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「古典的なコメディ映画の笑いと潤いを劇場に届けたい」 『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』成島出監督インタビュー

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「古典的なコメディ映画の笑いと潤いを劇場に届けたい」
『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』成島出監督インタビュー
 
太宰治の未完の遺作「グッド・バイ」をケラリーノ・サンドロヴィッチが独自の視点で完成させ、大評判を呼んだ舞台「グッドバイ」が、成島出監督(『八日目の蟬』)により映画化された。『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』は、何人もの愛人に別れを告げようとする編集者、田島と、田島から偽夫婦のパートナーを頼まれた担ぎ屋キヌ子が奇想天外な企みを繰り広げる昭和20年代前半を舞台にしたコメディ映画だ。モテ男のはずなのに災難に巻き込まれてばかりの田島役を大泉洋、美貌の持ち主でありながら牛のように力持ちでカラス声の女、キヌ子役を舞台から引き続き小池栄子が演じる他、田島がグッドバイを告げる女たちには、水川あさみ、橋本愛、緒川たまきが扮し、「グッドバイ」の修羅場を笑いに変えるような演技で魅了する。体を張った笑いや、丁々発止のやり取り、アバウトすぎる占い師の予言と、笑いのツボがいっぱい。そして最後に大事なものを見つける二人に拍手喝采したくなるのだ。本作の成島出監督にコメディ映画に込めた思いや、女優、小池栄子の魅力についてお話を伺った。
 

 
――――近年、社会派作品が続いていましたが、今回、初監督作『油断大敵』以来となるコメディを撮られています。まず、コメディ映画に対する思いについて、お聞かせください。
成島:コメディでデビューした人間ですから、ずっとやりたいと思っていましたが、デビューしてからちょうど一回りして、ようやく実現できました。コメディはヒットするかどうかの当たり外れが激しく、企画を出しても大手は尻込みしてなかなかOKしてくれません。そんな中、最近組んで映画を撮らせていただいているキノフィルムズさんは、快諾してくださいました。キノフィルムズさんのような誠実な作り方をしてくれる会社のおかげで、企画が通りにくいオリジナル作品や、コメディーを世に出すことができ、私も非常に感謝しています。逆にそれがなければ、今の日本映画はスカスカで、自己のない映画ばかりになっていると思います。
 
 
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■好きだった太宰治のユーモア小説。ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの舞台「グッドバイ」で、初めて映画化したいと思った。

――――念願のコメディで「グッド・バイ」を選んだ理由は?その魅力を教えてください。
成島:僕は中学時代から太宰治のファンで小説をよく読んでいたのですが、彼の小説には陰と陽があります。「人間失格」に代表されるような陰のドロドロした世界と、もう一つは当時ユーモア小説と呼ばれたジャンルがあったのですが、太宰のユーモアは非常に面白く、ただ世間ではなかなか評価されていなかったのです。僕は、光が当たるような太宰の陽の部分が好きだったのです。「グッド・バイ」も太宰のユーモア小説で、未完に終わったものです。ケラさんの舞台は元々好きで、よく見させていただいていたことに加え、小池栄子さんがキヌ子を演じるということも相まって、どのようにあの原作を最後まで描いたのかと思い、2015年に舞台を観に行きました。すごく面白くて、劇場がわっと笑いで包まれる。最初は一緒に笑っていたのだけれど、終わる頃には羨ましいなと思い始めたのです。
 
――――「羨ましい」が、高いハードルだったコメディ映画への布石になったのですね。
成島:実は今まで舞台を映画化したいと思ったことは一度もなかったのですが、「グッドバイ」を観劇して、初めて映画にしたいと思いました。非常に古典的な50〜60年代のハリウッドや日本のコメディ映画に近い匂いを感じたので、そういう笑いを取り戻したい。この笑いを劇場に届けることができればいいなと。
 
 
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■『グッドバイ』に登場する女性は皆、自立していて、きっぷが良く、嫉妬しない。

――――田島がキヌ子に投げとばされたり、体をはったシーンも多く、コメディならではの魅力が出ていました。
成島:この映画は本当に女が強くて、それに僕はすごく惹かれています。この女性たちは皆自立しているんです。特に、キヌ子は孤児なのに、体を張って担ぎ屋をし、自分が稼いだお金でオシャレをし、映画を楽しむ。だけど恋愛はしたことがない。そんなキヌ子はかっこいいじゃないですか。10人の未亡人と田島のような男の話だったら、嫉妬まみれになるだろうけれど、『グッドバイ』に登場する女性たちは皆、きっぷが良くて、嫉妬しない。それが現在の女性に通じるし、僕自身、そういう女性が好きなんだと思います。『八日目の蟬』にも通じますが、僕の映画は女が強くて、男がダメ。そういうパターンですよね。
 
――――最初、キヌ子の泥だらけの風貌だけでなく、野太い声に驚きました。
成島:太宰の原作にキヌ子はカラス声で、牛のような力持ちと書いてあり、小池栄子さん以外は演じられない役だと思っていました。実際にあの声を出すのは、本当に喉に負担がかかって、大変なんです。小池さんは舞台でそれをずっとやっていましたからね。最初のカラス声はすごいのですが、だんだん、声が澄んでくるので、カラス声も少しずつコントロールしていました。キヌ子からはじまり、女性陣は皆、それぞれしかできない役として演じてくれましたし、やはりそこを楽しんで見ていただければと思います。
 
――――田島役は大泉洋さんありきのキャスティングだったのですか?
成島:そうです。大泉さん独特の軽やかさや、いじられキャラであるところ、またちょっと甘ったれたり、ちょっとわがままな感じなど、彼のいいところを活かして、田島役を作り上げてくれましたね。
 
――――田島の部下で、田島の妻を演じるキヌ子に一目惚れする清川役の濱田岳さんも、純情男から一気にキャラクターが変わり、見事な振り切りぶりです。
成島:濱田岳さんは本当に達者な方で、笑えるのだけれど自然で嫌味がない。普通、口元でズラリと並んだ金歯がキラキラするとわざとらしくなってしまうけれど、彼の場合、キャラクターとして成立する。さすがです。西田敏行さんのはまり役だった『釣りバカ日誌』ハマちゃんをドラマ版で演じていますし、これからが楽しみな若き名優ですね。
 
 
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■心に潤いを感じ、朗らかな気持ちで過ごしてもらえる映画が、ギスギスしている現在には必要。

――――田島は人たらしで、彼が招いた男女の修羅場を笑いの力でコメディにしてしまう。そんなパワーがこの作品の魅力です。人たらしは、愛すべきキャラクターと捉えられていましたが、今はむしろ描きづらくなってしまったのでは?
成島:今は犯罪を犯したわけではないのに、世間の叩き方が尋常ではないと感じます。僕も辛辣な作品を撮ってはきていますが、できるだけ狭い範囲のことだけを描かないように腐心しています。狭い範囲で、深掘りする作品はもちろんあってもいいけれど、それだけでは辛すぎる。だからそろそろ『グッドバイ』みたいな作品を撮りたいという気持ちになったのです。日本にはかつておおらかな時代があったのに、寅さんみたいな職業の風来坊も、今リアルにいたとしたら、きっと付き合ってはいけない世界の人ですよね。全体的にギスギスして潤いがなくなった世の中で、この映画を観ている時ぐらいは、心に潤いを感じたり、朗らかな気持ちで過ごしてもらいたい。それは、企画の段階から思っていました。
 
 
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■チャップリンや小津安二郎のように色褪せない、きちんとしたコメディを届けたい。

――――賢く企んでいるようで、なかなかうまくいかない田島と、全然男のことを信頼もあてにもしていないけれど、払いが良ければ女房役を意気揚々とやってくれるキヌ子。どちらも人間臭さが際立ち、笑いを呼ぶ絶妙のコンビでした。
成島:笑うというのは人間にとって大事なのです。テレビで提供されるのはどうしても短い笑いなので、劇場で映画を観る2時間で、クスクスから始まり、ゲラゲラとなって、最後はドカンとくる、映画独特の笑いの世界を閉じたくない。チャップリンや小津安二郎のような古典は、映画の原点です。小津さんのユーモアは今観ても色あせませんよね。1年ぐらいで忘れられるようなシチュエーションコメデイではなく、きちんとしたコメディとして、お客様に届けばいいなと願っています。
 
――――田島に声をかける占い師が何を聞かれても「大体…」とアバウトな予言をするのが、この映画のおおらかさ、しいてはもっとおおらかに生きていいのかと思わせる、パワーワードのように思えました。
成島:そうですね。「大体」がこの映画のテーマです。「あの戦争で何百万人も殺されて…」というのが今のドラマですが、「大体、あの戦争からだね〜」という第一声で始まる映画を撮りたかったんです。
 
 
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■往年のイタリア女優のようなスケール感がある小池栄子。キヌ子は彼女でなければ演じられない役。

――――本作は小池さんが主演の映画を撮りたいという狙いもあったそうですが、何度も映画でタッグを組み、今回主演、キヌ子を演じた女優、小池栄子の魅力とは?
成島:『八日目の蟬』で一緒に仕事をしてから、この作品で5本目と成島組の常連のように出ていただいていますが、仕事をするたびに尊敬できる方です。小池さんは本当に努力家で、絶対にサボらない。それに、日本の女優にはあまりないようなスケール感があります。あんなにウエストの細い女性でありながら、「牛のような女だ」と言われて成立するところとか、ソフィア・ローレンなど往年のイタリア女優のようなスケール感がある。だから、女優として幅広いのです。キヌ子も絶世の美女でありながら、泥だらけの女でもあり、カラス声も含めて小池さんでなければ演じられない役だと思います。
 
 
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■至福感に溢れていた撮影現場。スクリーン越しにお客様に伝われば。

――――小池さん演じるキヌ子を含め、役者の演技や美術、衣装など色々な意味で、とても芳醇なコメディですね。
成島:舞台でずっと演じ、作ってきたキヌ子がすでに小池さんの中に出来上がっていたので、今回の撮影は楽しかったですね。小池さんも「いつも監督はしかめっ面をしているけれど、今回はニコニコしていたのでうれしかった」とインタビューで答えていたそうで、キャスト、スタッフのみんなも至福感に溢れていたと思います。ラストの撮影が最終日でしたが、皆幸福感に満ちていました。それがスクリーン越しにお客様に伝わればうれしいですね。やはりお客様が何となく幸せな気分になって、劇場を出てもらうのは、作り手として何よりもうれしいことですから。
(江口由美)
 

 
『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』(2019年 日本 106分) 
監督:成島出
原作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ(太宰治「グッド・バイ」より)
出演:大泉洋、小池栄子、水川あさみ、橋本愛、緒川たまき、木村多江、濱田岳、松重豊他
2020年2月14日(金)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都他全国ロードショー
公式サイト⇒http://good-bye-movie.jp/
(C) 2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ

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