「世の中には抱きしめなければいけない人がたくさんいるということを、僕たちは映画で伝えたい」綾野剛、佐藤浩市、瀬々敬久監督が語る映画『楽園』@TOHOシネマズ梅田
(2019.10.9 TOHOシネマズ梅田)
登壇者:綾野剛、佐藤浩市、瀬々敬久監督
「悪人」「怒り」などの原作者・吉田修一の短編集「犯罪小説集」より「青田 Y 字路」「万屋善次郎」を映画化した瀬々敬久監督(『64-ロクヨン-』シリーズ、『友罪』)最新作『楽園』が、10月18日(金)よりTOHOシネマズ梅田他全国ロードショーされる。
<ストーリー>
12年前にある村のY字路で起こった幼女誘拐事件。失踪直前まで愛華と一緒だった紡(杉咲花)は、罪の意識を抱えたままだったが、祭りの準備中に、孤独な青年、豪士(綾野剛)と出会う。孤独な二人は少しずつ心を通わせるが、ある祭りの日、Y字路で再び少女が行方不明になり、豪士は犯人として疑われるのだった。1年後、Y字路へ続く集落で親の介護のためUターンした善次郎(佐藤浩市)は、養蜂家として町おこしに一役買おうとしていたが、ある出来事をきっかけに、村八分にされてしまう。
歪んだ人間関係やデマの拡散によって、人が追い詰められ、思わぬ事件を引き起こす現代社会と地続きのテーマを扱いながらも、原作では登場人物の一人だった紡の物語を膨らませ、紡と豪士の関係や、善次郎と亡くなった妻(石橋静河)との関係から、小説では描かれなかった男たちの表情が豊かに描かれており、映画版ならではの登場人物の深みが感じられるのだ。
10月9日、TOHOシネマズ梅田で開催された『楽園』ABC名画試写会では、上映前に主演の綾野剛、佐藤浩市と瀬々敬久監督が登壇。「大阪大好き!今日一番やりたかったことができ、気が晴れました」と大阪での舞台挨拶を心待ちにしていた綾野に対し、「今日は朝から稼働していて、壊れかけています。何か持って帰っていただきたいと思います」と佐藤はキャンペーン三昧の1日をユーモラスに表現。大学時代を関西で過ごした瀬々監督は「シネコンと違って、昔ながらの劇場なので、なんかいいなと思いました」と昔ながらの大スクリーンの前でその感想を語った。『64-ロクヨン-』に続いての共演となる佐藤と綾野、そして瀬々監督がお互いについて、また作品について語った舞台挨拶の模様をご紹介したい。
―――『64-ロクヨン-』にも出演された佐藤さん、綾野さんの魅力は?
瀬々監督:綾野さんは15年ほど前、彼がメジャーになる前から知っていますが、当時はロン毛で繊細な感じでした。ずっとインディーズ魂を持っている役者だと思っていて、その魂は今も作品の大小に関わらず出演してくれることや、作品にも現れています。佐藤さんは、こう見えて同い年なんです。頼れる上司みたいな役を最近はよくやりますが、実は優しい人なんです。
綾野:浩市さんの背中には修羅があるというか、色々なこと、怒り、愛情があり、その背中で感じていたので、今回ご一緒することになった時も、すごく安心感があり、楽しみにしていました。プライベートでも食事をご一緒させていただきますし、安心感しかないです。
佐藤:綾野君はハードな部分とソフトな部分を持ち合わせています。役者として中堅という難しい時期に差し掛かっている中、例えば綱渡りをするにしても目隠しでやったほうが面白いでしょという人。その反面、冷静に人を観察する部分もあり、とても多面的な部分を持っている役者です。
綾野:今、すごく観察しています。『64-ロクヨン-』の時、日本アカデミー賞で主演5人の中に浩市さんと2人で参加しましたが、結局主演男優賞は、浩市さんが受賞されました。まだまだ遠いな、この背中はと思いましたし、肩を並べるとは言いませんが、近い位置に並べられるようになるにも時間がかかるかもしれません。それでも何度でも浩市さんとはご一緒したいです。
―――釜山国際映画祭では、アジア映画の窓部門に出品され、瀬々監督も参加されましたが、その手応えは?
瀬々監督:日韓は政治的には厳しい状況ですが、とても熱い歓迎を受けました。日本映画も15本ぐらい上映されていましたし、映画には国境がないと感じました。映画で手と手を結び合うことができればいいなと思います。
―――綾野さんも、佐藤さんも追い込まれ、追い詰められていく役ですが、お二人が追い詰めらた経験は?
綾野:追い込むことはあっても、追い込まれることはないので、演じる時は自分で自分を追い込んでいます。映画は皆で一緒に作っているところで、等価交換ができるのかという部分で業を感じていますが、今回は手応えを感じています。
佐藤:僕らの時代は(監督に)追い込まれまくりでした。相米慎二監督はワンシーンワンカットで撮影するのですが、『魚影の群れ』で海辺での僕と夏目雅子さんのシーンでは、午前中いっぱいリハで、午後にやっとテイクをまわし出し、10テイク以上やってから「今日はやめよう」と言い出すんです。「どうしたらいいんだ」という状況を作ってくれたのは、僕にとっては全然マイナスではなかった。瀬々監督が、若い子には良かれと思ってOKを出さないのは、彼らにとってよいことだと思います。
―――映画で象徴的に登場するY字路はまさに人生の分かれ道を示していますが、お二人の「人生の分かれ道」は?
綾野:日々ですね。人生は選択の連続で、僕たちは選択をし、選択肢があるから生きていけるのですが、楽園は選択肢がどんどん狭まっていく話です。何かを否定するのは一番簡単なので、僕はどうしたらできるかという選択肢を考えますね。こう見えてポジティブなのんです。そう見えますよね?
佐藤:全てがうまくいったかどうかわからないけれど、今、自分がここにいることを考えると、間違っていなかったんかなと思います。選択できる人生は素晴らしいですね。ひたすら止まってはいけないという人生は大変ですから。
―――『楽園』というタイトルは、どこから発想したのですか?
瀬々監督:人々はより良き世界に行きたいと思いながら生きています。そういう欲望がボタンの掛け違いで、ちょっとしたことで事件に結びついてしまうのではないかと思って(逆説的に)つけました。
綾野:『楽園』というタイトルになったことで、俳優部はとても救われました。誰しもが平等に楽園を望むことができる。その言葉があったことは僕らにとって大きかったですね。
佐藤:台本の仮のタイトルが「犯罪小説集」だったのですが、ある稿から『楽園』というタイトルになり、その瞬間、僕の中でスコーンと抜けた気がしました。善次郎は何に対して、誰のために生きたのか、『楽園』って何なのかという逆説的な意味合いでも考えさせてくれ、この役をやるにあたっての光明が射しました。
<最後のご挨拶>
瀬々監督:1989年に監督になり、30年目で、『楽園』は30周年記念映画だと思っています。かつては高度経済成長時代があったのに、こんなに憎しみ合ったり、なんでこんな時代になったのか。そんなことを思いながら作った映画です。
佐藤:掛け違えたボタンは掛け直すことができるけれど、それを掛け直すこともできずに、一番望まないところに向かってしまう弱者がいることを見ていただければと思います。そこにこのタイトル「楽園」をオーバーラップして考えていただきたいです。
綾野:今日は一緒に手を降ってくれたり、僕たちを歓迎してくださって、ありがとうございます。この映画がみなさんにとって、出会ってよかったと思える作品になったらうれしいです。最終的にきっとこの作品で打ちのめされ、苦しくなる部分もあると思いますが、野田洋次郎さん作詞作曲、上白石萌音さん歌唱のエンディング曲「一縷」という楽曲が、必ず皆さんを包んでくれると信じています。家に帰ってから、自分のとって大切な愛しい人を抱きしめてください。世の中には抱きしめなければいけない人がたくさんいるということを、僕たちは映画で伝えられればと思っていますので、この映画を皆さんに託します。ぜひ受け取っていただけたら幸いです。
(写真:河田真喜子、文:江口由美)
<作品情報>
『楽園』
(2019年 日本 129分)
監督・脚本:瀬々敬久
原作:吉田修一「犯罪小説集」角川文庫刊
出演:綾野剛、杉咲花/村上虹郎、片岡礼子、黒沢あすか、石橋静河、根岸季衣、柄本明
/佐藤浩市他
10月18日(金)よりTOHOシネマズ梅田他全国ロードショー
公式サイト → https://rakuen-movie.jp/
(C) 2019「楽園」製作委員会