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『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2018』で選ばれた5人の監督インタビュー

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上の写真、前列左から、
①眞田 康平(さなだ こうへい)   (34)  『サヨナラ家族』 
②板橋 基之(いたばし もとゆき)  (42)  『くもろ ときどき 晴れ』
③川上 信也(かわかみ しんや)   (42)  『最後の審判』

後列左から、
④山元  環(やまもと かん)        (25) 『うちうちの面達(つらたち)は。』
⑤岡本 未樹子(おかもと みきこ)(34) 『はずれ家族のサーヤ』


【5本まとめて大阪での上映会のお知らせ】

■日時: 3月16日(土)~3月21日(木・祝) 連日:18:00~
■劇場:シネ・リーブル梅田
■入場料金:(5本まとめて)一般¥1,200円、学生・シニア¥1,000円 *全席指定

◆3月16日(土)/ndjc2018参加監督5人による初日舞台挨拶予定
詳細はこちらをご覧ください⇒ 
一般上映会2018
※登壇者は変更になる場合がございます。あらかじめご了承ください。

(2018年/カラー/スコープサイズ/©2018 VIPO)
★公式サイト⇒ http://www.vipo-ndjc.jp/



《ndjc:若手映画作家育成プロジェクト》とは? 


次世代を担う長編映画監督の発掘と育成を目的とした《ndjc:若手映画作家育成プロジェクト》は、文化庁からNPO法人 映像産業振興機構(略称:VIPO)が委託を受けて2006年からスタート。今回も、学校や映画祭や映像関連団体などから推薦された中から5人の監督が厳選され、最終課題である35ミリフィルムでの短編映画(約30分)に挑戦。日本映画の行く末を担う新たな才能を発掘する企画である


このプロジェクトからは、『湯を沸かすほどの熱い愛』で数々の賞に輝いた中野量太監督や、『トイレのピエタ』の松永大司監督、『ちょき』の金井純一監督、『話す犬を、放す』の熊谷まどか監督、さらに『嘘を愛する女』の中江和仁監督や、『パパはわるものチャンピオン』の藤村享平監督、『花は咲く』『ANIMAを撃て!』などオリジナル脚本で活躍中の堀江貴大監督などを輩出している。


今回もオリジナル脚本で挑んだ5人の監督作品が一挙に上映されることになり、公開を前に5人の監督の映画製作への意気込みをきいてみました。以下は、それぞれの作品紹介と会見でのコメントを紹介しています。

 


★①『サヨナラ家族』

(2019年/カラー/スコープサイズ/30分/©2019 VIPO)
〇監督:眞田 康平(SANADA KOHEI)

作家推薦:東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻
制作プロダクション:スタジオブルー
出演:石田法嗣、根岸季衣、村田唯、土居志央梨、佐野和宏、斎藤洋介

【作品紹介】
ndjc2018-saraba.jpgあらすじ:洋平は、一年前に目の前で突然死んでしまった父の死をいまだに受け止められずにいる。時折、目の前の人物が別の場面で別行動をとるという不思議な現象が見える。妊娠中の妻を残して一周忌のため帰省するが、実家の母と妹は意外なほど冷静に父の死を受け止めていた。それが洋平にはどうしても納得できない。困惑する洋平の前に、またもや不思議な現象が見え始める。


〇感想:洋平が見る不思議な現象とは、現実を受け止められない心の乖離が生む幻影なのか。分裂気味の洋平に対し、母親を演じた根岸季衣のチャキチャキぶりが陰影を際立たせて印象深い。ワンカットで捉えた違う場面の映像も面白い。死を受け入れられない思いは、亡くなった人との関係性にもよるだろうが、亡くなり方の衝撃にもよるだろう。見る者も自らの思い出と重ねて共感することができる。最後には失った命と新たな命の誕生との対比が希望を感じさせ、繊細な作風が印象的。

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【監督コメント】
3年前に父を亡くした実体験に基づいている。母と弟はそれぞれ父の死を受け止めているのに、自分はどうだろう?冷静な自分とそうでない自分、自分の中に二人の自分が存在し、ふとした瞬間に別な自分が見える。父が亡くなった時、自分の半身も死んでしまったような喪失感があった。その感覚を大事にしたいと思って、映画に活かした。怖がらせる映画ではないので、同一空間に人物が見えるよう合成とボディダブルの手法を使って撮った。

今までCMを作ってきて、クライアントの要望を重視するが、映画は自分の描く方向性にこだわって作れる。プロデューサーからうまく折り合いをつけることも重要だと言われることもあるが、映画をやる以上は自分の考えを責任をもって通したいと思う。


◎眞田康平監督の作品の詳細はコチラ ⇒ http://www.vipo-ndjc.jp/ndjc/4251/
 


★②『くもり ときどき 晴れ』

(2019年/カラー/ビスタサイズ/30分/©2019 VIPO)
〇監督:板橋 基之(ITABASHI MOTOYUKI)

作家推薦:ショートショートフィルムフェスティバル&アジア
制作プロダクション:ブースタープロジェクト
出演:MEGUMI、浅田美代子、水橋研二、有福正志


【作品紹介】       
ndjc2018-kumori.jpgあらすじ:母親と暮らすキャリアウーマンの晴子の元に一通の手紙が届く。それは25年前に両親が離婚して以来消息不明となっている父親の生活保護扶養照会だった。兄の元にも同じ通知が届いていたが、父親に可愛がられていた晴子が動かざるを得なくなる。そして、25年ぶりに入院中の父親に会いに行くと、認知症もあって娘という認識もできないような状態になっていた。それでも晴子は家族の中で一人父親のことを思い揺れ動く。


〇感想:仕事もよくできるしっかり者の晴子だが、いつも浅田美代子演じる母親に「家に帰って美味しいものでも食べよう!」と励まされるところが可愛い。外で様々な目に遭っても、食卓にはいつも美味しい食事が用意されている、なんて幸せなことだろう。だからこそ、晴子は「設計図通りに」生きられなかった不器用な性格の父親を見捨てられなかったのだろう。面倒くさいけど、家族の絆はそう簡単には断ち切れないもの。「街を歩いているとね、お父さんに似た人を見ちゃうの。どうか元気でいて下さいって、なんか思っちゃうの。」という晴子の言葉に思わず胸が熱くなった。晴子の優しさが滲むセリフだ。


ndjc2018-itabashi-240.jpg【監督コメント】
晴子も母も兄も、それぞれの考えがあって生きている。どんな家族でも形は様々で、家族の中のズレ感を描きたかった。家族だからこそ感じるやるせなさを描きたかった。和風の顔のイメージを希望していたらMEGUMIさんを推薦され、先に主人公から決まっていった。今までの尖った役とは違い、優しい雰囲気の役を演じてもらって新鮮だった。

僕にとって映画は精神安定剤。映画は撮影していてとても楽しい。もっと短編映画にも注目してもらって、ジャンルとして確立してほしい。


◎板橋基之監督の作品の詳細はコチラ⇒ http://www.vipo-ndjc.jp/ndjc/4257/
 


 ★③『最後の審判』

(2019年/カラー/ビスタサイズ/29分/©2019 VIPO)
〇監督:川上 信也(KAWAKAMI SHINYA)

作家推薦:シナリオ・センター
制作プロダクション:ジャンゴフィルム
出演:須藤蓮、永瀬未留、黒沢あすか、荒谷清水

【作品紹介】
ndjc2018-saigono.jpgあらすじ:“画家”を目指して東京美術大学の受験に挑んで5年目となる稲葉は、既に大学4回生の弟やバイト先のおじさんに「いい加減諦めろ!」と言われながらも、どこか芸術家気取りの自意識過剰なところがある。今年で最後の挑戦と決めていたが、試験会場に遅れて入って来た初音の大胆な画力に圧倒され、自分のペースを狂わされてしまう。初音の非凡さに興味を持った稲葉はその秘訣を探ろうと、初音と共に商店街で似顔絵描きに挑戦。生きた人々を活写する初めての体験に、次第に描くことの楽しさを感じていく…。


〇感想:誰しも自分自身のことは見えないものだ。他人に嫌味を言われても気付けず、自分の傲慢さにも気付かない。そんな主人公に降りかかる真実の矢は、見ているこちらにもグサグサと突き刺さる。川上監督自身の経験を反映しているようだが、決して他人ごとではない。自分の真の姿(才能)を知った時の愕然たる思いや、求める何かの手応えを感じた時の歓びは、ラストの爽快感へとつながっていく。人間の本質を捉えようとする川上監督の人物描写は、自虐的であると同時に、虚飾が剥がれ落ちた後の真実を表現しているように思える。近年の日本映画に欠ける鋭利な作品を作っていってほしいものだ。


ndjc2018-kawakami-240.jpg【監督コメント】
自分の人生を基にエンタテイメントにまとめている。皆が受験や入社試験などで上手くいかなくて挫折した経験や、美大受験というあまり見たことがない世界の特殊性が合わさった時に面白くなるのでは思った。天才にもいろいろあると思うが、それに対する憧れや嫉妬心を、主人公の目線で語らせ、引いては見ている人の目線と重なるようにした。主人公が天才的な少女と出会って描くことの楽しさを感じるようになって、傲慢な心が氷解していく。「素直にものを伝えることが一番素晴らしく大事なこと」だと思ったことをベースにして映画を撮った。

今までCMなどのビジュアル製作に関わってきたが、小学校の頃から映画は作りたいと思ってきたので、このような機会に恵まれて嬉しい。映画は製作の流儀が違う。いろんな人にお金を払って観て頂くための作品でもあり商品でもある。映画は混じりっ気のない本物だと思う。重要な主人公二人はオーディションで選んだ。俳優が持つキャラクターを活かすようにした。

『未知との遭遇』を小学校の頃に観て、家族や人間がとても丁寧に描かれていて、そこにスペクタクルな要素を盛り込んでエンタテインメントとして完成している。どんな作品にも人を描くことの重要性を感じた。

◎川上信也監督の作品の詳細はコチラ ⇒ http://www.vipo-ndjc.jp/ndjc/4253/
 


★④『うちうちの(つら)(たち)は。』

(2019年/カラー/ビスタサイズ/28分/©2019 VIPO)
〇監督:山元 環(YAMAMOTO KAN)

作家推薦:PFF
作プロダクション:シネムーブ
出演:田中奏生、田口浩正、濱田マリ、小川未祐、山元駿


【作品紹介】
ndjc2018-uchiuchino.jpgあらすじ:二週間前、ママは夫婦喧嘩が原因で姿を消してしまった。ところが、家の屋根裏部屋に潜んで、家族が出かけると天井からトイレに降り立ち家事をこなしている。そのことを知っているのは13歳の浩次朗だけ。一番早く帰ってきてはママと過ごす日々を送っていた。ある日姉の志保が家庭教師を連れてきて危ない目に遭いそうになるが、ママの機転で撃退してしまう。また、ママのことを探そうともしないパパは仕事にばかり熱中。一体いつまでママの“かくれんぼ作戦”は続くのだろうか…。


〇感想:祖父が建てたという家が大きなモチーフになっている。同じ家の中に隠れ住んでいても気付かない存在。そう、関心を持っていなければ気付かないことは多い。バラバラだった家族が、ママの失踪と家の中の異変で次第に共鳴していく過程が面白い。書斎のように広くて明るいトイレやインテリアなど各所でセンスの良さが光る。テンポのいいワンシチュエーション・コメディも、強烈な個性の濱田マリの牽引力が活かされている。


ndjc2018-yamamoto-240.jpg【監督コメント】
家族の形態や普遍的な営みはそれぞれ違うと思うので、家族の細かい人間性をテーマにした。家というくくりで、カメラは一歩も外に出ず、家の中で生活する家族の在り方を面白く撮ってみたかった。家の中のイメージを美術監督の方に伝えただけで、あとはデザインして作ってもらった。暖かく見えるようなウッディな色彩を多用した。(本作にも出演している山本駿は監督の双子の兄弟。『帝一の圀』には兄弟で出演したという)。

映画は自由度が高いように思う。表現の幅が広い。人を撮っていくのに没入できる。映画の娯楽的要素は意識的には違うところにあるように思う。

『鎌田行進曲』が面白すぎて、深作欣二監督の他の作品も観てみたのですが、どの作品にもエンタメ性を必ず盛り込んだ作風は唯一無二だなと思った。

◎山本環監督の作品の詳細はコチラ ⇒ http://www.vipo-ndjc.jp/ndjc/4249/
 


★⑤『はずれ家族のサーヤ』

(2019年/カラー/ビスタサイズ/30分/©2019 VIPO)
〇監督:岡本 未樹子(OKAMOTO MIKIKO)

作家推薦:大阪芸術大学映像学科
制作プロダクション:テレビマンユニオン
出演:横溝菜帆、黒川芽以、増子倭文江、田村泰二郎、森優理斗


ndjc2018-saya.jpg【作品紹介】
あらすじ:おばあちゃんと二人暮らしの小学3年生の沙綾(サーヤ)の所には、時々ママが父親の違う弟を連れてやって来る。そう、ママは沙綾を祖母に預けて、新しい家族と暮らしているのだ。いつもママと一緒に居られる弟が羨ましい沙綾。ある日、学校帰りに不思議な古い木箱を売るおじさんに出会う。自分の願い事を書いた紙を箱の中に入れると願いが叶うというのだが・・・。


〇感想:沙綾は親の都合で寂しい想いをしているが、おばあちゃんもママも優しいし、弟も沙綾が大好きで懐いている。それでも、沙綾は新しい家族と一緒に暮らせず孤独を抱え、「ママを独り占めできたらいいのにな」と思うようになる。幼児や児童虐待事件が頻発している昨今、しかしながら、子供にとってどんな親でも親ほどいいものはない。親に愛されたいばかりに子供は時々不都合な行動をとることもある。本作は少々優しすぎるストーリーだが、ファンタジックな展開の盛り込み方や沙綾の表情の変化の捉え方など、ナイーブな演出に心を掴まれた。


ndjc2018-okamoto-240.jpg【監督コメント】
大人も子供もそれぞれ幸せになりたいと思っているが、それを求められる自由は圧倒的に大人にあるということを描きたかった。弟にやきもちをやいて、「要らない!」と思っていたものが、本当に居なくなってしまったらどうするのか?本当はそれが大事なものだったと気付いた時のショックを駆け合わせられたらと思って映画化した。(子役二人は仲良しすぎて、ずっと抱き着いたままだったようだ)。

映画製作に携わっている人達には終わりがないので、それを受け継ぐ意識が高く、TVドラマより映画の方が気合が入る。自分たちがやりたいことを発揮できるのが映画なのかなと思う。

『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』、子供を描くのに参考になるかなと思って見直した映画。主役の横溝菜帆ちゃんに、絶対にため息をつかないでねと指導。子供の方がいろいろと溜め込んでいるものが多く、ため息をつかずにその想いを表情で見せようと思った。


◎岡本未樹子監督の作品の詳細はコチラ ⇒ http://www.vipo-ndjc.jp/ndjc/4255/
 


 

今回の作品は5本中4本が家族をテーマにしている。それぞれの視点で思い描いた家族像は、監督自身の経験をベースにしていたり、疎遠になりつつある社会を背景にしていたりするが、どれも家族の絆を求めている心情を浮き彫りにしている。自分自身を見失い自意識過剰な人間になってしまった青年が開眼する様子を描いた作品も興味深い。どれも人物描写が深く、ストーリーを追うだけの平凡なものではない。短編・長編を問わず、今後の活躍に注目していきたい。


(河田 真喜子)

 

 

 

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