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『銃』ナイーブさと瞬発力を併せ持つ村上虹郎インタビュー

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『銃』ナイーブさと瞬発力を併せ持つ村上虹郎インタビュー

(2018年11月9日(金)大阪にて)



~内に秘めた何かが惹きつける…村上虹郎の魅力に迫る~

 

『2つ目の窓』(河瀨直美監督)、『ディストラクション・ベイビーズ』(真利子哲也監督)、『武曲MUKOKU』(熊切和嘉監督)と、デビュー以来個性的な監督とのコラボが続いている村上虹郎。今回は、『悪と仮面のルール』『去年の冬、きみと別れ』と次々と映画化されている小説家・中村文則のデビュー作「銃」の映画化作品に主演。監督は、『百円の恋』の武正晴監督。俳優の未知数の力量を具現化させることに長けた監督の手にかかり、銃を所持することで精神的にも肉体的にも大胆になっていく青年の姿を繊細に描出。青年期の埋められない心の隙間に漂う危うさを、ナイーブさと瞬発力を併せ持つ村上虹郎の特徴をもって浮き彫りにした衝撃作である。


juu-550.jpg日本映画はそれぞれの時代を象徴するような青春像を映してきたが、今ここに村上虹郎による現代社会を映し出す新たな青春像がスクリーンに刻まれる。丁度20歳の等身大のトオルを演じた村上虹郎が、主人公トオルの人物像や自分との相違点、さらに共演者について語ってくれた。中でも、本作で重要な役どころを演じている実父・村上淳について語るあたりは、親子関係の意外な本音が出て、とても興味深い。


以下、インタビューの詳細です。



――今回の役は精神的にも肉体的にもハードな役でしたが、台本を最初に読んだ印象は?

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あまり原作を読まないタイプですが、今回は待ちきれずに読んでしまいました。原作では一人称で書かれていますが、完全に主観というよりトオルという人物を設定して客観視できるように映像化されている点はとても面白いなと思いました。

脚本に関しては、原作者の中村さんがとても大事にされている作品なので、武監督と中村さんで細かく協議しながら書かれていました。中村さん自ら「映画としてカタルシスを創った方がいいのでは?」と仰って追加されたシーンもあります。そのお陰で秀逸な場面を創り出すことができて、とてもありがたいと思いました。


――今回は原作を読んでから脚本を読まれたそうですが、今までと違った点は?

基本的には脚本をメインに演じています。武監督と中村さんは同郷であったり、原作を書いた時に住んでいた所も近かったりとリンクすることが多いので、そんな武監督が本作を撮った意味は大きいと思います。現場には武監督がイメージするトオルと僕が演じるトオルがいたのですが、大きな演出はありませんでしたが、トオルの言動について二人で擦り合わせることは多かったです。


――銃を持つことで変化していく心理面をどのように演じたのですか?

本作に関しては比較的真っ直ぐに演じました。なるべく忠実に、必要な情報をインプットして、原作からも取り入れたり、自分で考え演じました。今回家の中のシーンが多く、二日前からトオルのアパートに住んで、部屋の中のトオルの動線を考えました。お風呂がなかったので、銭湯に通い、サウナに入ってニコチンとカフェインを抜いていました。


juu-500-2.jpg――今回タバコを吸うシーンが多かったのですが、まだ幼い感じがしました。今回の役の自分との相違点は?

僕とトオルは全く違います。この役をやることになって、「ぴったりだと!」とよく言われましたが、「複雑だな~」と(笑)。僕の場合は両親がいて、ちゃんとぶつかって生きてきたのに、トオルの場合は両親がいない、養父母に対しても嘘をつくし、実の父親に会ってもあのような態度をとります。それはそうせざるを得なかった彼の衝動であり、器の小ささだと思いました。

僕の場合もダサい自分から逃げていた時期がありました。親(村上淳)がカッコいいから、それに反抗するにはダサくせざるを得なかったのです。ブランドものではなくファストファッションを着たいとか。それは反抗でもあり逃げでもある。その感覚はトオルにも通じるものがあったのではないかと考えています。

僕の世代はそこそこ賢くないと生き辛い。親のプレッシャーや社会のルールとの板挟みなど、本人のせいではなく環境のせいかも知れない、そうした迷いと不安が自分の中にも混在していると感じることはあります。


――社会性を持った作品の象徴的なキャラクターを演じておられましたが、青年期に入る頃の危うさを意識した?

そうした危うさについてよく書かれますが、真っ直ぐに生きようとすればそう映るのは自然なことで、敢えて意識はしていません。僕は成長が遅いタイプで、身長や骨格も変声期も歯の生え変わりも同世代の人より遅かったです。でも、それはある意味、他の人が表現できない部分を持っている強みでもあると思っています。


――『武曲MUKOKU』での瞬発力が強烈に印象に残っているので、この役にぴったりと言われる所以なのでは?

今回の『銃』に出演できて本当に光栄に思っております。僕としてはひとつの完璧な『銃』を作ったつもりですが、いろんな『銃』があってもいいのではと思っています


――銃を猫や女性に向ける時の半端ないビビり方が映像としても面白かったが?

銃と刀の違うところは、人を殺す覚悟が違うことです。撃つ時も、正面からと後ろからでは違うし、正面からだと怖くてとても撃てない。でも、刀は強い殺意がないと殺せないけど、銃は人に対して距離感があるので簡単な武器だと思います。


――デビュー作でも共演されている実父・村上淳さんについて?

僕から見る父親はさほど変わっていません。むしろ父親の方が、僕が素人から俳優として変化しているので大きく変わったと思います。芝居に関するアドバイスはありませんが、その人がどういう覚悟を持っている人なのか、どんな人と付き合っているのか、人としてのアドバイスはあります。


――村上淳さんは吹っ切れたような役を演じることが多いですね?

最近はオッサンにはまってますよ。一時期お腹を出していた時期があって、「どうしたの?」と訊くと、「やっぱ40代はこうだろう!」と言っていましたが、カッコ悪いと思ったのか、すぐに止めました(笑)。


――今回共演されて、撮影後に何かお話をされたのですか?

1日で撮ったシーンだったので、別に話しはしませんでした。ただ、能動的なカメラの前の立ち位置やタッフに対する態度についてとかは聞いています。


juu-500-1.jpg――リリー・フランキーさんとの共演は?

リリーさんは掴みどころのないあのままの方。「安心できない安心感がある」というか、リリーさんはリリーさんとしてそこにいる。


――お二人のシーンは繊細で緊張感があったが?

それは気持ちの悪い刑事をリリーさんが演じて下さったお陰です。手帳のひもを手繰り寄せたり、タバコも「HOPE」を使ったり、悪魔か天使なのかよくわかりませんでした。リリーさんが演じる刑事はトオルが作り出した幻想のような、父性の塊だったり、こう叱って欲しいと思ったり、自分を追い詰めますが、救いを求めているような不思議な存在でしたね。


――オフの時には映画を観に行ったりしますか?

はい、よく行きます。最近では『華氏119』や『ヴェノム』を観ました。『止められるか、俺たちを』を観に行こうとしたら、トークショー付きで立ち見だったので止めて、『ここは退屈、迎えに来て』を観に行ったら満席で見ることができませんでした(笑)。


juu-500-3.jpg――女優さんとの絡みは如何でしたか?

広瀬アリスさんは少年漫画が好きで、オタク気質のだということが、今回共演して知りました。華やかさの陰に意外とシャイなところがあって、この役には合っているなと思いました。ラブシーンはアクションだと思っているので、そんなに楽しいものではありません。


――東京国際映画祭での受賞について?

僕の【東京ジェムストーン賞】の新人賞より、武監督の【日本スプラッシュ部門】での監督賞の方が作品として認められたようで嬉しかったです。映画祭だけでなく、多くの人に観てほしいと思います。「記憶に残る作品にする」と奥山プロデューサーが言われた通りになればいいなと思っています。
 



次回作のため金髪で現れた村上虹郎、21歳。まだ少年のようなあどけなさが残るものの、俳優として作品にかける思いや人物像の解釈について迷いなく語ってくれた。その姿に、今後どのような役の幅を広げて成長していくのか、彼が創り出す世界観に浸れるのを楽しみにしていきたい。  
 



『銃』

【STORY】
大学生の西川トオルは、ある雨の夜拳銃を拾う。近くで殺人事件が起こり、その拳銃が凶器に使われたようだ。警察に届けることなくそのまま家に持ち帰り、毎夜銃を磨きながらひとり銃に話しかける。ごく平凡な大人しい学生に見えたトオルが、大胆な行動をとるようになり、次第にトオルの秘めていた内面も変化していく。それは、女性との付き合い方も変化していき、さらに過去のトラウマから銃を使って「殺したい」という衝動へとエスカレートしていく。そこに、一人の刑事が現れて秘密を抱えたトオルに揺さぶりを掛けていく……。


((C)吉本興業 2018年 日本 1時間37分 R15+)
・原作:中村文則(「銃」河出書房新社)
・監督・脚本:武 正晴  ・プロデューサー:奥山和由
・出演:村上虹郎、広瀬アリス、リリー・フランキー、日南響子、新垣里沙、岡山天音
・公式サイト:http://thegunmovie.official-movie.com/

2018年11月17日(土)~テアトル梅田、シネマート心斎橋、第七藝術劇場、T・ジョイ京都、シネ・リーブル神戸 ほか全国ロードショー


(写真・文:河田 真喜子)

 
 

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