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「国の制約がある中でも神戸の人は常に世界に向けて開かれていた」黒沢清監督、神戸の魅力を語る。『スパイの妻<劇場版>』凱旋舞台挨拶

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「国の制約がある中でも神戸の人は常に世界に向けて開かれていた」黒沢清監督、神戸の魅力を語る。『スパイの妻』凱旋舞台挨拶
(2020.10.18 神戸国際松竹)
登壇者:黒沢清監督 
 
 第77回ヴェネツィア国際映画祭で見事、銀獅子賞(最優秀監督賞)に輝いた黒沢清監督最新作『スパイの妻<劇場版>』が、10月16日(金)よりシネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹他にて絶賛公開中だ。
 
 太平洋戦争前夜を背景に、時代の嵐に翻弄されながら愛と正義の間で揺れ動く夫婦の姿を描き出す歴史ロマン。濱口竜介、野原位の『ハッピーアワー』コンビによるオリジナル脚本は、戦前の神戸をその文化も含めて描き出し、国家による思想統制や監視の強化は現在の不穏な空気にも重なる。高橋一生が演じる優作の、時代の雰囲気に負けない行動力と、蒼井優が演じる妻、聡子が度重なる苦難を経て、強い意志を持ち、時代に立ち向かう姿に心打たれる。黒沢監督が惚れ込んだという神戸・塩屋の旧グッゲンハイム邸が、夫婦二人の住居である福原邸としてロケ地に使われているのも見どころだ。
 
 
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 公開2日目を迎えた10月18日、黒沢監督の出身地であり、本作のロケ地にもなった神戸の神戸国際松竹で凱旋舞台挨拶を行った。満席の観客を前に、初めて手にしたという銀獅子賞受賞証明書を眺めながら、黒沢監督は「残念ながら現地には行けなかったので大層な賞をいただいたという実感はなかったのですが、こうして(証明書を)見ると、『スパイの妻』が映画の歴史の片隅に名を刻めたのかなと感無量です。神戸でもかなりの部分を撮影させていただき、ありがとうございました」と挨拶。神戸を舞台にした映画を作るきっかけとなった東京芸術大学大学院映像研究科で教鞭をとっていた時の教え子である濱口竜介と野原位が脚本を持ってきたときのことを振り返り「神戸を舞台にした時代もののオリジナルストーリーが書かれていて、大変面白かった。お金のことを考えるとダメかと思ったが、NHKや映画プロデューサーらが気に入ってくれ、企画が実現しました」と脚本段階で惚れ込んだことを明かした。
 
 
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 当時の神戸が世界に向いて開かれていたことも、物語の核になったという黒沢監督。「1940年前後、日本はかなり内向きになり、国が外部との間に高い塀を作って行き来を閉ざそうとしていた時代だったが、人の心までは閉ざすことはできなかった。国の制約がある中でも神戸に住む人は常に世界に向けて開かれようとしていた。洋装はしないようにという国からのお達しがあったにも関わらず、神戸は皆洋服を着ていたと聞いている。そんな象徴的な街が神戸なのです」と、映画の登場人物たちの描写を重ね合わせながら神戸の魅力を語った。
 
 
 
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 聡子役の蒼井優の演技は本作の大きな見どころだが、黒沢監督は「本当に(演技が)上手い方。役になりきる憑依型の女優と思われているが、全部計算して演じておられるので、カメラが回る直前までは全く普通なんです。用意スタートがかかった瞬間に福原聡子になり、カットがかかった瞬間に『今のはどうでした』と聞きにきてくれる。撮影現場がすごく楽でした」とその実力に最大限の賛辞を贈る場面も
 
 最後に、神戸市より神戸市芸術文化特別賞が贈られた黒沢監督は「昨年大変撮影でお世話になったので、こちらから(神戸市に)感謝状をもらっていただきたいぐらいです。映画のスタッフ、キャストと共有したいと思います。映画はあそこで終わっていますが、もし余裕がありましたら、登場人物たちがあの後、生き残ってどういう人生を送ったのかと想像を掻き立てていただければ。その先に現在がありますので、そこまで思いを馳せていただくような映画になっていればうれしいです」と現代と地続きの物語であることを示唆し、舞台挨拶を締めくくった。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『スパイの妻<劇場版>
(2020年 日本 115分)
監督:黒沢清 
脚本:黒沢清、濱口竜介、野原位
出演:高橋一生、蒼井優、坂東龍汰、恒松祐里、みのすけ、玄理、東出昌大、笹野高史
10月16日(金)よりシネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹他全国ロードショー
公式サイト → https://wos.bitters.co.jp/
(C) 2020 NHK, NEP, Incline, C&I
 

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