レポートインタビュー、記者会見、舞台挨拶、キャンペーンのレポートをお届けします。

「全ての人間が持つ"嫉妬"という感情を描くことにやりがいを感じました」『リトル・エッラ』クリスティアン・ロー監督インタビュー

IMG_8401.jpg
 
 ノルウェーの青春音楽ロードムービー『ロスバンド』で知られるクリスティアン・ロー監督のスウェーデンを舞台にした最新作『リトル・エッラ』が、4月5日より新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、シネマート心斎橋、アップリンク京都で公開中、4月20日より元町映画館、以降全国順次公開される。スウェーデンの街やファッション。フードのカラフルさだけでなく、個性豊かな登場人物が次々登場し、人種、ジェンダーの壁を軽やかに超えて、最後はそれぞれが、かけがえのない友情や愛情に気づく。ぜひ親子でご覧いただきたい、ハートウォーミングな作品だ。本作の公開を記念し、来日したクリスティアン・ロー監督にお話を伺った。
 
<ストーリー>
人と仲良くするのが苦手なエッラが、唯一仲良くできるのは、おじさんで“永遠の親友”であるトミーだけ。両親が休暇で出かけている間、トミーと過ごすのを楽しみにしていたエッラだったが、オランダからトミーの恋人スティーブがやってきて、夢の1週間は悪夢へと変わる。親友を取り戻したいエッラは転校生オットーの力を借りてスティーブを追い出すための作戦に出るのだが…
 

 

sub_01.jpg

 

■最高の児童映画があるスウェーデンで、子どもの映画を撮れたのは本当に光栄

―――まず、監督は今までどんな映画に影響を受けたのかを教えてください。
ロー監督:『ロスバンド』も『リトル・エッラ』もインスピレーションを受けたのは『リトル・ミス・サンシャイン』です。また『ロスバンド』は『セッション』にもインスピレーションを受けました。自分が小さい頃は『グーニーズ』やアストリッド・リンドグレーンの作品が大好きで、特に「長くつ下のピッピ」がお気に入りでした。『リトル・エッラ』ではおばあちゃん役のインゲル・ニルセンさんが、テレビシリーズに出演していたので、彼女に演じてもらうのは素晴らしいことでした。小さい頃から、スウェーデンの児童映画は最高のものだと思っていたので、自分がスウェーデンの子どもの映画を撮ることができたのは、本当に光栄だと思っています。
 日本の映画ではジブリ作品が大好きで『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』がお気に入りです。今回は妻子と来日していますが、三鷹の森ジブリ美術館にも行きました。
 
―――ロー監督はノルウェーのご出身ですが、今回隣国のスウェーデンで撮影され、新たな発見や文化の違いはありましたか?
ロー監督:実はノルウェーとスウェーデンはとても似ている国で、言語も非常に似ているのですが、わずかに違うのが、スウェーデンにはフィーカというコーヒーブレイクがあります。映画でもモンスターケーキを食べるシーンが出てきましたが、ああいうお菓子を食べながらコーヒーを飲むんです。昼休み以外にも、スウェーデンでは、みんなフィーカのお休みを取ろうとすることすることが多かった。わたしはノルウェーではとてもスピーディーに仕事をするタイプなのですが、スウェーデンではフィーカの休みに引きずられ、撮影もいつものようにテキパキとはいかなかったですね。
 
 
sub_03.jpg

 

■嫉妬という感情やおじさんとの友情を軸に、オリジナルの“いたずら”を加えて

―――本作は、スウェーデン出身の絵本作家ピア・リンデンバウムさんの『リトルズラタンと大好きなおじさん(未訳)』が原作ですが、一番心惹かれた点や、映画化するにあたり大事にした点を教えてください。
ロー監督:この絵本は素晴らしいと読む前から噂を耳にしていましたが、実際映画化の企画が立ち上がってから読んでみると、嫉妬という感情について描かれているのが素晴らしいと思いました。この感情は全ての人間が持つもので、そこを描くことにとてもやりがいを感じました。あとは絵本で描かれているおじさんとの友情についても素晴らしいと思いました。絵本のスタイルを大事にする一方、原作はたった30ページしかなかったので、映画化するにあたっては大幅に要素を付け加えることが必要でした。例えばカーチェイスのシーンを付け加えましたし、エッラと友達になりたがり、スティーブ追い出し作戦に協力してくれる転校生のオットーは新たに作り出したキャラクターです。そして、あとはユーモアが必要でした。映画化においては、エッラが繰り出すさまざまないたずらを付け加えています。
 
―――なるほど。エッラのいたずらは、ほとんど監督が考えたのですか?
ロー監督:原作ではスティーブの靴の上に塩を振るシーンはありましたが、付け加えたのはネズミとか、コーヒーに塩を入れるシーン。そしてスティーブの髪を刈り上げるシーンですね(笑)。
 
―――エッラのいたずらを受け止める大人たちの寛容さにも驚きました。日本では人に迷惑をかけないように、大人がすぐ叱ることが多いのですが、ノルウェーやスウェーデンでは子どもに対してどのように接しているのですか?
ロー監督:映画の中のトミーは非常に我慢強いですよね(笑)。わたしたちの文化は叱りつけるというよりは、もう少し穏やかに子どもと話をするという文化かもしれません。ただ、トミーほど(いたずらをされ続けても)寛容でいられるかは難しいですね。
 
 
sub_04.jpg
 
―――多様性が違和感なく伝わってきて、見終わってとても幸せな気持ちになれます。
ロー監督:わたしも『リトル・エッラ』の原作者であるピア・リンデンバウムさんが大好きで、トミーおじさんに男性の恋人がいることがごく自然に描かれていたので、映画の中でも活かしたいと思いました。
 
―――前作の『ロスバンド』でも、不器用な子どもを主人公にした作品を作られていますが、ご自身の作家性についてどのように捉えておられますか?
ロー監督:第一に若い観客を非常に大事にしているし、彼らが好きですね。若い観客が受ける映画体験は非常に強いものがありますから。わたしは少し疎外感を覚えている登場人物を描く傾向があります。わたしも小学校の時、自分の居場所はここにはないと感じていました。『ロスバンド』でも4人のキャラクターがそれぞれ、さまざまな葛藤を抱えていますが、一緒にバンドを組み、友達として乗り越えていくことを描きました。『リトル・エッラ』も友情について描いた作品だと思っています。
 
 
sub_02.jpg

 

■子どもたちがさまざまな芸術家と触れるノルウェーの教育事業「カルチャースクールリュックサック」

―――若い観客を大事にした映画づくりは本当に大切で、日本のミニシアター界でも若い観客を育てるのが喫急の課題であり、大事なのは学生時代に映画を見る体験だと思っています。スウェーデンでは児童映画の秀作も多いということで映画が教育の中に根ざしているのではと思ったのですが、ノルウェーでは映画を教育に取り入れたプロジェクトはあるのですか?
ロー監督:ノルウェーの小中学校では、(国からの予算で運営され、芸術家にも報酬が支払われる)カルチャースクールリュックサックという取り組みがあります。子どもたちがさまざまな分野の芸術家たちに出会える機会を作るというもので、『リトル・エッラ』もいろいろな街の映画館で上映し、地元の小中学生が観客として訪れ、監督とのQ&Aの時間や話し合いの時間を設けています。子どもたちにとってさまざまな芸術家に直接出会える体験は非常に大切だと思います。高校ではメディア学科があり、大学は僕の出身地、リレハンメルに国立の映画大学があります。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『リトル・エッラ』 “LILL-ZLATAN OCH MORBROR RARING”
(2022年 スウェーデン・ノルウェー 81分)
監督:クリスティアン・ロー  
出演:アグネス・コリアンデル、シーモン・J・ベリエル、ティボール・ルーカス 他
現在、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、シネマート心斎橋、アップリンク京都で公開中、4月20日より元町映画館、以降全国順次公開
(C) 2022 Snowcloud Films AB & Filmbin AS
 

月別 アーカイブ