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血縁関係の家族、疑似家族が入り混じる世界で、ぶつかり、歩み寄ることの大切さを描く。 『ひとよ』白石和彌監督インタビュー

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血縁関係の家族、疑似家族が入り混じる世界で、ぶつかり、歩み寄ることの大切さを描く。
『ひとよ』白石和彌監督インタビュー
 
 劇団KAKUTAを主宰する劇作家・桑原裕子の代表作を実写化した白石和彌監督(『孤狼の血』『凪待ち』)の最新作『ひとよ』が、11月8日(金)よりTOHOシネマズ 梅田他全国ロードショーされる。
 家庭内暴力から子ども達を守るため、雨の降る夜、夫を殺害したこはる(田中裕子)が、15年後に出所し、約束通り子ども達のもとに帰ってきた。事件によって運命を狂わされた長男・大樹(鈴木亮平)、次男・雄二(佐藤健)、長女・園子(松岡茉優)という3兄妹の皮肉な運命と、母との再会からはじまる葛藤を、彼らが住むタクシー会社の面々たち(音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、佐々木蔵之介)の人間模様と絡めて描く奥深いヒューマンドラマだ。本作の白石和彌監督に、お話を伺った。
 

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■田中裕子はまさに映画女優、本当に特別な時間になった。

――――白石監督にとっては、初めて血縁関係に結ばれた家族を真正面から描いた作品ですが、その母親こはる役は、田中裕子さんを最初から念頭に置いていたそうですね。
白石:田中さんは 降旗康男監督の『夜叉』(85)などずっと女の情念を演じられていて、女としても女優としても底のなさを見せつけられていました。近年では青山真治監督の『共喰い』(13)で、菅田将暉君が演じる主人公の母親を演じていた田中さんも素晴らしかった。今回、母をテーマにした作品で、田中さんは役の年齢的にもちょうど良かったですし、まずは無理を承知でオファーをしました。早速「来年の春は無理です」と断られたので、「1年待てば大丈夫ですか?」とお聞きすると、「考えさせてください」。最終的にはそこまで待ってくれるのならと、出演を決めてくださいました。
 
――――役作りの過程で、どんなやりとりをされたのですか?
白石:時々マネージャーを通じてメッセージが来るのです。セリフなど、その都度修正して書き直してまた送ったり、脚本という名の往復書簡を繰り返しました。送るたびにメッセージを再度いただくので、一度お会いして直接お話しをしてもいいですかとお聞きすると、「衣装合わせの時で大丈夫です」と(笑)。だから、初めてお会いするまで、すごく緊張感がありましたよ。実際に衣装合わせで初顔合わせをした時に、なぜ田中さんにオファーをし、なぜこの作品をやりたいと思ったのかをお話し、あとは本当にお任せしました。初対面の時は、相当緊張しましたが、とても柔らかい感じの方で、とはいえ、なかなか本心は見せていただけない。まさに、映画女優といった方で、本当に特別な時間になりました。
 
――――15年後に出所したこはるを演じるにあたり、田中さんは自ら白髪で演じることを提案されたそうですね。
白石:日頃は染めていらしたそうですが、オファーを受けていただいた際に、「今から染めるのを止めれば、来年の春にはちょうどいい感じになると思います」とおっしゃり、準備していただきました。こちらの思いの大きさを十分に感じて、田中さんも時間をかけて役の準備をしてくださったのだと思います。
 
 
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■佐藤健の「内に秘めた並々ならぬ情熱」を体感してみたかった。

――――次男・雄二を演じた佐藤健さんは白石組に初参加ですね。
白石:佐藤さんはスター俳優ですが、まだその階段を駆け上がっている途中で、これから日本映画界を背負って立つ俳優になる人材です。それだけの仕事ができているのは、クールに見えても本人の中に並々ならぬ情熱があるはずで、それがどんなものかを体感してみたかった。また雄二は最初、母親にきちんとコミュニケーションをできない役ですが、後半になるにつれ、他のどの兄弟よりも母親のことが好きで、兄弟のことを誰よりも考え、母親の期待に応えられていない自分にイラついている。そんな内に熱いものを持っている雄二が、佐藤さんにマッチするのではないかと思ってオファーしました。
 
――――長男・大樹役の鈴木亮平さん、長女・園子役の松岡茉優さんも、東京から帰ってきた雄二、そして出所した母親に翻弄され、家族ならではの難しさを見事に体現していました。
白石:鈴木さんはキャラクターの作り方の強さに加え、器用さと不器用さを持ち合わせた方。内にエネルギーが向かうという大樹役に合うのではないかと思ってオファーしました。松岡さんは、兄妹の時間や空間を埋め合わせる能力が非常に高かった。この3兄妹をまとめ上げたのは、松岡さんの力が本当に大きいですね。園子は他人には強く当たるのですが、実は一番自分の中の時間が止まっているキャラクターで、母親がいなくなってから、ちゃんと大人になれていなかった。そういうキャラクターがとてもハマっていましたね。
 
 
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■タクシー会社の社員たちはある意味で疑似家族。舞台として絶対に必要だったタクシー会社を探し求めて。

――――非常に重いテーマの家族物語ですが、一方、舞台となったタクシー会社の社員たちの日常描写が秀逸で、『月はどっちに出ている』(93崔洋一監督)を彷彿とさせるような活気もあり、非常に印象的でした。実際に、ロケ地を探すのは大変だったのでは?
白石:原作となる劇団KAKUTAでは、タクシー会社の事務所、裏庭があり、稲村家の母屋が隣接しているという舞台ならではの設定になっており、やはり家が離れていると困るのです。そういう場所を探そうとしたのですが、こちらの思うような場所はなかなか見つからない。5ヶ月ほど、総出で探しても見つからなくて、これはヤバイと皆が思っていた時に偶然国道沿いで見つけたのが浜松タクシーというタクシー会社。見せていただくと、あて書きかと思うぐらい、増設されている場所もあり、少し狭目ではありますが中庭もあって、見るだけでストーリーができるような建物だった。実際には営業中の場所だったのですが、皆でお願いし、事情を汲んでいただいて撮影期間はその場所をお借りすることができました。浜松タクシーさんのご協力が全てだったと思います。
 
――――住居と職場が一体となっている場所で、従業員とも家族のようないい関係だったことが、母親が帰ってきたことで動揺を隠せない三兄妹の不安を包み込んでいるようでした。
白石:稲村家だけでなく、大樹が結婚して抱えている家族、筒井真理子さんが演じる弓子が抱えている家族、佐々木蔵之介さんが演じる堂下が抱えている過去の家族と、血縁関係にある家族は皆、それぞれに重いものを抱えています。でもタクシー会社の社員たちはある意味で疑似家族的になっていて、そこにいる時は皆楽しそうにしている。血が繋がっていないからこそ、家族間では口にできないような悩みを打ち明けられたり、家族だからこそ言えないことも多々あるというような疑似家族や家族ならではの雰囲気が、タクシー会社と自宅が一体となったあの場所ではよく出ていると思います。
 
――――ラスト近くに目が覚めるような大きな太陽がスクリーンに現れ、やりきれない気持ちの登場人物たちにエールを送っているようにも映りますね。
白石:カーチェイスのシーンは、3日間海辺で撮影したのですが、あらかじめ太陽が昇る場所を探して、太陽がでるかどうかとドキドキしていたら1日目で撮れました。『太陽を盗んだ男』(79 長谷川和彦監督)ぐらい大きく撮ってとお願いしたのは、この一夜から朝が来て、何かが動き出したという感じを出したかったのです。
 
 
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■「巻き込まれなよ」というセリフに込めた思い。 

――――音尾琢真さんが演じる、こはるの甥で稲丸タクシーの社長、丸井が、母親こはるとの向き合い方に悩む三兄弟に放つ一言「巻き込まれなよ」。親子関係だけでなく、様々な局面につながる言葉だなと、思わず唸りました。

 

白石:あのセリフはこの物語のトリガーになっています。家族だけではなく、人との関係であったり、さらには国と国という政治的な場所でも、自分のことだけでなく、相手のことを考えてという歩み寄りの一歩が必要ですね。また最初の台本にクラッシュシーンは、なかったんです。でもそのシーンを入れたのは、まずはクラッシュしないとコミュニケーションは始まらないという僕からのメッセージでもあります。
 
 

■若松さんが歴代の弟子たちに言い続けてきた言葉を胸に。

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――――確かに、避け合っていては何も始まらない。一度ぶつかってみることで、いがみ合う間柄でも、お互いに感情を吐露したり、何かが動き出すきっかけになりますね。最後に、白石監督にとって人生を動かす「ひとよ」とは?
白石:『止められるか、俺たちを』(18)で門脇麦さんが演じた吉積めぐみさんが、若松さん(若松孝二監督)に新宿ゴールデン街に連れて行かれ、「おまえ、どんな映画を撮りたいんだよ。誰かをぶっ殺したいとか、爆破したいとか、そういうものはないのかよ。そういうものがあれば、それを、ばあっと入れれば映画になるんだよ」というようなことを言われるシーンがあります。その言葉は取材して聞いた言葉ではなく、僕がまさに若松さんに20歳の時、言われた言葉です。めぐみさんも僕が弟子入りする30年前に、若松さんに弟子入りしているのですが、若松さんは変わらない人なので、めぐみさんに言ったのと同じことを僕に言っていたはずです。僕は当時、ぶっ殺したい奴はいなかったので「映画監督になれねえー」と思ったのだけど(笑)、あの瞬間はワクワクした。そのワクワクは今まで続いています。
(江口由美)
 

<作品情報>
『ひとよ』
(2019年 日本 123分)
監督:白石和彌
出演:佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟(千鳥)、佐々木蔵之介・田中裕子他
11月8日(金)よりTOHOシネマズ 梅田他全国ロードショー
公式サイト → https://www.hitoyo-movie.jp/
(C) 2019「ひとよ」製作委員会
 

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