優の演出については?

篠原監督:今回、たかお鷹さんと白石佳代子さんという後光のように輝く大ベテランがいて、その手前に升毅さんという渋い中堅がいる。升さんは関西弁も堪能で色々と研究もされていたので、今回の父親役を安心して委ねることができました。若い俳優さんは芝居に対する姿勢や考え方が生半可になることがあるので、時々注意しながら演出しました。酒蔵は上下関係や礼儀を重んじる場所ですので、金子隼也君もどう佇んでいいのか分からず悩んでいたようで、「もっと自然体でやった方がいいよ」と声をかけました。確かにある事情を抱えた息子の立ち位置が難しくて、女杜氏を目指す役柄同様、清水くるみさんが金子君に一所懸命に発破をかけてくれていました。


――撮影について?
tanemakutabibito5-8.30-inta-shinohara-240-4.JPG篠原監督:今回の撮影は大ベテランの阪本善尚さんが2カメラ体制で撮ってくれました。特に酒造りの生きた酵母や発酵を捉えるシーンなどでは撮り逃してはいけないと、2台のカメラで撮影。狭い空間で暑くて大変でしたが、リアルな映像が撮れてよかったです。実景は最後にまとめて撮っています。淡路島のいろんな場所を撮影して、夕景のシーンも最後の日にうまい具合に撮れました。それに撮影の小林元さんはドローン操縦もできるので、ドローンを活用した撮影も活かされていると思います。

さらに、限られた予算内で撮ってくれた阪本撮影監督の仕事ぶりには改めて凄いなと感じました。照明や美術は京都の松竹撮影所のスタッフを起用して、東京と京都のスタッフとの共同作業はとても面白い試みだったと思います。『種まく旅人~くにうみの郷~』の撮影の時は冬だったので、今回は陽の光を存分に使おうと意識して撮影しました。


――あまり聞きなれない「M&A(企業の合併や買収)」について、冒頭のシーンで主人公のキャラクターと併せて分かりやすく表現されていたように思いますが?

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篠原監督:主人公は農林水産省官僚というお堅いイメージですので、先ずはお酒に並々ならぬ情熱を抱くユニークなキャラクターだということを紹介。さらにM&Aについては、売上減少や後継者問題などの難題を抱える日本の酒造業界の現状を提起し、具体的な問題点や販路拡大に繋がる新商品の開発や、伝統的酒造りを支援するために役人が派遣されることを明示する必要があったのです。


――様々な作品を多く監督されてきましたが、作品選びについては?

篠原監督:今回はオリジナルですが、『種まく旅人』シリーズを手掛けてこられた北川プロデューサーの土台があって、脚本家の森脇京子さんとの間で酒造業界の話になって、僕が来た時点でそれを如何に深めるか、父と息子の物語をどう広げていくかということになったのです。例えば、今回は菊川怜さんが主役ということで主人公のキャラクターを変化させる必要がありましたし、M&A関連では怪しげな人を登場させて酒蔵存続の危機感を煽ることなどです。
 



篠原哲雄監督といえば『月とキャベツ』…初めて観た時の感動は未だに忘れられない。一途な熱い想いとせつなさは、時を経ても心に深く刻み込まれている。他にも『はつ恋』『天国の本屋~恋火』『深呼吸の必要』『山桜』等など、観る者をロマンチストでいさせてくれる、その誠実な作風に魅了される映画ファンも多いと思う。『種まく旅人~醪(もろみ)のささやき~』から受ける癒しは、自然に恵まれた淡路島の豊かさと、それを守ろうとする人々の誠実な想いから感じられるものなのかもしれない。
 


監督:篠原哲雄
脚本:森脇京子
エグゼクティブプロデューサー:北川淳一
出演:菊川怜、金子隼也、清水くるみ、朝井大智、山口いづみ、たかお鷹、白石加代子、升毅、永島敏行

撮影監督:阪本善尚 撮影:小林元
製作:北川オフィス
制作プロダクション:エネット
配給:アークエンタテインメント
©2025「種まく旅人」北川オフィス

公式サイト: https://tanemaku-tabibito-moromi.com/

2025年10月10日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ(なんば、二条、西宮OS、くずはモール)、イオンシネマ(京都桂川、加古川、明石)、元町映画館 ほか全国ロードショー


【『種まく旅人』シリーズの紹介】

  • 『種まく旅人〜みのりの茶〜』大分2012年 監督:塩屋俊 出演:陣内孝則 田中麗奈
  • 『種まく旅人~くにうみの郷~』淡路島2015年 監督:篠原哲雄、出演:栗山千明 桐谷健太 三浦貴大
  • 『種まく旅人〜夢のつぎ木〜』岡山2016年 監督:佐々部清 出演:斎藤工 高梨臨 
  • 『種まく旅人〜華蓮のかがやき〜』金沢2020年 監督:井上昌典 出演:栗山千明 平岡祐太
  • 『種まく旅人~醪のささやき~』淡路島2025年 監督:篠原哲雄 出演:菊川怜 金子隼也

(河田 真喜子)

 

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