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人材育成と実験の新レーベルで「メジャー映画では許されないことをどこまで追求できるか」 『ビューティフルドリーマー』本広克行監督インタビュー

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人材育成と実験の新レーベルで「メジャー映画では許されないことをどこまで追求できるか」
『ビューティフルドリーマー』本広克行監督インタビュー
 
 日本映画界の鬼才監督による野心的な企画と若い才能がタッグを組み、低予算で制約のない自由な映画づくりを目指す現代版ATGとも言える新レーベル<<シネマラボ>>の第一弾作品『ビューティフルドリーマー』が11月6日(金)よりシネ・リーブル梅田他にて絶賛公開中だ。
監督は『踊る大捜査線』シリーズから『サマータイムマシン・ブルース』『幕が上がる』まで、ヒットメーカーでありながら多彩な作品に取り組んでいる本広克行。押井守の脚本「夢見る人」を大学の映画研究会(映研)を舞台にした物語として映画化。いわくつきの台本の映画化に挑む映研メンバーの奮闘ぶりから、モノづくりの楽しさが伝わってくる青春映画だ。リーダー的存在で監督としてメンバーを引っ張るサラ役には自身も大学時代から映画サークルで映画を撮り、多彩な活動を行なっている小川紗良。他にも今注目の俳優から劇中劇に登場するベテラン俳優が本人役で出演。そして映画研究会の先輩役サイトウタクミで斎藤工も参加している。
 本作の本広克行監督にお話を伺った。
 
 

■「次は自分の番」自身のキャリア形成から感じた映画界の人材育成と、まず取り組んださぬき映画祭。

―――コロナ禍で映画監督自身が様々な活動や今までの枠に捉われない映画製作活動を立ち上げつつある中、それ以前にメジャー映画とインディペンデント映画の間に位置するような新しい監督絶対主義のレーベルを立ち上げ、作品を公開するのは非常に注目すべき動きだと思います。<シネマラボ>を立ち上げるにあたり、どのような問題意識をお持ちだったのですか?
本広:『踊る大捜査線』シリーズのようなビッグバジェットで、プロデューサーが10人もいて、芸能界のありとあらゆる人がキャスティングされるような映画を我ながらよくできたなと思うし、もう終わってもいいと思うぐらい達成感がありました。ただ自分が映画を撮ったりドラマを演出できたのは、引っ張り上げてくれる先輩たちがいたからであり、今度は自分がその立場になる番です。『海猿』の羽住英一郎をはじめ、後輩たちが皆ヒットメーカーになってきましたが、自分が所属していた会社(ROBOT)の直系の後輩ではなく、日本映画界全体を見渡して、素晴らしい才能を持ちながらも彷徨っている人たちがたくさんいるはずだと思ったのです。
 
―――監督という仕事はある意味孤独な職業ですから、かつての撮影所システムとは違い、先輩に教えてもらうということがしにくい環境になっていますね。
本広:映画界での人材育成について思いを巡らせていた頃、偶然山田洋次監督にお会いし、昔は小津監督や黒澤監督が映画サロンを作り、そこから新人を抜擢したり、映画の文化度を上げていったというお話を聞いたのです。そこで自分に何ができるかと考えたところ、思い浮かんだのが映画祭でした。当時現役の映画監督で映画祭を立ち上げたのは僕が最初だったと思います。さぬき映画祭では高松に色々な映画人を呼び、若い俳優たちと合わせ、そこに来れば仕事が見つかるような場所になっていきました。ちょっと落ち着いて周りを見渡すと、行定さんをはじめ、プロデューサーの方や俳優の方なども地方で次々と映画祭を立ち上げる動きが起こってきて、これなら大丈夫だなと思ったのです。
 
 

■大林監督に言われていた言葉、「君たちの世代でもう一度ATGのような映画を作れ」

―――確かに映画祭は映画人同士の交流から新しいプロジェクトや仕事が生まれる面も大きいですね。
本広:映画祭には7年間携わり、その後に構想しはじめたのが<シネマラボ>です。今、自主映画の制作費は200~300万円が相場で、一方東宝や東映、松竹などからオファーをいただくビッグバジェットの映画は2~3億円ぐらいです。やはり今まで低予算でしか映画を作ってこなかった人がいきなりビッグバジェットの映画を作るのはしんどいので、中バジェットのものを<シネマラボ>という新レーベルを掲げて作っていってはどうかと。また僕が大きな影響を受けている大林監督によく言われていたのが「君たちの世代でもう一度ATGのような映画を作れ」。
 
―――大林監督からそんな声かけをされていたんですね。
本広:僕にとっては神様みたいな人ですから、大林さんに褒められようと思って(笑)「お前、よく頑張っているな」とか、「お前の映画、面白かったぞ」といつも僕の頭を子どもみたいに撫でてくださるんですよ。山田監督の映画サロンにも参加しているのですが、山田監督は最近の若者はなかなか動かないとボヤかれる一方、僕のことを可愛がってださり、ベルリン国際映画祭への参加を断っても、さぬき映画祭には来てくれる(笑)やはり尊敬している先輩たちから言われたことを実行していきたいし、若者たちを引き上げる場を作ろうと今回は押井守さんに原案を書いていただきました。そこからは結構時間がかかりましたね。
 
 
 
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■小川沙良との出会いで「監督役がここにいる」と確信。

―――押井さんに依頼されたのはいつ頃だったのですか?
本広:みんなで一緒に湯河原の温泉に行って企画会議をした時、僕は文化祭の前日を何度も何度も体験する話にしたいと伝えると、押井さんが書いて下さったのは軽音楽部の部員が何度も文化祭の前日に戻る話だった。僕の構想と似てはいるのですが、映画研究部なら僕の経験も活かせるし、その頃に小川沙良さんと出会い「監督役がここにいる」と思った。そうやってタイミングが合うまで2年ぐらいかかりましたね。
 
―――さぬき映画祭で小川さんは監督作を持参したのですか?
本広:早稲田大学の映研に監督をしている小川沙良さんがいるというのは当時業界内でも有名だったんです。しかも小川さんは是枝ゼミで、是枝さんからも話を聞いていたので、僕からオファーしたところ快諾していただきました。監督役のエチュードができる人はなかなかいないでから、小川さんがいなければ映画づくりは難航していたと思います。
 
 

■ずっと“ビューティフルドリーマー”の人たちの物語。続編を作り、続けていきたい。

―――サラ役の小川さんは、聡明かつ決断力のある見事な監督ぶりでした。昔の映研は70年代の香りを引きずっているような異質な雰囲気がありましたが、本作の映研はとても明るい雰囲気ですね。
本広:早稲田大学の映研をはじめ、今は女子部員がクラブを引っ張っているんですよ。僕らの時代はモスグリーンの汚いジャンパーを羽織った男子部員がぞろぞろいたのですが、今の男子部員はもっぱらアッシー的存在ですよ。それもおもしろいなと思って、本作では描ききれなかった部分は「続編を作らせてください」と会社にお願いしているところです。ずっと続けていきたいし、この作品はずっとビューティフルドリーマーの人たちのお話でもあります。僕らも一つの映画が公開されても、また次の映画を作ってとずっと続いていくわけですから不思議な社会人だし、ビューティフルドリーマーってこういうことなのかなと。続編を作る時、小川さんが多忙を極めて出演するのが難しくなったら、次の世代の映研を育てればいい。小川さんには本作の斎藤工さんのような先輩部員として1日だけ撮影に参加してもらい、続けていくこともできるなと思っているんです。
 
―――セリフを書かず、エチュードの手法を取り入れての撮影だったそうですが、従来のビッグバジェット作品とは違う作り方を試みての感想は?
本広:演劇の演出をやっていることもあり、そんなに違和感はなかったですね。脚本どおりだとつまらないとか、セリフが停滞してしまうとき、どうやっておもしろくさせようかと考えてエチュードを取り入れることもあります。『UDON』(06)では実際にうどん屋で働いている人に、普段しゃべっていることを言ってもらい、お芝居をしていないドキュメンタリー的な作り方になったのですが、そういう演出のテクニックを今回は全て使えたのではないでしょうか。書かれたセリフを的確に言うのもおもしろいけれど、「こんな脚本なのに、こんなに面白くできるの?」というところを目指したいし、それを目指していつもやっていますね。
 
―――確かに、セリフのやりとりに躍動感がありました。
本広:若者の言葉は体の動かし方によって出てくる言葉も違ってくるので、それをなるべく生の状態で収録しています。今までの映画はガンマイクで上から音を拾っていましたが、最近は演者全員にワイヤレスマイクを付け、録音部がミキシングをするやり方が主流です。今回は録音部に若手を投入し、やる気を出しているので、次はビッグバジェットの映画に登用し、技術部門の新人育成も行えました。もちろん映画はヒットしてほしいですが、<シネマラボ>ですから俳優や映画に関わる各部門の人材育成の場でもありたい。自分が思っている以上に映画界はそう急には変われない。でも「実験ですから」と言うと色々な機材を貸していただき、様々なサポートをしていただけたのはうれしかったですね。
 
―――小川さんをはじめ、キャスティングは本広監督が直接オファーをするという形が多かったそうですね。
本広:全員思い通りのキャスティングできると、大ヒット作にはならなくても『サマータイムマシン・ブルース』(05)のようにずっと愛される気がします。『幕が上がる』(15)のメンバーとは今でもお付き合いがありますし、みんなで考えながら作った作品はお仕事という感じではなく、すごく愛情深いものになっていますね。
 
 
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■メジャー映画では許されない、ATG作品のようなメタ構造をどこまで追求できるか。

―――一見青春映画ですが、メタ構造にメタ構造が重なって、もう一度観たくなるような映画ファンを唸らせる奥深さがあります。ここまでメタにメタを重ねたのはなぜですか?
本広:メタ構造ものが好きなんです。演劇でいきなりひっくり返ったり、急に何かが起こったと思ったらそれもお芝居だったりするようなどんでん返しも大好きなのですが、映画ではなかなか急に空気は変わるようなものができない。どうすれば映画で物語を逸脱することができるのかをずっと考えていました。メタ構造は調べれば調べるほど深いところに入っていくんですよ。
 
例えば押井さんはアニメで初めてメタ構造を実践した人で、僕はそれを学生時代に見て大きな衝撃を受け「押井信者」になったのですが、その押井さんは演劇から影響を受けたそうです。それで寺山修司さんの映像や本に触れていくうちに、作品のことを考えることはおもしろいなと思えてきました。起承転結のある映画はずっとやってきたし、ちゃんと作れるのだけれど、そうではないものを作りたい。今村昌平さんの学校に行っていたのですが、今村さんも『人間蒸発』(67)でそういう作品を作っていて、今村さん自身が映画に登場し「このお話は全部嘘である」と言い放つと、セットがバラバラと崩れていくんです。本当に衝撃的でしたが、当時のATG作品は構造をぶっ壊すというコンセプトなので、普通のメジャー映画では絶対許してもらえないことができた。今のメジャー映画ではメタ構造といってもどうしても緩くなってしまうので、そこをどこまで追求できるか。今回はその面でも実験的な試みをしています。
 
 

■映画人の交流の場が大事。もっと混じり合い、新しい才能を発掘したい。

―――俳優の名前と役名も同じですし、色々な垣根が曖昧なのも魅力的ですね。
本広:大林監督の影響でもあります。遺作の『海辺の映画館―キネマの玉手箱』(20)はご自身も出演されているし、物語でありながらも僕らに「戦争を起こすな」という遺言を伝えているようにも見える。本当にすごいです。他の大ベテランの皆さんも本当に元気で僕の作品を「普通だな、もう見飽きたよ」とバッサリ。あまりにも尖ったものは作りにくいけれど、例えばこの作品を見て疑問を感じた人がググり、また違う感想と出会って、感想が育っていくという点でもこの作品の実験的側面を感じます。今、是枝さんが映画人の交流の場を作ってくださっていますが、これは本当に大事なんです。どうすれば皆がもっと混じり合うのか。小学生ぐらいでもすごい才能がいますし、そういう才能を発掘したいし、もっと外向きの考え方でありたい。今はそういう思いですね。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『ビューティフルドリーマー』
(2020年 日本 75分)
監督:本広克行
原案:押井守『夢みる人』  
出演:小川紗良、藤谷理子、神尾楓珠、内田倭史、ヒロシエリ、森田甘路、伊織もえ、かざり、斎藤工、秋元才加、池田純矢、飯島寛騎、福田愛依、本保佳音、瀧川英次、齋藤潤、田部文珠香、升毅
11月6日(金)よりシネ・リーブル梅田他全国順次公開
配給:エイベックス・ピクチャーズ
公式サイト → https://beautifuldreamer-movie.jp/
©2020 映画「ビューティフルドリーマー」製作委員会 
 

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