半世紀の時を経て現代に蘇るTBSドキュメンタリー史上最大の問題作
「日の丸について気軽に話せる社会のきっかけになれば」
新星・佐井大紀 監督が作品への思いを熱く語る
TBSドキュメンタリー史上最大の問題作を現代に蘇らせた『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』が、2月24日(金)より全国公開中です。
1967年、寺山修司がTBSで構成担当したドキュメンタリー番組『日の丸』。長年タブーとされていた本作を「現代に同じ質問をしたら、果たして?」 という思いから、TBSドラマ制作部所属の佐井大紀(弱冠28歳)が製作した本作。初ドキュメンタリーにして、衝撃的な内容に挑んだ監督にも大きな注目が集まっています。
本作公開を記念し、2月26日(日) に公開記念舞台挨拶を実施しました!
【日時】2月26日(火) ※上映後
【会場】シネ・リーブル梅田 シネマ4(大阪市北区大淀中1丁目1-8 梅田スカイビル)
【登壇】(敬称略)佐井大紀監督 MC:加美幸伸(FM COCOLO DJ)
<以下、レポート全文>
寺山修司が構成を手掛け、街ゆく人に“日の丸”について矢継ぎ早に質問を繰り出すという内容からTBSドキュメンタリー史上最大の問題作と呼ばれた番組『日の丸』。1967年2月9日に放送されると、その直後から世間の物議を醸し、閣議でも問題視されるなど、長年タブーとされてきた曰くつきの番組です。『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』はTBS新人研修の際にこの作品と出会った若き佐井大紀監督が「現代に同じ質問をしたら、果たしてどうなるのか?」と、この街録の手法を今に蘇らせ制作。2月24日(金)より公開を迎えたのを記念し、シネ・リーブル梅田にて舞台挨拶を実施しました。
上映終了後、自身も寺山修司の大ファンである加美幸伸(FM COCOLO DJ)がMCで登壇。鑑賞後のお客様を前に「本作はいかがでしたか」と感想を求めると、客席からは厚い拍手で返答が。続いて、MCの呼びかけで監督が登場すると大きな拍手が沸き起こり、寺山ファン同士の佐井監督&加美による熱を帯びたトークが展開しました。
TBSの新人研修の際に寺山が手がけた『日の丸』と出会ったという監督は、「見た時に抱いた違和感・気持ち悪さ」れ、「インタビューがただ羅列されているだけの映像は、ホラーやフェイクドキュメンタリーを見た感覚に近い。当時、あの違和感が公共の電波に乗ったということはどういう意味を持っていたのか」と、疑問を抱いたことが本作製作の出発点だったと明かした。
そしてMCから「『日の丸』は、建国記念日にテレビ放送されました。当時の国民の気持ちはどうだったのでしょうか」と尋ねられた監督は、放送枠が当時の話題を紹介する企画だったことを前置きし、「現代で言うところの『情熱大陸』で紹介されたような感じ」と例えます。「そのいびつさ・危うさ・TV局の懐の広さ、全部含めて面白いな」と思ったと語りました。
「感情を入れず、淡々と質問を街行く人に浴びせる」という寺山・萩元ディレクターが『日の丸』で用いた撮影スタイルに則り、“街録(がいろく)”を採用した本作。バラエティ番組の撮影手法として街行く人々にインタビューすることは一般的になっているが、本作撮影時では「答えてもらえなかった」と監督は苦笑い。「いきなり身分を明かさず質問をしても不審がられて、YouTuberと勘違いされましたね。最後に「TBS」と明かすと理解してもらえたんですが、95%は去り、なかには罵声を浴びせてくる方もいました」と、撮影時の苦悩を語りました。
今回の劇場版公開前にTV版で放送した本作。放送前には公式Twitterを開設し、「日の丸」の写真を募集していましたがほとんど反応はありませんでした。そのことに対して監督は「当事者になることを回避する、防衛本能が発揮されたのではないか。現代人は誰かの意見に批判はできるが、自分から発信することは好まない」と推察し、 「(SNSは人と人が直接)対面するのではなく距離があるメディア。だからこそ、(批判されることを恐れて)意見を述べない人が多かったのではないか」と語りました。
「現代社会に、寺山修司は何を考えるか」とMCが問うと「多様であるように見えて、単一思想がはびこる歪な現代社会を挑発するのではないか」と寺山の考えを想像。さらに、「考えが凝り固まっている状態が現代。『個人のイマジネーションで何かを破壊する』という寺山修司の“情念の反動化への挑戦”思想とは異なり、“1億総評論家社会”とも言われている現代は周囲の同調圧力によって意見が狭まっているのではないか。SNSでも自分にとって都合の良い情報だけが流れてくるように」と分析していました。
「弱冠28歳で現代日本を生きる監督は、どんな気持ちで生きているか」と問われた監督は、「寺山は強い野心や確立された自分の世界を持っていて憧れる。私は普通の会社員なので、よりそのすごさを感じた」と語りました。
60~70年代初頭へのイメージについては「既存の価値観を破壊して再構築するカウンターカルチャーが中心だったと思う。再構築から何が見えてきたのかと物事を疑う価値観にも憧れがあり、本作ではそれが難しい現代社会を寺山の名を借りて描いた」と熱い胸の内を明かした。「ナンセンスなものがうねりをもってなだれ込む時代だった」とMCが当時の社会の風潮を語ると、監督は赤塚不二夫の『レッツラゴン』などを例に挙げ、「政治的なものとナンセンスなものが融合していた」という当時への憧れを語りました。
MCから「当時のドキュメンタリーには、その起点が映し出されている。今の時代に『日の丸』が描かれたことで、『お前ら考えろよ』と想像力をつつかれたような気持ちになった。当時は良い時代だったと思い出し、寺山の価値観からも学びを得た」と伝えられた監督は、笑顔で感謝の意を述べました。
惜しくも終了の時刻が迫り、最後に本作のコメント求められた監督。「本日は朝早くからありがとうございました。日の丸という題材は皆で語りづらいですが、酒の肴にするような形で身近な人に話してほしい。日の丸やアイデンティティについて、気軽に話せる社会のきっかけになればいいなと思います」と締めくくり、舞台挨拶は幕を閉じました。
以上
<内容>
寺山修司が構成を手がけた1967年放送のTBSドキュメンタリー「日の丸」を現代によみがえらせたドキュメンタリー映画。
街ゆく人々に「日の丸の赤は何を意味していますか?」「あなたに外国人の友達はいますか?」「もし戦争になったらその人と戦えますか?」といった本質に迫る挑発的な内容のインタビューを敢行した同番組は、放送直後から抗議が殺到し閣議でも問題視されるなど大きな反響を呼んだ。
TBSのドラマ制作部所属で本作が初ドキュメンタリーとなる佐井大紀監督が、自ら街頭に立って1967年版と同様の質問を現代の人々に投げかける。ふたつの時代を対比させることで「日本」や「日本人」の姿を浮かび上がらせていく。
<作品情報>
・監督:佐井大紀 製作:米田浩一郎、安倍純子
・企画・エグゼクティブプロデューサー:大久保竜
・チーフプロデューサー:松原由昌 プロデューサー:森嶋正也、樋江井彰敏、津村有紀
・総合プロデューサー:秋山浩之、小池博 TBS DOCS事務局:富岡裕一
・協力プロデューサー:石山成人、塩沢葉子
・出演:高木史子、シュミット村木眞寿美、金子怜史、安藤紘平、今野勉
・語り:堀井美香、喜入友浩(TBSアナウンサー)
・2023年/日本/87分/5.1ch/16:9
・製作:TBSテレビ 配給:KADOKAWA
・©TBSテレビ
・公式サイト:hinomaru-movie.com
2023年2月24日(金)~シネ・リーブル梅田 ほか全国順次公開
(オフィシャル・レポートより)