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「もっと多くの場所で上映され、同性愛者への差別がなくなることを祈っている」エストニア・イギリス合作『Firebird ファイアバード』監督、キャスト 単独インタビュー

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1970年代後期、ソ連占領下のエストニアを舞台に兵役中に出会ったパイロット将校との愛と葛藤を描く『Firebird ファイアバード』が、2月9日よりなんばパークスシネマ、MOVIX堺、MOVIXあまがさき、kino cinema 神戸国際ほか全国で絶賛公開中だ。エストニア初のLGBTQ映画であると同時に、本作のエストニアでの大ヒットが同国で同性婚法が成立する後押しになったという。本作が長編デビュー作となったペーテル・レバネ監督とセルゲイ役のトム・プライヤー、ロマン役のオレグ・ザゴロドニーが来阪し、2月10日(土)なんばパークスシネマでの舞台挨拶後に行ったインタビューをご紹介したい。


―――遠方から来日いただき、ありがとうございます。すでに1週間近く滞在されているとのことですが、日本の印象はいかがですか?

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レバネ監督:国も美しいし、文化もとても美しい。日本人の哲学なのかもしれませんが、ディテールにこだわっているのを非常に感じます。例えば、(シネルフレ 河田より)差し入れていただいたイチゴ大福!細かいところにも気を使っているところに感銘を受けています。


オレグ:日本のいろいろな人を見てきましたが、皆自分自身のことを気に留めていて、素晴らしいですね。あとは新鮮な魚。寿司が本当に美味しいです。


トム:特に日本語の響きが好きです。内容はよく理解していませんが、すごくソフトできれいな響きですね。あとは食べ物で、わたしはワサビとかスパイシーな食べ物が好きなので、何かお勧めがあれば教えてください(笑)


■戦争が終わり、平和が戻ったらキーウでも上映したい(レバネ監督)

―――2011年にレバネ監督が原作と出会い、今年日本でようやく公開されましたが、いまのお気持ちはいかがですか?またオレグさんが住んでいるウクライナ・キーウでの映画への反響についても教えてください。

レバネ監督:最初に、ウクライナではまだ公開されていません。というのもこの作品は2021年完成しましたが、翌年の2月にウクライナでの戦争が始まってしまったので、映画のキャンペーンや配信ができなかったのです。ですから、戦争が終わり、平和が戻ってきたら、キーウで上映したいと思っています。

昨日東京で舞台挨拶イベントがあったとき、ひとりの女性が上映後に感想を寄せてくれました。彼女も女性同士で恋愛をしており、周りにそのことを言うのは怖いと明かしてくれた。『Firebird ファイアバード』がもっと多くの場所で上映され、同性愛者に対する差別が取り除かれるようになることを祈っています。

 

―――『Firebird ファイアバード』はエストニアで最初のLGBTQを描いた作品と聞いていますが、社会的抑圧など今までは作れない理由があったのですか?

レバネ監督:本作を作るにあたり特に困難なことはなく、むしろ予算面も含め様々な支援を受けてきました。エストニアは人口1200万人の小さな国で、年間で作られる映画の本数もかなり少ないので、今回たまたま初めてのLGBTQ作品になったのではないかと思います。多分他の監督はLGBTQという題材に対し、それほど情熱を持っていなかったから作らなかったのでしょう。映画の感想もかなりポジティブなものが多く、人々に大きな影響を与えることができたと思っています。
 

■原作者セルゲイの生き様に触れたことが、脚色や役作りの決め手に(トム)

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―――舞台挨拶でオレグさんはオーディションでロマン役に選ばれたと話されていましたが、トムさんはどのような経緯で本作に参加し、共同脚色することになったのですか?

トム:わたしは当時ロサンゼルスで映画プロデューサー関連の仕事をしていたのですが、そこでの会議で知り合った方からレバネ監督のことを紹介され、2〜3週間後にロンドンで初めて監督とお会いしました。最初に資金集めのことを話し合い、それがうまくいったので原作の脚色をするためにふたりで2年ぐらいやりとりを重ねました。レバネ監督と共に原作者のセルゲイに会いにロシアを訪れ、彼の生き様に触れたことがその後の脚色や役作りの決め手になりました。


―――70年代、ソビエト連邦占領下のエストニアで愛し合う主人公たちを演じるにあたり、おふたりはどんな準備をされたのですか?

オレグ:リハーサルに3ヶ月、映画撮影に55日間(オレグさんは42日間)と撮影にかかった時間が非常に長かったので、その間ずっとトムと一緒にいたのは事実です。そこで軍隊の規律を学んだり、肉体的なトレーニングをはじめ、様々な準備や台本読みなども行いました。ふたりの関係性を築くにあたってのコミュニケーションについては私たちだけの秘密です。他のファンタスティックで深い愛を描く作品を演じる俳優にスキルを盗まれてしまいますから(笑)


レバネ監督:実際、オレグさんは最初、英語をあまり上手に話せなかったので、会話がないところからのスタートだったんですよ。


―――そんなふたりの距離がぐっと近づく舞台鑑賞のシーンではオリジナル振り付けの「ファイアバード」が登場しますが、登場シーンが少なく残念でした。

レバネ監督:ちょっとしたバレエ映画が作れるぐらい長時間撮影したのですが、編集でかなりカットすることを余儀なくされたんです。


―――本作はロマンの妻で、セルゲイの同僚だったルイーザ(ダイアナ・ボザルスカヤ)を含めた三角関係が、より物語を深く、そして苦悩にも満ちたものにしていますが、ルイーザ、しいては演じたダイアナさんについてどのように感じて演じていたのかを教えてください。

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オレグ:ダイアナさんは私と同じくオーディションでルイーザ役を射止めました、非常に優れた女性であり俳優であることは間違いないのですが、彼女はロシア人なので私よりも置かれている状況は深刻です。彼女の夫もロシアの有名俳優なのですが、残念ながらロシアは私たちの敵でもあるので、私の中で複雑な感情があることは事実です。

ロマンは愛を貫くために、そしてパイロットとしての自分の人生を守るためにルイーザを利用してしまった。そしてそんな自分自身に対して嘘をつくことが難しくなり、結局はセルゲイを苦しめることにもなるわけで、散々愛する人たちを傷つけてしまったのは間違いありません。彼が選んだのは空で、結局そこが自分の最期の場所になってしまったと思っています。


■この作品でウクライナでは見られなかった世界が開けた。国際的な映画にも積極的に参加したい(オレグ)

―――オレグさんは、この作品に出演され、俳優としてご自身が変わったことはありますか?また今後外国の作品に積極的に出たいと思われているのかお聞かせください。

オレグ:この作品に出演したことで、私の人生は非常に変わりました。ウクライナで活動するだけでは見ることができなかった世界が開けましたし、様々な機会をいただき、そして驚いたことに今私は大阪にいます!ベルリン、ニューヨーク、エストニアと広く上映されている国に行くことができました。将来的には国際的な映画にも積極的に参加していきたいです。多くの監督や演劇人は世界をターゲットにしていますので、そういう人たちと話し合いながら、今後の活動を進めていきたいと思っています。

 

―――トムさんは俳優だけでなく、脚本家やプロデューサーの顔もお持ちですが、今後どのような分野に興味を持っているのですか?

トム:私が今、興味を持っているのはリアリティーの本質です。日頃から物事を深く考えるタイプで、人生とは何かを考えるようにしています。人によって人生に起こることは様々ですし、一歩引いた目でこの先自分にどんなことか起こるのかを見ているところです。ですからプロデューサーや演劇など、いろいろと自分を取り巻くであろうものを受け止めようと思っています。


FIREBIRD-inta-2.10-500-1.【3S】レバネ監督→トム→オレグ.jpg(上の写真:3人とも逆三角形の素晴らしいスタイルなので日頃から鍛えているのかと質問すると、「いえ、親からもらった体のままです!」とオレグ)

―――最後に、この作品はLGBTQの枠を超えて、人間が持っている愛の表現の仕方や愛の意味についてしっかりと描かれており感動しました。レバネ監督は冒険家やイベントプロデューサーなど様々なキャリアを積まれていますが、映画は今回が初長編ということで、今後も映画を撮り続ける予定でしょうか?

レバネ監督:正直に話すと、この映画を撮り終えたときは、もう絶対に映画はやらないと思いました(笑)。映画を作るのはもちろん驚くべきことですが、同時に1日13時間働くこともあり、日頃寝る時間を大切にしている身としては非常に厳しかった。寝不足でも翌朝はまた撮影が始まり、大変だけど濃縮した時間でした。

一方で、ストーリーを作り、みなさんに届けることは、お金やキャリアなど関係なく、かなり楽しいプロセスだと思っています。そしてエキサイティングですよね。ラブストーリーの映画を作ることや、人々がどれだけそれに情熱を傾けることができるかを考えるのは楽しかった。やはり情熱なしに成し遂げることは難しいですから。今回の体験を経て、この12月から1月ぐらいには次回作の脚本を書こうかという気持ちになっています。
 


【 Introduction 】

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2011年ベルリン国際映画祭、監督のペーテル・レバネは見知らぬ男に声をかけられた。「この本を読んで貰えないか」本の表紙には、『ロマンについての物語』と書かれている。その週末、ペーテルは一気にこの本を読み終えた。そして、すぐに映画化を決めた。それほどに、無名の俳優セルゲイ・フェティソフが綴ったこの回想録は、ペーテルの心を深く衝き動かしたのだった。


ペーテルは2014年に、俳優のトム・プライヤー(『博士と彼女のセオリー』『キングスマン:シークレットサービス』)と知り合うと意気投合、彼らはセルゲイに多くの時間をかけてインタヴューを重ね、脚本の準備を始めた。セルゲイのことを知れば知るほど、二人はこの企画にのめり込んでいった。―― 彼の生き方は愛の力そのものであり、勇気と歓びと人生への驚きを喚び起こす―― こうして三人の共作による脚本は完成した。

ところがそんな矢先、ペーテルとトムの元に想像もしなかった報せが届く。
2017年、セルゲイ急逝。65歳の若さだった。
ペーテルとトムはもう後戻りできないことを理解していた。

4年後、『ファイアバード』は、ペーテル、トム、そしてセルゲイの想いを乗せて、漸く完成に漕ぎつけた。


【 Story 】

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1970年代後期、ソ連占領下のエストニア。モスクワで役者になることを夢見る若き二等兵セルゲイ(トム・プライヤー)は、間もなく兵役を終える日を迎えようとしていた。そんなある日、パイロット将校のロマン(オレグ・ザゴロドニー)が、セルゲイと同じ基地に配属されてくる。セルゲイは、ロマンの毅然としていて謎めいた雰囲気に一瞬で心奪われる。ロマンも、セルゲイと目が合ったその瞬間から、体に閃光が走るのを感じていた。写真という共通の趣味を持つ二人の友情が、愛へと変わるのに多くの時間を必要としなかった。しかし当時のソビエトでは同性愛はタブーで、発覚すれば厳罰に処された。一方、同僚の女性将校ルイーザ(ダイアナ・ポザルスカヤ)もまた、ロマンに思いを寄せていた。そんな折、セルゲイとロマンの関係を怪しむクズネツォフ大佐は、二人の身辺調査を始めるのだった。


【ファイアバード】
※火・熱・太陽の象徴である“火の鳥(ファイアバード)”には、永遠の命と大きな愛の力が宿っている。しかしその圧倒的な強さゆえ、触れると火傷をすることもある。


【作品情報】

(2021年 エストニア・イギリス 107分)
ペーテル・レバネ監督・脚色作品 共同脚色:トム・プライヤー / セルゲイ・フェティソフ
原作:セルゲイ・フェティソフ
出演:トム・プライヤー / オレグ・ザゴロドニー / ダイアナ・ポザルスカヤ
配給・宣伝:リアリーライクフィルムズ
関西地区宣伝:キノ・キネマ/Ngrowing
© FIREBIRD PRODUCTION LIMITED MMXXI. ALL RIGHTS RESERVED / ReallyLikeFilms

公式HP:https://www.reallylikefilms.com/firebird
公式X(旧Twitter):@firebird_movie 
Instagram:@reallylikefilms
YouTube:@reallylikefilms6087

2024年2月9日(金)~新宿ピカデリー、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、MOVIX京都、kino cinema 神戸国際、MOVIXあまがさき 他にて絶賛公開中!


(取材:河田 真喜子、江口 由美 文:江口 由美   場所:なんばパークスシネマ)

 

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