(2020年10月28日(水)大阪にて)
現代のフリーターが、ある日突然平安絵巻『源氏物語』の世界へタイムスリップ!?
平安時代を生きる女たちに学ぶ若きダメンズの成長物語。
就職試験59連敗中!? 彼女にはフラれ、出来のいい弟に引け目を感じて家にも居づらい、そんな現代の若者が、突然『源氏物語』の世界へタイムスリップしちゃう!? 光源氏や桐壷帝が登場し、その女御たちが大勢いるあの紫式部が描いた王朝文化の世界へ。しかも、現代人の若者が、嫉妬や陰謀の元凶として悪名高い桐壷帝の第一妃・弘徽殿女御(こきでんのにょうご)の信頼を得て仕えるという、かつてないシチュエーションのSF時代劇。そんなファンタジックな映画『十二単衣を着た悪魔』が11月6日(金)から全国公開される。
本作が長編第二作目となる黒木瞳監督は、宝塚歌劇娘役トップから退団後、多くの映画やテレビドラマで活躍し、さらに演劇やミュージカルと舞台でも座長公演を務めるなど、途切れることなくキャリアを積み重ねてきた大女優である。そんな彼女が満を持して映画監督に挑戦したのが、2016年の『嫌な女』。木村佳乃と吉田羊という演技派女優による意地とプライドを賭けた女の闘いは、女優目線の容赦ない演出が効いた痛快作となった。本作でも、黒木監督らしくキャラクターの特徴を捉えた表情が活かされ、嫉妬や陰謀渦巻く後宮で生き抜く女御たちの悲哀や自信喪失の若者の成長をエモーショナルに活写している。
主演の伊藤健太郎にとっては、戦国時代の凛々しい若君ぶりでブレイクしたTVドラマ「アシガール」の逆バージョンとなっているが、本作でも現代のダメンズ・雷から、目元さやけき陰陽師・雷鳴へと、平安貴公子スタイルで魅了する。妻となる倫子(りんし・伊藤沙莉)を迎えた辺りからの感情表現は秀逸で、最後の最後まで心を鷲づかみにされる。弘徽殿女御(三吉彩花)に対しても、若くして帝の心を失い、我が子を帝にするために生きる必死さが嫉妬や陰謀となって、他の女御たちに悪魔のように恐れられた人物として映るようになる。
「可愛い女はバカでもなれる。しかし、怖い女になるには能力がいる!」とまあ、豪快に言い放つ弘徽殿女御のアッパレぶりにもしびれる!
黒木瞳監督のインタビューは以下の通りです。
Q:『源氏物語』の中でも弘徽殿女御を取り上げた理由は?
A:内館牧子先生の小説『十二単衣を着た悪魔』の初版本を読んでとても面白かったので、自分でも弘徽殿女御を演じてみたいなんて思っていました。内館先生は高校生の時に『源氏物語』を読んで、弘徽殿女御が桐壷帝の第一妃でありながら直接的な感情の描写もなく、伝聞としてしか描かれていない事にとても興味を持たれたらしいのです。本当は単なる悪女ではなく違うタイプの女性だったのでは?他の女御たちも本当はかなりしたたかだったのは?と思われて、『源氏物語』の異聞として、現代の若者・雷の成長と弘徽殿女御のイメージとは違う捉え方をした小説をお書きになったそうです。弘徽殿女御には女性の品性があり、とても共感する部分も多く、そのセリフの面白さを活かして映画にしたら、きっと元気の出る映画になるのではと思ったのです。
Q:キャスティングについては?
A:雷のイメージでは伊藤健太郎君だったのですが、TV「アシガール」の逆バージョンなのでちょっと安易すぎるかなと思っていたら、出演が叶って嬉しかったです。弘徽殿女御については、平安時代の女性は意外と背が高かったらしく、他の女御たちを威圧する程背が高く、富士額が美しい若い三吉彩花さんが理想的でした。一番悩んだのは倫子役で、TVドラマで伊藤沙莉さんを見かけて「この娘だ!」とすぐにオファーしました。若い俳優さんたちはオーディションです。光源氏役は満場一致で沖門和玖君に決まりました。最初から出演が決まっていたのは笹野高史さん!(笑)(さすが、名バイプレイヤーですね!)
Q:伊藤沙莉史上最高に可愛いショットや、目を丸くして驚嘆したり、目を潤ませて切々と訴えたりと目で語れる伊藤健太郎に、不敵な笑みを浮かべながらも毅然とした三吉彩花など、黒木監督らしい演出が随所に見られましたが、撮影方法については?
A:同じ役者として、役者に失敗させたくないという思いが一番強くありました。一人ひとりが輝いて、時には切なく、時には輝いている顔を撮りたいと思っていたのです。月永雄太カメラマンはショートムービーでも撮影を担当して頂いていたので、何となく私の性格を理解した上で、私が何を求めているのか、コミュニケーションをとりながらの撮影はとてもやりやすかったです。勿論お互いプロとして尊重し合いながら、カメラマンにお任せすることもありました。
Q:本作で一番苦労した点は?
A:脚本の段階で何度も何度も推敲を重ね、26年という月日を2時間枠に収めようと皆と協議しました。さらに、『源氏物語』の中の人物の所作や衣装についても、時代考証の専門家に教えて頂いたり、博物館へ行って絵巻物を見学したりとかなり研究しました。そして、後宮内のシーンを絵巻物と同じように屋根のないセットを使って俯瞰で撮る方法を思いついたのです。
A:雷がはっきりと「タイムトリップした!」と分かるように、その場面のVFX映像にはこだわりました。それから、美術もそうですが、弘徽殿女御の衣装などの色にもこだわりました。博物館で再現展示物を見て驚いたのですが、御簾で仕切られた後宮の部屋には緑色の敷物が敷いてあったのです。それを基に、弘徽殿女御が年代ごとに着る衣装の色柄や、十二単衣の重ね着の色を決めていきました。煌びやかな王朝絵巻物ですから、衣装だけでなく、季節による色彩などにもこだわりました。是非、スクリーンでお確かめ頂きたいと思います。
Q:女優に甘んじることなく、作品の全責任を負う監督にチャレンジすることについては?
A:女優も大変なんですけどね。劇中で弘徽殿女御が、「身の丈に合って傷付かぬ生き方など小者のすること。人は必ず老い、時代は動く。いつまでも同じ人間が同じ場所に立ってはいられない。必ず若い者の世が来る。その時は潔く退く。それが品位というものです。」と雷鳴に語るシーンがあります。私も「身の丈以上のことを自分の中で求めている」ということでしょうか、僭越ながら(笑)
【STORY】
求職活動も上手くいかず、彼女にもフラれ、出来のいい弟に引け目を感じては家にも居場所がない雷(伊藤健太郎)は、ある日、バイト先の医薬品会社主催『源氏物語』関連のイベント会場で、不思議な緑の光を目にする。『源氏物語』のパンフレットと医療品のサンプルの入ったお土産とバイト料をもらって帰る途中、家の近くで再び緑の光が現れ、雷鳴と共に気を失ってしまう。目が覚めると、そこはなんとあの『源氏物語』の世界!? タイムスリップしてしまったのだ!
すぐに捕らえられるも、高熱で苦しむ女御の病気をサンプルでもらった消炎鎮痛剤で治してしまい、さらに『源氏物語』のパンフレットを見ながらの予見が当たり、陰陽師・雷鳴として桐壷帝の第一妃の弘徽殿女御(三吉彩花)に仕えることになる。現代では居場所のなかった雷も、ここでは皆の信頼も厚く尊重される身分となる。その内、妻・倫子(伊藤沙莉)を迎え、初めて人を慈しむ心に芽生え、この世界で幸せに暮らせると思っていたのだが……。
出演:伊藤健太郎 三吉彩花 伊藤沙莉 田中偉登 沖門和玖 MIO YAE 手塚真生 / 細田佳央太 LiLiCo 村井良大 兼近大樹(EXIT) 戸田菜穂 ラサール石井 伊勢谷友介 / 山村紅葉 笹野高史
監督:黒木瞳
原作:内館牧子「十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞」(幻冬舎文庫)
脚本:多和田久美
音楽:山下康介 雅楽監修:東儀秀樹
制作・配給:キノフィルムズ 制作:木下グループ
Ⓒ2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー
公式サイト:https://www.juni-hitoe.jp/
2020年11月6日(金)~新宿ピカデリーほか全国ロードショー
(河田 真喜子)