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『ターコイズの空の下で』柳楽優弥&KENTARO監督インタビュー

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(2021年3月13日(土) シネ・リーブル梅田にて)

ゲスト:柳楽優弥(主演)、KENTARO(監督)

 

「ありのままの自分を活かしてくれた監督に感謝」――柳楽優弥

「柳楽君は、役者にとって一番大事なものを持っている」――KENTARO監督

 

日本・モンゴル・フランスの合作映画『ターコイズの空の下で』は、自堕落な生活を送っていた青年がモンゴルの大草原を旅しながら成長していくロードムービーである。

同世代の俳優の中でも抜群の存在感を示す柳楽優弥が主演のタケシを演じ、『誰も知らない』以来となる即興的演出に手応えを感じたようだ。そして、タケシを案内するアムラを演じたのは、モンゴルのスーパースター、 アムラ・バルジンヤム 。遊牧民特有の大らかな逞しさでタケシを導き、その雄姿はモンゴルへの憧憬へと繋がっていく。さらに、俳優でもあるKENTORO監督は、大自然と対峙しながら生きる人々を悠然たる映像で捉え、“本当の幸せって何?”と現代人が忘れてしまった何かを思い起こさせてくれる。


tarcois_sub.jpg柳楽優弥は、約3週間半に及ぶモンゴルロケで、当たり前のように享受していた文化的生活から遮断され、「自分自身を見つめ直す時間が持てたことはラッキーでした。より前向きに仕事に取り組めている自分がいます」と述懐。KENTORO監督も、「携帯も通じない、物のない生活を送ると、本当に必要なものとは何かを考えました」と、映画の主人公同様に、撮影隊全員がテーマを追体験してきたようだ。

柳楽優弥は今年31歳。若手俳優の中でも16年以上のキャリアを持ち、あまり生活感を感じさせないが、他の人より濃厚な俳優人生を歩んでいるように見える。そんな異色ともいえる唯一無二の存在感は、KENTARO監督にも期待されているように、海外を視野にした今後の活躍ぶりが楽しみな俳優だと思う。


関西での公開に合わせて来阪したお二人にお話を伺うことができたので、下記にご紹介致します。


(以下はインタビューの模様です。)

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――美しい映像でしたが、撮影で特にこだわった点は?

K監督:こだわった点?あり過ぎました(笑)。今はTVや小さい画面で観ている時代ですので、どうやったら映画っぽく作れるかという事にこだわりました。映画館で観る価値のある映像を撮るために8Kで撮る。今こそ違いを見せるために、美術や色彩・構図にこだわり、ハイレベルの技術を目指していました。所々、ヌーヴェルバーグへのオマージュを込めたところもあります。


――俯瞰・ロングでのショットなど人物と大自然との対比でよりスケールアップする構図に惹かれました。

K監督:そうですね、構図には強弱を付けました。顔のアップにも、顔のテクチャ―を表現として使いました。例えば、麿赤児さんの顔は最初からアップで撮ると決めていたんです。彼の顔には人生が滲み出ているので、あのマーキングされたような皺ひとつがモンゴルの山を連想させる。モンゴル人ではないけど、モンゴルをイメージさせる顔って、そう居ないですよね。素晴らしいあの声と顔と演技、麿さんはとてもユニークな俳優さんで、三郎の役はファーストチョイスでした。


――柳楽さんは、外国ロケは『星になった少年』以来15年ぶりだと思うのですが?

柳楽:あの時は、『誰も知らない』直後で、いきなり大作に出演することになって、まだどうやって演技したらいいのかよく分からず怖かったです。今回はウランバートルから車で9時間位の所での撮影でした。ラクダや羊や馬はいっぱい居ましたが、携帯も通じないような所で、自分自身を見つめ直す瞬間が沢山ありました。

今までは個性が強い役柄を演じることが多かったのですが、今回は即興演出的な感じもあり、より役者の力量が試されているようでした。でも、「こういうの好きだ!」と初心に戻れたようでした。今までいろんな役を演じてきて、自分でも分からなくなってきていたことに気付けた気がします。20代後半でこのことに気付くことができて、30代のプランみたいなものが見えてきました。それはとてもラッキーなことでした。今、より前向きに仕事に取り組めている自分がいます。

turquoise-550-2.jpg――柳楽優弥さんを起用した理由について?

K監督:役者にとって一番大事な「ピュアで素直」なところを感じたことと、「野性味」を持っているところです。それは俳優やミュージシャンには必要なことで、人間が忘れてしまった野性味を、歳をとってからも保ち続けることはとても難しいことなんです。柳楽君はまだ若いですけどね。

私が旅をして来た中で、モンゴルが一番カルチャーショックを受けた国です。モンゴルは儒教の国ではなく、チンギス・ハーンの国で、同じ東洋人でもプライドの持ち方や価値観などすべてにおいて違います。ましてや、文化的な生活に慣れている日本人にはその衝撃は大きいと思いますよ。アジアの文化圏でも違う文化を持っている国なんです。


――日本人にとってモンゴルに対してのイメージは、相撲界で活躍されている力士や、雄大な大自然への憧れがありますが、特別なシンパシーを感じるものなのでしょうか?

K監督:そうです。モンゴル人の男らしさも、日本のひと昔前の“男らしさ”というイメージかなと思います。モンゴル人も日本人に近いものを感じていると思います。


turquoise-500-4.jpg――撮影中、一番大変だったことは?

柳楽:大変なことが多かったです! 日本から持ってきていたカップ麺を、プレイリードッグに何個か食べられちゃいました(笑)。

K監督:それと必要な物はポン酢ね。ラム料理には欠かせないので、持って行くのをおススメします。

柳楽:大変でしたが、ある意味、心のデトックス効果があったように感じます。とにかく、物がない。でも、より精神的に学べることが多かったように思います。

K監督:世界がこのように大変な状況にある中で、ある意味、根源的な価値観を大事にすることが必要です。だからこそ、モンゴルの暮らしが尊く感じられると思います。

約3週間半の間、携帯電話が使えなかったのですが、私は最初から諦めて、使えなければ「何が大事か?」って他のことを考えました。いろんな国を旅行していますけど、社長と呼ばれるような人でも、モンゴルの風景を見て感動して涙を流していました。モンゴルには心を大きく揺り動かす何かがあるんです。そんな国って、他にはないように思います。

モンゴルは海抜が高く、雲がすぐそこにあり、プラネタリウムのような本物の星空を間近に眺めることができるんです。「この美しい瞬間を撮りたい!」という衝動に駆られました。アムラと出会ってこの話をしたら、「すぐやろう!」ということになって、この映画が稼働し始めたのです。


――今回の役は、祖父の若い頃の体験を追体験しながら成長していくような旅だったと思いますが、即興的演出の中でも、成長に繋がるような演技を意識されましたか?

柳楽:今までも自分の中では常にもっと良くしたいと考えながら演じていたのですが、この作品では、“放り込まれた感”というか、“これが自分の記録だ”なんて開き直った面もあれば、悩んでいた面もあり、すべてを記録してもらった感じです。役作りということはあまりなくて、もう“行って来ます!”という勢いでやりました。


――そんな柳楽さんを監督がしっかり受け止めて描いているのが、この映画の醍醐味ではないかと思うのですが?

K監督:ありがとうございます。この作品は、いい役者+いい役者、全く違う感覚を持った者同士がぶち当たった時に生まれるエネルギー効果が活かされています。それが本当の演技なのだと思います。それはとても難しいことですが、柳楽君はとてもいい役者なので、言葉ではなく役と本当の自分とが混じり合った瞬間を写し撮ったのです。10年後に同じことはできないと思います。この映画は、彼の記録であり、役になり切って本当の涙を流したのもすべて、演技に対するパッションなのです。


――ロードムービーとしていろいろご苦労されたと思いますが、「完成した」と実感した瞬間はありましたか?

K監督:なかったですね。全く「完成した!」という気持ちはなかったですが、いつかはケジメをつけなきゃならないし、映画祭に出品することが決まった時に完成させました。

柳楽:海外の映画祭では、監督が通訳なしで爆笑させるんですよ。これは凄いなと思いました。自分も監督のように、外国の方に直接アピールできるようになりたいと思っています。

 


『ターコイズの空の下で』

【解説】
turquoise-pos.jpg『誰も知らない』でカンヌ国際映画祭主演男優賞に輝き、以降も『許されざる者』、『ディストラクションベイビーズ』など意欲作に出演する柳楽優弥が、新たな挑戦として臨んだ初の海外合作。資産家の祖父を持ち、東京で自堕落で贅沢三昧の暮らしを送る青年タケシはある日突然、モンゴルに送り込まれる。目的は、第二次世界大戦終了時にモンゴルで捕虜生活を送った祖父と現地の女性の間に生まれ、生き別れとなった娘を探すこと。ガイドは、馬泥棒のモンゴル人アムラ。果てしなく広がる青い空の下、言葉も通じない、価値観も異なる二人の詩的でユーモラスな旅が始まる。監督は、『キス・オブ・ザ・ドラゴン』や『ラッシュアワー3』など多数の欧米作品への出演経験を持つKENTARO。


【STORY】
大企業の経営者を祖父に持つタケシ(柳楽優弥)は、祖父の三郎(麿赤児)からモンゴルへ人探しに行くように言われ、アムラ(アムラ・バルジンヤム)というちょっと得体の知れないガイドと共にモンゴルへ行く。東京で自堕落な日々を送っていたタケシにとって、携帯も通じない、言葉も分からない、迷子になって狼に遭遇するなど、カルチャーショックと共に死ぬほどの思いをしながら、物質的なものではなく精神的な豊かさの中で成長を遂げていく。

タケシの旅には、祖父の若き日の悔恨の想いが込められていた。第二次世界大戦後に捕虜としてモンゴルで強制労働に就かされていた祖父は、モンゴルの女性との間に娘を儲けていたのだが、帰国後行方知れずとなっていた。タケシにとって祖父の娘を探す旅は、祖父が辿った道を追体験する旅と重なり、雄大な大自然の中で暮らすモンゴルの人々の大らかさや逞しさに触れながら、人間として大きく成長していくのである。


■監督・脚本・プロテューサー:KENTARO
■出演:柳楽優弥 アムラ・バルジンヤム 麿赤兒 ツェツゲ・ビャンバ
■2020年製作 日本・モンゴル・フランス合作 上映時間:95分
■配給:マジックアワー マグネタイズ
公式サイト:http://undertheturquoisesky.com
■ (C)TURQUOISE SKY FILM PARTNERS / IFIPRODUCTION / KTRFILMS

■2021年2月26日(金)~新宿ピカデリー、3月12日(金)~シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、MOVIXあまがさき、4月9日(金)~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開


(河田 真喜子)

 

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