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「嵐電は、車両の中でも窓ガラスの向こう側でも、映画のような瞬間がたくさんある」 『嵐電』鈴木卓爾監督、井浦新、大西礼芳、金井浩人インタビュー

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京都人の足として長年愛されている通称「嵐電」(京福電気鉄道嵐山本線)は、古くから映画撮影所が多く集まる地区を走り、溝口健二をはじめとする多くの映画人が愛用していたことでも知られる路面電車だ。その嵐電をモチーフに、京都に住む人、外から来た人の視点を織り交ぜながら、3つのラブストーリーを描いた映画『嵐電』が、5月24日(金)からテアトル新宿、京都シネマ、6月7日(金)からテアトル梅田他で全国順次公開される。
 
監督は『ゲゲゲの女房』(10)、『楽隊のうさぎ』(13)の鈴木卓爾。嵐電の街で妻・斗麻子(安部聡子)と体験した出来事を呼び覚ますため、京都に滞在するノンフィクション作家衛星(井浦新)、撮影のため京都を訪れた新進俳優、譜雨(金井浩人)と撮影所にランチを届ける近所のカフェ店員嘉子(大西礼芳)、嵐電オタクの子午線(石田健太)と彼に一目惚れした修学旅行生の南天(窪瀬環)らが、時には時空を超えて出会いや別れ、そして愛おしい感情を共有していく。夕子さん電車や深夜電車の都市伝説を交えながら、鈴木節満開の時空を超えたヒューマンドラマだ。世界初上映された大阪アジアン映画祭のオープニングでは、キャストが勢ぞろいし、満席の観客と大いに盛り上がった。
 
本作の鈴木卓爾監督、出演の井浦新さん、大西礼芳さん、金井浩人さんにお話を伺った。
 

 
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■京都に住み、その空気を吸いながら、大学のプロジェクトとつなげ、自分でプロデュース(鈴木)

―――京都で愛され続けてきた嵐電を題材にした映画ですが、制作のきっかけは?
鈴木: 2015年9月、オムロの西田宣善さんから「嵐電を題材にラブストーリーを撮ってほしい」と1枚の企画書を渡されたのがきっかけです。「嵐電の中で不思議な美女に出会った男は、謎の事件に巻き込まれていく…」という内容だったのですが、そこで僕はホセ・ルイス・ゲリンの『シルビアのいる街で』(07)を思い出しました。ストラスブールというトラムが走る街を舞台に、ある場所で出会った女の人をずっと探し求めている映画で、60分間全くストーリーはないのですが、絵でしっかりと見せきる映画でした。
 
2016年4月から京都造形芸術大学(以降京都造形大)准教授に就任したので、単身赴任で京都に住み、京都の空気を吸いながら、北白川派映画として京都造形大のプロジェクトとつなげたり、自分でプロデュースをするという方向で映画を制作することになりました。西田さんの父、西田智さんは、その昔、嵐電に乗車中に「あなたはいい顔をしているから、映画に出ませんか」とあの溝口健二監督にスカウトされたそうです。『武蔵野夫人』(51)や『新平家物語』(55)に出演されているし、西田(宣善)さんが初めて8ミリカメラを手にされた時は、まず嵐電を撮影しに行くぐらい、かなり長年の思い入れのある企画だったそうです。僕がシネマインパクトで撮った『ポッポー町の人々』(12)は、都営荒川線という単一車両で走っている電車の町を架空の町に見立てた群像劇なのですが、西田さんはその作品をご覧になり、依頼してくださったそうです。
 
―――あちらの世界とこちらの世界を行き来するアイデアは最初からあったのですか?
鈴木:私は素でやると、時制を無視してしまうタイプなので、監督補の浅利宏さんに撮影までの間、台本を通訳してもらったり、セリフの改変、シーンの書き足し等で分かりやすくしてもらいました。シャガールの絵のように時空を超えるような、「映画ってそういうものじゃないですか」ということを、他の映画監督はやらないですよね。今日は今日、明日は明日と時制どおりですし、回想は回想シーンとしてでしか登場しないということに私はどこか不自由を感じています。あまりにも遊ばなさすぎると感じてきました。テオ・アンゲロプロス監督はワンカットで10年をすっ飛ばしているじゃないかと思いますけれどね。
 
 
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■衛星は、『嵐電』の世界の中で出会い、すれ違う人をとにかく見つめている役回りとして、そこにいようと思った。(井浦)

―――井浦さんは、どのようにオファーが来たのですか?
井浦:監督が直接、僕の目をじっと見て、「僕の映画に出てください!」とおっしゃってくださったので、二つ返事で「はい!どんな役でもやります」と飛び込んでいきました。「電車の映画なんです」という誘い方もしてくださいました。僕は電車が好きで、乗り鉄、撮り鉄なので、大好きな電車の映画に携わり、その現場で過ごせるのはなんて幸せなんだろうと思いました。卓爾監督とは役者としても多数共演していますし、監督とまた新しく何かを探すことができるという気持ちもありました。
 
―――鎌倉からやってきたノンフィクションライターという役どころはいかがでしたか?
井浦:僕が演じた衛星は、あの世とこの世を行き来するので、難しかったですし、どう演じていこうかと考えました。衛星が映っているところは全部あの世かもしれない、というぐらいのテンションでいいのではないかと。『嵐電』の台本をいただき、文字を素直に読むことで想像させられる世界もあれば、また違う角度から見ると、全く違うところに飛んで行ってしまう。ワンシーンワンシーンで色々なことが起きています。撮影現場では、普通でないものがある中で、僕たちは芝居をさせていただきました。本当に想像させられる映画ですし、大きな軸として、各世代のラブストーリーがあります。監督も、本当に言いたいことを一番奥にしまい込みかつ、たくさんの人が楽しんでもらえるようにする。とてもチャレンジングな試みをされていることが台本から分かりましたので、衛星を演じるにあたり、難しいことはせず、しっかりとこの作品の核を握り続けたまま、何もしないでおこう。『嵐電』の世界の中で出会い、すれ違う人をとにかく見つめている。そういう役回りとして、そこにいようと思いました。
 
 
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■関西弁だと気持ちの動き方が全然違う。(大西)

―――大西さんは『MADE IN JAPAN〜こらッ!〜』(11)、『彌勒 MIROKU』(13)に続く北白川派作品への出演ですが、京都在住の嘉子役はいかがでしたか?
大西:卓爾監督の作品は初出演ですが、卒業制作展のゲストに呼んでいただき、映画のコメントをいただいたことがありました。「あのシーンの建物から出てきた大西さんの歩き方って、すごく素人っぽかったですよね」と言われて、素人っぽいってどういうことなんやろと考え始め、卓爾さんって何を考えてるんやろ、卓爾さんの演出する映画に出たいとずっと思っていました。今回、念願が叶ってうれしかったです。
鈴木:大西さんが人を見る時の目が、凄いなと思っていました。ちょっと人間じゃないような、「ん?漫画?異次元か?」みたいな感じで、早く撮りたいと思わせる目つきをされていた。そんな大西さんの起用をずっと狙っていました。
大西:今回は京都造形大に帰ってきたという感じではなく、鈴木組に参加するという気持ちで来ました。私は三重県出身で地元から出たことがなく、他の場所の空気や人と出会ったことがない人見知りだったのですが、そういう自分を思い出しながら演じました。大学で京都、仕事で東京に出て、いろいろな人に会い、仕事をする中で人との接し方がすごく変わってきたので、嘉子は今の自分とは違うけれど、昔の自分とは近いかもしれません。あとは関西弁だったので、標準語をしゃべっている時と気持ちの動き方が全然違う。今回は関西弁に助けられた部分もあると思います。
 
 

■今の若い俳優が持つ悩みを、役に投入した。(金井)

―――金井さんは俳優の卵、譜雨役で、劇中劇のシーンもありましたね。
金井:東京から来たそんなに有名じゃない俳優という役は、等身大の自分に近かったと思います。今の若い俳優が悩みがちなこと、今自分がどこにいて、これからどこにいくのかという悩みを僕も常に持っているので、そういうところを役に投入できればいいなと思いました。(だんだん嘉子のことが好きになっていく演技については)大西さん自身を好きになることから役にぶつかっていきました。
大西:嘉子と譜雨は最初とてもギクシャクしているのですが、そのギクシャクし具合も卓爾監督に結構細かく指導していただいたのを覚えています。譜雨の言葉尻を捉えて、「少しでも気に入らないことがあれば目を逸らすとか、そういうことするんですかねぇ」って。(笑)
鈴木:それは「目を逸らせ」ということですね(笑)今回、台本は本当に感情を抑えて書いているので、読んだだけではどう演じていいのかわからなかったと思います。俳優さんがどう見つけてくれるか、極力俳優さんに放り投げたかった。台本に書く抑揚の表現(?や!マーク)を止めると、どんどん演技が変わっていきますし、そこから映画にしかできないことが生まれたらいいなという思いがあったんです。
 
 
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■京都が小さな星、その周りをみんながグルグル動いて、電車が一回りしている。(大西)

―――3組の男女の話が描かれますが、それぞれ、結局どうなったのだろうかという想像を掻き立てますね。
大西:演じている時は思わなかったけれど、京都が小さな星で、その周りをみんながグルグル動いて、電車が一回りする気がします。
井浦:『嵐電』の世界自体が銀河ですよね。珈琲屋さんの名前が「銀河」ですし、若者たちが、全てのシーンで巡りながらセリフを話すんです。登場人物の名前もそれを想像させるものがポンポンと置かれていますし、星々の話、神話だなと思いました。
鈴木:京都が舞台ですし、「帷子ノ辻(かたびらのつじ)」を通過してくる嵐電を相手にしなくてはならないわけですから、登場人物も星の守りを受け、風水的にも良いものをと「北門南天」や「有村子午線」、「川口明輝尾」という名前を付けました。それでようやく俺、頑張れるなと思いましたね。
 
 
 

■嵐電は、『風の谷のナウシカ』王蟲のイメージ。生き物のように撮りたかった。(鈴木)

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―――嵐電があらゆるシーンで登場するだけでなく、踏切音やレールを通過する音など、嵐電の気配を常に感じさせました。どのようにサウンドデザインをされたのですか?
鈴木:今回の録音は京都造形で録音技術を教えてこられた中山隆匡さんにお願いしました。嵐電は一両一両違う車両が、毎日走っていて、撮影では「この日のこの場面を撮るので、この車両が走ってくれるとありがたいです」という感じで京福電鉄さんにお願いをし、全て運行通りの中で、僕たちは準備してヨーイドンで撮影しました。それでNGが出ると、同じ方角からその電車が来るのを1時間待つことになるので、全員で集中力を高めて臨んでいました。嵐電の鉄の軋む音やブレーキ音は、トラムが新しくなったらそうは聞こえなくなるような音を、今でも京都の街で響かせて走っている。例えば西院駅では踏切遮断機がないのに、「チン、チン、チン、チン」と100年前ぐらいから使われている鐘が踏切の役割として今も現役で鳴っています。そういう音はこの映画の命です。
 
あと電車映画ではありますが、「電車映画だ」と思って撮らない方がいいのではないか。最初は『風の谷のナウシカ』の腐海にゴツゴツ突然現れては消えていく巨大な王蟲のイメージで嵐電を撮れたら最高だなと思ったのです。腐海の向こうで一匹だけナウシカを迎えに来る王蟲が僕には嵐電に見えて、あの作品は路面電車の映画だと思っています(笑)
 
もう一つ、嵐電の映画を撮るということは、いろいろな路面電車映画の記憶がベースになります。F・W・ムルナウの『サンライズ』(27)、アキ・カウリスマキの『浮き雲』(66)、それからバフティヤル・フドイナザーロフの『少年、機関車に乗る』(91)というとんでもない傑作もあります。常に人間と電車が近いし、家並みも近かったり、アヒルが横切ることもある。さすがに線路をまたいで撮影はできませんが、実際にできる中から嵐電を撮ろうとした時、音に関しては嵐電を生き物のように撮りたいという考えで作っています。
 
 
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■北白川派の映画現場に入ると、自分の演技が「清められる」感じがする。(井浦)

―――今回の現場は京都造形大の学生キャスト、スタッフが多数携わっていますが、プロの役者として井浦さんは何かアドバイスなどをされたのですか?
井浦:生徒さんたちを育てているのは先生で、監督の鈴木卓爾さんですから、僕は双方の関係を一歩引いて見ていました。これから映画のプロ、俳優のプロを志す人たちが集まる現場から、正直言えば、僕も勉強しに来ている部分がありました。
 
実際、こちらが意識しなくても、現場で僕が「おはようございます」と入り、帰る瞬間まで、学生の皆さんは俳優がどのように現場に入るか、スタッフとどのような関わり方をして一緒に映画を作っていくのか等を見ているはずです。僕は今まで先輩方から現場で学んできたことを、何も変わらずにやる。逆に学生たちとやっているからといって、変えてはいけません。いつもの現場と同じように僕が鈴木組でやっていることを、知りたい人が自由に知る。監督と共演者とスタッフが皆で映画を作っていく中で、そういうことが自然にあればいいなと思います。
 
後は、北白川派の映画現場にいると、芝居が「洗濯される」感覚があります。今まで色々なことを学び、こびり付いてきたものが、一度北白川派の現場に入ると清められる。真っ白になるわけではありませんが、真っ白い人たちが周りにたくさんいるので、「こんな芝居ができてよかったな」とか「子午線には敵わないな」とか、いいなと思う人たちがたくさんいる中で、芝居をさせていただいたのが、すごく良かったです。
 
 
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■嵐電そのものが、きっと映画。(井浦)

―――最後に、嵐電の思い出について教えてください。
井浦:路面電車と鉄道の違いは、鉄道は速いので車窓の風景を楽しむ時、どんどん流れてしまう。山が綺麗だとか、全体の風景をみる訳ですが、路面電車の場合、窓ガラスがスクリーンのようになって、例えば洗濯物が見えたり、住人の喧嘩が見えたりする。速度がゆっくりで隣との距離が近いので、物語の中を通過している気がします。嵐電そのものが、きっと映画なのです。嵐電の中でも窓ガラスの向こう側でも、映画のような瞬間がたくさんある。そんな気がします。
 
(江口由美)

 
<作品情報>
『嵐電』(2019年 日本 114分)
監督・脚本・プロデューサー:鈴木卓爾  音楽:あがた森魚
出演:井浦新、大西礼芳、安部聡子、金井浩人他
2019年5月24日(金)~テアトル新宿、京都シネマ、6月7日(金)~テアトル梅田、6月中旬〜シネ・リーブル神戸他全国順次公開
公式サイト:http://www.randen-movie.com/
© Migrant Birds / Omuro / Kyoto University of Art and Design