『ミロクローゼ』で山田孝之とタッグを組み、独自の世界観を強烈に印象付けた石橋義正監督の12年ぶりとなる最新作『唄う六人の女』が、2023年10月27日(金)より大阪ステーションシティシネマ、京都シネマ、OSシネマズ神戸ハーバーランド他全国ロードショーされる。
父親の訃報を受け、山奥の生家に帰った萱島(竹野内豊)は、幼少期に両親が離婚して以来疎遠だった父親が、毎日山で何かを探していたことを近所の人から聞く。父から相続した山を買うために訪れた東京の開発業者、宇和島(山田孝之)との契約を済ませ、宇和島に最寄り駅まで送ってもらう途中、事故に遭ってしまう。ふたりが目覚めると、森の奥で六人のミステリアスな女性たちに監禁されてしまい…。
ふたりの男を森の中で監禁する六人の女性たちを演じるのは、水川あさみ、アオイヤマダ、服部樹咲、萩原みのり、桃果、武田玲奈。それぞれの魅力を活かし、艶っぽさやスリリングさを感じさせると同時に、身体表現の美しさにも心を奪われる。女性たちの正体は?そしてその狙いは何なのか。京都府南丹市の原生林をはじめ、豊かな自然の森の中で繰り広げられる壮大なミステリーだ。
濡れる女を演じたアオイヤマダさん、見つめる女を演じた桃果さんにお話を伺った。
■セリフがない役にワクワク、ドキドキ(桃果)
大好きな石橋義正ワールドで、自ら挑みたい役を直訴
(アオイヤマダ)
――――ホラーの要素が強いのかと思いきや、観終わると実写版ジブリではと思わせる壮大なテーマを感じました。おふたりのオファーをいただいたときのことや脚本を読んで、どのように解釈したかを教えてください。
桃果:最初からセリフがない役だと伺い、ずっとどういうことなのか考えていたので、脚本を読み、六人の女たちが皆セリフをしゃべらないことに、むしろワクワクする感覚がありました。現場に入る前は、セリフがない分、表情や仕草で伝えなければとドキドキしましたね。
アオイヤマダ:普段ダンサーとして活動しており、日常的に体を動かして表現しているので、言葉がないことにはあまり抵抗はなかったです。わたしは石橋義正ワールドが大好きで、オファーをいただいたときは、やらせてくださいと即答したのですが、一方で何か壁にぶち当たりたい気持ちがありました。どんな役があるのかを監督に聞くと、水で泳ぐ役があることを知り、「どうしてもやらせてください。水に潜らせてください」と自分からお願いしました。水に慣れた人にオファーする方が、演出側もリスクは少ないと思うのですが、石橋監督に特訓をさせてほしいとお願いし、大阪のプールで指導の先生をつけてもらい、通って水中での練習を重ね、本番に挑みました。
――――アオイヤマダさんが石橋ワールドを好きになったきっかけは?
アオイヤマダ:『バミリオン・プレジャー・ナイト』をYoutubeで拝見したとき、そこに『唄う六人の女』があり、わたしはその世界観が大好きでした。ちょっと毒があり、今の世の中でNGすれすれの表現を恐れずにやる反骨精神や、人間が本来持っている欲のようなものを常に映している作品で、音楽もいい。だから、『唄う六人の女』が長編映画化されるとは、一体どういうことになるのかと驚き、期待を胸に今回演じさせていただきました。実際に完成した映画は、観終わると素直に自然と向き合える作品になっていると感じました。わたしが好きだと思う石橋義正ワールドとは違うけれど、おっしゃったように実写版ジブリとも言える、自然と人との関係について考える壮大な世界観になっていますね。
■特殊なキャラクターを演じる上で、インスピレーションを得たものは?
――――唄う六人の女のひとりとして、どのように役作りを行ったのですか?
桃果:セリフがない特殊なキャラクターという設定だったので、どれぐらい感情を持てばいいのか悩みながら撮影に挑んだのですが、山田孝之さんが演じる宇和島とのシーンで、宇和島が何か話すと、どうしても表情で反応してしまうんです。石橋監督からは、とにかく相手をひたすら見つめ、瞬きもこらえて表情には出さないようにとの演出がありました。宇和島に対して興味は持っているけれど、細かな感情は持たないように心がけました。
アオイヤマダ:濡れる女という特殊なキャラクターなので、その気持ちがわかるのだろうかと撮影前はいろいろ考えていたのですが、撮影で山田孝之さんと初対面だったのでご挨拶し、ちょっと緊張した雰囲気が流れた瞬間、わたしの手にバッタが止まったんです。人間はいきなり距離を詰められると拒絶してしまうけれど、虫は人間に対して距離感がなく、勝手に体にまとわりつくことだってある。いきなり距離感ゼロの感じが、竹野内豊さんとの初めて一緒に演じるシーンで役立ちました。だから、撮影中はバッタだけでなく、実際に森にいた生き物たちからインスピレーションをいただいていましたね。普通に生活していたらタブーとされることを一度取り払い、どのようにアクションを起こすかを集中して考え、役に反映させていきました。
――――アオイヤマダさんの場合、日頃ダンサーとして活動する中で、いろいろなものからインスピレーションを得ることが習慣づいているのでは?
アオイヤマダ:わたしが踊っているときに好きなのは、地位や権威、肩書きが全て外れる瞬間です。踊ることでその空気、空間だけが移動している。そこに魅力を感じているので、バッタからインスピレーションを得たのも、日頃の習慣と言えるかもしれません。
――――濡れる女が水中で美しい動きを見せるシーンは、本作の大きな見どころです。
アオイヤマダ:水中では重力がないのでなんでもできるけれど、物理的に呼吸ができない。陸の上で踊るときは呼吸を意識しないと体が堅くなってしまうのですが、水中で呼吸を止めながら伸び伸び動くことは、実際難しいんです。それに加えて、「死ぬかも」と常に思いながら動いていることが、逆に「生きたい」につながるのです。生と死の間で踊るというのも、わたしにとっては貴重な経験でした。
――――桃果さんが演じる「見つめる女」は、山田孝之さんが演じる宇和島とのハードなシーンもありましたね。
桃果:わたしはお芝居をする上で、ハードなシーンでも手加減はあまりされたくないし、むしろ「来るなら来い!」ぐらいのタイプなんです。実際、そのシーンでちょっと擦り傷ができたとき、その傷を山田さんが見たら少し気にしてしまうかなと思い、こっそり傷口を洗っていたのですが、結局山田さんに気づかれ、絆創膏をいただきました。(笑)。それぐらい山田さんも本気で向かってきてくださったので、わたしもすごく演じがいがありましたし、いい経験になりました。
■森での撮影で感じた自然の力
――――京都府南丹市の森の中での撮影でしたが、撮影を通して、どんなインスピレーションを得たのでしょうか?
桃果:通常、撮影ではキツいと思うことも多いのですが、森の中で撮影している間、すごく楽しかったんです。ストレスもなく、むしろ癒される感じで、自然があるから、自分たち人間も生きられると思いますね。あと、わたしは虫が大嫌いだったのですが、見つめる女を演じながら、森の生き物や虫と向き合うようにしていたんです。おかげで、虫に対する苦手意識が減りました。
アオイヤマダ:わたしは長野県生まれで、幼少期は家の近くには川があり、虫とも遊ぶような自然の中で育ちました。でも15歳で上京してから、自分のことに一生懸命で自然のことは他人事になっていたんです。今回、森の中の撮影で、わたし自身が元気になり、やる気もでて、何かに取り組もうと前向きな気持ちになりました。それはやはり自然の力なんです。自然というと漠然としてしまいますが、周りの環境に目を向けられるようになると、周りの人にも目を向けることができ、優しい気持ちになれる。これからもそういうことは大事にしていきたいですね。
――――石橋監督にもふたりの森での撮影の感想をぜひお伝えしたいですね。
アオイヤマダ:石橋監督の作る世界観を掴む上で、監督自身のことを理解したいという思いがあり、でもどこかずっと腑に落ちていない部分があったんです。昔から女性を艶っぽく描くのが特徴だと思っていたのですが、打ち上げのとき、いつから女性へ関心を持ったのかをお聞きすると「3歳です」と即答されて(笑)。でもこの答えを聞いて、わたしの中で、全ての点が繋がりました。3歳から女性像を俯瞰してみることができておられたのかと。
■六人の女、それぞれの美に衝撃(桃果)
思いやりのある世界観を描く(アオイヤマダ)
――――ありがとうございました。最後に、唄う六人の女というのはどんな存在と言えるでしょうか。
桃果:現場でご一緒する機会はあまりなかったのですが、完成した作品を観ると、みなさんそれぞれのエロスや女性らしさがあり、それぞれの美を描いていて、わたしは衝撃を受けました。
アオイヤマダ:わたしは思いやりを持つことだと思うんです。自然対人間という二者択一にするのではなく、思いやりがあれば、自然や人間とコミュニケーションを取り続けられるのではないでしょうか。石橋監督ご自身が思いやりがある方なので、そういう世界観を描けるのだと思います。
(江口由美)
<作品情報>
『唄う六人の女』(2023年 日本 113分)
監督・脚本:石橋義正
出演:竹野内豊、山田孝之、水川あさみ、アオイヤマダ、服部樹咲、萩原みのり、桃果、武田玲奈
2023年10月27日(金)より大阪ステーションシティシネマ、京都シネマ、OSシネマズ神戸ハーバーランド他全国ロードショー
配給:ナカチカピクチャーズ/パルコ
© 2023「唄う六⼈の⼥」製作委員会