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沖縄のために身を捧げた"不屈の男"の原点は、戦争への憎しみと怒り。 『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』佐古忠彦監督インタビュー

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沖縄のために身を捧げた“不屈の男”の原点は、戦争への憎しみと怒り。
『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』佐古忠彦監督インタビュー
 
 戦後アメリカ占領下の沖縄で米軍に挑戦を挑んだ男、瀬長亀次郎の人生を通じて沖縄の戦後史を描いた前作『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』から早2年。瀬長亀次郎の素顔や、彼の肉筆の日記から浮かび上がる不屈の精神を捉え、よりカメジロー像に深く迫る最新作『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』(カメジロー2)が、9月6日(金)より豊岡劇場、9月7日(土)より第七藝術劇場、京都みなみ会館、元町映画館、今秋シネ・ピピア他全国順次公開される。
 
 監督はキャスター時代(「筑紫哲也NEWS23」)から精力的に沖縄取材に取り組み、初監督作となる『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』で、沖縄のためにその身を捧げた瀬長亀次郎åの人生から沖縄戦後史を浮かび上がらせた佐古忠彦。上映後は「もっと闘うだけではない亀次郎さんの素顔を見てみたい」「なぜ“不屈の男”になったのか理由を知りたい」という反響が寄せられたという。再度日記を読み込むことから始めたという本作は、亀次郎の肉筆をクローズアップで見せ、その時の心情を浮かび上がらせている。また、沖縄の主張と政府の対応を佐藤首相に問う、亀次郎の魂の論戦シーンは必見だ。
 
 本作の佐古忠彦監督に、人間、亀次郎によりフォーカスしたカメジロー2(通称)の見どころや、より沖縄と本土の分断が深まる今、本作を公開する意義について、お話を伺った。
 

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■大反響を呼んだ前作で、闘う男としての瀬長亀次郎を認識してもらった。

━━━前作『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』は、沖縄で今でも語り継がれる瀬長亀次郎さんのことを、本土や世界の人が知るきっかけになりました。実際に前作を公開してどのような手応えを感じましたか?
佐古:なぜ沖縄と本土の溝が深まり続けるのか。それは戦後史への認識が抜け落ちていることが大きいと思い、テレビ版から始まり、前作の映画化で亀次郎さんにアプローチして、沖縄を中心にした戦後史を見ていきました。公開時は、沖縄だけでなく、その熱が東京に伝わり、どんどんと広がって、どこでも入場待ちの行列を作っていただきました。「こんな人物がいたとは知らなかった」というお声もあれば、亀次郎さんと同時代に生き、その時代感を共有してくださる方もおられました。上映後も劇場内が亀次郎愛に満ち溢れていましたね。見ていただいた方には伝わったと思いますし、闘う男としての亀次郎さんを随分認識していただいたのではないかと感じています。
 
 

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■カメジロー2は日記を再度読み込み、世に知られないけれど、詳しく記述している事件を取り上げ、筋立てを作る。

━━━カメジロー2ということで、前作を見ていない方に配慮しつつ、新しい亀次郎像を見せるというのは、難しい作業だったのでは?
佐古:確かに頭を悩ませました。タイトル一つとっても「2」と続編を匂わせるものを入れてしまうと、前作を見ていない人が敬遠してしまうかもしれない。だからあえてタイトルに入れず、本作だけ見ても全てがわかるように、そして前作を見た人にはもっと亀次郎さんのことを知ってもらえるようにしたいと思いました。なぜ亀次郎さんが怒り、闘うのかを説明するにあたっては、前作と重なる時間は既視感がないように違うエピソードで歴史を振り返っています。いわば、前作は大きな歴史の流れがあり、そこに亀次郎さんの日記の記述を探していったのですが、今回は先に日記を読み込み、取捨選択をしながら一本の筋立てを作り、そこに映像をはめ込んでいく。ですから、世に知られる大きな事件より、世の中に知られていないけれど、亀次郎さんが詳しく記述している事件を取り上げているところもあります。
 
例えば、今回取り上げた輸送機の墜落事故。嘉手納基地の横での飛行機墜落事故は、この3年前に起きた宮森小学校での事故のように大きく現代にも語り継がれているというものではありませんが、亀次郎さんは日記の中で「3度目」と書いた上で、その謝罪について「いつも米軍は口先だけだ」と怒っています。今でも沖縄で米軍が事故や事件を起こせば、米軍幹部が沖縄知事に謝りに行くけれど、結局同じ悲劇が繰り返される訳で、亀次郎さんが怒る状況から現在が見えてくるのです。
 
 

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■戦後史だけでなく、家族とのエピソードが詰まった亀次郎さんの日記秘話。

━━━今回は亀次郎さんのよりパーソナルな部分を捉えるために、230冊を超える日記を再び読み込んだそうですが、そこでどんな発見があったのですか?
佐古:前作の上映後半年ぐらい経ってから、カメジロー2に進んでみたいという気持ちが芽生え、再び日記を読み込む作業を始めました。元々亀次郎さんの次女、内村千尋さんが「父の日記には戦後史が詰まっているので、これを世に出したい」とおっしゃっており、政治と沖縄に関する部分も多いのですが、一方で家族のエピソードもたくさんある。お嬢さんがやった宿題を褒める日もあれば、「フミ(妻)と大喧嘩」と一言だけ書いてあったり、亀次郎さんは映画がお好きだったのでお嬢さんと一緒に見に行った映画の感想も書いていました。また、なぜ闘うのかの原点も記されていました。
 
━━━亀次郎さんの次女、千尋さんは舞台挨拶も佐古監督と一緒にご登壇されていますが、カメジロー2を作るにあたり、かなり力になってくださったのでしょうか?
佐古:千尋さんがいなければこの映画はできなかったでしょう。私たちテレビ局では持っていないような写真や映像をはじめ、ありとあらゆる資料をご提供いただきましたし、亀次郎さんが投獄中に自身を小説「レ・ミゼラブル」の主人公ジャン・バルジャンと重ね、孫娘をコゼットと呼んだというエピソードも千尋さんとの会話の中から教えていただきました。千尋さんとお話する中で知った亀次郎さんの知られざる一面が本当に多かったんです。先行公開した桜坂劇場の舞台挨拶では、千尋さんのことを主演女優と紹介されていましたし(笑)不屈館だけでなく、千尋さんのご自宅にその5倍ぐらいの資料をお持ちなので、欲しい資料は逐一探していただきました。
 
 

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■不屈の男の原点は戦争への憎しみと怒り。

━━━映画の冒頭にも日記の一文が登場しましたが、その狙いは?
佐古:1969年、沖縄が日本への復帰が決まった年の慰霊の日の日記ですが、「恨みを飲んで殺された仲間たちの魂に報いる道は何か」と書いています。ラストに登場する佐藤首相との国会論戦で、「これは白骨であります」と写真を見せつけ、「再び戦場となることを拒否する」と断言しますが、何が彼をそうさせたのかと言えば、やはり沖縄戦、戦争への憎しみが原点にある。亀次郎さんが一番大事にしていた人間の尊厳も踏みにじられてしまうのですから、戦後アメリカ軍による軍事占領は耐えられなかったでしょう。加藤周一著「抵抗の文学」を読んだ後の感想と交えて「憎しみではなく、怒りの爆発だ。国民への愛情があるからなのだ」とも書いていますが、なぜ闘うのかという問いに対する人間のありようが見えます。一本筋が通っていますね。
 
━━━そこで一本の道が映し出されるのが新鮮でした。一貫した主義を貫く亀次郎さんの人生に重ねているようでした。
佐古:亀次郎が仲間たちの魂に報いる道、一筋に歩いた道をイメージしています。前作はガジュマルの樹で始まり、一本の道で終わったので、今回はその道で映画が始まり、最後はガジュマルの樹で終わります。2本の映画が不屈の精神の輪でつながるようにしています。
 
━━━亀次郎さんの不屈の精神を支えたのは、亀次郎さんを支持する沖縄のみなさんだったのでしょうね。
佐古:亀次郎さんは、あるインタビューで「カメさんファンがたくさんいますが」と問われ、沖縄の市民のことを「ファンというより友達だな」と語るように、先生と言われることを本当に嫌い、常に民衆と共に歩んでいました。そんな政治家は、なかなかいないと思います。
 
 
 

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■亀次郎さんは、アメリカ側の意図を読み取る分析力と先見性を持っていた。

━━━さらに、日記を紐解く中で、亀次郎さんの「先を読む力」にも注目されたそうですね。
佐古:亀次郎さんは、宮古島の刑務所で他の受刑者と隔離され、喋る相手はネズミぐらいという孤独な中で、奥さんからの手紙を待ち焦がれていた一方、すごく勉強していたんです。日記以外に学習ノートがあり、そこには領土問題、資本論など様々なことがびっしりと書かれていました。出所後に市長になりますが、アメリカ軍から市長を追い出される2ヶ月前には、日記に彼らが何をするかを書いています。実際、亀次郎さんは市長を追われ、でもすぐに、後継候補を立てました。またアメリカ軍から被選挙権まで奪われると、逆に立候補をし続けて、民衆からの支持を得ることでそれを打破すると書き、それを実現させました。また日米返還協定の前に、1969年佐藤・ニクソン会談で核密約のあったことが後年明らかになるのですが、亀次郎さんはそれ以前に「核隠し」「有事の場合持ち込む」と日記に書いているのです。アメリカ側の意図を読み取る分析力と先見性が、亀次郎さんの行動力の裏付けになっています。
 

 

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■本土と沖縄、沖縄のやり方はダブルスタンダード。

━━━亀次郎さんを見せしめにし、沖縄市民から土地も人権も奪う一方、今夏デジタルリマスター版が公開された『東京裁判』ではアメリカが本土市民の抵抗を逸らすために、天皇責任を問わぬ形にしたエピソードが語られました。この2作を見ると、アメリカの戦後日本に対する占領政策の使い分けが露わになっています。
佐古:最大の民主主義国家アメリカが日本に対して行ったダブルスタンダードです。例えば本土に対しては労働組合を認め、労働者にどんどん権利を与えていくので、ストライキも認められたのですが、沖縄の場合は権利を全て握りつぶされていきます。
 
━━━旅券を剥奪された亀次郎さんが唯一の夫婦旅行で、海の向こうへの思いをナレーションにのせて語るシーンがとても印象的でした。
佐古:現存している亀次郎さんの日記とフミさんの日記で、同じ日のものがあったのです。作ったおにぎりの数やおかずの中身、出発時間まで事細かに書かれていたのが、本当に一致していて、夫婦の仲睦まじさを感じました。本土を見るために、旅行に行った時の様々な会話をナレーションで再現していますが、祖国を見に行ったという特別な思いがあったのだと思います。
 
━━━そのナレーションは、役所広司さんが亀次郎さんの声を担当していました。すごく包容力がありましたね。
佐古:前作をご覧いただき、すぐにご快諾いただいたのですが、力強い演説にせよ、ご家族に対する言葉にしても、役所さんにお任せして亀次郎の世界を作っていただきたいと思っていました。役所さんも「すごい人がいたものだね」という風におっしゃりながら、亀次郎さん自身の映像は非常にキャラクターがしっかりしているので、声でどのように世界観を作り出すのか、随分考えていただいたと思います。本当に深く広い感じが出ていて、感動しました。
 

 

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■亀次郎さんや沖縄の皆さんのおかげで沖縄占領下の歴史、沖縄の気持ちを伝えることができた。 

━━━前作にも登場したハイライトの沖縄の主張と、政府の対応を佐藤首相に問う亀次郎さんの国会答弁シーンですが、今回はその全容を映し出し、魂の熱弁が胸に刺さりました。

 

佐古:国会議員になった亀次郎さんが民意を代弁する姿を描きたかったですし、あの亀次郎さんの演説はこの映画で描いてきたことが全て込められています。私も佐藤総理を追及する様々な言葉がすとんと胸に落ちてきましたし、さらに50年前の国会であんなに熱のこもった議論があったことが新鮮でした。当時は国会の場に、意見が違っても、それを認め、論じ合う姿勢があったんだと感じます。
 
━━━佐古監督は、15年に取材を始めてから4年間亀次郎さんに向き合っておられる訳ですが、取材を始める前と今とで、ご自身にどんな変化がありましたか?
佐古:テレビでは沖縄戦を伝える1時間半の特別番組など、様々な番組で沖縄のことを取り上げ、それにより伝えられたこともあったと思いますが、亀次郎さんや沖縄の皆さんのおかげで沖縄の占領されていた歴史、沖縄の気持ちを伝えることができた。それに対する感謝の気持ちが、まずあります。亀次郎さんの日記は色々なテーマで切り取ると、もっと様々なストーリーがありますので、まだまだ不屈の男にはまっていくと思います。
 

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■「少数派になることを恐れるな」日本戦後史の共通認識ができるものを提示し、議論に結びつけるきっかけづくりをしたい。

━━━最後に、前作のインタビューで、筑紫哲也さんから「自由の気風」を学んだとおっしゃっていましたが、今メディアで自由の気風がどんどん失われる中、佐古監督はこれからどのような役割を果たしていきたいですか?
佐古:自由の気風がなくなった時に、何が起こったかは歴史が教えてくれています。今の世の中どうなのかといえば、最近では忖度という言葉もよく話題になる。伝えるべきことをどこまで伝えているだろうかと、私もメディアの一人としてよく考えます。筑紫さんは「少数派になることを恐れるな」とおっしゃっていましたが、たとえ伝えていることが少数派であったとしても、だからこそ伝えなければいけないことがあります。私たちの仕事で、議論をするための一つの材料を提示することは重要な役割です。お互いに事実の認識を共有しなければ、まっとうな議論になりません。沖縄をめぐる今の議論も、戦後史の認識が抜け落ちたままでは、議論は的外れになってしまいます。そういう意味で、もう一度向き合うべきものを提示し、議論に結びつけるきっかけになればと思いますし、そういう仕事をさらに進めていきたいですね。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』
(2019年 日本 128分)
監督:佐古忠彦
出演:瀬長亀次郎他
語り:役所広司、山根基世
2019年9月6日(金)〜豊岡劇場、9月7日(土)~第七藝術劇場、京都みなみ会館、元町映画館、今秋シネ・ピピア他全国順次公開
(C) TBSテレビ

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