日時:2024年2月10日(土)16:35~
場所:なんばパークスシネマ(大阪市浪速区難波中2-10-70 なんばパークス8F)
登壇者:ペーテル・レバネ監督、トム・プライヤー、オレグ・ザゴロドニー(敬称略)
1970年代後期、ソ連占領下のエストニアを舞台に兵役中に出会ったパイロット将校との愛と葛藤を描く『Firebird ファイアバード』が、2月9日よりなんばパークスシネマ、MOVIX堺、MOVIXあまがさき、kino cinema 神戸国際ほか全国で絶賛公開中だ。エストニア初のLGBTQ映画であると同時に、本作のエストニアでの大ヒットが同国で同性婚法が成立する後押しになったという。本作が長編デビュー作となったペーテル・レバネ監督とセルゲイ役のトム・プライヤー、ロマン役のオレグ・ザゴロドニーが来阪し、2月10日(土)なんばパークスシネマにて上映後の舞台挨拶が行われた。その模様をご紹介したい。
―――映画製作の経緯について教えてください。
レバネ監督:わたしがベルリン国際映画祭に行ったとき、セルゲイという俳優に会い、彼の自叙伝を渡され読んだのですが、思わず泣いてしまいました。力強くシンプルなラブストーリーかつ、ソビエト連邦と空軍という背景がユニークで、自分が強く思い入れるのを感じました。空軍はかなり厳しく個人の選択が制限されてしまい、こんな悲劇が起こってしまうのです。
―――最初に映画化を聞かされたときにどう感じたのですか?
トム:まず台本を渡され、最初に「ワオ!」と驚きました。軍隊の中で美しいラブストーリーが展開され、その部分もかなりユニークで感銘を受けました。
―――どのようにオファーされたのですか?
オレグ:俳優、プロデューサーやキャスティングディレクターが選ぶ中で、モスクワに呼ばれ、彼らに会いました。最初にセリフを読んだのですが、当時はまだあまり英語が得意ではなかったので、練習する中でセリフを忘れることもありました。ウクライナ、ロシアなど移動しながら、トムらと少しずつ議論を重ねていきました。2018年9月の最初の撮影時から比べれば、徐々にではありますが英語が上達しているかもしれませんね。
トム:僕は全然ロシア語を話せませんしね(笑)。
―――ウクライナ人のオレグさんが行っている、兵士に軍服を提供する活動について教えてください。
オレグ:アメリカ、ヨーロッパに知り合いが大勢おり、ウクライナ情報をシェアしていたんです。何か支援をできないかという声があったので、軍服をデザインし、最前線で働く兵士たちに送る活動をはじめました。彼らは、僕にとってのヒーローですから。
―――タイトルの『ファイアバード』と劇中のバレエが非常に作品を象徴していると思いますが。
レバネ監督:セルゲイの自叙伝が「ロマンの物語」というタイトルだったので、「ローマ」にしようと思いましたが、古代ローマのイメージが強いと周りから指摘されました。劇中で
ストラヴィンスキーのバレエ音楽「ファイアバード(火の鳥)」を使っていますが、強烈なイメージで、映画のキャラクターを考えるとこれをタイトルにつけていいのではないかと思いました。映画の中でもセルゲイとロマンがバレエ「ファイアバード」を鑑賞するシーンがありますが、それがセルゲイの人生につながっていくので、自然な流れでした。
―――セルゲイご本人にお会いしたときのエピソードを教えてください。
トム:セルゲイ本人に会いにレバネ監督とロシアへ行き、彼の生き方やふるまいを実際に目にしました。セルゲイは非常に明るく、暖かく、ポジティブな方で、この出会いをどのように脚本を書くか、どのように演じるかの決め手になりました。セルゲイは何よりも、かなり抑圧された社会の中に、ポジティブに勇気を持って生きてきたと感じたのです。
―――エストニアでは2024年元日に同性婚法が施行されましたが、映画が法の成立を後押しする役目を果たしたと思いますか?
レバネ監督:映画は強い影響力を持ったメディアだと思います。人々のいろいろなところ、経験や人生に影響を与えると信じています。本作は多少なりとも(法の成立に)影響はあったと思いますが、実際には2010年から議会メンバーやわたしたちがロビー活動をはじめ、テレビ出演してディベートを行ってきました。同性婚がどういうものなのかを人々に伝えていき、その中には喜びや苦しみを持ち合わせてもいます。男性も女性も基本的には同じ問題を抱えているので、社会の中で根気よく伝えていくことが重要でした。そんな中でエストニアにて同性婚法が施行されたのは、ある意味嬉しい驚きだったのです。ただ同じような法律が認められていたロシアでは今、この映画を上映したり、セルゲイの本を売るだけで5年間の禁固刑となり、逆に(同性愛に関することは)禁じられてしまいました。
―――最後に、日本のみなさんにメッセージをお願いします。
オレグ:映画を好きになっていただけたら嬉しいです。
トム:足を運んでいただきありがとうございました。みなさんにお会いできてよかったです。心に深く問いかけるものになればと思っています。
レバネ監督:まずは劇場の方に感謝いたします。観客の皆さんに会える機会をいただきありがとうございます。友達にもぜひこの物語をシェアしてほしいですし、非常に美しい作品の中にいろいろなことが盛り込まれています。この映画を見て、いつも他の人に思いやりを持つ心を感じていただけたらと思います。
【 Introduction 】
2011年ベルリン国際映画祭、監督のペーテル・レバネは見知らぬ男に声をかけられた。「この本を読んで貰えないか」本の表紙には、『ロマンについての物語』と書かれている。その週末、ペーテルは一気にこの本を読み終えた。そして、すぐに映画化を決めた。それほどに、無名の俳優セルゲイ・フェティソフが綴ったこの回想録は、ペーテルの心を深く衝き動かしたのだった。
ペーテルは2014年に、俳優のトム・プライヤー(『博士と彼女のセオリー』『キングスマン:シークレットサービス』)と知り合うと意気投合、彼らはセルゲイに多くの時間をかけてインタヴューを重ね、脚本の準備を始めた。セルゲイのことを知れば知るほど、二人はこの企画にのめり込んでいった。―― 彼の生き方は愛の力そのものであり、勇気と歓びと人生への驚きを喚び起こす―― こうして三人の共作による脚本は完成した。
ところがそんな矢先、ペーテルとトムの元に想像もしなかった報せが届く。
2017年、セルゲイ急逝。65歳の若さだった。
ペーテルとトムはもう後戻りできないことを理解していた。
4年後、『ファイアバード』は、ペーテル、トム、そしてセルゲイの想いを乗せて、漸く完成に漕ぎつけた。
【 Story 】
1970年代後期、ソ連占領下のエストニア。モスクワで役者になることを夢見る若き二等兵セルゲイ(トム・プライヤー)は、間もなく兵役を終える日を迎えようとしていた。そんなある日、パイロット将校のロマン(オレグ・ザゴロドニー)が、セルゲイと同じ基地に配属されてくる。セルゲイは、ロマンの毅然としていて謎めいた雰囲気に一瞬で心奪われる。ロマンも、セルゲイと目が合ったその瞬間から、体に閃光が走るのを感じていた。写真という共通の趣味を持つ二人の友情が、愛へと変わるのに多くの時間を必要としなかった。しかし当時のソビエトでは同性愛はタブーで、発覚すれば厳罰に処された。一方、同僚の女性将校ルイーザ(ダイアナ・ポザルスカヤ)もまた、ロマンに思いを寄せていた。そんな折、セルゲイとロマンの関係を怪しむクズネツォフ大佐は、二人の身辺調査を始めるのだった。
【ファイアバード】
※火・熱・太陽の象徴である“火の鳥(ファイアバード)”には、永遠の命と大きな愛の力が宿っている。しかしその圧倒的な強さゆえ、触れると火傷をすることもある。
【作品情報】
(2021年 エストニア・イギリス 107分)
ペーテル・レバネ監督・脚色作品 共同脚色:トム・プライヤー / セルゲイ・フェティソフ
原作:セルゲイ・フェティソフ
出演:トム・プライヤー / オレグ・ザゴロドニー / ダイアナ・ポザルスカヤ
配給・宣伝:リアリーライクフィルムズ
関西地区宣伝:キノ・キネマ/Ngrowing
© FIREBIRD PRODUCTION LIMITED MMXXI. ALL RIGHTS RESERVED / ReallyLikeFilms
公式HP:https://www.reallylikefilms.com/firebird
公式X(旧Twitter):@firebird_movie
Instagram:@reallylikefilms
YouTube:@reallylikefilms6087
2024年2月9日(金)~新宿ピカデリー、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、MOVIX京都、kino cinema 神戸国際、MOVIXあまがさき 他にて絶賛公開中!
(文:江口 由美 写真:河田 真喜子)