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『17歳』マリーヌ・ヴァクトと再タッグで描く、双子を題材としたラブサスペンス 『2重螺旋(らせん)の恋人』フランソワ・オゾン監督語る。

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『17歳』マリーヌ・ヴァクトと再タッグで描く、双子を題材としたラブサスペンス
『2重螺旋(らせん)の恋人』フランソワ・オゾン監督語る。
 
現在、イオンシネマみなとみらいで開催中のフランス映画祭2018で、フランソワ・オゾン監督最新作『2重螺旋(らせん)の恋人』(8月4日よりヒューマントラストシネマ有楽町他全国ロードショー)が日本初上映され、フランソワ・オゾン監督が上映後のトークショーに登壇した。
 
精神的な問題を抱えるヒロイン、クロエが、恋人となる精神分析医ポール、街でみかけたポールとそっくりの精神分析医ルイという双子の間で、ポールは精神的面、ルイはセクシャル的面で惹かれ、決別状態の二人の真実を探っていく物語。何が真実で、何が嘘なのか、何が現実で、何が妄想なのか混沌とする中、精神的に不安定となっていくクロエに突きつけられた思わぬ現実。まるで螺旋階段を下りていくように、複雑に絡み合い、現実と妄想の境界線が溶けていくオゾンマジックが鮮烈な印象を残す作品だ。
 
観客の熱い拍手に迎えられたオゾン監督は、「この映画を観た後で、あまり混乱状態でなければ良いのですが」と観客の心を見透かすようなユーモアあふれる挨拶を披露。元々双子に興味があったというオゾン監督が、アメリカ人作家、ジョエル・キャロルオーツの『ザ・ライフ・オブ・ツインズ』を映画化した本作。双子の精神分析医という設定は原作を踏襲しながら、精神分析の方法もフランス式に変え、ラストも映画ならではのラストにしたという。
 
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ポールとルイの双子を演じたのはベルギー人俳優のジェレミー・レニエ。「役者は役と自分という二重の存在なので、双子を演じるのは夢のようなもの。あのイザベル・ユペールも双子を演じてみたいと言っていたし、ジェレミーも演じるのはさほど難しくなかったと思います。ポールのパートを撮ってから、ルイのパートを撮り、髪形や声色を変えてもらいました。ただ、映画が進行するにしたがって、その違いが小さくなり、どちらがポールでどちらがルイか、観客が混乱を生む仕掛けになっています」と、正反対の性格の双子の違いを演じながらも、段階的にその違いを小さくした意図を明かした。さらに、第一候補の俳優に、最終脚本を見せた段階で断られたエピソードを披露し、「最終稿でショッキングなシーンを加えたら、そんなシーンは演じられないと俳優が降りてしまったので、気心の知れたジェレミーに声をかけました。彼は、ベルギー人俳優なのでフランス人より心が広く、ユーモアがあります」とその懐の広さを絶賛した。
 
二人の狭間で苦しむクロエのセクシャリティーについて話が及ぶと、「この映画でのセクシュアリティは不満足がテーマ。ポールとの愛情はあるが、妄想は満たされていない。だから彼女は他の誰かが必要でした。こういう二面性は誰にでもあるでしょう。恋人はいるけれど、もっと暴力的な性を求めてしまう。愛情と欲望の乖離です」と、クロエが二人の間で苦しむ根底にある不満足の意識について言及。『17歳』でヒロインに抜擢したマリーヌ・ヴァクトさんと再タッグとなったことについては「『17歳』ではヒロインを演じるのにぴったりの少女でしたが、まだ彼女はモデルであり、女優としてやっていくのか彼女自身まだ確信が持てていない時でした。ただ、映画が成功し、今までに女優としてのキャリアを重ね、さらに彼女自身も母になったことで、クロエ役にぴったりだと思いました。既にヌードシーンを演じさせていたので、本作ではさらに大胆な演技を求めなければならず、心配もしましたが、バクトさんは見事に役作りをし、立派に務めてくれました」
 
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さらに、この映画の見どころとして、「全ての人物が、ダブルの役割を演じています。そして、この映画はあえて色々なところにヒントを散りばめています。観客の皆さんにクロエの無意識、想像の世界に入り込んでほしい。この映画では夢を現実のように、現実を夢のように撮っていますから、妄想と現実が混じり合っているような想像の世界で、自分自身の答えを探すのです」と、幾通りもの見方、楽しみ方があることをアピール。クロエの飼い猫、ルイの飼い猫と2匹の猫が登場し、象徴的な役割を果たす点については、「私自身は猫が苦手ですが、猫は映画で画面映えする動物。クロエ演じるバクトさんの顔も猫に似ているので、入れました。他にも、フランス語で雌猫はシャット、俗語で女性器という意味ですし、映像で映すと、猫はまるで考えているように映る動物なのです」と猫に込めた様々な狙いを語った。
 
最後に、これだけコンスタントに高いクオリティーの映画を作り続けていることについてオゾン監督は、「興味深い題材は身の回りにたくさんありますが、映画作りをするために、1~2年続けて向き合えるかを重要視しています。私は映画作りに喜びを感じている人間なので、作っていない時の方が苦しい。毎回違う実験をしたいという欲望があり、映画作りは自分の欲望、勘に従っています。分析はしません」と自身の映画作りの姿勢を明かした。
双子を題材とした映画としても、これほどその精神的な内面に切り込み、その葛藤に踏み込んだ作品は他にはない。単なるラブサスペンスとは一線を画した衝撃が待ち受けることだろう。
(江口由美)

フランス映画祭2018 Festival du film français au Japon 2018 
◼ 期間:6月21日(木)〜~6月24日(日)
◼ 会場:みなとみらい地区中心に開催
(横浜みなとみらいホール、イオンシネマみなとみらい)
■主催:ユニフランス
 
 

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