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「イランと日本、国は離れているけれど、家族関係はとても似ている」 『二階堂家物語』アイダ・パナハンテ監督、加藤雅也さん、石橋静河さんインタビュー

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奈良県天理市を舞台に、今年デビュー30周年の加藤雅也を主演に迎え、三世代家族の愛と葛藤を描いた人間ドラマ、『二階堂家物語』が2019年1月25日(金)より全国ロードショーされる。本作はなら国際映画祭プロデュース映画製作プロジェクト作品で、監督は同映画祭で2016年にゴールデンSHIKA賞を受賞したイランのアイダ・パナハンデ。受賞後、ロケハンで天理市を訪れ、そこでの体験も加えながら夫のアーサラン・アミリとオリジナル脚本を共同執筆。天理市民も撮影に全面協力した。二階堂家の三世代家族が向き合う後継者問題や、母と息子、父と娘、それぞれの愛が複雑に交差する。日本の四季折々の情景を見事に捉えている。町田啓太、田中要次、白川和子、陽月華と実力派俳優が脇を固め、奈良らしいゆったりとした時間の中で、登場人物たちの心の揺らぎを丁寧に映し出した作品だ。
本作のアイダ・パナハンデ監督、主演、二階堂辰也役の加藤雅也さん、辰也の娘、由子役の石橋静河さんに、お話を伺った。
 

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■天理市は「小津映画のよう」。最初から親近感を覚えた。(アイダ)

――――アイダ監督はロケハンで初めて来日され、石橋さんも天理市は撮影で初めて来られたそうですが、どんな印象を持たれましたか?
アイダ:2年前に初めてロケハンで奈良にきました。奈良がかつて日本の都であったことは知っていましたが、天理市を訪れた時は小津映画のようだと思いました。「この場所は知っている」という気持ちになりましたし、最初から親近感を覚えました。天理の人たちも小津映画に登場している人のようでもあれば、イランの田舎地方に住んでいる人たちにも似た風情を感じました。とてもフレンドリーで、家に招いてくれたり、一緒にご飯を食べたり、本当に歓迎してもらいました。旧友のように親しくなれた。それはとても感動的瞬間で、撮影中も全身全霊をかけて私たちを支えてくれました。
石橋:私も天理市は撮影で初めて訪れたのですが、街並みがとても印象的でした。田んぼがあるシンプルな場所で、東京と情報量やスピードも全然違います。タイムスリップした気分でした。天理市に来ることで、私が演じた由子が感じている時間感覚を体感できましたし、由子が見ているものも見えてきた。また二階堂家が住む古い日本家屋に自分が身を置き、感じることができました。撮影で1ヶ月天理市に滞在しましたが、本当に没頭して演じることができました。
 
――――加藤さんは奈良のご出身ですが、奈良で全編映画を撮影するのは初めてだそうですね。
加藤:基本的にテレビを含め、奈良で映画を撮影することは河瀨直美監督がし始めるまで、ほとんどなかった。時代劇を作るにしても、奈良を舞台にするとチャンバラではなく、文化が主眼となるのでエンターテイメントとして成立しにくい面があります。2時間もののサスペンスの舞台にも、奈良の雰囲気はあまり適さない。逆に、『二階堂家物語』のような家族の物語は、奈良や天理でなければ撮れないのです。
日本は、東京のように文化が発展していくことが良いとされていますが、奈良はそれから遅れてしまった。逆に今は奈良でしか撮れない日本の原風景が残っている訳で、日本人の監督が撮らないなら、外国人の監督に撮ってもらうのはある意味必然だったのかもしれません。
 
 
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■普通の人を演じたい、奈良で撮りたい。30年間実現できなかった夢が叶った(加藤)

――――加藤さんは海外でも活躍され、芸能活動30周年という節目で、故郷の奈良を舞台にした家族物語の主演を務められました。特別な思いがあったのではないですか?
加藤:なぜかマフィア役や日本人とは少し離れた役が多かったのですが、僕自身は俳優として普通の人を演じたいとずっと言い続けていたんです。ステレオタイプのキャスティングが多かった中で、外国人の監督が普通の人として使ってくれるという思いもよらぬ矛盾もあれば、奈良で撮りたいと思いながら、30年間実現できなかった夢も今回叶いました。
 
僕の中で起承転結があるとすれば、「起承」の30年間が終わり、残りの20年の「転」の時期に新しいことをやりたいと思っていました。「見たことのない加藤雅也を見た」と皆が言ってくれるように、まさに僕にとっての転換期を迎えているなと感じています。シルクロードでは、向こうから新しい文化が入ってきて、奈良で新しい文化が生まれ、今までとは違う日本が生まれた。僕も今回アイダ監督による今までとは違う目線の演出で、新しい僕になれる。本当に歴史は繰り返すと、僕自身思っていますね。
 

■「あなたがダメだったら、私の映画は失敗してしまう」火花を散らすような現場(加藤)

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――――父の代から引き継いだ会社を経営する二階堂家の主人、辰也は再婚問題、跡取り問題、娘との関係等、その行き詰まりぶりや決断の行方に最後まで目が離せません。確かに、加藤さんの新境地を見た思いでした。
加藤:最初に監督から言われたのは「あなたがダメだったら、私の映画は失敗してしまう」。仲良くやるのではなく、火花を散らす闘いのような部分があり、それがすごく勉強になりました。どんなに現場で仲良くても、映画がダメなら2度と集まることはない。逆に現場でどれだけ葛藤してもいい映画を作れればOK。それがプロフェッショナルだと思います。
アイダ:俳優は色々な作品の仕事をしているので、頭の中は色んなもので汚染されていると思うのです。だからまず汚染されているものを私が解き放つというプロセスがとても大事です。頭の中を一旦ニュートラルにして、私のキャラクターに命を与えるというプロセスを踏みます。素晴らしい俳優の魂と身体から、私のキャラクターを引き出していく。そこには痛みが伴います。だから、俳優たちが心を動かす時は、私の心も動きますし、毎日げっそりと疲れます。
映画づくりで重要なのは、まず俳優と一緒に作業をするということです。俳優たちを通して表現するものを観客に届けるために、50〜60名にもおよぶクルーが共に作っています。俳優がミスをすれば、全てカメラに映ってしまいますから、ミスは許されません。今回、みなさんは本当にプロフェッショナルで素晴らしい仕事をしてくれました。特に加藤さんとは、素晴らしいコラボレーションができ、多くのことを学びました。
 
 
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■日本人にしか分からない文化が含まれ、日本人がより深く作品を理解できることが重要(アイダ)

――――この作品は日本の四季折々の伝統的な行事や風景、アイテムなどを盛り込みながら家族の情景を描いています。舞台挨拶で「日本人が撮った映画と思ってもらえるとうれしい」とおっしゃっていましたが、そこはかなり意識的に取り入れられたのですか?
アイダ:海外の観客は、日本人ほど映画の中のシーンの意味を感じられなかったかもしれません。例えばなら国際映画祭審査員、ファトマ・アル・リマイヒさんはカタール出身ですが、物語の内容や社会背景はわかるけれど、雛人形が何か分からなかったと言っていました。日本人はそれが何かを必然的に分かります。雛人形の文化があることを踏まえて見てくれるので、伝わる内容も違ってくるのです。日本人にしか分からない文化が含まれていて、日本人はより深くこの作品を理解できる。それはとても重要なことです。私は日本独特の文化や芸術、映画が好きで、とてもリスペクトしています。日本から本当に色々なことを教えてもらった。それをこの映画を通して示しています。
 

■イランと日本、国は離れているけれど、家族関係はとても似ている(アイダ)

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――――日本では若い監督がこれほどしっかりと三世代の家族物語を描くことは少ないですが、脚本の着想はどこから得たのですか?
アイダ:実は、天理で本当に多くの三世代家族に出会いました。 滞在させていただいたお宅もそうですし、祖父祖母と一緒に暮らすのが一般的。私が住んでいるテヘランは都会ですが、イランの田舎も三世代家族が多く、似ていると思いました。私も8歳の時に父が亡くなったので、母と祖母の三世代家族でした。私の祖母はイランで初めての女性校長を務めた人物で、アゼルバイジャンの古い家系出身。まさに古くから続く地元の名士、二階堂家と同じですし、辰也の母、ハル(白川和子)のようにしつけもすごく厳しく、色々なことに敏感でした。特に自分が女学校の校長なので女性の教育についてはとても厳格で、「女性はこうすべき」という考えを明確に持つと同時に、男にばかり頼るのではなく、女性の自立を促す人でした。そういう部分もハルと重なり、二階堂家のことは、すごく知っているという気分にさせられました。イランと日本、国は離れているけれど、家族関係はとても似ている部分があることを皆さんに分かってもらいたい。欧米人が日本の文化に入ることが難しいかもしれませんが、私たちのようなアジア人は日本の文化には入っていきやすいと思います。
 
 
 
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■由子を演じる中で、私自身が父親についてどう感じているのかも考えた(石橋)

――――由子は、父親の会社で働き、跡取りを欲しがっていることを肌で感じながら、自分の存在を認めてもらいたい複雑な心境を抱えていましたが、彼女の感情をどう捉えて演じましたか?
石橋:幼い頃に両親が離婚し、父親が息子を欲しているのを見ている由子は、本当に自分を見てほしいという気持ちが強いだろうし、逆に自分に自信がない部分もあると思います。絶対に消えない孤独感はあっても、由子は諦めず、なんども父とぶつかります。婿養子を受け入れれば丸く収まることも、「皆が幸せになるかどうか分からない」と自分も含めて、皆がそれぞれ幸せになることを諦めずに訴えている人です。その前向きさや強さを表現するのが難しかったです。由子を演じる中で、私自身が父親についてどう感じているのかも考えなければならなかった。それを考える機会になったのはいい経験になりました。
 
――――由子が彼氏の家で一人ダンスを踊るシーンは、この映画の中でもかなり雰囲気が変わりますが、どんな狙いで取り入れたのですか?
アイダ:伝統的な旧家の二階堂家ではなく、一般的なマンションの一室である彼氏の部屋にたった一人、由子がいる。そこは由子が自由になれる場所で、英語の歌をかけ、思うがままに踊っています。そこで若さや喜びを表現しますが、それは長くは続きません。その間も由子は父親の辰也や家族のことを考えているからです。由子はこれからとても重要で難しい選択を迫られます。辰也も同じように重要な選択に迫られている。自分の好きな人のことを思いながら、自分が犠牲にしなくてはならないことについても感じている。二人ともがそれに対するジレンマを抱えていることを並行して見せています。
 

■辰也は、悩みから学ぶべきことが多い人生を送っている(加藤)

――――辰也も娘との葛藤だけでなく。実質の権力者である母、ハルとの葛藤があります。
加藤:辰也もハルに反抗しますが、それは相手がいるからできることで、いなくなると、はたと娘との関係や自分の運命について考えます。生まれたくて(二階堂家に)生まれたわけではないけれど、それは定めであり、そういう家に生まれなければ悩むこともない代わりに、学ぶこともない薄っぺらい人生になってしまう。辰也は学ぶべきことが多い人生を送っているのです。アイダ監督と(監督のパートナーでもある)アーサランさんの書いた脚本は非常に深い。例えば、外国の監督がお雛様を扱うときは「モノ」として扱いますが、アイダ監督はお雛様の意味を掘り下げ、歴史を学んだ上でお雛様を物語に取り入れています。日本の監督たちはなぜこの映画が日本映画っぽく見えたかを、考えるべきです。見かけが日本っぽいのではなく、日本の精神性を映画で撮った。そこが映画を作る時に大事なことです。
 
 
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■他のイラン人監督が持っていない特別な体験をし、新しい自分が生まれた(アイダ)

 アイダとの映画づくりで学んだ体験を若い監督や俳優たちに伝えて行きたい(加藤)

 役のことに没頭すればいいと思えたのは新しい体験(石橋)

――――最後に、この作品での体験を今後どのように生かしていきたいですか?
アイダ:映画づくりというのは、ただ単に映画を作っているだけではないということを学びました。新しい人に会い、新しい経験を積み、自分の視野を広げる。そんな映画づくりを終えて帰ると、新しい自分、新しいアイダが生まれました。他のイラン人監督が持っていないような特別な体験ができました。みんな西洋には行くのですが、東には行きません。私はアジアが歴史の中心だと思っていますし、文明もここにあります。
加藤:アイダと話し合ったことはとても深いことだったので、今でもどうすれば実現できるかと考えます。日本人が海外の人と演じる時、大げさであることが海外に出れない理由なのだとすれば、どうすればいいのか。言葉の問題もありますし、外国の監督が書いた脚本を日本語に訳す場合の問題点や、日本語の持つ特性などを今でも学術的に勉強しています。できればこの経験を若い監督や俳優たちに伝えていきたい。一方、外国の監督がステレオタイプの日本を撮ろうとした時、なぜそのように撮りたいのか。その理由を聞いて、場合によっては指摘する。そんなこともできれば、海外との合作もより良い作品になるでしょう。これをどう伝えていくのか、実践していくのか。それに尽きますね。
石橋:言葉や文化の違いがあり、日本人だけの現場では起こり得ない問題もたくさん起こりました。本当に大変だけど、その中でラクだと感じる部分もあったのは、留学したときに日本社会の窮屈さから開放されていた感覚に似ています。すごく現場に居やすかったので、役のことに没頭すればいいと思えたのはありがたかったです。アイダ監督と会い、まったく違う方向に広がったので、今後私の中でどうつながっていくのか楽しみです。
(江口由美)
 

『二階堂家物語』(2018年 日本=香港 106分)
監督:アイダ・パナハンデ 脚本:アイダ・パナハンデ、アーサラン・アミリ
エグゼクティブ・プロデューサー:河瀨直美
出演:加藤雅也、石橋静河、町田啓太、田中要次、白川和子、陽月華他
2019年1月25日(金)~全国ロードショー
公式サイト⇒https://ldhpictures.co.jp/movie/nikaido-ke-monogatari/
(C) 2018 “二階堂家物語” LDH JAPAN, Emperor Film Production Company Limited,Nara International Film Festival

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