『男はつらいよ お帰り 寅さん』豊中市先行上映会
(2019.11.29 豊中市立文化芸術センター)
登壇者:山田洋次監督、浜村淳
『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』(97)から22年、第1作公開から50年の今年、『男はつらいよ』シリーズの記念すべき第50作『男はつらいよ お帰り 寅さん』が12月27日(金)より全国ロードショーされる。
それに先駆け、山田洋次監督の生誕の地であり、名誉市民に選ばれた豊中市で11月29日(金)豊中市立文化芸術センターにて先行上映会が開催された。長内繁樹豊中市長(写真左)の挨拶の後に登壇した山田洋次監督(写真中央)は、「建築が好きな父は、新婚の家をどうしても新築したくて、自分で設計し、当時としてはとてもモダンな赤い屋根の家を建てました。その後住んでいただいた方が丁寧に使ってくださったおかげで、今でもそのまま残っています。『男はつらいよ お帰り 寅さん』は50年かけて作った映画、こんなにたくさんの人に観てもらえるのをとても嬉しく思います」と満席の観客を前に挨拶した。
引き続き、大阪の名パーソナリティーで映画評論家の浜村淳(写真右)が登壇。そそっかしい寅さんは、寅さんを演じた渥美清さんに重なるのかと聞くと、山田監督は「渥美さんの中に寅さんがいました。あんなに頭のいい人には会ったことがないというぐらいクールな人で、渥美さんと話していると彼の中に寅さんがいるとわかる」と渥美さんの人柄を振り返った。さらに寅さんが語る名言に話が及ぶと「渥美さんの顔を見ていると、いろんな言葉が浮かんでくる」と渥美さん自身が創作の源であったことを明かした。
寅さんといえば、本人は真面目なつもりの物言いが思わず笑いを誘うシーンが度々登場するが、押し付けがましい演出は嫌いなのかという浜村の問いに「面白いセリフを面白い言い方でいうと、面白くなくなる。寅さんが『青年!』とか『労働者諸君!』と言うと可笑しくなるという期待と、お前はそれほどの人間だったのかという色々なことを含めて可笑しくなったりもするんです」と可笑しさの演出について、持論を語った。
寅さんの映画で欠かすことのできないマドンナについて話が及ぶと、過去4回と最多出演の浅丘ルリ子が演じるリリーについて「リリーは、寅さんとの関係が一番ユニークな女性。それまでは良家のお嬢さんにボーッとしていた寅さんだが、リリーは彼と同じような境遇で、仕事も似ている。寅さんも仲間意識があったはず。だから、二人が同棲しても、いやらしさがなかったんです」
寅さん映画の真骨頂は笑わせながらも、ほろりと泣かせるところだが、山田監督は「まじめな人でも、角度を変えると滑稽に見えるもの。そうすればどんな人間も面白く見えるし、それは人間を暖かく見ているということなんです」と人物描写の妙を語った。浜村は自身が泣けたという榊原るみが10代でマドンナを演じた第7作『男はつらいよ 奮闘篇』のシーンを実況中継。知的障害のある太田花子(榊原るみ)が青森に帰る時、寅さんがみかんの袋を持たせると、誤って袋を落としてしまい、みかんが階段から転がり落ちるというくだりについて熱く語ると、山田監督も興奮気味にマイクを握り、「あのシーンは大変だったんですよ。みかんが思ったような場所に落ちてくれなくて、何度も撮り直しをしたら、榊原るみさんはまだ若かったので、なぜ何度もやり直すのかわからなかったみたいで・・・」と撮影秘話を披露。浜村のネタバレも含めた熱血寅さんトークに、山田監督も「よく覚えてますね」と感嘆しきりだった。
(文:江口由美、写真:河田真喜子)
<作品情報>
『男はつらいよ お帰り 寅さん』
(2019年 日本 115分)
監督:山田洋次
出演:渥美清、倍賞千恵子、吉岡秀隆、後藤久美子、前田吟、池脇千鶴、夏木マリ、浅丘ルリ子、美保純、佐藤蛾次郎、桜田ひより、北山雅康、カンニング竹山、濱田マリ、出川哲朗、松野太紀、林家たま平、立川志らく、小林稔侍、笹野高史、橋爪功他