上の写真、前列左から、
団塚唯我(DANZUKA YUIGA)(23)『遠くへいきたいわ』
道本咲希(MICHIMOTO SAKI)(24)『なっちゃんの家族』
後列左から、
藤田直哉 (FUJITA NAOYA)(30)『LONG-TERM COFFEE BREAK』
竹中貞人(TAKENAKA SADATO)(28)『少年と戦車』
~日本映画の次世代を担う若き4人の監督の作品紹介とコメント紹介~
次世代を担う長編映画監督の発掘と育成を目的とした《ndjc:若手映画作家育成プロジェクト》は、文化庁からNPO法人 映像産業振興機構(略称:VIPO)が委託を受けて2006年からスタート。昨年公開された、『あのこは貴族』の岨手(そで)由貴子監督や、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』の堀江貴大監督、『ずっと独身でいるつもり?』のふくだももこ監督、他にも『湯を沸かすほどの熱い愛』で数々の賞に輝いた中野量太監督や、『トイレのピエタ』の松永大司監督などを輩出して、映画ファンも業界人も注目するプロジェクトです。
今回も、学校や映画祭や映像関連団体などから推薦された中から4人の監督が選出され、第一線で活躍中のプロのキャストやスタッフと共に本格的な短編映画(約30分)の製作に挑戦。コロナ禍で厳しい撮影環境の中でも完成度の高い作品が揃いました。作品紹介と共に、彼らがテーマとしたものや作品に込めた想いなどをご紹介したいと思います。
■監督: 道本咲希(MICHIMOTO SAKI)(24)
■作品名: 『なっちゃんの家族』
■作家推薦: PFF
■制作プロダクション: アミューズ
■CAST: 上坂美来 白川和子 斉藤陽一郎 須藤理彩 山﨑 光
<2022年/カラー/ビスタサイズ /30分/©2022 VIPO>
【STORY】
いつもと同じ平日の朝。小学4年生のなつみは登校中に突然思い立ち家出する。ランドセルをコインロッカーに預け一人遠くに住むおばあちゃんの家に向かうなつみ。突然の訪問に驚くおばあちゃんだが、なつみの心境を察して温かく迎え入れてくれる。なつみは両親の不仲がストレスとなり疲れ切っていたのだ。おばあちゃんや気取らず楽しそうに暮らす隣人と接しながらなつみの心はほぐれていくが、翌日両親が連れ戻しにやってきて・・・
【感想】
なつみを通してしか話さない家族の異様さを端的に示したイントロと、なつみを演じた10歳の上坂美来の端正な顔立ちに先ず惹きつけられた。辟易とした様子や、一人でおばあちゃん家へ向かう不安そうな様子、そしておばあちゃん家で家族の思い出に浸る様子など、終始子供目線で捉えた映像に魅入ってしまった。白川和子演じる寛大で包容力のあるおばあちゃんは、作品全体をも優しく包み込んで、こちらまで癒されるようだ。それから、バドミントンの使い方がいい。ラリーを続けるには、二人の根気強い協力が必要だからだ。人物描写やセリフ、小物に至るまで、映像で語る要素に無駄がなくセンスがいい。
【コメント】
子供が子供らしくいるべき時に周囲の環境によって子供らしくいられないというのはとても悲しいこと。分かりやすいネグレクトではなく、家庭で親が喋らないという苦痛は他人には伝えにくく、そうした中途半端に仲の悪い家族を描いてみたいと思った。
物語よりなっちゃんが生きている様子を撮りたかったので、カメラの距離感や編集の繋ぎにこだわった。現場では、俳優さんたちから出されたものと自分の考えを擦り合わせてから後はお任せした。なっちゃん役の美来ちゃんは10歳だがとても頭のいい子で、こちらの要望にちゃんと応えてくれて助かった。手の動きで心情や性格などを捉えるのが好きで、今回もなっちゃんの心情を表現するのに活かされていたと思う。
(映画製作を目指したキッカケは?)親と違うことをしたかったのと、映画を観て救われたことがあったから。ダルデンヌ兄弟や是枝裕和監督のような表現の積み重ねで物語れるような作品創りを目指したい。
【PROFILE】1997年、徳島県生まれ大阪府育ち。ビジュアルアーツ専門学校・大阪を卒業。
映画予告篇の編集を経て映像プロダクションのエルロイに制作として入社。CM などの現場に携わる。その後独立し、映像作家・横堀光範氏に師事。映画・CM・MVなど幅広い映像制作に携わるべく、日々活動中。学生時代に制作した映画『19 歳』がPFFアワード2018・審査員特別賞を受賞。
■監督:藤田直哉(FUJITA NAOYA)(30)
■作品名:『LONG-TERM COFFEE BREAK』
■作家推薦:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
■制作プロダクション:ジャンゴフィルム
■CAST:藤井美菜 佐野弘樹 福田麻由子 遊屋慎太郎 小槙まこ
<2022年/カラー /ビスタサイズ / 30分/©2022 VIPO>
【STORY】
大手企業に勤めるキャリアウーマンの優子は、ある日、直樹という男にナンパされる。職業は俳優、しかも自身の家を持たず、他人の家を転々と居候しながら暮らしているという、これまで出逢ってこなかったユニークなタイプの男・直樹に惹かれ、優子は一年後、彼と結婚する。結婚後、優子と直樹を取り巻くカップルたちに様々なトラブルが発生。優子の会社の後輩・みゆきは、上司との不倫が会社にバレて面倒なことに。直樹の親友・将太もまた、真希子という妻が居ながら不倫している様子。そんな中、直樹に対する優子の感情も徐々に変化していく…。
【感想】
まず優子のクールな人物像に魅了された。不倫や人事などの社内の雑音に振り回されることなく淡々と仕事をこなし、整然とした高級マンションで暮らしている優子。そこへ、自分とは真逆の風来坊のような若い男が現れ、意外性からか一緒に暮らすようになるという、そのギャップが面白い。情感より二人の関係性の変化を距離感のある描写でシンプルに描いているのが特徴。コーヒーにこだわりを持つ男に対し、明らかにある想いを膨らませていく優子の変化を捉えて、実にスリリングなのだ。優子を演じた藤井美菜の不気味なくらいの落ち着きと、思いを秘めた眼差しが作品に深みを出していたように思った。
【コメント】
普遍的な男女の関係をポップに撮りたかった。男性が女性を主人公に描くのにどう表現するかを特に考え、6人のキャラクターそれぞれの考え方、捉え方の違いを映画として多面的に描いた。観る人が誰に共感できるのか?というところに関心がある。
俳優さんたちの既に持っている佇まいがキャラクターに近い人を選んだ。意外とテーマ性に繋がる見え方が抑制や矯正に繋がっていたと思う。
(ラストの驚きのセリフの意味は?)それまで彼女の本心が見えてなかった部分を露出することで、意外性を狙った。
(落ち着いた映像については?)カメラを動かすのはあまり好きではなく、FIXで作った構図の中で動かすのにこだわった。
(映画製作を目指したキッカケは?)映画少年ではなかったのですが、大学に入ってからたまたま今村昌平監督の『神々の深き欲望』を観て、その凄みに魅了されて映画に興味を持ち始めた。最初は独学で実験映画を作っていたが、松本俊夫監督の『薔薇の葬列』などの作品を見始めてから本格的に始動。視覚的技術による感動、ストーリーテラーには興味がなくて、独自の映像表現が好き。アングラな実験映画を観たのがキッカケかな。
【PROFILE】1991年、北海道生まれ。明治大学法学部卒業。
大学時代より独学で実験映画を中心に自主映画制作を始める。芳泉文化財団より助成を受け制作された『stay』(2019)がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020短編部門にてグランプリ受賞。2021年には短編映画でありながら、単独でアップリンク渋谷をはじめとした全国の映画館で上映。同年ドイツの映画祭、ニッポンコネクションに参加。ALPHABOAT合同会社所属。
■監督: 竹中貞人(TAKENAKA SADATO)(28)
■作品名: 『少年と戦車』
■作家推薦:東京藝術大学 大学院 映像研究科
■制作プロダクション: 東映東京撮影所
■出演:鈴木 福 黒崎レイナ 笠井悠聖 林 裕太 松浦祐也
<2022年/カラー/ビスタサイズ/30分/©2022 VIPO>
【STORY】
中学二年生の田崎は鬱屈とした田舎町に息が詰まりそうだった。内弁慶な友人、江田と過ごす退屈な日常やクラスメイトの滝口から受けるいじめにより、田崎の生活はとても窮屈なものになっていた。時々言葉を交わす少女、咲良に想いを馳せる事だけが彼の唯一の楽しみだった。そんなある日、湖に旧日本軍の戦車が沈んでいるという情報を手に入れる。田崎は戦車があればこの窮屈な日常を破壊できるのではないかと思い、捜索の旅に出る。そこで彼を待ち受けていたものは、自分自身の思春期と向き合う壮大な精神の旅だった。
【感想】
あの“福くん”がいじめられっ子!? (映画『KAPPEI カッペイ』(3/18公開)で特攻服着たヤンキー中学生の鈴木福を観たばかりだったので笑ってしまった)。執拗な暴力に耐えながらも「何とかしたい」と思う田崎が葛藤する姿をシリアスに演じている。“松本人志”に憧れる友人の江田が「学校なんて面白くなくても10年後には笑える」と励ます姿は健気。それとは対照的に、自分の中のイヤな気持ちを助長する妄想の中の美少女との最後の対峙に、弱い自分との訣別を示していて痛快だった。思春期らしいハチャメチャな妄想の中で、伝説の戦車を登場させたのは効果的だったと思う。
【コメント】
実体験を基に、スクールカーストの底辺にいる人たちの友情をテーマにした。自分の学生時代を描きたいという気持ちと、浜名湖に戦車が沈められているという話を聞いて、これらを組み合わせて作品を作りたいと思った。
空想シーンは、夢とは違って色彩に濃度があると思うので、濃淡が徐々に変わっていくあたりにこだわった。空想の中と現実の主人公との違いを見せるために、主に照明でその変化を付けていった。
鈴木福君は年下だが大ベテランなので、沢山ディスカッションを重ねながら主人公のキャラクターを深めていった。俳優さんたちと色々話し合いながら作っていくのは初めてだったので、とても貴重な体験となった。
イタリア映画が好きだが、日本人の生活に根付いたものがしっかり映っている作品であれば、それはそれでグローバルな映画になると思う。日本人の映画を芸術として捉えるイメージが少ないのは寂しいと感じている。
(映画製作を目指したキッカケは?)小学生の頃に、周防正行監督の『ファンシーダンス』『シコふんじゃった』『Shall weダンス?』を母から勧められて観たのがキッカケ。今後目指したい作風でもある。
【PROFILE】1993年、三重県生まれ。大阪芸術大学卒業。
卒業制作である『虎穴にイラズンバ』が第28回東京学生映画祭 観客賞を受賞。その後、東京芸術大学大学院へと進み、藤田弓子を主演に迎えた『羊と蜜柑と日曜日』を監督し2021年劇場公開を果たした。
■監督: 団塚唯我(DANZUKA YUIGA)(23)
■作品名: 『遠くへいきたいわ』
■作家推薦:なら国際映画祭
■制作プロダクション: シグロ
■出演: 野内まる 河井青葉 フジエタクマ 津田寛治 金澤卓哉
<2022年/カラー/ビスタサイズ/30分/©2022 VIPO>
【STORY】
アルバイト先へ面接にやってきた竹内(39)をひと目見て動揺を隠せなくなる紗良(21)。自転車で帰宅する道すがら、同僚で恋人の悠人から、目を瞑って車道の真ん中に立つ竹内の姿を先日目撃したことを告げられる。怒りを露わにした紗良は去ってしまい、訳も分からず取り残される悠人だった。竹内の勤務初日、開店作業を終えたふたりはオープンを待つばかりのはずだったが…。互いに亡くしてしまった母 / 娘の面影を見出し合うふたりは、束の間の逃避行に何を求めるのか。
【感想】
母親の自死という喪失感に捉われた若い女性が、現実を受け入れ、心の折り合いをつけていく様子を冷静な眼差しで描いている。沙良を演じた野内まるの演技の硬さはあるものの、竹内に母の面影を見出そうとする一途な想いの強さは伝わってくる。一方竹内を演じた河井青葉は、突拍子もない沙良の言動に戸惑いながらも、彼女の喪失感を受け止める大人の優しさを示していた。一歩先に踏み出すようなラストは再生の可能性を感じさせたが、共感するまでには至らなかった。
【コメント】
テーマは喪失。作品に込めた想いは、喪失感とどう折り合いをつけながら生きていくかということ。
本格的映画製作は初めてだったので気合を入れて撮ったが、正直きつかった。見て欲しいところをひとつに絞るのは難しい。主役の野内まるさんとは本読みしたりリハーサルを重ねたりして演じてもらった。俳優さんを信頼するのが大前提だと思っている。他のスタッフの方々とも、協力してもらうという関係性ではなく、一緒に作品を作っていくという感覚だった。
好きな監督は、レオス・カラックス監督、塩田明彦監督、黒沢清監督。それぞれの作品に共通するような緊迫感のある作品を撮って行きたい。
【PROFILE】1998年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部中退。映画美学校フィクションコース22期修了。
修了作品として制作した『愛をたむけるよ』が、なら国際映画祭、下北沢映画祭、TAMA NEW WAVE、うえだ城下町映画祭 等の映画祭で入選、受賞。
【上映劇場】
2/25(金)~3/3(木) 東京・角川シネマ有楽町
3/4 金)~3/10(木)大阪・シネ・リーブル梅田
3/18(金)~3/24(木)名古屋・ミッドランドスクエア シネマ
(河田 真喜子)