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「ぜひ泣いてください!」鬼才ギャスパー・ノエ監督、念願の大阪で最新作『VORTEX ヴォルテックス』を語る

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 モニカ・ベルッチ主演の『アレックス』(2002)やシャルロット・ゲンズブール、ベアトリス・ダルを起用した『ルクス・エテルナ 永遠の光』(2020)など、大胆な暴力や性描写で、賛否両論を巻き起こしてきたギャスパー・ノエ監督の最新作、『VORTEX ヴォルテックス』が、12月8日(金)よりシネ・リーブル梅田、ユナイテッド・シネマ橿原、12月15日(金)よりシネ・リーブル神戸、アップリンク京都ほか全国順次公開される。
 認知症を患った妻と、心臓に持病を持つ夫。80代の老夫婦が老老介護をしながら暮らす日々を、その命が尽きる日まで追い続けるヒューマンドラマ。夫婦それぞれの行動を2つの画面で同時に追い続けるという驚きの手法で、老いや妻に隠した秘密、それぞれの人生を紐解いていく。たまに訪れる息子との会話は、親の介護世代には他人事とは思えないリアルさ見事に映し出しているのだ。
11月16日(木)、シネ・リーブル梅田で行われた先行プレミア上映では、上映前にギャスパー・ノエ監督が登壇。最初のご挨拶が「儲かってまっか?」と、必死で覚えた関西弁を披露。東京へは映画(『エンター・ザ・ボイド』)を撮影するぐらい何度も足を運んでいたが、周りから関西を絶対に気にいると推され続けていたというノエ監督。念願の観客との交流に大きな笑みを見せた。
 
 
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■実体験をもとに、老人が登場するメロドラマを

2年前のロックダウン中に、1ロケーションで完結し、俳優2〜3人という制限の中で作れる企画をプロデューサーから打診されたノエ監督は、母が認知症で10年前に亡くなっていたこともあり、認知症や老いについての映画を構想していたという。そこから10ページぐらいの脚本を書き、ロケーションを探し、1ヶ月後には撮影に入るというハイスピードで進行したことを明かした。もう一つのコンセプトはメロドラマ。
「暴力やセックスなど刺激的なものではなく、もっと大人らしいテーマで撮りたかった。2020年は個人的にも体調が悪く、ずっと家に引きこもっていたが、溝口監督や木下監督の映画をたくさん観ていたんです。中でも『楢山節考』に大きな影響を受けたことが、この映画につながっています。登場人物が若い人より、老人が出演している方がさまざまな人に共感してもらえます。誰にでも家族に祖父や祖母がいるでしょうし、観終わってから自分の家族のことを思い出したという感想もいただきました」
 
 
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■2画面構成で表現する老夫婦の心の距離

 本作の特徴はなんといっても、夫婦それぞれの動きを2画面構成で見せる点だ。過去2作品ですでにこの手法を使っていたというノエ監督は、脚本を書いた後、どうやって撮ろうかと考えたときに、2画面構成を使うことが一番適しているのではないかと考えたという。「同じ屋根の下に住んでいる老夫婦がどんどん離れていくという表現に的確。また、映画をよく観る人ではなくても、どういう感情を伝えようとしているのかわかります。2台のカメラで撮影しましたが、撮影しやすい場面もあれば、しにくい場面もありました。中盤に、夫と息子、妻と孫の4人がテーブルを囲むシーンがありますが、妻を演じるフランソワーズ・ルブラが僕の指示はないところで突然泣き始めると、夫を演じるダリオ・アルジェントが手をすっと取る姿を2台のカメラで撮影したのです。分割されているので、微妙に手の位置がずれていて、そのシーンのことを褒められることもありますが、アクシデントで撮れたシーンでした」
 
また本作はドキュメンタリーっぽいという感想も多いそうで、ノエ監督は、自然光を使っていることや、シチュエーションを説明し、その中で俳優が即興でキャラクターを作るからこそ生まれる自然さもあったことを明かした。
「ダリオ・アルジェントは『サスペリア』や『インフェルノ』などで非常に有名な映画監督ですが、ぜんぶ即興で、セットの上でキャラクターを作り上げていくので、セリフを覚えられないなど気にしなくてもいいと、この役を演じてもらうように説得しました。老人が自分の飼ってる犬の世話をできなくなるダリオと僕が好きな映画『ウンベルト・D』(1952)や、黒澤監督の『生きる』などを引き合いに出し、俳優でなくても演技はできると。実際の演技は素晴らしかった」と絶賛。
 
 
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■現場はアドリブの競い合い!?

現場ではダリオ・アルジェント、フランソワーズ・ルブラン、そして息子役のアレックス・ルッツダリオの3人とも、自分の方のアドリブがよいとお互いに競争しながら作っていたという。コロナ中の撮影でうつらないようにという緊張感があったというノエ監督。
「ダリオは、自分が撮影するときも2〜3テイク以上は絶対に撮らない。僕がもっと撮りたくても、2〜3テイクで完璧だからと去ってしまい、それ以上は撮れなかったんです。彼は
実際に映画監督になる前は映画評論家でしたし、実際にフランスに住んでいたことがあるので、フランス語も堪能でうまく役を演じていました。加えて、フランソワーズは70年代に公開された主演作『ママと娼婦』の大ファンで、妻役をぜひとオファーしました」
 
 大阪では大好きな映画ポスターを買いに行きたいと語ったノエ監督。最後に「ぜひ泣いてくださいね。そして楽しんでください」と観客にメッセージを送り、上映後にもふれあいタイムを作ることを自ら公言。初大阪舞台挨拶を大いに楽しみ、語ってくださった。誰しもが通る老いと死を見つめたノエ監督のまさに新境地と言える作品は、親世代、子世代、孫世代とさまざまな世代に共感をよび、自分の人生と照らし合わせたくなることだろう。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『VORTEX ヴォルテックス』” VORTEX”
2021年 フランス 148分 
監督・脚本・編集:ギャスパー・ノエ
出演:ダリオ・アルジェント、フランソワーズ・ルブラン、アレックス・ルッツ
劇場:12月8日(金)よりシネ・リーブル梅田、ユナイテッド・シネマ橿原、12月15日(金)よりシネ・リーブル神戸、アップリンク京都ほか全国順次公開
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