レポートインタビュー、記者会見、舞台挨拶、キャンペーンのレポートをお届けします。

「少し変わっている者同士だからうまくいく」『劇場版 ねこ物件』古川雄輝さん、長井短さんインタビュー 

neko_main.jpg
 
 ある一軒家で、唯一の肉親だった祖父亡き後、クロ、チャーという2匹の猫と暮らす青年、二星優斗(古川雄輝)がシェアハウスを営み、同居人たちや不動産屋の広瀬有美(長井短)らと家族のような絆を築いていくヒューマンドラマ「ねこ物件」。その集大成となる『劇場版 ねこ物件』が、8月5日より全国公開中だ。
ドラマ版と同じく、監督・脚本を務めるのは『おいしい給食』の綾部真弥。今までの住居人が夢を叶えて出ていってしまったところから始まる物語は、優斗と有美の今までに語られなかった過去や秘密にも踏み込み、主人公とねこたちの新たな物語を紡いでいく。
本作の主演を務める古川雄輝さんと出演の長井短さんにお話を伺った。
 

 
―――まず、ドラマ版でねこと共演する本作へオファーがあったときの印象を教えてください。
古川:自分の好きなことが演じる役に反映されればいいなと、常々思っています。英語が話せるので、英語の作品に出るとか、麻雀が好きだと言っていると麻雀のドラマ出演が決まったこともあったんです。そんな中で、ねこはずっと好きだと言っていたのですが、ねこに関する取材オファーはあっても、なかなか作品として決まらなくて。今回はねこと共演する作品で、しかも主役だと聞いたので、前々からやりたかったですし、すごく嬉しかったです。
 
長井:わたしは猫とあまり関わりのない人生だったので「ねこのお話しかぁ」くらいの印象でした。その後マネージャーさんが「紅一点っぽいです」と言ってきたときは「そのポジションわたしで大丈夫なの?」って不安が生まれましたが、実際に台本を読んでみて少しほっとしたのを覚えています。
 
 
sub1.jpg

 

■劇場版は一歩前に踏み出した後、自分と向き合う姿を描く

―――確かに紅一点ではありますが、有美は不動産会社という仕事柄、住人候補者を優斗に紹介して関係を築いたり、優斗を見守るような母親的存在でもありましたね。テレビ版は「夢を追う」人を応援する物語でもありましたが、劇場版は夢を追うというより、そのままでいいということを肯定しているようにも見えました。
古川:現場的にはドラマ版から立て続けに撮ったので、すごくやりやすかったです。ドラマ版にさまざまな伏線が隠されているのですが、それを全て回収していくスタイルになっています。今までは優斗の成長物語が描かれていましたが、劇場版は優斗が一歩前に踏み出した後の彼が描かれているので、そこは演じる上で気をつけなければいけない点でした。途中で急に記憶が戻るシーンではドラマ版とは少し雰囲気が違うので、ドラマ版ファンの方も改めて楽しんでいただけると思います。
 
長井:ドラマ版は具体的になんとかしなければいけないことが多かったので、本当に向き合わなければいけないことからは、ある意味逃げることができる状態でした。でもそれらが解決した後は、逃げてきたものと向き合わざるを得ない気がしていて。わたし自身も、人のことを応援し、自身に目を向けることから逃げている時期があったので、有美の気持ちはよくわかるのです。映画の雰囲気はふんわりしていますが、有美にせよ、優斗にせよ、みんないつかは自分自身と向き合わないといけない時が来る。そこがドラマ版との違いかなと思います。
 
―――確かに、それを反映させるように、優斗と有美の掛け合いや関係性もどんどん進化していきますね。
古川:ストレートに台本を読めば、どのような演技で反応が返ってくるのか大体わかるんですが、長井さんの場合はストレートではない方で攻めてくるので、こういう感じでくるのかとこちらも対応しながらセリフのやりとりを重ねていきました。そういう形で、あらかじめこうやろうと決めてやらなくても、自然に有美と優斗の関係性が構築できたと思います。
 
 

sub9.jpg

 

■あるセリフをきっかけに構築していった優斗の雰囲気

―――ちなみに、優斗は生い立ちや人、ねことの距離感を含めて個性的で、どこか可笑しみも感じさせますが、どのようにキャラクターを構築していったのですか?
古川:優斗は、あまりにも世間知らずで、例えば「ボクシングって、殴り合うものですか?」というセリフがあり、さすがにこれを言うにあたって、優斗がどれくらい世間知らずなのか、ジェスチャーが伴うぐらいなのかを綾部監督に相談しました。監督からはナチュラルに演じてほしいと言われたので、それならナチュラルに少し変わったことを言う人ってどんな感じなのかを考えたんです。さらに主人公として愛される人にと要望があったので、少しゆるふわな雰囲気を持った人が、本当にわからない時、手を上げて質問をするスタイルはどうでしょうかとご提案しました。劇中でもときどき手を上げて質問していますが、そうやって「ボクシングって何ですか?」と優斗が言えば、本当に知らない人ってことが伝わるかなと思いました。これはドラマ版の撮影初日にやってみて、監督からもOKが出たので、その雰囲気を保ったまま優斗を演じました。
 
―――独特の言葉の発し方やジェスチャーがあり、優斗のキャラクターを理解する助けになりますね。
古川:他にも、度々拍手をするシーンがあるのですが、普通は手を斜めに重ねて拍手するところを優斗は顔の近くで、お祈りのように手を重ねて拍手するんです。これも普通にやるのは優斗っぽくないですよねと相談し、幼さ、可愛らしさが出ていると思います。
 
 
sub5.jpg

 

■有美と優斗は、少し変わっている者同士だからうまくいく

―――ちょっと宇宙人っぽくもある優斗を受け止める有美は、本当の想いを胸に秘めながら包容力をもって支えていますが、どのように役作りをされたのですか?
長井:主人公を助ける女性というのは、「仕方ないわね!」とチャキチャキした雰囲気になりがちなのですが、綾部監督ともそういうのは嫌だねというのが共通認識としてありました。優斗が変わり者だから目立たないけれど、有美も変わり者でなければああいう関係性にはならないんじゃないかと。ちょっと変わっている者同士が一緒にいるから、不思議と会話が成立しているけれど、他の場所ではここまで上手くはいってないんじゃないかと思ったんです。なので、優斗が変なことを言っているなと思っても、時にはスルーながら対応したりもしていました。
 
―――ねこ付きシェアハウスの生活は誰かを思いやること、意見が違っても排除せず、対話を試みることなど、大事なことがたくさん詰まっていますが、おふたりはシェアハウス生活をしたいですか?
古川:シェアハウスではありませんが高校時代に寮生活を経験しているので、シェアハウスは十分かなと思います(笑) 
 
長井:昔友人が住んでいたシェアハウスに遊びに行った時は楽しかったんですが、実際に住むとなると‥共同生活は血が繋がっている人間同士でも難しさがあることですから、なかなか「したい!」とは言えません。
 
 
sub6.jpg
 

■エネルギッシュな祖父、幸三を演じた竜雷太

―――優斗や有美に大きな影響を与えた祖父、幸三を演じた竜雷太さんと古川さんは少しですが共演シーンがありましたね。
古川:1日だけご一緒することができました。幸三が倒れるシーンがあったのですが、今82歳でいらっしゃるのに、すごい勢いで倒れる演技をされていて、感動しました。ねこのいるポジションに合わせてセリフを出すタイミングを変えたり、アドリブを入れたりもされていて、学ぶことが多かったです。
 
長井:わたしは共演シーンはなかったんですけど、竜さんのクランクアップのタイミングがわたしのクランクインだったので、ご挨拶だけさせて頂きました。その時の現場の空気がとても温かだったので、素敵な現場を率先して作ってくださったんだなと感激しました。
 
 

■誰よりも現場を楽しむ綾部監督

―――とても優しい雰囲気の作品であるのは、きっと現場に流れている空気が穏やかだからではないかと思いますが、綾部監督の演出はいかがでしたか?
古川:役者同士が考えてきたことを最優先してくれて、かつ誰よりも現場を楽しんでいらっしゃいました。監督が現場で楽しんでいると、役者も乗ってきますし、長いシーンでもあえてカットをせずにアドリブを入れさせてくださったり、雰囲気をそのまま映画に取り入れてくださりました。
 
長井:何かを強制したり、急がせたりすることはなく、むしろ撮影が終わると「ここが面白かったよ」と声をかけてくださったりする方で。監督の方から声をかけてくれるので、迷った時に相談しやすく助かりました。沢山喋ったからこそのリラックスした雰囲気が画面にも現れているかもしれません。
 
―――個人的には小説の読後感のような味わいのある作品だと思うのですが、おふたりが劇場版を観ての感想は?
古川:劇場版も本当に癒される映画になっていますSPiCYSOLさんの音楽を聞きながら、主人公の成長とかわいいねこたちの姿を是非楽しんでいただければなと思います
 
長井:大きな出来事とか、派手な何かがいっぱい起こる!みたいな映画ではないんですが、だからこそ、日常をとても大切に、丁寧に描いている作品だと思います。穏やかな日々に癒されるんじゃないかなと。わたしたちも無理なく演じられているので、きっと見心地が良いのではないでしょうか。
 
 
 

sub11.jpg

 

■自分のことしか考えないねこが羨ましい

―――最後に、劇中にも登場するセリフですが、撮影やプライベートでねこと接する中で「ねこに人生を教えてもらった」ことはありますか?
古川:ねこは自分ベースに全てが進んでいるので、そこは羨ましいと思いますね。自分は相手のために何かをするのが好きで、例えば食べ物なら、自分で美味しいものを食べるより、美味しいものを食べてもらうことの方が楽しいし、自分で高級なカバンを買うより、相手に高級なカバンをプレゼントして喜んでもらう方が嬉しいという性格なんです。でも自分ベースで考えていないわけですから、幸福度が低いと感じるときもあります。一方、ねこは自分のことを優先して考えているので、それを見ていると羨ましいなと思います。
 
長井:ねこは「嫌だ!」って時に隠れたり、威嚇したり‥気持ちに嘘をつかないですよね。そういうところを、わたしも見習いたいなと。自分の居心地を守る強さに、憧れを抱いています。
(江口由美)

<作品情報>
『劇場版 ねこ物件』(2022年 日本 94分)
監督・脚本:綾部真弥
出演:古川雄輝、細田佳央太、上村海成、本田剛文、松大航也、金子隼也、山谷花純、長井短、竜雷太
(C)2022 「ねこ物件」製作委員会/
 

月別 アーカイブ