■日時:2024年7月6日(土) 18:00~(上映終了後)
■会場:なんばパークスシネマ
■登壇者:前田哲監督
御年100歳の作家・佐藤愛子が90歳の時に書いたエッセイ『九十歳。何がめでたい』の映画化作品に、90歳を迎えた草笛光子が主演。歯に衣着せぬ物言いで世間をぶった斬る痛快さに胸のすく思いがするが、そこには上辺だけの強さではない、長い人生経験に裏打ちされた人間性の深みや温もりがある。すべての人々のこれからの人生にエールを贈る、笑いと感動いっぱいのハッピーオーラ満載の映画です!
年齢を重ねるほど驚きの美貌で魅了する草笛光子は、他の女優にとっても憧れの存在だが、意外にも本作が初めての単独主演となる。舞台に映画にドラマにモデルなどマルチに活躍、そのお茶目目でチャーミングな性格から多くの人々に愛され、本作でも「草笛さんと共演したい!」と豪華な共演者が多数出演している。
メガホンをとったのは、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『そして、バトンは渡された』『老後の資金がありません!』『ロストケア』『大名倒産』と次々とヒット作を打ち出している前田哲監督。19歳から映画の世界に身をおく現場叩き上げの前田監督といえども、草笛光子の90歳とは思えぬバイタリティーや“とんでもない言動”に翻弄されて、現場は笑いの絶えない和やかな雰囲気だったようだ。
そんな前田哲監督が、7月6日㈯大阪なんばパークスシネマにて開催されたティーチイン・イベントにゲストとして登壇。本作の制作に関わった経緯や撮影秘話、そして草笛光子の素顔をおもしろ楽しく語ってくれた。
以下はその詳細です。尚、()内は前田哲監督の心の声です。
――本作の反響は?
〈草笛さん発案の企画〉
草笛さんからお話を頂いた企画です。3年前の『老後の資金がありません』以来、お正月に草笛さんのご自宅に招かれてまして、最初の年に「私、佐藤愛子さんの役をやってみようと考えているんだけど、どう思う?」って言われたんですよ。元々はオスカープロダクションのプロデューサーが3年掛けて原作者の佐藤愛子先生を口説き落として映画化の許諾を得たものを、それをプロデュース感覚のある草笛さん自身が是非映画化したいということで、僕のところにお話を頂いたんです。
〈愛子先生99歳、草笛さん89歳の時の3人でのランチ〉
愛子先生は「エッセイはドラマがないから映画にはならないわよ」といつも仰ってましたが、脚本家の大島里美さんにプロットを書いてもらって、いろんなエピソードを厳選して(犬のエピソードは僕のこだわりがありまして)、シナリオにして先生に見てもらいました。
愛子先生99歳、草笛さん89歳の時に3人でランチしたのですが、お二人ともよく食べる、よく食べる、よく喋る、ほんとにお元気です! その時に愛子先生が付箋がいっぱい貼ってあるシナリオを出して、「このセリフつまらないわよ」(原作通りなんだけどな…)と言われ、「はい分かりました。それではこうしましょう」と提案すると、「あなた意外と頭の回転が速いわね」(“意外と”は要らんやろ!)と99歳の愛子先生に褒められまして、他にも原作にないエピソードなどしてくださり、その明晰な話しにびっくりしました。
草笛さんは草笛さんで、「私ね、この時の愛子さんの気持ちはね…」(まだまだまだ、台本も決まってないのにまだまだ早い!)とまあ面白いランチを一緒にしてからですね、動き出したのは――。
〈アッパレな似た者同士の二人〉
草笛さん自身が愛子先生を演じるのに何か魅力を感じておられたみたいです。お二人は似てるんですよ。潔さや気風の良さとか竹を割ったような性格が似ていて、真っ直ぐで、絶対ズルしないし、筋の通った生き方をしている、とても気持ちのいい人たちなんです。
愛子先生は別れた夫の借金3000万円をシングルマザーになっても小説書いて返済したし、草笛さんもブロードウェイで観た『ラ・マンチャの男』を「日本でもやりたい!」と東宝に掛け合って、今の東宝ミュージカルの基礎になるような超ロングランヒット作を仕掛けたんですよ。アッパレなお二人です。
〈いつも何か新しいことを考えている草笛さん〉
草笛さんは、3年前にも「私ね、親友のフジコ・ヘミングさんとワダエミさんとでコラボしようと思ってるの。」と言い出されて、何をするかと思えば、「ワダエミの美術・衣装で、フジコ・ヘミングがピアノ弾いて、私、歌おうかしらと…」(歌うんかい!?)とね。残念ながら、お二人とも亡くなってしまいましたが…いつも何か新しいことを考えておられる方ですから、この企画も是非自分でやりたいと思われたんでしょう。
――草笛さんにとって、凛とした感じからまさに“はまり役”ですね?
〈最高齢のグラビアアイドル!?〉
草笛さん、90歳で写真集出してるんですよ! 最高齢のグラビアアイドルだって!?(何考えてんねん!)。本人曰く、「脱いだ方が良かったかしら?」(誰が見んねん!)…そんな調子で、茶目っ気のあるとてもチャーミングな方なんですよ。
草笛さん発の企画ですが、ふと思ったのは、三谷幸喜さんに断られたんじゃないかなと…そんで僕のところに話が来たのかも?と。 もう三谷さんのことが大好き過ぎて、タクシーのシーンなんて目がハートですよ。乙女のように楽しんでましたね。
――確かに、身を乗り出して演技されてましたね。
(そんなに好きなんかい!?)ですよ!(笑)。
――三谷幸喜をはじめ、多くの豪華キャストが登場しますが?
〈90歳の奇跡の美肌〉
みんな草笛さんの作品に出たいという思いからです。今回スケジュールが合わず出られなかった俳優さんたちも多くいます。
天海祐希さんは、『老後の資金がありません』の時の現場で草笛さんに向かって、「してないわよね?してないわよね?」ってしつこく聞いてるんですよ。何をしてないのかというと、整形をしてないのかという意味だったそうで、そう疑うくらい草笛さんの肌が綺麗なんですよ。これ合成も何もしてません!本物なんですよ!とある国民的女優さんも12歳上の草笛さんを基準(目標?)にされているらしいです。
〈アクシデントも奇跡のアドリブに〉
それと、草笛さんには奇跡のようなものが降ってくるようです。『老後~』の時も偶然前歯が取れたのをそのまま使いましたけど、今回も冒頭のしょんぼりしているシーンで突然カーディガンが落ちたり、門にぶつかったりと、あれ全部偶然なんですよ。演じようと思っても出せないものを、ふっと自然に出てしまう人なんです。
――演出について?
僕は基本的に「ああして下さい。こうして下さい。」と言うのが演出だとは思ってないので、俳優さん自ら出たものが一番強いと思っています。さりげなく誘導することはありますが、俳優さん自身でこうしたいと言える場(環境)を作ることがスタッフの務めだと思っています。納得のいく方法で何度でも演じてもらえる雰囲気作りを心掛けています。
〈バディものの映画?〉
――佐藤家の家族がとても仲良く見えましたが?
佐藤家は撮影所のセットなんですが、外観や書斎やリビングは勿論、インテリアに至るまで細かく造り込んでいます。佐藤家の三世代、草笛さんは娘役の真矢みきさんや孫役の藤間爽子さんといつも一緒に待機場所のテーブルにいて、ぺちゃくちゃと差し入れのお菓子を食べながらおしゃべりされてました。家族そのまんまの雰囲気でいてもらえて助かりましたね。家族って容赦ないものですから、ズバズバと厳しく言い合うことは、徹底してもらいました。
その三世代の家族とエッセイのエピソードを組み合わせるのが僕の最初の考えでしたが、そこに脚本の大島さんに入ってもらって、男性の編集者・吉川(唐沢寿明)を登場させることで“バディ”ものでありつつ、時代に取り残された二人の逆襲の物語に仕上がったのです。大島さんのお陰です。
――唐沢寿明さんは?
唐沢さんのあの髪の毛はそのままの状態ですよ。衣装合わせの時、「このままでいいだろう!」と仰って。いかにも“江戸っ子”らしく、スパッとして明確で実に気持ちのいいプロフェッショナルな俳優さんです。一緒に仕事していて楽しかったです。
――唐沢さん演じる吉川編集者は大島さんのアイデアだったんですね?
吉川のモデルとなった編集者はおられますよ。吉川のキャラクターはフィクションですが、ご本人には映画化に多大な協力をして下さった方なので、真矢さん演じる娘の夫役として写真の中に登場して頂きました。
――佐藤家と昭和気質の吉川の家族との対比は物語に深みを出していますが?
吉川に対しては、中高年の男性が見ると身につまされるところがあるみたいです。
――確かに、30歳の私でも我が事のように共感しました。
ええ?ああはならないでしょう。昭和は入ってないのに?
――はい、若干昭和気質なところがありまして…。
(吉川とは対照的な若者役の)千之助くんではなく?
――千之助さんみたいなタイプはちょっと苦手ですね。(笑)(何の話や?)
〈過去と未来をつなぐシーン〉
――ところで、吉川の娘のダンスシーンが素晴らしかったですね?
吉川の娘役の中島瑠菜さんにはダンスを先生の指導のもとで2か月間練習してもらいました。彼女は手足が長いのでとても綺麗に踊れていましたね。それに衣装を彼女に合わせてデザインしてもらったのも良かったと思います。
〈動物より難しい90歳!?〉
――犬のエピソードについて?
犬のエピソードは絶対マストのこだわりのシーンでした。あの仔犬は2匹いまして、「つみれ」と「はらみ」という名前なんです。仔犬は調教できないので段ボールに入れたまんまでしたが、でも1回出たらちゃんとやれるんですよ。「仔犬は1時間で成長しますから」(もっと早く言ってよ!(笑))。成犬の「こなつ」ちゃんはとってもいいコでね、じ~っと待ってるんですよ。
――動物を撮るのは難しい?
そうですね、でも僕は『ブタがいた教室』では豚、『ドルフィンブルー フジ~』ではイルカと、動物には縁があって…元々動物は好きなんです。「動物と子供は大変だ」という話はよく聞きますが、僕には90歳の方が大変でした!(笑)
観客も写真撮影OKということで、「写真撮ってSNSで拡げて下さいね。でもSNS見ない世代が対象かも?先日老人ホームで凄い評判になってますよ、という声を頂いたのですが、施設で評判になっても興行収入には繋がらないしな~(笑)」と、最後まで「ひとりツッコミ」で笑わせてくれた前田哲監督。出身地や年齢を公表していない割には、終始関西弁で喋りまくっていた。あの調子で草笛光子の茶目っ気に鋭いツッコミ入れては笑いをとっていたんだろうなぁ。羨ましくなるような和やかな撮影現場を想像しては、また『九十歳。何がめでた』を観たくなった。
『九十歳。何がめでたい』
【ストーリー】
断筆した作家・佐藤愛子は90 歳を過ぎ、先立つ友人・知人が多くなると人付き合いも減り、鬱々と過ごしていた。そこに、会社でも家庭でも崖っぷちの編集者・吉川がエッセイの依頼にやってくる。「書かない、書けない、書きたくない!」と何度も断るが、手を変え品を変えて執拗に頼み込む吉川。仕方なく引き受けたエッセイに、「いちいちうるせえ!」と世の中への怒りを⾚裸々にぶちまけて、それが中高年の共感を呼び予想外の大ベストセラーとなる。初めてベストセラー作家となった愛子の人生は 90 歳にして大きく変わっていく。
(2024年 日本 1時間39分)
■原 作:佐藤愛子「九十歳。何がめでたい」「九十八歳。戦いやまず日は暮れず」(小学館刊)
■監 督:前田哲 脚本:大島里美 音楽:富貴晴美
■出演:草笛光子、唐沢寿明、藤間爽子、木村多江、真矢ミキ ほか
■製作幹事:TBS
■配 給:松 竹
■原作コピーライト:Ⓒ佐藤愛子/小学館
■映画コピーライト:©2024 映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 Ⓒ佐藤愛子/小学館
■公式サイト: https://movies.shochiku.co.jp/90-medetai/
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(河田 真喜子)