(2019年9月9日(月)@梅田ブルク7)
ゲスト:池松壮亮(29)
「ひるむことなく、全身全霊で闘う宮本を見て、
明日への活力につなげてほしい」
池松壮亮、29歳。むき出しの愛に全力投球!
今どきこんな熱血男子はいるのだろうか?…格闘技のような痛すぎる愛に「生きる覚悟」を示す主人公・宮本を、思慮深く大人しいイメージの池松壮亮が、今まで見たことのないブッチギレぶりで熱演。彼の本作に込めた想いを聴いて、改めて心を突き動かされてしまった。
宮本を演じた池松壮亮は現在29歳、12歳で出演した『ラストサムライ』(2003年)以来、演技派俳優として若手俳優陣の中でも群を抜く存在。彼が演じるキャラクターは、奥深い人間性と豊かな心情を秘め、物語だけでなく不思議な魅力の世界観をも醸し出す。彼の出演する作品では目が離せない存在の俳優だ。
そんな池松壮亮が体当たりで演じた宮本は、理不尽な社会と闘い、靖子を命がけで愛し、新たな命を守り抜く義務感に燃える熱血男子を熱演。靖子を演じた蒼井優とは『斬、』に引き続いての共演。宮本をしのぐ圧倒的パワーでハートに火をつける靖子を、これまた他の女優にはない破壊力で熱演。今だから語れる、俳優として生きることや、作品への想い、そして今や“怪優”のような存在となってしまった蒼井優ついても正直に語ってくれた。
(以下にインタビューの詳細を紹介しています。)
――撮影中大変だったことは?
肉体的にも精神的にもダメージが強かったです。映画2時間で宮本の痛みを理解してもらうためには、どんな痛みも受け入れるつもりでいました。でも、もう一回やれと言われたらやりたくないですが(笑)。
――TVドラマ版と映画版とは宮本は少し違ってきているようだが、キャラクターについて真利子哲也監督と話し合ったことは?
何十時間も話し合ってきたので、一言で話すのは難しいです。日々宮本像を決定付けていかなければならない中で、それぞれ違う宮本像を描きつつも、どこかで一致させられるよう話し合いました。特にクランクインする前は慎重に議論を重ねました。
――「傷付きたくない」と考えている今の若い男性に挑戦状を突き付けるような宮本像だが?
別に挑戦状を突き付ける気はないです。今の世の中は痛みを和らげるために経済が成立しているところがありますが、そんな中でも生き辛さを抱え、これだけの自殺率になってしまっている。本来、生きることはとても喜ばしいことであり、なおかつ痛みを伴うこともあるということを伝えられれば十分。ほんの一瞬の歓びを掴み取るために宮本は傷だらけになりながら生きていく訳ですから、リスクは付きもの。自分で経験しないと分からない。携帯を開けば人生が何たるかが分かるようになっている現代では、痛みに弱くなっていると感じます。
――今回の宮本を演じて、自分の中で変わったこと、得たものは?
「演ずることだけが俳優のゴールではない」と言いましたが、「届けることは俳優の義務」だとも考えています。一個人としてこの映画を通過して思うことは、時代の転換期にこの作品に出会えて、今一度人間らしくあらねばと思いました。
原作者の新井先生の作風は過激な表現も多いですが、過激な部分を通過してピュアな所に行き着くという作風。人間回帰を表現してきた方でもあります。宮本もそういうところがあり、自分が暴れるのは、人生の苦難に対面した時に自分自身の価値が壊れてしまって、明日を掴むために暴れている。僕自身もそうだし、関わった人たちもそうだし、観て下さる人たちもそういう処を抱えていると思う。
非人道的なことが年々増加する現代において、目に見えない圧力を感じていても、宮本のような強引さが一瞬でも変化をもたらすことができるかも知れない。靖子の過去は変えられないが、心の痛みを半分にすることはできるかも知れない。別にみんなに宮本になってほしい訳ではありませんが(笑)、この作品を通して、強さの可能性を感じ取ってほしいと思います。
――原作が書かれた時代は違うが、今本作を発表する意味は大きい。特に池松さん自身の俳優としての覚悟を強く感じたが、今までの出演作で自分に一番近い役は?
僕は自分の中に賛同する要素がないと動かないタイプです。どの役が池松かと問われたら、どれも自分に近い部分はあると思う。表現する上で、役者本人そのものが出過ぎると傲慢で危険なことになってしまうので、俳優としての価値はないと思っています。そういう意味で本作は、20代最後に置いていきたいような池松の本音が出ている作品でもあると思います。
――長いキャリアの中で、今まで演じて来たキャラクターと、30代を迎えてからのキャラクターの変化について?
漠然とある程度は予測できますが、明日でも10年後でも20年後でも、せっかく心を使う俳優という仕事をしているのですから、心の赴くままに極力自然にやっていきたいと思っています。
――やってみたい役は?
そういうのはあまりありません。日本の俳優は演ずることがゴールとされてきました。僕はそこに反発してきた部分があると思います。自分がどういう役をやりたいというよりも、いい作品に携わっていきたい。そして、自分がその一助になれれば、まだまだ俳優としてやっていけるかな、と思えるのではないかと。
――蒼井優という女優について?
あり余るパワーを女優をやることで発散しているような方。それでも、映画に偏差値があるとしたら、とても偏差値の高い方なので、別に事前にやり取りしなくても無言のままでもそのシーンの目に見えないものを掴み取ることができる。そういう方とワンシーンワンシーン積み上げていく作業はとても面白かったです。
――昨年、映画『斬、』でも共演されていましたが?
無言のうちに共有している時間がすごく長かったですが、雑談はよくしていました。
蒼井さんは普段すごくお喋りな方。僕はこうした取材ではスイッチを入れて話すようにしていますが、現場では極力話さず静かにしているタイプなのに、まあ話し掛けてくるわ!僕は本番前は助走が必要ですが、蒼井さんは本番になるとスイッチを切り替えて撮影する。そして終わったらまた話の続きをする(笑)。
蒼井さんはよく「疲れない!」と仰っていますが、僕はすぐに疲れてしまうので、それが理解できなかった。『斬、』の時もずっと元気で、「どこからあのパワーは来るんだろう?」と不思議でした。でも、本作で見てはいけないものを見てしまった!それはお昼休みの後、控室で歯ブラシを加えたまま寝ていたんです!? きっとさすがの蒼井さんも大変だったんだと思います。
――蒼井さんとは同郷ですが、雑談では方言が出たりしますか?
そもそも僕は敬語で話していますので方言は出ないです。一応、蒼井さんは5歳上ですからね。
――靖子という女性はタイプとしてどうですか?
イヤですね(笑)。1か月だけでも向き合うのは大変でしたからね。
――激しいけど、言うべきことをビシッと言える、愛情いっぱいの女性のようですが?
大好きですよ。尊敬できるし、カッコいいなと思う。一個一個の迷いからの答えの出し方とか、髪を束ねて台所に立つ姿とか、気合いとか女のプライドを持っている素敵な女性だなと思います。
それより、この映画を観て、日々を向上しようとか、今日よりも明日を良くしようとか、今頑張っていることを大事にしようとか、小さいことでも明日への活力につながるように感じてくれたら作品も本望かなと思います。
――人を愛する覚悟は、生きる覚悟につながるような気がしたが?
宮本の、生きる覚悟、靖子を愛する覚悟、親になる覚悟など、いろんな覚悟が含まれています。明日を生きることの義務、これだけ過激に情熱を燃やそうとしている宮本を見て、何かしら活力につなげて頂ければ嬉しい。(パンフレットの表紙を指して)このバラを届けるために、宮本は悪戦苦闘しているんですよ。これが総てなんです!
【STORY】
文具メーカー「マルキタ」で働く営業マン宮本浩(池松壮亮)は、ある喧嘩で負傷して上司に叱られている。愛想良くできない上に気の利いたお世辞も言えず、手柄を同僚に奪われるなど、営業マンとして四苦八苦していた。だが、この日の宮本はなぜか晴々しい顔をしていた。それは中野靖子(蒼井優)との愛を不器用ながらも貫けた、初めて感じる男としての自信だった。そこには、語るもせつない宮本の悪戦苦闘の日々があったのだ。
痛々しい程の究極の愛に挑む宮本。「靖子は俺が守る!」と宣言したものの靖子を襲った悲劇に無力な自分を責め、そして絶対敵わない相手に挑戦する!……リスクを恐れず真っ向勝負に挑む宮本の情熱と誠意は、観る者を奮い立たせ、人を愛する覚悟を教えてくれる。
(2019年 日本 2時間9分)
■出演: 池松壮亮、蒼井優、井浦新、一ノ瀬ワタル、柄本時生、 星田英利、古舘寛治、佐藤二朗、ピエール瀧、松山ケンイチ
■原作: 新井英樹『宮本から君へ』(百万年書房/太田出版刊)
■監督:真利子哲也 脚本:真利子哲也/港岳彦
■配給: スターサンズ/KADOKAWA 【R15+】
■コピーライト:(C)2019「宮本から君へ」製作委員会
■公式サイト: https://miyamotomovie.jp/
2019年9 月 27 日(金) ~梅田ブルク 7 他 全国ロードショー
【編集後記】
取材当日は台風15号の影響で新幹線が大幅に遅延し、午前中予定のインタビューが夜の先行上映会の舞台挨拶後となった。様々な媒体の取材を経てこの日最後の取材となったが、劇中の宮本とは対照的に普段は無口で静かなタイプだという池松壮亮は、終始穏やかに飾らぬ態度で応じてくれた。インタビュー終了後も、写真や原稿のチェックは必要ないという。最近、男優でもスタイリスト付きっきりでビジュアルを気にして、厳しく写真や原稿チェックする傾向にある中、なんという自然体!その無欲な姿勢に余裕を感じさせる。益々池松壮亮が大きく見えてきた。
(河田 真喜子)