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今、観直して「前よりいい映画だ」と思えたことが上映活動の原動力に。「森田芳光 70祭」三沢和子プロデューサーインタビュー

三沢様(シネルフレ江口).jpg
 
  自主製作『の・ようなもの』で 1981年に商業映画デビュー後、『家族ゲーム』をはじめ、ヒット作を連発する一方、オリジナル脚本作も発表してきた名匠、森田芳光監督。その生誕 70 周年(没後10年)を記念し、ほぼすべての作品を Blu-ray 化したBoxセット、書籍「森田芳光全映画」(B5判・568ページ)、そして関西ではシネ・リーブル梅田での特集上映や、来年にかけて海外でのレトロスペクティブ上映などを行う「森田芳光 70 祭」がこの秋、始動する。
 
●「生誕 70 周年記念 森田芳光監督全作品コンプリート(の・ようなもの)Blu-ray BOX」(完全限定版)
デビュー作『の・ようなもの』から最終作『僕達急行 A列車で行こう』まで、日本映画界のトップランナーとして走り続けた、森田芳光の輝かしいフィルモグラフィー26作品をワンボックスに収録する空前絶後・歴史的な完全限定プレミアムボックス。約180分に及ぶ貴重な映像特典付きで、12月20日発売。現在予約を受付中だ。
 
●書籍「森田芳光全映画」
「⼀貫性のある自己変革」を繰り返した稀代の映画監督。その全キャリアを⼀望する一冊。
2018年冬、東京は池袋・新文芸坐で行われた「森田芳光全作上映会」に伴う宇多丸さん、三沢和子さんによる連続トークショウを完全収録。「キネマ旬報」での連載を大幅加筆修正している。また、超豪華参加者50名近くによる寄稿+インタビューや、天国から届く森田語録も楽しめる完全版だ。
 
森田監督の妻で、「森田芳光 70祭」プロデューサーの三沢和子さんにお話を伺った。
 

 

■毎月25日に集まる森田組のキャストやスタッフが、「森田芳光 70祭」にも尽力

――――森田芳光監督が亡くなられてから10年が経とうとしていますが、突然のお別れに心理的にもきつい日々を過ごされたのではないですか?
三沢:2011年の年末に亡くなりましたが、お通夜ですら「絶対にこれはロケだろう」と思ったぐらいリアリティーがなかったんです。でも、翌年3月に『僕達急行 A列車で行こう』の公開が決まっていたので、年明けからすぐに宣伝活動やキャンペーンに動かなくてはいけない。とにかく「やらなければ」という思いでやっていたので、今から思い出そうとしても全く当時の記憶がない。こんなことは初めてです。きっと何も考えられなかったのでしょうね。一年後にぴあMOOKより「森田芳光祭<まつり> 全員集合! モリタ監督トリビュート!」が発売され、『の・ようなもの のようなもの』を製作したり、海外の映画祭に招聘されたりと継続的にやることがありました。
 
森田の誕生日は1月25日なのですが、毎月25日に時間のある人は我が家に集まるのが恒例になっていたんです。昨年1月からコロナの影響でできないので寂しいですが、毎月15〜20人ぐらいが集まって大騒ぎして。森田組のキャストやスタッフの方々がいつまでたっても生前と同じように集まってくれるのは、ありがたいですね。森田の話は笑えるエピソードが多いので、話が尽きないですし、今回の「森田芳光 70祭」でも森田と会ったことがないような方まで力を貸してくださる。今回甚大なご協力をいただいた宇多丸さんですら、森田と会ったことがないのだけど、そういう方や新しく森田のことを知ってくれた方とも仲良くなれる。「森田芳光 70祭」では私が想像した以上にみなさんが熱意をもって取り組んでくださっているのが、本当に嬉しいですね。
 
――――ほぼ全作品のBlu-lay化や、ミニシアターを回っての特集上映、そして大型書籍の刊行と、どれか一つだけを行うのも大変な労力や調整が必要ですが、3つ全て三沢さんがメインとなって準備されてきたんですね。準備をはじめたのはいつ頃ですか?
三沢:2018年に新文芸坐で森田芳光全作品の上映&宇多丸さんとのトークを行なったのですが、当時からキネマ旬報からはトークの連載を、リトルモアからは書籍と早々に決まっていたんです。
 
一方、全作品のBlu-lay化は5年前に北京国際映画祭へ行った時に「デジタル素材がないので森田作品を上映できない」と言われたのがきっかけです。他の国からも同様の情報が入りました。先ほどの新文芸坐ではフィルム上映をしたものの、フィルムの状態がひどすぎて、かけられないものもあった。それに今はほとんどがフィルム上映できない劇場ですし、デジタル素材もないので、これではダメだと思ってまずは全作品のBlu-lay Boxを作ることに決めました。2年半前から各社を廻り、2年前に作ることの了承を得てから、10数人もいる製作者委員会で2ヶ月に1度集まり、まとまるまで2年間かかりました。森田の映画が好きな方には存分に楽しんでいただけると思います。
 
書籍「森田芳光全映画」の方は、昨年にでも出版できる予定でしたが、Blu-lay Boxと合わせるということで一旦保留状態にしていたら、その間に加筆修正したい箇所が増えて来て、発売日に間に合わないのではということでヒヤヒヤしました。広島での今回1回目となる上映イベント初日に発売日を合わせていたので、最後は印刷所が手作りで30冊作ってくれました。1冊でも図鑑ぐらいの重さがあるのに、リトルモアの営業の方が台車に積んで広島まで持ってきてくれたんです。なかなか校了せず、本当に大変でした。
 

■森田監督が好きでたまらない宇多丸さんとの出会い。

――――ちなみに宇多丸さんとはどのように出会われたのですか?
三沢:以前「森田芳光祭<まつり>」を出版したとき、複数の方から宇多丸さんが森田の大ファンでとにかく深く研究しているので取材した方がいいと言われました。初めてお会いした時、一番大きいサイズの海外旅行用スーツケースを持ってこられたので旅行帰りかと思ってお聞きすると、「いえ、この中は全て森田監督の資料です」。その時は『間宮兄弟』『僕達急行〜』の主題歌を担当したリップスライムのRYO-Zさんとの対談でしたが、宇多丸さんが沢山お話になり、RYO-Zさんは相槌を打つだけみたいになったというのにも驚かされました(笑)。
 
宇多丸さん自身も森田作品のトークをされていたそうで、ある時、テアトル新宿で『ときめきに死す』の上映後に私とトークがしたいと宇多丸さんからご指名があったのです。初めてのことだったので無理だと思うと断ったのですが、「全く気にしなくていいので、とにかくやってみましょう」と。いざやってみると、ものすごくトークがやりやすかったんですね。相性も良かったし、宇多丸さんの知識の深さと質問が上手なので、お客さまもめちゃくちゃ面白かったと喜んでくださった。その手応えがあったので、3年前の全作品解説に挑んだのです。1本ずつ観て、その後トークをするのですが、観ると当時のことを思い出せるので苦労なく話せました。今でも伝説と呼ばれるぐらいのトークショーで途中からリピーターも増え、最後は客席と一体となっていました。
 
――――トーク全収録のほかにも、多くの映画人が寄稿されていますね。
三沢:森田と同世代の監督や若い監督たち、また織田裕二さん、北川景子さん、松山ケンイチさん、豊川悦司さん、鈴木京香さん、仲村トオルさん、本木雅弘さん、鈴木亮平さんなどの俳優陣も面白いですね。誰もおざなりなことを書いていないのがすごいです。宇多丸さんはさらに勉強を重ねてトーク部分を加筆してくださっていますし。これだけ影響力のある人が、森田のことを好きで好きでたまらないのが本当に嬉しいですね。それでも森田と一度も会ったことがないというのがあまりにもお気の毒なので、先日森田がずっと身に付けていた時計を宇多丸さんにプレゼントしたんです。今回、「森田芳光 70祭」のために尽力してくれた大恩人ですから。喜びようがハンパなくて、早速ラジオで報告されたそうですよ。宇多丸さんに持って頂けて、森田も喜んでいると思います。
 

■森田組スタッフと三沢さんが太鼓判の特典。森田監督の自主映画ダイジェストも。

――――宇多丸さんの「好き」の力ですね。Blu-lay Boxでは映像特典も付いていますね。
三沢:今、作っているところですが、スタッフや森田のインタビューで面白いものを集めています。高価なBlu-lay Boxを買ってくださる方に喜んでもらえるものということで、森田の自主映画をとも考えたのですが、既成楽曲をふんだんに使っているのでそのままでは使えない。ですからダイジェストにして、音楽を全部抜き、効果音や権利のない曲を合わせて70分で7本を収録しています。大変ですが楽しいですね。一方で、森田の作品に手を加えているわけなので責任感もあります。この仕上げをしているのも全て森田組のスタッフなので、きっといいものができると思いますし、特典には自信があります。定価が税込で11万円となっていますが、何処で買っても8万円代で買えますし、10回払いもあるので、もし欲しいけれど高価いと思ってらっしゃる方にはお知らせしたいです。
 
――――上映も、これから全国をまわる予定なんですね。
三沢:劇場のブッキングもやっているので本当に大変ではありますが、神戸の元町映画館のように、フィルム上映できるミニシアターがあれば、ぜひ上映していただきたいですね。今年は没後10年ですが、これからはそういうのを関係なく、継続的に上映活動を続けていきたいと思っています。
 
 
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■今、観直して「前よりいい映画だ」と思えたことが上映活動の原動力に。

――――上映を続けるモチベーションはもっと多くの方、特に若い方に観ていただきたいという部分が大きいのでしょうか?
三沢:はい。やはり10年も経ちますと、森田映画を観たことのない若い世代に観ていただきたいです。3年前に全作品を観た時、私自身が以前観たよりも全部良かったんです。自分の郷愁だけで、皆に迷惑をかけてビジネスにならないようなことをやるつもりはなかったのですが、私だけでなくスタッフやご覧になった方々が、毎回「前よりいい映画だ」と言うものだから、これはやらなくちゃダメだなと確信が持てました。
 
――――ちなみに三沢さんが一番お気に入りの森田監督作品は?
三沢:そんなの言えません。でも、キネマ旬報2021年10月下旬号で24ページの特集が組まれ、20人にベスト5を選んでもらうアンケートがあり、私と宇多丸さんも選ぶことになったのです。何日考えても無理だったので、2021年9月の5本ということで選びました。最近イベントで観た中から、いいなと思ったもので『(ハル)』『39 刑法第三十九条』『メインテーマ』『サウスバウンド』、そして5本目は『間宮兄弟』『僕達急行 A列車で行こう』二部作(ズル)って書きました。『メインテーマ』はアイドル映画として楽しかったし、例えば家庭や職場や学校など周囲の環境と合わなくて、もし精神を病んだり死ぬほど苦しんでいる人がいたら、『サウスバウンド』の夫婦みたいにしがらみを全部捨てて、どこか自分に合うところに行ってしまえばいいじゃないかと思ったりしました。『家族ゲーム』『それから』『の・ようなもの』『ときめきに死す』や、大好きな『キッチン』は書けませんでした。
 
――――森田監督の作品は時代に先駆けたテーマを扱っていたので、ようやく時代が追いついてきたのかもしれません。
三沢:そうなんです。最近一番感動したのが『(ハル)』ですね。本当に不思議なのですが、今年広島で観て泣きましたから。『39 刑法第三十九条』はすごい映画なのに、森田の代表作になかなか入れてくれないから、ずっといい映画だと言い続けたいです。あと最近は『ときめきに死す』に続き、『黒い家』がちょっとカルト的な人気になっています。
 

■「森田芳光 70祭」をきっかけに、上映活動を続けたい。

――――ありがとうございました。最後に、「森田芳光 70祭」で森田監督作品を改めて劇場や書籍、Blu-lay Boxで味わっていただくにあたっての、意気込みをお聞かせください。
三沢:上映活動で直接観客の方々の声を聞かせていただいていますが、若い人の反応がいいのと同時に、『家族ゲーム』ですら観ていないの?と驚くこともあります。まだまだ、皆さんに知っていただかなければ、作品が残っていかないので、今年スタートする「森田芳光 70祭」をきっかけに続けていかなければいけないと思っています。
(江口由美)
 

 
シネ・リーブル梅田で10月22日(金)~11月11日(木)まで上映。
上映予定作品:「の・ようなもの」「家族ゲーム」「ときめきに死す」「キッチン」「(ハル)」
「間宮兄弟」「僕達急行 A 列車で行こう」
※10月23日(土) 19:00の回『家族ゲーム』上映終了後、三沢和⼦さん(プロデューサー)によるトークショーを開催
 
「森田芳光 70 祭」公式サイトはこちら
 

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