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あなたの常識と私の常識は違う。コミュニケーションの壁に向き合うため自身にキャメラを向けて。『友達やめた。』今村彩子監督インタビュー

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あなたの常識と私の常識は違う。コミュニケーションの壁に向き合うため自身にキャメラを向けて。
『友達やめた。』今村彩子監督インタビュー
 
  コロナ禍でリアルに友達と会う機会も減り、改めて本当に会いたい友達って誰だろうと思い浮かべたり、どこか人恋しくなっている人も多いのではないだろうか。11月13日(金)から京都シネマ、11月14日(土)から第七藝術劇場、今冬元町映画館他全国順次公開される『友達やめた。』は、友達とのコミュニケーションの壁に全力で向き合う姿を映し出すドキュメンタリー映画だ。
 
 監督は、自ら自転車で日本一周に挑む様子とその葛藤を描いたドキュメンタリー『Start Line』(16)の今村彩子。生まれつき耳のきこえない今村監督が、自作の上映会で知り合い友達になったアスペルガー症候群のまあちゃんとの関係性を自身のキャメラで映し出す本作では、二人の日常や旅行での出来事を通じて、お互いに対する気持ちの変化や、距離感に対する本音が次第に溢れ出す。友達、家族、夫婦とどんな関係でも一番のベースになるコミュニケーションについて考えるきっかけが詰まった一本。障害を作っている原因や、それを超えるきっかけについても考えたくなる作品だ。
本作の今村彩子監督に、お話を伺った。
 

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■映画づくりの原点は自身の葛藤。

――――本作を撮ろうと思ったきっかけは?
今村:まあちゃんとはお互いに本好きで、家も近いし、年齢も近い。さらに二人とも独身という共通点があり、最初に親しくなった時は話も合うし、すごくいい友達ができたと思ってうれしかった。だけど、一緒に過ごしている時間が長くなってくると、えっと思うことや自分にとって嫌なことをされることが増え、その度に「彼女はアスペだから仕方がない」と気にしないようにしていました。それが我慢できなくなって喧嘩になることもあり、そんな葛藤を一人で抱えているのが嫌になりました。だからみんなを巻き込んで、この映画を作りました。どうしたらまあちゃんと仲良くなれるかを考えたかったのです。
 
――――前作の『Start Line』に続いてのセルフドキュメンタリーで、再び自身にカメラを向けていますが、ドキュメンタリーの被写体として自分にカメラを向けるのは勇気がいる作業では?
今村:『Start Line』の時は初めてのセルフドキュメンタリーだったので、すごく勇気が要りました。でも、今回は私よりもまあちゃんの方が大変だったと思います。まあちゃんが最初「いいよ」と言ってくれた時は私が途中で映画制作をやめるだろうと思っていたそうで、まさか本当に映画になるなんてと今は驚いているみたいです。
 
――――今村監督の周りには今までアスペルガー症候群をはじめとする発達障害を持つ友人はいなかったのですか?
今村:自分がそうだと打ち明けてくれたのは、まあちゃんが初めてです。その時はびっくりするというより、逆にまあちゃんと仲良くなれると思ったし、マイノリティ同士ということで、すごく親しみを感じました。
 
――――シリアスになりがちな題材ですが、飄々とした音楽がとても効果的でした。
今村:『Start Line』を一緒に作った山田進一さんは、とても気が合い、いいアドバイスをもらえて信頼できる人なので、今回も山田さんから音楽や整音担当の方に私のイメージを伝えてもらいました。やはり音楽で感情を煽るドキュメンタリーにはしたくないので、最低限必要なところに入れるようにしました。
 
――――感覚が敏感なまあちゃんにカメラを向けることは、彼女にとってプレッシャーになっていたのでは?
今村:まあちゃんが学校の給食室で働いているシーンがありますが、撮影するときは「撮られるのはいいんだけど、許可をもらうために校長先生とやりとりするのが疲れる」と言われましたね。交渉するのが苦手なまあちゃんに、校長先生にアポイント取りや日程調整をしてもらい、だいぶん負担をかけていたと思います。まあちゃんは本音を言ってくれるので拒否されない限り、手間をかけて申し訳ないと思いつつ「よろしくね」とお願いしていました。
 
――――撮影を通じて、そこまで言い合える仲になったということですね。
今村:実は最初にまあちゃんと仲良くなった時からおもしろいな、撮ってみたいなと思い、映画化を考える前にもキャメラを回したことがあったんです。ただ、まあちゃんが私のことを信頼してくれているからとはいえ、ひたすら自分のことばかりを打ち明けられるとやはりしんどい。気持ちをぶつけられる友達は私しかいないのかなと思うと、それも重荷でした。今、まあちゃんにとってTwitterが本音を吐き出す場所で、吐き出したらスッキリすると言っているので、全て私が抱えなくてもいいんだなと安心しました。
 
――――思いを吐き出すといえば、長野旅行で二人が本音で語りあい、喧嘩ごしになっていくシーンがありますが、あれも自然とそうなったのですか?
今村:なんの断りもなく私の茶菓子をまあちゃんが食べてしまったことから始まったんです。 それが初めてのことなら怒りませんが、度々起こっていて、私も我慢し続けてきた。その積み重ねの結果、あの時に感情が爆発してしまった。周りから見たらお菓子でと思うでしょうが、本当に真面目に喧嘩しましたね。
 
 
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■まあちゃんと接することで、今まで知らなかった自分が出てきた。

――――友達といっても、あそこまで言い合えるのはベースに信頼関係があることの証でもありますね。
今村:私もまあちゃん以外の人とあそこまでの喧嘩をしたことはありません。喧嘩になる原因がないし、あったとしても喧嘩になる前に自分の気持ちを整理して、冷静に自分の気持ちを伝えています。だから今回は、自分でもびっくりしたんです。私はこんなに怒る人ではないと思っていたのに、彼女と接することで今まで知らなかった自分が出てきてしまった。そんな自分を見たくないけれど、どうしたらいい関係を築けるかを考えるためには自分を見つめ直さなくてはいけない。それがすごい葛藤だったし、この映画のエネルギーになりました。
 
――――映画で出てくる二人の日記の文章から、二人の本音が浮かび上がっていましたね。
今村:お互いにずっと日記を書いているんです。私は小学生の時からずっと書いていて、今92冊目ですし、まあちゃんは34歳でうつ病と診断された時、医者からマインドフルネスプログラムの一環として日記を書き始めたそうです。まあちゃんの日記を映画に使わせてと伝えたら、すんなりOKしてくれたのには驚きました。普通は嫌がるところですが、そのあたりの感覚は彼女独自のものだと思います。まあちゃんのOKは裏表がない本気のOKなので、そういうところは好きだし、楽なんですよね。だから旅行もこちらから誘うことができた。疲れたら素直にそう言うだろうし、気を遣わず、旅行を楽しめると思ったんです。
 

■喧嘩した時のまあちゃんの姿に、コミュニケーションを絶ったかつての自分が重なって。

――――まあちゃんとの喧嘩の中で、今村監督が「自分から弱者の立場に立ってるよ」とおっしゃったのがすごく印象的でしたが。
今村:『Start Line』で日本縦断の自転車旅をしていた5年前の自分の姿が、「わかりあうなんてきれいごと、排除でいい」と言い放ったまあちゃんと重なりました。当時の私は自転車旅の初心者で疲れもあって、やるべきことができなかったりして、伴走者にたくさん叱られました。それがだんだん嫌になってきて、伴走者を無視することが増え、コミュニケーションを絶っていたこともあったんです。その時伴走者に「コミュニケーションの映画を撮ると言っているのに、あなた自身がコミュニケーションを切っている」と言われました。その時の私がまあちゃんと重なったんです。ただ今回の私は向き合うことから逃げたくなかった。だから「弱者の立場に立ってるよ」とまあちゃんに投げかけたのです。
 
――――お二人の会話の中には優生思想への考え方や思いがあることに気づかされます。
今村:まあちゃんは元々読書好きで優生思想についても詳しいですし、やまゆり園事件のことも本を読んでいて私以上に詳しい。だからまあちゃんに優生思想について聞いてみたのです。彼女は自分でも優生思想を持っているし、本を読むことでその気持ちをコントロールしていると話していたのが印象に残っています。おそらくまあちゃんは本に救いを求めているのだと思います。自分を救ってくれる言葉を探すために、たくさんの本と出会うのですが、読んでも読んでもその言葉がない。だからすごく切ないし、それだけまあちゃん自身が生きづらさを感じているのだと思います。
 
 
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■自分がマジョリティになったと感じた時に生まれた戸惑いも、映画の中に。

――――生きづらさについても二人の見解は違いますね。
今村:私は障害も自分だけの問題ではなく、人と人の間にあるという考え方なんです。まあちゃんは映画の中でアスペルガー症候群という障害は自分の問題であると言うように、自分の中にも原因があると考えています。発達障害はどこまでが性格で、どこまでが障害なのかが自分でもわからない。そのあたりが同じマイノリティでもすごく違うなと感じます。また、まあちゃんと一緒にいると、私がマジョリティになっていると感じることがあり、それに気づいた時はすごく戸惑いました。マジョリティである自分が我慢すればいいんだ、我慢した方が波風が立たないので楽だとそちらへ流れてしまった。映画を撮りながら本当に色々なことを考えました。
 
――――どのあたりで映画の着地点が見えてきたのですか?
今村:お菓子のことで大喧嘩をした後、二人の常識を考える会を開いたのですが、そこでまあちゃんの行動に関して初めて知ることがたくさんあった。これは一区切りになるなと思いました。
 
――――「二人の常識を考える会」は名案でしたね。人それぞれの常識は違いますから。
今村:私が発案し、自分でもいいなと思って映画を作ったのですが、その後パンフレットに寄せられたまあちゃんの文章を読んで、もしかしたら私の自己満足だったかもしれないと思いました。映画の中で描かれている喧嘩は、私の中では感情が積み重なった結果の行動なのですが、まあちゃんは私がいきなり怒りはじめたように感じる。まあちゃんにとって私はいつ爆発するかわからない“時限爆弾”なので、喧嘩のショックもそれだけ大きかったのです。それでも依然としてまあちゃんは普通にLINEもくれるし、映画制作も応援してくれているので、逆に私の方がまあちゃんの言葉に囚われすぎないようにしようと。目に見える言葉はやはり強いけれど、それよりもまあちゃんの今の行動や表情を信じようと思いました。
 

■「友達やめた」は友達を続けるために必要な言葉だった。

――――タイトルの『友達やめた。』という言葉はとてもインパクトがあるだけでなく、本当に色々なことを考えさせられますね。
今村:この言葉は私が一番悩んでいた時に生まれた言葉です。映画としてはそこが山場になりますが、とにかくまあちゃんに会いたくないし、離れたいし、なんなら映画を撮るのもやめたい。それぐらい本当に葛藤していた時、日記に書いたのが「友達やめた。」という言葉でした。するとすごく気持ちが軽くなったんです。今までの自分は、まあちゃんにとっていい友達でいたいとか、自分がこんな嫌な人間だと認めたくないという気持ちがあったのですが、そんながんじがらめな状況から、一度抜け出すことができたんです。すると心に余裕が生まれて、自然に「まあちゃんと仲良くやっていくにはどうすればいいか」と考えられるようになった。そうやって自分を赦せると楽になりましたね。だからこの言葉は友達を続けるために必要な言葉だったのです。
(江口由美)
 

<作品情報>
『友達やめた。』
(2020年 日本 84分)
監督:今村彩子 
出演:今村彩子、まあちゃん他 
11月13日(金)〜京都シネマ、11月14日(土)~第七藝術劇場、今冬元町映画館他全国順次公開。期間限定でネット配信も実施中
※京都シネマ、11/14(土)今村彩子監督による舞台挨拶あり
 第七藝術劇場、11/15(日)石橋尋志さん(「さかいハッタツ友の会」主宰)、今村彩子監督によるトークショーあり
公式サイト → http://studioaya-movie.com/tomoyame/
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