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取り返しのつかない「幸せな時間」を焼き付ける青春映画に。 『きみの鳥はうたえる』三宅唱監督インタビュー

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取り返しのつかない「幸せな時間」を焼き付ける青春映画に。
『きみの鳥はうたえる』三宅唱監督インタビュー
 
柄本佑、石橋静河、染谷将太と、今一番スクリーンで輝く3人を主人公に、北海道・函館で2度とはこない特別な夏を過ごした大人の青春映画『きみの鳥はうたえる』が、9月22日(土)よりテアトル梅田、シネマート心斎橋、京都シネマ、イオンシネマ京都桂川、元町映画館、10月27日(土)よりシネ・ピピア他全国順次公開される。
 
監督は、北海道出身で、劇場デビュー作『Playback』が国内外で高い評価を受けた三宅唱。
今まで映画化されてきた佐藤泰志原作の函館三部作(『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』)は、佐藤泰志が生きた昭和時代の雰囲気を色濃く残していた。だが、佐藤泰志の初期作品である「きみの鳥はうたえる」を平成の時代の青春映画に昇華させ、映画ならではの魅力を放っている。『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』で鮮烈なデビューを果たした石橋静河が等身大の魅力を見せながら、男たちの間を彷徨うヒロインを演じている他、物語の核となる「僕」を演じる柄本佑、「僕」とルームシェアをする静雄を演じる染谷将太の3人が、友達と恋人の境界線がないような塊となって、夏の夜を彩る蛍のように、豊かな輝きを見せるのだ。
 
本作の三宅唱監督に、佐藤泰志作品を映画化するにあたっての思いや、映画の狙いについてお話を伺った。
 

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■佐藤泰志さんが30代の作品に親近感。原作の心臓みたいなものに辿り着く。

――――オファーを受けた時の経緯は?
三宅:函館シネマアイリスの菅原和博さんから、僕が北海道出身であるということだけでなく、「『きみの鳥はうたえる』の主人公に近い年齢の人にこの物語を撮ってほしいから、君に頼んだ」と出会った日に言われました。うれしいと同時に、大変な話が来たなという印象もあったのですが、佐藤泰志さんが「きみの鳥はうたえる」を書いた年齢も30代前半で、オファーを受けた時には僕とほぼ同年齢だったのです。親近感が湧きましたし、実際に小説を読むと、今の時代に通じる普遍的なものを見出すことができました。
 
――――佐藤さんの小説は今までも読んでいたのですか?
三宅:今回読むのが初めてでした。それまでは社会や人生の暗い部分を真摯に見つめる作家というイメージがありましたが、この作品を読むと、恋をしたり、遊んだり、お酒を飲んだり、生きる喜びも同じぐらい真摯に見つめている作家だと思いました。
 
――――今まで映画化されてきた函館三部作と比べると、今回は佐藤泰志の世界観を平成の時代に置き換えて描いているという感じを強く抱きました。東京が舞台の作品を函館にするなど、若干設定も異なっているようですが、佐藤泰志の世界観をどう構築して行ったのですか?
三宅:原作には佐藤さん独自の文体やムードがあり、そこに浸る気持ち良さがあります。ただ、繰り返し読んでいくうちに、作品の心臓みたいなものがあるのです。今回はそこに辿り着けたのではないかと思っています。オファーを受けた時点で函館を舞台にすることは決まっていたのですが、中途半端に原作と同じ時代に設定するのではなく、完全に現在の話にしました。それで面白い映画にすることができれば、佐藤さんの小説に普遍性があるという証明にもなりますし、とにかく彼ら3人が過ごしている時間のあり方を丁寧に捉えていけば、きっと見応えのある映画になるという確信がありました。
 

 

■柄本佑、石橋静河、染谷将太の3人で作ることが一番大事だった。

――――男2人に女1人という設定は、青春映画の王道のように見えますが、比較的やりやすかったのでしょうか?
三宅:男2人に女1人が主人公という設定の映画で名画はいくらでもありますから、それを意識したら映画なんて撮れないぐらい、やりづらいとも言えます。でもそれはあくまでも構図の話で、演じる役者が違えば、感じるものは全然違います。僕はこの3人(柄本佑、石橋静河、染谷将太)で作るということが一番大事でした。
 
――――キャスティングはどのように行ったのですか? 
三宅:初めて原作を読んだときに、佑くんの顔が浮かんで、ふと染谷くんの顔が浮かんで、その二人を当てはめながら作品を読んでいくと、すごくワクワクできたんです。石橋さんにはその後にお会いしたのですが、会ったその日には、石橋さんが佐知子を演じてくれたら、きっといい映画になるだろうと直感しました。
 
 

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■取り返しがつかない「本当に幸せな時間」を表現するために、友達、好きな人といる時間の喜び、楽しさのエネルギーを徹底的に撮る。

――――『きみの鳥はうたえる』の原作を読んで、一番映画でやってみたいと思ったのはどんなことですか?
三宅:よく悪いことが起こると「取り返しがつかない」と言いますが、原作を読んだ時に、一番感じたのが、幸せの感覚も取り返しがつかないものなのだということ。「あの時は本当に楽しかったんだ」とか、「本当に幸せな時間だったんだ」と後から感じることって、たまに人生であるかと思います。でもそれは2度と起きない。それを映画で表現するためには、友達といる時間の喜びや、好きな人と一緒にいる時間の喜び、あるいは音楽を聴いている時の楽しさのエネルギーを徹底的に撮る。それが今回一番やりたいことでした。それが皆さんの中にも広がって、映画を見終わった時にかけがえのないものだと感じてもらえたら、何よりですね。
 
――――映画のエンディングは原作をアレンジしているのですか?
三宅:映画の終わり方は、原作とは全然違います。ただ共通しているのは、取り返しがつかないことが起きた、ということでしょうか。映画のラストには、絶望もあれば、愛を伝えられた高揚感もある。色々な感情が去来しているシーンで、言葉では言い表すことのでできない、映画でしか見ることができないような表情だと思います。きっと映画を見たお客様も「これは何なんだろう」と、この映画を見なければ味わえない感情になれたらうれしいですね。映画が終わった後もその感情を自分の中で反芻したり、一緒に見た友達や恋人と色々な話ができるのではないかと思います。
 
 
 
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■映画のキーワードは「誠実さ」。でも周りが求める通りの誠実な対応ができる男はいない。

――――石橋静河さん演じる佐和子は、僕と静雄の間を行き来するだけでなく、バイト場の店長とも不倫をしている設定ですが、男好きなキャラクターという雰囲気ではなく、自然体なのが印象的でした。
三宅:原作でもそうですが、この映画では「誠実さ」がキーワードです。確かに佐知子はひと夏の間に3人の男と関係を持つという、とんでもないモテ期が到来しています。ただそれはたまたま3人が同時に佐知子に向いたからであり、佐知子はなんとかそれぞれに対して誠実に向き合い、(店長に対しては)別れようとしていました。石橋さんも誠実さを一番大事にして演じてくれました。撮影しながら面白いと感じたのが、隣に柄本君が演じる僕がいる時と、染谷君が演じる静雄がいる時では、佐知子の顔が全然違って見えること。自分を取り繕うのではなく、とにかく相手と一緒にいることで佐知子は変化しますし、もっと言えば映画の撮り始めと、撮り終わる頃でもどんどん変化をしていたなと思っていました。
 
――――一方、主人公の「僕」はフラフラした男ですね。
三宅:本当に何を考えているのか分からない男です。佐知子に惹かれているんだけれど、態度に見せないようにもしている。
 
――――三宅監督に近い感じですか?
三宅:ハハハ!正直周りには「(「僕」の性格は三宅監督に)近い」と言われます。僕はそうではないと言いたい!でもみんなあると思いますよ、「僕」みたいな中途半端な感じは。そんなに周りが求める通りの誠実な対応ができる男はいないですよ。自分が誠実だと思っているのに、周りには伝わらないということが、映画を撮っている最中でもありました。シナリオを書いている時は「僕」は誠実だと思っていたのですが、編集をしている時に「こいつ、バカだなー」と思ったりもしました(笑)。
 
――――そんなフラフラした「僕」のことを、佐知子はしっかりと見ていました。それがつまり、相手に対して誠実であるということなんですね。
三宅:どのキャラクターもそうなのですが、相手のことをよく見るんです。もしかしたら演技をするということが、相手をよく見ることなのかもしれません。自分のことより相手を観察することから人間関係を出発させる人たちの物語だと思っていますし、そういうものを撮るのは、本当に楽しいですね。
 
――――オープニングのショットが、函館の山から見下ろす観光名所的な夜景ではなく、ふもとから山を見上げる夜景になっていましたが、地元、つまりは佐知子たちが見つめる夜景というニュアンスなのでしょうか?
三宅:僕も北海道出身ではありますが、函館が地元ではないので、函館の山から見下ろす観光客の目線しかなかったのですが、函館で色々な人と話をすると、実は函館には地元民が愛する「裏夜景」があると教えてもらったんです。函館山の裏側から山の方を向いて見る夜景スポットを地元の人はたくさん知っていて、その会話から発見したカメラポジションでした。各地で映画を作る時にも、いわゆる観光名所ではなく、地元の人が勧めるビュースポットを知ることができるのは楽しいですね。
 
 
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■石橋静河演じる佐知子が気持ちよさそうに踊るシーンは、撮っていて一番楽しかった。

――――3人が夜にクラブに繰り出して踊ったり、カラオケで歌うシーンは、この映画の中でもかけがえのない青春を体現する名シーンです。バレーダンサーでもある石橋さんのしなやかな踊りも披露しています。また、昭和の名曲、杏里の「オリビアを聴きながら」をボサノバ風にアレンジしたバージョンで歌っているのも魅力的でしたが、なぜこの曲を選んだのですか?
三宅:何を歌おうかと考え、僕と石橋さんそれぞれ5曲ずつぐらい、良さそうな曲を持ち寄ったんです。実際にそれらの曲をカラオケで歌って選んだのが「オリビアを聴きながら」の別バージョンで、石橋さんの十八番の曲だそうです。この映画は佐知子がのびのびと自由に振る舞うのがとても重要なので、石橋さんがやりやすい曲がいいなと思いましたし、いざじっくりと歌詞を聞きこむと、この物語を象徴しているんですよね。出会った頃はこんな日が来るとは・・・と、本当に恋をしたことのある人なら誰でもそうですよね。ダンスシーンも石橋さんは本当に気持ちよさそうに踊ってくれ、撮っていて一番楽しいシーンでした。
 
 
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■人間のダメなところが愛おしいということを伝えたい。

――――本当に3人のセッションのようなシーンの数々が、青春映画の心地よさと切なさを体現していました。
三宅:柄本君、染谷君、石橋さん、3人ともこの映画をとても大事にしてくれていますし、僕もまた一緒に仕事をしたいと思います。青春って元々論理立っているものではなく、色々と矛盾しているものがせめぎ合っているのが青春の時間なので、その時々のシーンに僕自身も体ごとぶつかりながら誠実に反応していれば、その時にしか撮れないものを撮れるのではないか。そう思って、割と無我夢中でやっていましたね。
 
僕は、人間のチャーミングなところを見たいんです。映画を見て、キャラクターや役者を好きになりたいし、好きになってもらいたい。だから、人間のダメなところも出して、それが愛おしいということを伝えたい。僕にとってはそういう瞬間だらけの映画です。
俳優さんとの仕事も、一期一会ですし、特に青春映画は同じ俳優で何度も撮れるものではありません。だから一回きりと思って臨んでいます。ずっと見ていると、どの瞬間も一度きりです。それを記録できるのが映画だと思っています。
(江口由美)
 

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<作品情報>
『きみの鳥はうたえる』(2018年 日本 106分) 
監督:三宅唱
原作:佐藤泰志
出演:柄本佑、石橋静河、染谷将太、渡辺真起子、萩原聖人他 
2018年9月22日(土)~テアトル梅田、シネマート心斎橋、京都シネマ、イオンシネマ京都桂川、元町映画館、10月27日(土)~シネ・ピピア他全国順次公開
公式サイト⇒http://kiminotori.com/
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