・日時:2025年9月14日(日)14:10~(上映後)
・場所:大阪ステーションシティシネマ
・ゲスト:伊藤沙莉(さいり)(31)(主演) 芳賀(はが)薫監督(52) MC:津田なおみ(敬称略)
「どうせダメだから…と諦めたらそこで終わる。
やるからには覚悟をもって臨むべし!」
本作は、サトウキビを原料とするラム酒の美味しさに惹かれた若い女性が、南大東島特産のサトウキビを使ったラム酒作りに挑戦、紆余曲折を経て派遣社員から社長になったという実話を基にした小説「風のマジム」(原田マハ著)を映画化した作品。
主演は子役の頃から活躍している芸歴22年、映画だけでなく、舞台「首切り王子と愚かな女」(2021)やNHK連続TV小説「虎に翼」(2024)などで突出した演技力で存在感を示している伊藤沙莉。華奢な体格からは想像もつかない繊細かつダイナミックな表現力で観る者を圧倒する稀有な俳優である。そんな彼女が、沖縄の人々の家族愛や特有の風土に溶け込みながら、沖縄の方言で「真心」を意味する「まじむ」という名にふさわしく、謙虚で素直で真っ直ぐ、落ち込んでもすぐに前向きになれる主人公を、説得力をもって清々しく生きている。
孫の計画を応援しようと叱咤激励する酒好きな“おばあ”役の高畑淳子がまた円熟味のある演技で魅了する。女優魂を見せるようなメイクダウンした様相から“おばあ”になり切って、一つ一つの格言を重みをもって心に響かせる。娘を優しく見守る母親役に富田靖子、協力を惜しまないバーテンダー役に染谷将太、誠実な醸造家役に滝藤賢一など信頼できる俳優陣で、「何事も真心で取り組む姿勢こそ大事!」と、混迷の時代を生きる私たちを勇気づけてくれる感動作である。
芳賀薫監督は、長編映画初監督とは思えない簡潔で巧妙なカットワークやキャラクターの魅せ方で、より印象深い作品に仕上げている。それもそのはず、PVやCMディレクターとしてのキャリアも長く、世界でも高い評価を得ている大ベテランなのだ。主演の伊藤沙莉へは作品のテーマや想いを熱く綴った手紙でオファー。伊藤沙莉も、監督の情熱やパワーを感じて、一緒に頑張ることができるのではないかと引き受けたという。キャストの個性や特徴を活かした演出や見せ方はさすがだ。
9月12日(金)からの全国公開を記念して、主演の伊藤沙莉と芳賀薫監督が、9月14日(土)に大阪ステーションシティシネマにて開催された舞台挨拶に登壇。以下にその詳細を紹介いたします。
――大阪へは久しぶりですか?
伊藤:いえ、6月に家族で来ました。大阪に来る度にアメリカ村のお洋服屋さんを回ったり、良さげな居酒屋などのお店を探しては行ってみたりしています。大阪グルメが大好きで、以前『パラサイト』の舞台でお父さん役の古田新太さんから教て頂いた「さきイカ天」がめちゃくちゃ美味しくて、それを見つけては食べてます。
芳賀監督:完全にのん兵衛のためののん兵衛グルメですね(笑)
芳賀監督:私は1年ぶりです。普段CMなどのお仕事をしておりまして、何度も大阪に伺うことがあります。大阪は笑いに厳しいというイメージがあり、打ち合わせに遅れてきたらひとネタやらないと場が和まないという雰囲気があって、めんどくさいな~と(笑)ウソです!
――大阪のファンのイメージは?よく言われることや、すぐ触ってくるとかありませんか?
伊藤:(笑)ちょっとちょっとお姉さんだと接触されたりしますが、それは暖かく受け取らせて頂いてます。大阪の方は普通に喋っていても面白いから、私には大阪の言葉が優しく感じられて好きなんですよ。キツイとか言われることもありますが、逆に温かみを感じています。
――温かみといえば、この映画も温かみを感じられる素晴らしい作品ですよね。(会場に向かって)皆様は如何でしたか?
*会場から拍手が沸き起こる!
芳賀監督:ありがとうございます。まず沖縄で先行公開されて、沖縄の言葉がちゃんとしているのか、それが気になっていたのです。でも、沖縄の方も「自然に観られる」と仰ってくださったので安心しました。伊藤沙莉さんをはじめ、キャストの皆さんが普段使わない方言を頑張って喋ってくださいました。東京でも評判が上々で、大阪でも皆さんがとても和やかな表情をされていますので、ひと安心です。
――伊藤さんは沖縄の言葉についてどう感じましたか?
伊藤:いろんな地方の役をやらせて頂いてますが、沖縄の言葉が群を抜いて難しい!特にイントネーションの使い方。意外なところで上がったり下がったり、自分の中でチューニングするのが大変でした。それと優しい言い回しが多く、感情の乗せ方が難しかったです。方言指導の方の指導を受けながら勉強になったし、やっていてとても楽しかったですね。私にとって新しい挑戦となりました。
――特に印象に残っている方言は?
伊藤:意外と難しかったのは「ありがとうございます」です。さりげなく聞こえるのかと、最後までずっと気になっていました。
――撮影後も方言が残っていたりしますか?
伊藤:日常でポロっと沖縄弁が出ることはあります。先日滝藤賢一さんにお会いしたら、めちゃくちゃ沖縄弁でした(笑)。「全然抜けない」って言ってました。
――伊藤沙莉さんを主役にした理由は?
芳賀監督:伊藤さんは素晴らしい役者さんなので、勝手に長文を送らせて頂いてオファーしました。この「まじむ」という役は、キメ台詞あったり、尖った才能がある訳ではないので、自分の意志をちゃんと表現したり、何となく周りの人たちのことを聞いて行動するような女の子なので、「受けの演技」というか、会話の中だったり人との関係性の中で次の行動が出来ている人がいいなと思っていたので、是非にとお願いしました。伊藤さんに決まってからは脚本もそういう想定で進めていきました。
――伊藤さんは監督からのお手紙をご覧になって如何でしたか?
伊藤:凄いパワーを感じました。物作りを一緒にするチームのリーダーがこのような情熱をもっている方なら、一緒に熱く頑張れるなと思いました。スタートから気持ち良く頑張れたので、とても感謝しております。
――最後に伊藤さんの満面の笑顔が出てくるというサプライズがありましたが?
芳賀監督:それは撮影中に思い付きました。この物語は主人公一人が頑張った訳ではなく、“おばあ”が大切なことを伝えてくれたり、周囲の人々が協力してくれたからこそ最後まで到達できたのですから、協議を重ねながら脚本を変えていきました。でも、これで良かったと思っています。(会場へ向かって)皆さんはどうでしょう?
*会場から賛同の拍手が沸き起こる!
芳賀監督:ありがとうございます!
――伊藤さんも最初脚本になかったことでびっくりされたでしょう?
伊藤:びっくりしましたね。3回ぐらい撮ったシーンだったので、使わないんだ~(笑)でも返って斬新で面白いと思います。
――沖縄ロケの期間は?
芳賀監督:沖縄だけだと2週間です。
――ロケで一番楽しかったことは?
伊藤:ナマ・マングース!最後のさとうきび畑のシーンで、さとうきび畑の間を駆け抜けて行きました。スタッフの方と私だけが実際に見ていて、凄く可愛かったです!
――もし沖縄に1か月、休暇で行けたらどうしますか?
芳賀監督:泡盛飲んで、ゆし豆腐食べて、踊って、深く眠ってまた飲む?仕事なんかしませんよ(笑)劇中のお豆腐屋さんは大人気のお店でして、お豆腐買いに来られた方々も撮影中だと知ると、「そう、頑張ってね」とか声を掛けてくださって、本当に地域の方々の優しさに助けられました。また、沖縄の役者さんは勿論、地域の方にも出演してもらっています。
伊藤:今回海へ行けなかったので、海へ行きたいですね。海の中に潜って魚を見たりして、とにかく、ゆっくりと何も考えずに過ごしたいです。それを許してくれる空気感が沖縄にはあります。
――ある女性のサクセスストーリーですが、沖縄の文化や信仰深い姿やお豆腐など沖縄まるごと感じられるところは、監督の意図したことですか?
芳賀監督:古い家には今でも家の中心に仏壇(祭壇)があって、その前を通る度に手を合わせているんです。それだけご先祖様が近いから家族も繋がっているのだと思います。そうした沖縄ならではの家の風景に郷愁を感じて頂けたら嬉しいですね。
――とっておきのシーンは?
伊藤:“おばあ”が早朝に豆腐作りを見せながら「一番大切なことを忘れちゃならんど!」とまじむに教えるシーンは凄くくらうシーンでした。あの高畑さんが“おばあ”の顔で言うシーンで、高畑さんの斜め後で見ていたお豆腐屋さんの店主が号泣してました(笑)。ましてや高畑さんの真正面にいる私には直撃!…斜め後にいた店主を号泣させる高畑さんてヤバいな!と思いました(笑)凄い女優さんなんだなと改めて感じたシーンでした。
芳賀監督:あれは凄いシーンでした。あの中にいたみんなが打たれてましたね。
――伊藤さんご自身のシーンでは如何ですか?
伊藤:バーのシーンとかは前向きな気持ちとか発展していくことが多かったので、わくわくする気持ちでした。お酒も好きなので、お酒を飲むお芝居は絶対的な自信があります(笑)まるでビールのように飲むシーンはとっても楽しかったです。
――本作のテーマでもある「真心」エピソードについて?
芳賀監督:芳賀監督:「真心」って何だろう?中々難しい言葉だなとこの作品を作るようになって思うようになりました。ある種の厳しさも伴うので、ただの優しさでもなければ親切でもない、そもそも持っている心根みたいなことかなと…ずっと向き合って考え続けるテーマかなと今では思っています。皆さんも、「ふと、今のは真心かな?」と思うことがあったら、それは「風のマジム」の瞬間かも知れませんよ。
――対立するような人でも実は真心を感じさせるような映画ですが?
芳賀監督:この映画には根っからの悪人は出てきません。対立する人でも、立場によっては主人公と違う考え方をするのは当然のことで、決して間違ったことを言っている訳ではないんです。
――伊藤さんの「真心」エピソードは?
伊藤:家族からはいつも暖かく見守ってもらったり、教えてもらったりと真心を感じています。それは人生の中でかなり大きなことです。真心と言われて思い浮かべるのは、母や叔母や姉とか、義理兄とか、ですかね。
伊藤:改めまして、本日はお越し下さいまして誠にありがとうございます。気に入って頂けましたら、是非SNSなどで多くの方におススメ頂ければ嬉しいです。昨夜、エゴサーチしていたら、「好きなことは諦めなくていいんだね」と書いてくださった方がいて、その伝わり方は凄く素敵で、とても嬉しかったです。「諦めるな!」とか「追及し続けろ!」じゃなくて、「諦めなくていいよ」というメッセージ性が丁度いいのかなと、本当に嬉しかったです。何か感じて頂けたらSNSなどに書き込んでください。私100%見ますので。誰のメッセージでも必ず掬い取って見ますので、よろしくお願いいたします。
芳賀監督:この物語の主人公のまじむは、特別な才能があったり、めちゃくちゃ一人で頑張ったり強い女性ではないと思うんです。だけど、自分で何かやりたいことがあったら、周囲の人や関係者にきちんと伝え、何か教えられたらちゃんと受け答えしながら、少しずつ成長するし、何となくやりたかったことが具現化へ繋がっていくと思うんです。それは観る人自身にも置き換えられるし、あるいは、近くに頑張っている人を慮ることにもつながり、優しさが広がっていくのかなと思います。そんな気持ちを持ち帰って頂けたら嬉しく思います。本日はどうもありがとうございました。
【STORY】
那覇で豆腐店を営む“おばあ”カマル(高畑淳子)と“おかあ”サヨ子(富田靖子)と暮らす伊波まじむ(伊藤沙莉)は、派遣社員として通信会社で働いていたが、未だ自分の未来像を描けずにいた。ある日、酒好きの“おばあ”と一緒に飲んだラム酒の美味しさに魅了され、その原料がサトウキビだと知ると、沖縄でもラム酒を作れないかと発案。そこで、南大東島産サトウキビを原料としたラム酒製造の企画を社内ベンチャーコンクールに応募。やがて家族や友人、会社、南大東島の島民をも巻き込む一大プロジェクトへと発展していく。
出演:伊藤沙莉、染谷将太、尚玄、シシド・カフカ、眞島秀和、滝藤賢一、富田靖子、高畑淳子
原作:原田マハ(小説「風のマジム」講談社)
監督:芳賀薫
脚本:黒川麻衣
主題歌:森山直太朗「あの世でね」
配給:コギトワークス、S・D・P
© 2025映画「風のマジム」
2025年製作/105分/G
公式サイト:https://majimu-eiga.com/
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(河田 真喜子)